Archive for category 名器

Date: 10月 6th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その6)

テクニクスは、SU-A2でコントロールアンプの標準原器といえるモノを開発しようとした──。
いまでは、私はそう考えている。

パワーアンプはメインアンプと呼ぶこともある。
いまではそう呼ぶ人は経てきているようだが、メイン(main)アンプ、主要なアンプということであり、
その前に存在するアンプをプリ(pre)アンプとも呼ぶ。
プリとは、前置の意味である。

コントロールアンプなのか、プリアンプなのか。
音質向上を謳い、各種コントロール機能を省略する傾向が広まってきた時期から問われていることである。

音量調整と入力切替えしか機能がなくとも、
それでもコントロール機能がふたつは残っているのだから、コントロールアンプと呼べないわけではないが、
それでもこういうアンプ(マークレビンソンのML6)は、もうコントロールアンプとは呼べず、
プリアンプということになる。

ではコントロールアンプとプリアンプの境界線はどこらあたりにあるのか。
トーンコントロールがついていたら、プリアンプではなくコントロールアンプと呼べるのか。
それとももっと多くの機能をもつアンプがコントロールアンプなのなのだろうか。

この問いに、テクニクスが出した答がSU-A2といえないだろうか。
ここから先がコントロールアンプ、そんな曖昧な境界線ではなく、
コントロールアンプとして最大限の機能を搭載しておけば、誰もがSU-A2をコントロールアンプとして認める。

SU-A2を目の前にして、これはプリアンプ、という人はいない。
絶対にプリアンプとはいわせない。
それがSU-A2なのだ、と思う。

Date: 9月 22nd, 2014
Cate: 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その6)

ヤマハのコントロールアンプCIが登場したのは1975年。
私がCIというコントロールアンプの存在を知ったのは、1976年12月。

この間に、コントロールアンプは機能を省略する方向に流れつつあった。
そういうなかでのCIの存在は、独特であった。

薄型のコントロールアンプが主流になりつつある中で、大きな筐体のCI。
筐体が大きければフロントパネルの面積も広い。
そのフロントパネルには、ツマミがぎっしりと並んでいた。
メーターもついていた。

ペアとなるパワーアンプのBIのシンプルなフロントパネルと、実に対照的なCIのフロントパネルであり、
よけいにCIの多機能ぶりが際立っていたともいえる。

ちなみにCIとBIを組み合わせると、信号経路の半導体はすべてFETで構成されることになる。
当時、こういう構成のセパレートアンプは存在してなかったはずだ。

テクニクスのSU-A2が登場してきた時、
テクニクスがヤマハと張り合って、より多機能なコントロールアンプを出してきた──、
とまず思ってしまった。

CIでも、ほとんどの人が使わない機能がいくつか出てくる、と思う。
そのCIよりも多機能であることが、ほんとうに必要なのだろうか。
そう考えてしまうと、SU-A2はテクニクスのCIに対する意地のようなものが、どこかにあるような気がしてしまった。

これが1977年当時の私の受けとめ方だった。

Date: 9月 18th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その5)

原器という観点からテクニクスのオーディオ機器をふり返ってみると、
名器かどうかという観点にしばられていたときには見えてこなかったものがみえてくるものがある。

1977年にテクニクスはSU-A2というコントロールアンプを発表した。
外形寸法W45.0×H20.5×D57.4cm、重量38.5kg、消費電力240Wという、
プリメインアンプよりも大きな筐体のコントロールアンプだった。
価格は1600000円。このころマークレビンソンのLNP2Lは1280000円だった。
国産と輸入品ということを考えれば、もっとも高価なコントロールアンプでもあった。

SU-A2には、コントロールアンプとして考えられる機能はすべて搭載されている、
そう断言できるほど、各種機能が搭載されている。

SU-A2を最初見た時、テクニクスがヤマハのCIに対抗するコントロールアンプを出してきた。
そう思った。
CIも多機能のコントロールアンプを代表する存在だった。

CIが登場した時とSU-A2が登場した時とでは、状況が変化していた。
マークレビンソンのJC2の登場により、国産のコントロールアンプは薄型になり、
トーンコントロールやフィルターといった機能を省く設計のものが増えていた時期でもある。

そこにテクニクスが分厚く多機能なコントロールアンプを投入した。
このSU-A2を、私はヤマハのCIとの比較で捉えてしまった。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その4)

パイオニアから七月にアナログプレーヤーが発表になった。
PLX1000だ。

誰が見ても、テクニクスのSL1200だ。
ブランドと型番の表示を隠してしまえば、誰もがSL1200と思うことだろう。

SL1200はMK6で製造が終了した。
現行製品ではないから、とはいうものの、オーディオ専業メーカーとしてスタートしたパイオニアが、
こういう製品を恥ずかしげもなく出してしまうが意外だったが、
何かの記事で、ユーザーインターフェイスを変えないため、あえてこういうデザインにした、とあった。

テクニクスのSL1200は、オーディオマニアにはそれほど話題になった機種ではなかった。
最初のSL1200が登場し、MK2の登場までの間、一時的に製造中止になっていた、と記憶している。
ステレオサウンドでも、ほとんど取り上げられていない。
ベストバイでも、最初のころはSL1200は登場していなかった。

そのSL1200が、ディスクジョッキーのあいだで評価が高い、ということを聞くようになったのはいつごろだったか。
ほとんど憶えていない。SL1200がねぇ……、というふうに思ったことだけは憶えている。

結局、そのSL1200がテクニクスのアナログプレーヤーとして最後まで製造されていた。
そんなこともあってSL1200を名器として紹介する記事もある。

私は個人的にSL1200が名器とは思わない。
SL1200はディスクジョッキーにとっての標準原器であったと思っている。
そう考えれば、パイオニアがPLX1000においてSL1200の操作性と同じにしたことは、理解できないわけではない。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その3)

復活した現在のテクニクスではなく、以前のテクニクスはどんなオーディオメーカーだったのか。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号で、菅野先生は書かれている。
     *
 こうしたブランド名としての成功とともに、テクニクスに対して見のがすことのできないのは、テクニクスがオーディオ技術の進展に真剣に取り組んで、この世界をリードしてきたということだ。テクニクスというメーカーがなければ、オーディオ技術の進展はもっと遅いものだったかもしれない。それだけにテクニクスは技術色の強いメーカーだし、自他ともに、技術集団であることを認めている。
 こうした環境のなかで生まれるテクニクス製品は、その結果、出た音が良いとか悪いとかといった感覚的な、芸術的な領域には、触れようとしていないのが大きな特徴だ。これは私のオーディオ観からすれば、少々異論をとなえたいところでもある。オーディオという人間の感性を満足させるものにあっては、技術はその手段であり、その目的を見ないで手段だけを追求するのは、中途半端であり片手落ちでもあると思う。しかし、これはあくまでも私の持論であって、テクニクスのとり続けてきた姿勢は、メーカーとして立派に評価できるものだと思う。手段を生半可にしたまま、あいまいに感覚や芸術の領域に首を突っ込んで、いいかげんな技術で製品を作る、虚勢をはったメーカーと比較すれば、テクニクスはオーディオメーカーとして非常に高い水準をもっているといえよう。
     *
この文章をはじめて読んだ時、確かにテクニクスはそういうメーカーかもしれない、と思った。
テクニクス号は1978年に出ている。
その前に、私はステレオサウンド 43号を読んでいた。43号は1977年6月に出ている。

ベストバイの特集号で、テクニクスのMM型カートリッジEPC100Cが選ばれている。
このカートリッジに対する菅野先生の文章も、またテクニクスというメーカーをよく表している、といえる。
これを読んでいたから、テクニクス号、読む人によっては少々意外に思える内容かもしれないが、
すんなりと受け入れることが出来た。

43号のEPC100Cについての文章だ。
     *
 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。
     *
ここに、「音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが」とある。

SP10は名器ではなく原器としての存在だということに気づいた後に、菅野先生の文章を読めば、
すでにテクニクスがそういうメーカーであることが書かれていることに気づく。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その2)

State of the Artの意味については、別項「賞からの離脱」で触れている。
日本語にするのが難しい。
いまだ端的な日本語に置き換えることはできないでいる。

State of the Art──、
artがつくから、State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器はすべて名器といえるのか、となると、
これも即答するのが難しい。

State of the Art賞が始まったステレオサウンド 49号を読むかぎり、
State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器すべてが名器ということではない、というのは伝わってくる。

結局、テクニクスのSP10MK2が選ばれたのは、State of the Art賞だったから、ともいえよう。
誰もが、その性能の高さは認めている。
単体のターンテーブルとして、SP10MK2の性能は、標準原器と呼ばれるにふさわしいレベルであった。

ようするにSP10MK2がState of the Art賞に選ばれたのは、標準原器であったからではないのか。
名器ではなく、原器としてのSP10MK2に、State of the Art賞が与えられた、ともいえる。

原器とは、測定の基準として用いる標準器で,基本単位の大きさを具体的に表すもの、
同種類の物の標準として作られた基本的な器、と辞書には書いてある。

SP10はターンテーブルである。
ターンテーブルは正確な回転の実現が求められるオーディオ機器である。
アンプやスピーカー、他のオーディオ機器よりも、原器としての機器のあり方がはっきりとしている、ともいえる。

Date: 9月 6th, 2014
Cate: 名器

名器、その解釈(その7)

(その6)で書いた「スケール」とは、どういうことなのか。

吉田秀和氏がカルロ・マリア・ジュリーニのことを、
大指揮者ではないが名指揮者であった、と書かれたのか語られたのかを読んだ記憶がある。

なるほど、と思った。
カルロ・マリア・ジュリーニは素晴らしい指揮者であり、個人的に好きな指揮者である。
シカゴ交響楽団とのマーラーの交響曲第九番、ベルリンフィルハーモニーとのベートーヴェンの交響曲第九番、
愛聴盤である。
なぜかベートーヴェンの第九はあまり評価は高くないように感じてしまうが、そんなことはない。

他にも挙げたいディスクはいくつもあるが、話を先に進めるために控えておく。

吉田秀和氏のいわれるように、ジュリーニは名指揮者である、
けれど大指揮者とはすんなりいえるかというと、ジュリーニ好きの私でも、少し考えてしまう。

では大指揮者とすんなりいえるのは誰か。
まずフルトヴェングラーがいて、クナッパーツブッシュが、私の場合、すぐに浮ぶ。
他にも何人か挙げられる。

そういう大指揮者と名指揮者を、私のなかで分けてしまうのはなんなのか。

先頃亡くなったフランス・ブリュッヘンも好きな指揮者のひとりであり、
彼もまた大指揮者ではないが名指揮者ということになる。

Date: 8月 28th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その1)

テクニクスについて書いている。
書けば書くほど、おもしろい存在だということを実感している。

テクニクスときいて、どの製品を思い浮べるかは人によって違う。
若い世代だとテクニクス・イコール・SL1200ということになるらしい。
SP10の存在を知らない人も、いまでは少なくないようでもある。

意外な気もしないではないが、そうかもしれないなぁ、と納得してしまうところもある。
そのSP10、MK2、MK3と改良されロングセラーモデルでもある。

ダイレクトドライヴの標準原器ともいわれていた製品である。
ステレオサウンド 49号の第一回State of the Art賞に、MK2が選ばれている。
誰もが、SP10の性能の高さは認めるところである。
にも関わらず、ステレオサウンドが2000年がおわるころに出した別冊「音[オーディオ]の世紀」に、
SP10は、どのモデルも登場してこない。

この別冊では、17人の筆者、
朝沼予史宏、新忠篤、石原俊、井上卓也、上杉佳郎、倉持公一、小林貢、佐久間輝夫、櫻井卓、篠田寛一、
菅野沖彦、菅原正二、楢大樹、傅信幸、細谷信二、三浦孝仁、柳沢功力らが、
「心に残るオーディオコンポーネント」を10機種ずつ挙げている。

ダイレクトドライヴのアナログプレーヤーも登場している。
小林貢氏がデンオンのDP3000、細谷信二氏がデンオンのDP100を挙げている。
けれどテクニクスのSP10は、初代モデルも、MK2もMK3も出てこない。

ここでの選出は、State of the Art賞とは異り、
きわめて個人的な選出であることが、その理由なのかもしれない。

Date: 8月 3rd, 2014
Cate: 名器

名器、その解釈(マッキントッシュ MC75の復刻・その2)

なぜMC275を名器だと捉えるのだろうか。

名器とは、すぐれた器物・楽器。有名な器物・楽器、と辞書には書いてある。
つまりは何も古いモノでなくとも、現代のモノであっても、
すぐれた器物、有名な器物であれば、名器といえるわけだ。

けれどオーディオの世界においては、名器はほとんどの場合、過去の製品につけられる。
現行製品で非常に優れたモノがあったとしても、名器と呼ぶことは少ない。

私自身も、感覚的に名器ということになると、現在の製品に対して使うことはまずない。
ほぼすべて過去の製品に対して、のみである。

現行製品に対して名器を使っている例を、目にしないわけではないし、
使い方としては間違っているとはいえないのだが、どこか異和感がある。

これもおかしなことといえる。
過去の製品、その中でも名器と呼ばれる製品は、
その後のオーディオの発展のきっかけ、もしくは原動力となったモノなのはわかっている。
けれど、やはり過去の製品であることには変わりない。

10年前、20年前、30年前……、もっと古いオーディオ機器の中にも、いまだ名器とされるモノがある。

Date: 7月 30th, 2014
Cate: 名器

名器、その解釈(マッキントッシュ MC75の復刻・その1)

すこし前のニュースだが、マッキントッシュから今度はMC75が復刻される。
C22、MC275の復刻が好評だったからなのだろう、と思われる。

「今度はMC75か」と思いながら、そういえば、なぜ日本では名器といえばMC75ではなく、
ステレオ仕様のMC275なのか。

パワーアンプはモノーラルの方がステレオ仕様よりもいくつかの面で有利である。
MC275よりもMC75が物理特性でも優れているだろうし、
音に関してもMC75の方がおそらく優れている、と思われる。

C22とペアとなるMC275はこれまでにも何度か聴く機会はあったけれど、
MC75はまったくなかった。
なのではっりきしたことはいえないけれど、少なくともMC75がMC275よりも劣る理由は特にない。

いまこういうことを書いている私にしても、MC275とMC75、どちらが欲しい? ときかれたら、
ためらわずMC275、と答える。

それはMC275に対しての思い入れがあるからだ。
そんな感情がいっさいなければ、MC75と答えるはず。

そしてどちらが名器かと問われたら、やはりMC275と即座に答える。

ではMC275への思い入れがいっさいなかったら、どちらを名器として答えるだろうかと自問自答する。
それでも、MC275と答えるだろう。

Date: 3月 17th, 2012
Cate: 名器

名器、その解釈(その6)

昨年10月5日に四谷三丁目・喫茶茶会記で行った工業デザイナーの坂野博行さんとの、
「オーディオのデザイン論」を語るために、の中で、
パラゴンの話になったときに坂野さんから出たキーワードが、この「スケール」である。

タンノイのオートグラフとウェストミンスターとのあいだに私が感じていることについては、
違う方向から語るつもりでいたのだが、坂野さんのいわれた「スケール」を聞いて、
これほど簡潔に表現できるキーワードがあったことに気がついた。

ここでいう「スケール」とは、製品そのもののスケールという意味ではない。
製品そのもののスケールでいえば、オートグラフとウェストミンスターとほぼ同等か、
むしろウェストミンスターのほうがスケールは大きいといえるところもある。

けれど、坂野さんが使われた意味での「スケール」では、
私の解釈ではオートグラフのほうがスケールが大きい、ということになる。

坂野さんは、このとき、「スケール」についてパラゴンとの対比で同じJBLのハーツフィールドを例に挙げられた。
パラゴンとハーツフィールドは、どちらもJBLの家庭用スピーカーシステムとして、
アメリカのいわば黄金時代を代表するモノ(名器)であるけれど、
ハーツフィールドはモノーラル時代の、パラゴンはステレオ時代になって開発されたスピーカーシステムであり、
どちらが見事とか、素晴らしい、とか、そういった比較をするようなものではないのだが、
このふたつのスピーカーシステムを生み出した発想の「スケール」ということになると、
パラゴンの方がハーツフィールドよりも大きい、ということになる(そう私は聞いていた)。

ハーツフィールドとパラゴンとでは、
ハーツフィールドのほうが美しいスピーカーシステムだと思っていた時期があった。
いまも、このスピーカーが似合う部屋のコーナーに収められたときに醸し出される雰囲気には魅かれるものがある。

けれどパラゴンには、ステレオ用スピーカーシステムとして左右のスピーカーをひとつにまとめてしまうという、
そういう意味での「スケール」の大きさがあり、
これに関しては、モノーラル、ステレオという時代背景も関係していることは百も承知のうえで、
ハーツフィールドには、仕方のないことだが、パラゴン的な「スケール」の大きさは乏しい、と思う。

この「スケール」がタンノイでは、逆転してモノーラル時代に生み出されたオートグラフに感じられ、
ステレオ時代になってからのウェストミンスターには、ないとはいわないまでも稀薄になっている。

Date: 10月 6th, 2011
Cate: 名器

名器、その解釈(その5)

ウェストミンスター・ロイヤル/SEを名器と思えないのは、
なにもウェストミンスターが現行製品だから、というのが理由ではない。

JBLのパラゴンは、いまでは製造中止になってひさしいが、
私がオーディオに関心をもちはじめたころ(1976年当時)は現行製品だった。
実物を見たのは数年後であったし、
当時はパラゴンからは私が求めている音は出てこない、という思い込みもあったけれど、
それでもパラゴンは名器である、と感じていた。

同じタンノイのスピーカーシステムなのに、
オートグラフを名器として感じ、ウェストミンスターを名器とは思えない、
現行製品であってもパラゴンは名器と直感したのに、ウェストミンスターはそうではなかった。

誤解のないようにことわっておくが、
ここであげている3つのスピーカーシステム(オートグラフ、ウェストミンスター、パラゴン)では、
名器とは思えないウェストミンスター・ロイヤル/SEは完成度が高いところにあるといえるし、
鳴らしていくうえでの、いわゆるクセの少なさもウェストミンスターである。

ウェストミンスター・ロイヤル/SEはよく出来たスピーカーシステムだ、と思う。
なのに、どうしてもウェストミンスターは、私にとって名器ではない。

オートグラフに感じられてウェストミンスターに感じられないもの、
パラゴンに感じられてウェストミンスターに感じられないもの、
つまりオートグラフとパラゴンに共通して感じられるもの、とはいったいなんなのか。

「スケール」だと思う。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: 名器

名器、その解釈(その4)

「名器」ときいて、私がすぐに思い浮べるオーディオ機器は、すでに製造中止になったものばかりである。
でも、これは私だけのこと、とは思えず、「名器」ときいて、最新製品を思い浮べる人は少ないように思う。

少なくともオーディオにおいての「名器」は、
新製品として世に登場して、それからある長さの期間を経たモノではないだろうか。

この、ある長さの期間は、具体的に何年と決まっているわけではない。
たとえばタンノイのウェストミンスターは1982年に登場している。
約30年が経ち、その間に、幾度かの改良が保護され、ウェストミンスター・ロイヤル/SEとなっている。
これは、もう名器と呼んでいい、と思いながらも、なぜか、私の中ではオートグラフは名器と素直に呼べても、
ウェストミンスターに対しては、抵抗感とまではいえないけれども、
素直に名器とは呼べないのはなぜかと、自分でも不思議に思っている。

ウェストミンスターに、とくに現行のウェストミンスター・ロイヤル/SEに、
オートグラフと比較して云々、というケチをつけるところはない。
フロントショートホーンのつくりにしても、オートグラフは直線的なホーンだったのに対して、
ウェストミンスターでは手間をかけて曲線に仕上げている。
搭載されているスピーカーユニットも、最初のウェストミンスターはフェライト磁石採用で、
この点ですこしがっかりしたのが正直なところだが、タンノイもそのことは理解していたのか、
現在のユニットは見事だと感心してしまう。

それにウェストミンスター・ロイヤル/SEは2006年登場とはいうものの、ポッと出の新製品ではなく、
その時点で24年の月日を経てきている。

オートグラフを名器と呼ぶのであれば、
ウェストミンスター・ロイヤル/SEを、名器と呼ばない理由は思い浮ばない。
にも関わらず、こういうふうに書いていっても、ウェストミンスター・ロイヤル/SEは、
私にとって名器として、いまのところ存在していない。

Date: 12月 13th, 2010
Cate: 名器

名器、その解釈(その3)

そう、ほとんどの機種は、感覚的にも直感的にも名器だと納得できる。
それはステレオサウンド 50号を最初に読んだとき、まだ16歳だったけれど、
それぞれの写真から伝わってくるもの、それぞれの筆者の書かれたものから伝わってくるのはわかった。

それでもJBLのオリンパスS7R、ARのAR3aは、これもなのか……と思うところも正直あった。

オリンパスが選ばれるのであれば、なぜ同じJBLのハークネスがないのか。
柳沢氏の文章を読んでも、完全には納得できなかった。
私は、オリンパスよりもずっとハークネスが、スピーカーシステムとして美しいと思っている。
それにハークネスは、JBLのスピーカーシステムとしてはじめて左右対称に作られたモノでもある。
ステレオ再生ということを念頭に置いて作られた、それほど大きくもなく、
いま見ても美しいスピーカーシステムが、ない。

オリンパスに較べるとAR3aは、まだ納得がいく。
ARのスピーカーシステムが登場した時代を体験しているわけではないが、
それでもいくつか、このころについて書かれた文章を読めば、
ARのアコースティックサスペンション方式のもたらした衝撃がどれほど大きかったのかは理解できる。
ブックシェルフ型スピーカーは、ARがつくりだした、ひとつのジャンルであるのだから。
だから、頭では理解できる……。

あとひとつあげれば、マッキントッシュのMC240。
MC3500、MC275が選ばれているし、この2機種と比較すると、
なんとなく影が薄い、そんな存在のMC240がなぜ選ばれているの? という疑問がないわけじゃない。
それでも、理解できないわけでもない。

ステレオサウンド 50号が出たのは、31年前。
いま同じ企画を行ったら、それでも50号で選ばれたオーディオ機器の多くは、また選ばれるだろう。
そして、何が加わるのだろうか。

Date: 12月 12th, 2010
Cate: 名器

名器、その解釈(その2)

ステレオサウンド 50号の旧製品 State of the Art 賞の扉にはこう書いてある。
     *
往年の名器の数々の中から、〝ステート・オブ・ジ・アート〟賞に値する製品を選定していただいた。
以下に掲載した製品がその栄誉ある賞を獲得した名器たちであるが、いずれもその後のオーディオ製品に多大な影響を与えた機種であり、また今日のオーディオ発展のための大きな原動力ともなったものである。ここではこれらの名器がなぜ名器たり得たのか、そこに息づいているクラフツマンシップの粋、真のオーディオ機器の精髄とは、を探っている。
     *
ここには名器という言葉の他に、クラフツマンシップの粋、という言葉もある。

古い読者の方なら「クラフツマンシップの粋」ときいて、
このころステレオサウンドに連載されていた同盟の記事を思いだされるはずだ。
「クラフツマンシップの粋」の1回目は37号(1975年12月発売)に載っている。
とりあげられているのはマランツの#7、#9、#10B。
2回目は38号。JBLのSG520、SE400S、SA600。3回目は39号で、ガラード301、トーレンスTD124。
4回目は41号。JBLのハーツフィールド。
5回目は43号、QUADの管球アンプ、6回目は44号、アンペックスのデッキ。
7回目は45号でエレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、
8回目(最終回)はノイマンDSTなどのカートリッジだ。

この「クラフツマンシップの粋」でとりあげられたオーディオ機器は、
ほとんど旧製品 State of the Art 賞として選ばれている。

50号で掲載されているの機種は以下のとおり。カッコ内は執筆者。
●スピーカーシステム
 エレクトロボイス Patrician 600(山中)
 JBL D30085 Hartsfield(柳沢)
 タンノイ Autograph(岡)
 KEF LS5/1A(瀬川)
 シーメンス Eurodyn(長島)
 JBL Olympus S7R(柳沢)
 ローサー(ラウザー) TP1(上杉)
 AR AR-3a(岡)
●スピーカーユニット
 ウェスターン・エレクトリック 594A(山中)
 グッドマン AXIOM 80(瀬川)
 ジェンセン G610B(長島)
●コントロールアンプ
 マランツ Model 7(山中)
 JBL SG520(菅野)
 フェアチャイルド Model 248(岡)
●パワーアンプ
 マランツ Model 9(長島)
 マッキントッシュ MC3500(山中)
 マッキントッシュ MC275(菅野)
 マッキントッシュ MC240(上杉)
 マランツ Model 2(井上)
 QUAD QUAD II(岡)
 ラックス MQ36(井上)
●FMチューナー
 マランツ Model 10B(長島)
●プレーヤーシステム
 EMT 927Dst(瀬川)
●ターンテーブル
 ガラード 301(柳沢)
 トーレンス TD124(岡)
 T.T.O R-12(瀬川)
●カートリッジ
 ノイマン DST(山中)
 デッカ MKI(岡)
●トーンアーム
 SME 3012(瀬川)
 グラド Laboratory Tone-Arm(瀬川)

ほとんどが、名器として個人的にも納得できるモノばかりである。