オーディオはすでに消えてただ裸の音楽が鳴りはじめる(その12)
《オーディオはすでに消えてただ裸の音楽が鳴りはじめる》
五味先生の《いい音楽とは、倫理を貫いて来るものだ、こちらの胸まで》へとつらなる。
《オーディオはすでに消えてただ裸の音楽が鳴りはじめる》
五味先生の《いい音楽とは、倫理を貫いて来るものだ、こちらの胸まで》へとつらなる。
ラックスのMQ60がやって来たら、まずやることは決っている。
各部のチェックと整備である。
すでに書いているように、私のところに来るのはラックスキットのKMQ60だから、
その組立ての技術に関しては、中を見るまでわからない。
しっかりしたハンダ付けがなされているのか、そうではないのか。
とにかくMQ60がやって来たら、だからチェックとなる。
チェックと整備のあとは、
まずCR方式をトランスの巻線すべてに試してみたい。
電源トランスの一次側と二次側。
MQ60の電源トランスの場合、二次側の巻線はB電源のほかに、
電圧増幅管用のヒーター、それから固定バイアス用の三つの巻線がある。
電源トランスに関してもCR方式が効果があるのはすでに試して確認している。
だから、ここでの楽しみはヒーター用と固定バイアス用の巻線に対して、
どの程度効果があるのかだ。
それからもっと興味があるのは、出力トランスである。
ここも一次側、二次側の巻線に対して行うわけだが、
試してみないとなんともいえないのは、
二次側の巻線に関して、どう対処するかである。
MQ60の出力トランスはOY15である。
4Ω、8Ω、16Ωのタップがある。
8Ωのスピーカーならば、とうぜん8Ωの端子に接続するわけだが、
この時、CR方式は8Ω用の巻線に対して入れた方がいいような気はする。
けれど出力トランスの二次側からのNFBは16Ωのところから還っている。
ならば16Ωの巻線に対してもCR方式は必要となるのか。
このあたりは実際に音を聴きながらの判断になる。
そしてもうひとつ、どうなるのだろうか、と楽しみにしているのが、
真空管のヒーターに対してCR方式は効くのかどうかだ。
出力管の50CA10のヒーターは50V、0.175Aである。
50CA10の6.3V規格の6CA10は6.3V、1.5Aである。
ヒーターの直流抵抗値は、50CA10が約285.7Ω、6CA10が4.2Ωと、
ずいぶんと値に違いがある。
CR方式が真空管のヒーターに対しても効果があるとすれば、
より抵抗値の高い50CA10のほうが、より効果があるという予測もできる。
ステレオサウンドにいたころ、あるメーカーの人に訊ねたことがある。
その人によれば、修理用の部品にも税金がかかる、とのことだった。
もちろん、それらの部品を保管する場所が必要だし、
部品を劣化させないためにも空調設備も必要になってくる。
製造したモノをいつまでも修理できるようにするのは、
そうとうにコストがかかる、ということだった。
上杉研究所は、ウエスギ・アンプに関しては、ユーザーは心配する必要がない。
素晴らしいことだけれども、これは上杉研究所の規模だから可能だった、ともいえる。
上杉先生は、真空管を十万本以上ストックされていた、と記憶している。
それだけの本数があれば、ウエスギ・アンプに関しては真空管の心配はなくなるけれど、
たとえばラックスの規模となると、そうではない。
50CA10が製造中止になるときに、ラックスは製造元のNECから十万本ほど購入している。
50CA10だけで、この本数である。
十分な数のように思った人もいるかもしれないが、
生産台数の桁が違えば、十万本のストックは底が尽きる。
実際、そうなってしまっているから、50CA10の新品の入手はまず無理である。
ちなみに50CA10を補修部品としてラックスから購入した場合、
1975年時点では、一本1,400円だった。
KT88が9,000円、6336Aが18,000円、EL34が1,200円(いずれも一本の価格)。
上杉研究所の広告に、
《もし、一生安心して付き合えるアンプがあるとすれば……》、
というコピーが使われていた時期がある。
1970年代の終りのころである。
広告コピー本文には、こうも書いてあった。
*
大げさな言い方ですが、一生安心して付き合えるアンプがあるとすれば、それはどんなものだろうか、そんなことを考えながら、あれこれ試作を繰返しているうちにごく自然に固まったのが、これらの作品です。その意味では,よくもわるくも現代の消耗品的な発想から開発されたアンプとは、全く対照的です。決して新しいとはいえないが、それだけにまた古くもならない。──そんな製品が一つぐらいあってもいいじゃないか。という声に励まされて、商品化に踏み切りました。元はといえば、私自身のために設計したものばかりです。しかし最近では、人様に愛用していただくことの喜びを憶え、正直なところその方に魅せられています。
*
上杉先生らしい文章である。
このころのウエスギの製品はU·BROS1(コントロールアンプ)、
U·BROS2(チャンネルデヴァイダー)、U·BROS3(パワーアンプ)だった。
U·BROS3はKT88のプッシュプルなのだが、出力は50W+50Wと、やや控えめに抑えられている。
KT88のプッシュプルといえば、マッキントッシュのMC275が75W+75W、
マイケルソン&オースチンのTVA1が70W+70W、ラックスのMB88が80Wの時代だった。
上杉先生は出力よりも製品寿命、真空管(KT88)の寿命を慮っての動作決定といわれていた。
そして上杉先生は、真空管のストックを、
ほぼ一生分といえるだけ確保してのアンプの商品化である。
ウエスギ・アンプには最初から生産台数が限定のモノがあった。
これらのアンプは出力管がやや稀少だったりするために、
メインテナンスに必要な分を確保した上での生産台数の決定であった。
ウエスギ・アンプを買えば、真空管に関しては安定供給してくれる、という安心があった。
だからこその《一生安心して付き合える》なのである。
このことも上杉先生らしい、と思う。
でも、だからといって、他のアンプメーカーに同じことを求めるのはどうかとも思う。
パワーアンプから保護回路を取り外した音を、
ステレオサウンド時代に一度聴いたことがある。
もちろんメーカー製の、かなり高額なパワーアンプだった。
保護回路が音を悪くしている──、とは昔から言われつづけている。
だからジェームズ・ボンジョルノは頑なに保護回路をつけなかった。
そのためのリスクもとうぜんあるわけで、
最悪の場合、日本市場から徹底ということだって起りうる。
でも保護回路を外した音を聴いてしまうと、
ボンジョルノが譲らなかったのも理解できる。
売ってオシマイ、という商売のやりかたしかしないオーディオ店であれば、
音さえよければ、というアンプを、ためらいもなく売るであろう。
客も、そのアンプの音に満足していれば、それでも商売といえば商売なのだろう。
けれど、マッキントッシュのゴードン・ガウがいっていた、
「quality product, quality sales and quality customer」。
どれかひとつ欠けても、オーディオの世界はダメになってしまう──。
quality sales(クォリティ・セールス)は志をもつ販売店といいかえてもいい。
志もつオーディオ店は、満足だけでなく安心も、顧客に提供したい、と考えているはずだ。
満足と安心。
保護回路を外したアンプの音は、たしかに満足を与えてくれる。
けれど、安心はその分、というかかなり大きく損われる、ともいえる。
ボンジョルノのアンプが好きな私は、使ってきた。
The Goldも使っていた。
毎日、聴いていれば動作はそうとうに安定していた。
それでも何を思ったのか、何も考えてなかったのかとしかいいようがないが、
というよりも何も考えていなくても、そんなことはやらないのに、
その日は、なぜだかThe Goldの電源が入ったままで、
コントロールアンプの電源を落してしまった。
スピーカーを壊してしまった。
でも、これは完全な私のミスである。
The Goldの肩を持つわけではないし、
ボンジョルノの考えに100%賛同するわけではないが、
きちんと自分でアンプの調子を注意深く見ていけて、
場合によっては故障する前に劣化している部品を交換するくらいのことができれば、
ある程度の安心は、自分でなんとかできる。
とはいえそんなこと面倒だし、自分には無理、という人も少なくない。
そういう安心ではなく、手間いらずの安心。
故障しにくく、故障した際にもスピーカーを巻き添えにせず、
修理に出してもすぐに戻ってくる。
これも大事な安心であり、
このことを大事にするオーディオ店もあるわけだ。
「ラックス MQ60がやって来る(その7)」にfacebookでコメントがあった。
そのコメントには、
保守球の在庫保有についても配慮してほしい、というメーカーへの要望だった。
ラックスのLX380は、出力管に6L6GCを使っているが、
これはどうもロシア製のようだ。
いまラックスのウェブサイトをみると、
「真空管部品の交換修理について」というPDFが公開されている。
それによると6L6GCの在庫が切れているだけでなく、
今後の入荷予定が見えていないため、出力管に起因する修理は行えない、という内容だ。
おそらくとうぶん続くであろう。
1980年代、ステレオサウンドで働いていたころ、
地方のとあるオーディオ店は、
アンプはアキュフェーズかウエスギしかすすめない、という話をきいている。
どの店なのかも聞いているが、その店がいまもそうなのかはわからないので店名はふせておく。
この店がアキュフェーズかウエスギなのかは、安心して客にすすめられるから、
というのが大きな理由である。
この二つのブランドのアンプよりも音のいいアンプはあるけれど、
まず故障しにくいこと、それから故障した際の対応である。
それにアンプが故障した際に、スピーカーを巻き添えにしない、ということもある。
これらのことが音よりも重要なのか──、と首を傾げる人もいる。
あるオーディオ評論家が、アキュフェーズのラインナップでアンプを揃えられていた。
この人は、ホーン型を中心としたマルチアンプ駆動をやっていた。
この人のところに、あるオーディオ雑誌のえらい人が訪問した。
そのえらい人は、無遠慮に「なぜ、アキュフェーズなんか使っているんですか」と言った。
このえらい人が誰なのか、もちろんそのオーディオ評論家から聞いているから知っている。
確かに、そんなこと、いいそうだな、と思いながら聞いていたわけだが、
このオーディオ評論家がアキュフェーズで揃えているのは、
スピーカーユニットのことを第一に考えて、である。
ラックスのSQ38は、なぜ38(サンパチ)なのか。
昭和38年(1963年)に登場しているから、という話を以前聞いたことがある。
ステレオサウンドの「世界のオーディオ」のラックス号巻末の社史年表をみると、
確かに昭和38年12月に登場していることになっている。
SQ37でもSQ39でもない。
SQ38である。
私は昭和38年生れだから、この38(サンパチ)という数字に、
愛着のようなものを感じる。
ということは来年(2023年)は、SQ38誕生60年にあたる。
SQ38誕生60周年記念モデルが登場するのだろうか。
もし登場するとして、真空管は何を使うのだろうか。
現行機種のLX380は、出力管に6L6GCを使っている。
6L6GCは三極管ではなくビーム管である。
SQ38の、当時の謳い文句は三極管採用ということだった。
50CA10は四極管なのだが、真空管内部で三極管接続しているため、
ラックスは三極管扱いにしているし、
パワーアンプ部初段の6267/EF86に関しても、五極管を三極管接続することで、
全段三極管というふうに紹介されていた。
LX380は6L6GCを三極管接続にしているわけでない。
全段三極管ということにはこだわっていない。
それでいいと思っている。
けれど、SQ38誕生60周年記念モデルということを歌うのであれば、
やはりここは三極管構成ということにこだわってほしい。
8月1日に、矢沢永吉のインターネット配信が始まったことは、
ニュースになったほどだから、多くの人が知っていよう。
矢沢永吉の名前は知っていても、聴かないから関係ない、と思う人もいる。
私も、そんな一人だった──、と過去形で書くのは、MQAが関係してくるからだ。
Apple Musicでは空間オーディオでの配信もある、とのこと。
ではTIDALは? と思って検索してみても、表示されない。
歌手や演奏家が日本人の場合、
同時に配信が始まることもあれば、少し時差のようなものがあるのか、
一日ほど遅れての開始が、これまで何度かあった。
2日になれば──、と思っていたけれど、始まらない。
3日になれば──、まだである。
4日は検索しなかった。
あきらめ半分で今日(5日)、検索したら表示される。
MQA Studioでの配信だ。
TIDALのサービスが日本でも開始され、
矢沢永吉本人がMQAの音を聴き、なんらかのコメントを発したら──、
そんなことを想像してしまう。
矢沢ファンはすごい、ときいている。
私の周りには一人もいないので、どの程度なのかはわからないけれど、
そんな矢沢ファンの何割かがMQAでの矢沢永吉の歌を聴くことになったら──。
(その5)に、facebookでコメントがあった。
真空管とコンデンサーが近い配置をみると、疑問を感じる──と。
このことも触れようと思っていた。
コンデンサーが熱に弱い、ということを知らないのか。
そう問いたくなるような部品配置をしているアンプは、意外にもけっこうある。
コンデンサーに限らず、熱の影響をまったく受けない部品はないのだから、
高熱を発する部品をどう配置するのかは、製品の安定度、寿命の点でも絶対に無視できない。
にも関わらず1980年代のアメリカの新興アンプメーカーのなかには、
安全性ということをまったく無視した配置のアンプがいくつかあった。
パワーアンプだけではない。
コントロールアンプでも、真空管を使いながらも全面プリント基板を用いるため、
同じ平面上に真空管、抵抗、コンデンサー類が並ぶことになる。
電圧増幅管は出力管ほど発熱量は多くないけれど、
トランジスターよりもずっと多く発熱しているわけで、
信号経路上、その位置にコンデンサーがくるのは理解できるけど、
なぜそんなにも接近させるのか、しかも熱を遮断する工夫をしないのか。
アンプに使われる部品はすべて消耗品とでも考えているのか。
とにかく熱に対しての配慮がほとんど感じられない製品は、
残念なことにいまもある。
話が飛躍する、と思われるかもしれないが、
こういうところが、別項「時代の軽量化(その18)」へと私のなかではつながっている。
左右対称で重量バランスも配慮されているから、
MQ60のレイアウトは、ステレオ真空管パワーアンプとして理想かといえば、
そうとはいえないところが難しいところだし、オーディオの面白さでもある。
MQ60では出力管は出力トランスの前にある。
電圧増幅管は出力トランスと電源トランスに挿まれるように配置されている。
この点が気になる。
ならば出力管と電圧増幅管の位置を変更したら──。
トランスからの干渉を抑えるという点ではいいけれど、
見た目の印象はずいぶんと変化してしまう。
出力管四本がシャーシー前面にあるのと、
トランスに挿まれてしまうのとでは、
多くのオーディオマニアはどちらを選ぶだろうか。
それに出力管をトランスで挿む配置にすると、
出力トランスと電源トランスの距離を、かなり広げることになる。
電圧増幅管と出力管とでは大きさが違うし、発熱量も違う。
そうなるとシャーシーが全体に横に長すぎるプロポーションになるし、
うまく処理しないと間が抜けた印象にもなりがちだ。
MQ60は1972年に、無帰還設計のMQ60Cが出ている。
レイアウトはMQ60そのままである。
さらに1978年に、MQ68Cが登場した。
MQ60とMQ60Cを一つにまとめたといえるアンプで、
NFB量を0dBと16dBにきりかえることができる。
MQ60のレイアウトを継承したアンプは、ここで一旦途切れるが、
1980年代にはMQ88でふたたび採用され、現行機種のMQ88uCもそうである。
そういえば、いま書店に並んでいる管球王国 105号でMQ88uCが取り上げられている、とのこと。
その記事で写真の説明文に、
MQ88uCのデザインは、1969年発売のMQ66のデザインを継承している──、
そんなことが書かれている、と友人から連絡があった。
友人は、「MQ66なんて、ラックスの製品にはないよね」という確認も含めてだった。
私は管球王国 105号をまだ見てないけれど、
ほんとうに説明文にMQ66とあるのだとしたら、MQ60の間違いである。
MQ60は、1969年に登場している。
当時、MQ60のラックス製品中の位置づけはどうだったのかは知らない。
私がオーディオに興味を持ち始めたのは1976年秋からで、
そのころのラックスの真空管パワーアンプのラインナップを眺めると、
MQ60は中級クラスの製品であった。
完成品のラックスだけでなく、ラックスキットにおいても中級品といえる。
A2500がKMQ60よりも安価だったが、それ以外の製品はすべてKMQ60よりも高価だった。
そんななかにあって、MQ60(KMQ60)の真空管、トランス類のレイアウトは違っていた。
6RA8プッシュプルのA2500、EL34プッシュプルのA3500、8045GプッシュプルのA3600、
6336AプッシュプルのKMQ80、いずれとも違うレイアウトの採用である。
A2500、A3500、A3600、これら三機種のレイアウトは共通している。
トランスという重量物を、シャーシー両端に配している。
シャーシーの片側に出力トランス、
その反対側に電源トランスとチョークコイルと、
中央の真空管群をはさむようなレイアウトである。
マイケルソン&オースチンのTVA1も基本的に、同じレイアウトである。
KMQ80はトランス類をシャーシー後方に横一列に配している。
つまりラックス(キット)を含めて、ステレオ仕様の真空管パワーアンプのなかで、
MQ60のレイアウトはこれだけが左右対称となっている。
シャーシー左右両端に、出力トランス、
シャーシー中央に電源トランスなのだが、
出力トランスはシャーシー後方寄りに、
電源トランスはシャーシー前方寄りになっているため、
三つのトランスが横一列に並んでいるわけではない。
トランスという重量物が複数シャーシー上に並ぶ真空管アンプでは、
これまで別項で指摘してきているように、重量バランスヘの配慮が重要となる。
MQ60は、左右対称とともに重量バランスもとっている。
A2500、A3500、A3600も重量バランスはとれているけれど、
左右対称とはいえない。
210の取り扱いが正式に発表になっている。
発売開始は8月22日、価格は163,900円(税込み)。
210は、コアデコード機能をもつ。
だからこそ、210の日本での発売を首を長くして待っていた。
瀬川先生が、「コンポーネントステレオの世界 ’80」の巻頭で、
こんなことを書かれている。
*
秋が深まって風が肌に染みる季節になった。暖房を入れるにはまだ少し時季が早い。灯りの暖かさが恋しくなる。そんな夜はどことなく佗びしい。底冷えのする部屋で鳴るに似つかわしい音は、やはり、何となく暖かさを感じさせる音、だろう。
そんなある夜聴いたためによけい印象深いのかもしれないが、たった昨晩聴いたばかりの、イギリスのミカエルソン&オースチンの、管球式の200ワットアンプの音が、まだわたくしの身体を暖かく包み込んでいる。
*
今日は8月2日。真夏の真っ只中。
瀬川先生がこの文章を書かれた時よりも、ずっとずっと暑い夏をわれわれは体験している。
瀬川先生は、ステレオサウンド 52号の特集の巻頭で、こうも書かれている。
*
せめてC240+TVA1なら、けっこう満足するかもしれない。ただ、TVA1のあの発熱の大きさは、聴いたのが真夏の暑さの中であっただけに、自家用として四季を通じてこれ一台で聴き通せるかどうか──。
*
TVA1はKT88のプッシュプルで、出力管は四本。
M200はEL34の4パラレル・プッシュプルで、出力管はステレオで十六本。
発熱量はそうとうに違う。
M200をTVA1と同じ真夏の暑さの中だったら、どうであったろうか。
井上先生は、
季節によって聴きたい音楽、聴きたい音が変ってくることについて、よく口にされていた。
真空管アンプの音が聴きたくなるのは涼しくなってきてから、ともよく言われていた。
こんなことを思い出して書いているのは、
いまヤフオク!に、ジャディスのJA200が出品されているからだ。
今日の22時すぎに終了を迎えるが、いくらで落札されるのだろうか──、
そのことよりも、JA200を落札した人は、この暑い暑い真夏の真っ只中、
JA200で鳴らすのだろうか──、ということに関心がある。
JA200はステレオサウンド時代に聴いている。
どのくらいの落札価格が適切とか、そんなことは書かないが、
JA200の発熱量は半端ではない。
KT88の5パラレル・プッシュプルだから、両チャンネルで二十本である。
TVA1の五倍の規模であるし、厳密ではないものの、約五倍の発熱量である。
入札、応札している人たちが東京の人とはかぎらない。
もっと涼しいところに住んでいる人かもしれない。
それにしても、あの発熱量をわかったうえで、JA200を欲しがっているのだろうか。
「ヴィンテージ・ピアニストの魅力」という本が、
9月26日に発売になる、とのこと。
一ヵ月以上先の発売なのだから、読んでいるわけではない。
本の内容についてあれこれ書くわけではない。
タイトルへの違和感をおぼえたからである。
この本で取り上げられている「ヴィンテージ・ピアニスト」は、現役のピアニストである。
誰について書いていて、誰について書いていないかではなく、
現役、つまり生きている人に「ヴィンテージ」とつけていることに、
私は違和感しかない。
ヴィンテージという言葉を、そもそも人につけるのだろうか。
少なくとも私は、今日初めて目にした。
それでもすでに物故した演奏家、
しかも数十年前にこの世を去った演奏家にもかかわらず、
いまなお多くの聴き手に聴かれていて、
しかも新しい聴き手を呼び起こしている人たちに、ヴィンテージとつけるのであれば、
まだなんとなくではあっても納得できなくもないが、
生きている(現役の)人につけることに、編集部は何も思わなかったのか。
それとも、これがいまの感覚なのか。
違和感を持つ私の感覚が古い、といわれればそれまでだけど、
それでも、人にヴィンテージとつけるのは、おかしい。
ラックスは、なぜLX38としたのだろうか。
SQ38FD/IIIとしなかった理由は、ウッドケースをやめたからではなく、
内部を比較してみるとはっきりすることなのだが、
LX38はプリント基板を要所要所で使い、製造コストを抑えていることがわかる。
SQ38シリーズだったころとはワイヤリングがずいぶん違うし、
製造にかかる時間も手間もずっと合理化されたはずである。
なのでLX38とSQ38FD/II。
どちらも程度のよい中古があったとしたら、どちらがいいかと訊かれたら、
SQ38FD/IIと答える。
内部を見たくなる人ならば、よけいにそうだ。
でも私は、それでもLX38をとる。
五味先生が書かれたことを思い出す。
*
最近、復刻盤でティボーとコルトーによる同じフランクのソナタを聴き直した。LPの、フランチェスカッティとカサドジュは名演奏だと思っていたが、ティボーを聴くと、まるで格調の高さが違う。流麗さが違う。フランチェスカッティはティボーに師事したことがあり、高度の技巧と、洗練された抒情性で高く評価されてきたヴァイオリニストだが、芸格に於て、はるかにまだティボーに及ばない、カサドジュも同様だった。他人にだからどの盤を選びますかと問われれば、「そりゃティボーさ」と他所ゆきの顔で答えるだろう。しかし私自身が、二枚のどちらを本当に残すかと訊かれたら、文句なくフランチェスカッティ盤を取る。それがレコードの愛し方というものだろうと思う。
(「フランク《ヴァイオリン・ソナタ》」より)
*
レコードとアンプとでは話はまったく同じなわけではないのはわかっていても、
それがいいから必ずしも選ぶとはかぎらない。
ステレオサウンドの「世界のオーディオ」のラックス号の171ページに、
製品の型番のアルファベットについて書かれている。
それによると、
プリメインアンプはSQとL、
コントロールアンプはCLとC(旧製品はPZとPL)、
パワーアンプはMBとMQとM(旧製品はMVとMRとMA)、
チューナーはT(旧製品はWZとWLとVL)、
スピーカーはLX(旧製品は〜Hと〜CとS)、
プレーヤーはPD(旧製品はP)、
キットはKとA、
となっている。
1975年時点で、LXはスピーカーにつけられる型番だった。
それがプリメインアンプに移っている。
LX38は1978年に登場している。
それ以降、ラックスからスピーカーが登場していないのかというと、そうではない。
MSから始まる型番の製品がいくつか出ていた。