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Date: 6月 5th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その5)

AGIの511とQUADの405の組合せは、最終的にふたつの組合せで使われている。
ひとつは瀬川先生によるKEFの104aBで、もうひとつは井上先生によるキャバスのブリガンタンにおいてである。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」でつくられている組合せにおいて、
コントロールアンプとパワーアンプの組合せが同じだったのは、
この511と405の組合せ以外に、ラックスのCL32とマランツの510Mの組合せだけである。

LNP2も登場している「コンポーネントステレオの世界 ’77」だが、
LNP2と組み合わせられたパワーアンプは、
SAEのMark2500だったり、スチューダーのA68、ヤマハのBIとすべて異る。

瀬川先生の104aBの組合せは、
メインは4343の組合せであり、4343の組合せが予算的にきついのであれば……、ということでつくられている。
ここでオブザーバーの黒田先生の発言に注目したい。
    *
ぼく自身の正直な感想を申し上げると、さっきもちょっといったように、JBL4343で聴きたいですね。ただアンプのほうは、マーク・レビンソンの組よりも、AGI+QUAD組にしたときの音のほうが気に入りました。この組合せの音は、たいへんすばらしいと思います。
     *
1976年におけるLNP2の価格は1080000円、SAE・Mark2500は650000円。合計1730000円。
AGI・511は230000円、QUAD・405は156000円。合計386000円。

このふたつのセパレートアンプの合計金額の差は大きい。
にも関わらず511と405の組合せのもつ魅力は、
場合によっては、人によっては、より高い組合せよりも魅力的である──、
と当時「コンポーネントステレオの世界 ’77」を読んでそう感じていた。

Date: 6月 5th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その4)

私にとっての最初のステレオサウンド、
41号といっしょに買ったのが別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」だった。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」は読者からの手紙に応じて、
各オーディオ評論家が組合せをつくっていくという内容で、
オブザーバーとして黒田先生が、すべての組合せに参加されている点でも、
この別冊のおもしろさがある。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」は1976年12月の発売だから、
発売されて間もないQUADの405とAGIの511はよく登場している。

最終的に組合せに残っているし、アンプ選びの候補としても何度も登場している。
この「コンポーネントステレオの世界 ’77」を読めばわかることは、
AGIの511とQUADの405の組合せが何度か登場し、この組合せが評判のいいものであることが伝わってくる。

QUADとAGI──。
およそ共通するところのない会社のようにもみえる。

QUADのイギリスの老舗メーカー、AGIはアメリカの新進メーカー。
QUADの創立者であり、405の開発者であるピーター・ウォーカーは1916年生れ、
AGIの創立者であり技術者であるデヴィッド・スピーゲルがいつの生れなのかはわからないが、
511の開発・設計のとき23歳だった、と当時の輸入元RFエンタープライゼスの広告にある。

ピーター・ウォーカーとデヴィッド・スピーゲルには30以上(40近い)歳の差がある。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その5)

JBLのふたつのスピーカーシステム、
Harknessと4343。
Harknessは1960年代の開発、4343は1970年代後半の開発。
Harknessはコンシューマー用として、4343はスタジオモニターとして開発されている。

Harknessと4343の違いはいくつもある。
けれど、ともにJBlを代表するかっこいいスピーカーシステムなのだが、
Harknessはサランネットをつけた状態で、4343はサランネットをはずした状態で、
それぞれかっこいいスピーカーシステムであるところが、
私にとっては両者のいちばん大きな違いである。

4343と後継機の4344はエンクロージュアのサイズは同一、
サランネットをつけた状態では型番が記されている銘板を見ないかぎり、
どちらが4343で4344なのかは区別がつかない。
背面をみれば、入力端子の取付け位置の違いで区別はつくものの、
正面からではサランネットを外さないと4343と4344は同じであるけれど、
サランネットを外してみれば、両者の違いは歴然としていて、
4344を一度もかっこいいと私は思ったことがない。

ミッドバスが2121から2122に変更になり、
振動板の形状もコンケーブからセンターキャップがドーム状の一般的なコーン型の形状となったとはいえ、
搭載されているユニットの外観は、ほとんど4343と4344は同じといえる。

けれどユニットの配置、バスレフポートの配置、レベルコントロールの配置、
フロントバッフルが二分割になっているどうかの違い、
これらによって4343と4344の印象はまるで違うものになっている。

それだけに4343は音を鳴らす時はサランネットを外して聴きたくなる。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その3)

ステレオサウンド 52号に瀬川先生が、QUADの405のペアとなるコントロールアンプについて書かれている。
     *
QUADから♯405が発売されてからもうずいぶん経っている。最初の頃は405に組合わせるプリが出るものと期待したが、一向にその気配もない。ピーター・ウォーカー(QUADの創設者、現会長)に、そのことを質問すると、「♯33の音でどこか不満か?」逆に質問されて、ぐっとつまった話はもう以前にも書いたが、しかし♯44が発売されてみると、どうやら我々はP・ウォーカーにすっかりとぼけられていたらしい。実は昨年の秋のオーディオフェアの頃、来日したKEFのレイモンド・クックからは、QUADが新型のプリを作っている、という情報を聞いていた。ともかく、いかにもQUADらしいのんびりした製品開発だが、しかし鳴ってきた音は、なるほど、と唸らせるだけのことはあると思った。
     *
405とペアとなる44が登場したのは1979年。405の三年後である。
ほんとうに、QUADらしいのんびりした製品開発である。
それだけコントロールアンプとして優れたモノをつくることがむずかしい、ということでもある。

ピーター・ウォーカーは「♯33の音でどこか不満か?」といっていたとしても、
日本のオーディオマニアの感覚からしたら、不満はないといえばないけれど、
あるといえばある、となる。
33、303とはあきらかに世代の異るアンプであるからだ。

33、303は、QUADらしいセパレートアンプであって、
組み合わせて使うのが至極当然のように受けとめられていた。
他社製のアンプとの組合せ例もあっただろうが、純正組合せで使う例の方が多かったと思う。

405となると、単体で登場したことも影響しているだろうが、
QUAD同士の組合せだけでなく、単体のパワーアンプとして見ても優秀なアンプだった。
だからこそ他社製のコントロールアンプと組み合わせられていった。

AGIの511とQUADの405、
当時比較的多く試みられた組合せである。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その2)

二日前の日曜日、以前の仕事の知合いから、ちょっとした手伝いを頼まれて、彼の自宅までいってきた。
趣味の話などはしたことはほとんどなかったけれど、
彼がAVにはけっこう興味を持っていたことは知っていた。

彼がいう。
「この中にあるもので、いるものあったら持って帰っていいよ」と。
大半がAV関係の機器だったけれど、その中にひとつだけシャーシーの色が黒ではなく、
しかもコンパクトなアンプが、すぐに目についた。

「あっ、405だ」とすぐにわかった。
国産のAV機器の中に、なぜかQUADの405があった。
廃棄する予定だというから、もらって帰ってきた。

こんなモノがもらえるとは思っていなかったから、持ち運ぶためのバッグもなにも用意しておらず、
さほど大きなアンプでもないから、そのまま抱えて電車に乗り持って帰ってきた。

405は1976年に登場した。
パワーアンプ単体の発表だった。
ペアとなるコントロールアンプはまだだった。

QUADには33というコントロールアンプがあったけれど、
この33は1967年に登場している。
小改良は行われていたときいているけれど、
トランジスターアンプにおける1967年と1976年の9年間の技術の進歩は大きい。

33はやはり303とペアとなるコントロールアンプだった。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その1)

黄金の組合せ。
いまではあまり使われなくなった気もするが、
それでもインターネットを眺めていると、目にすることがある。
今日もtwitterで、あるスピーカーとアンプの組合せについて、
この「黄金の組合せ」という表現が使われていた。

私が「黄金の組合せ」という表現を知ったのも、やはり「五味オーディオ教室」であった。
     *
でも本当に、わが耳を疑うほどよい響きで鳴った。W氏にアンプは何かとたずねるとラックスのSQ38Fだという。「タンノイIIILZとラックス38Fは、オーディオ誌のヒアリング・テストでも折紙つきでした。〝黄金の組合わせ〟でしょう」と傍から誰かが言った。〝黄金の組合わせ〟とはうまいこと言うもので、こういうキャッチフレーズには眉唾モノが多く、めったに私は信じないことにしているが、この場合だけは別だ。なんとこころよい響きであろう。
     *
「五味オーディオ教室」は1976年に出た本だから、
タンノイのIIILZもラックスのSQ38Fもすでに製造中止になっていた。
代るものとして、タンノイはEatonになっていたし、ラックスはSQ38FD/IIになっていた。

EatonとSQ38FD/IIの組合せを聴いたことはないけれど、
これに関しては特に黄金の組合せというふうにはいわれなかった。

黄金の組合せは、なにもスピーカーとアンプとの関係に対してのみいわれるわけではなく、
オーディオはすべて組合せから成り立っているのだから、
カートリッジとトーンアーム、
MC型ならばカートリッジとその昇圧手段であるヘッドアンプ、トランス、
それからコントロールアンプとパワーアンプ、
これらにも黄金の組合せ、もしくはそこまでいかなくともベストマッチと呼ばれる関係はある。

Date: 6月 3rd, 2013
Cate: audio wednesday

岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(第29回audio sharing例会のお知らせ)

今月のaudio sharing例会のテーマは「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」です。
5月1日のブログにも書いていますように、
当日は西川彰氏(サンスイ)、片桐陽氏(パイオニア)、西松朝男氏(ビクター)に来ていただきます。

私自身、どういう話がきけるのか、非常に楽しみにしています。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

喫茶茶会記は、先日玄光社から発売になった書籍「TOKYO音カフェ紀行」でも紹介されています。

Date: 6月 3rd, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(些細なことについて)

シェル一体型のカートリッジでなければ、なんらかのヘッドシェルに取り付けることになる。
単体のヘッドシェルの場合もあるし、
SMEの3009S/IIIやSeries Vのようにシェル部分がアームパイプと一体化されている場合もある。

どちらにしてもネジを使ってカートリッジをシェル部分に取り付けることになるわけだが、
シェル側に設けられているネジ穴にタップを切ってある場合は下からネジをいれる。
アームパイプとシェル部分が一体化されたものに多いのが、シェル側の穴にタップを切ってないものの場合、
つまりナットを用意して固定する場合には、
ネジを上からなのか、下からなのか、どちらでもいける。

私は、この場合、上からネジをさしてナットを下側にもってくる。
ずっとこれで固定してきたし、こういうシェルの時、下からネジをいれたことはなかった。

特に意識していたわけでもなかったけれど、ずっとそうやってきたし、
他の人もそうやるものだと勝手に思い込んでいたところもある。

インターネットが普及して、オーディオマニアの中には自分のシステムの写真を公開している人も少なくない。
それらの写真を見て気づいたのが、このネジに関することだった。

下からネジをいれてナットを上にしている人がいる──、
そのことに少し驚いた。

でも考えてみればヘッドシェルにタップが切ってある場合は下からネジなのだから、
ナットを使う場合も、それと同じで下から、そう考えれば納得できるといえばそうなる。

シェル側にタップを切ってない場合(ナットを使う場合)、ネジはどちらからなのか。
どちらでもいいといえばそれまでなのはわかっていても、
私の感覚としてはやはり上から、である。

それもマイナスネジの場合、ふたつのネジのスリットが延長線上にくるようにそろえる。
こんなところをきちんと揃えたからといって音に変化はない。

だからといってネジのスリットがあちこちを向いているのはいやだし、
併行になっているのも、しっくりこない。
やはり一直線になるようにしたいし、そうする。

もちろんネジの締付けは同じにしなければならないから、その分手間がかかるといえばかかる。
でも一度やっておけば、その後、そうそういじるところでもない。

いまの時代、アナログディスク再生をやるのであれば、
音に直接関係のない、こういう些細なところにこだわっていくのもいいのではないだろうか。

Date: 6月 2nd, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その4)

Harknessの存在を知ったのは、
何度か書いているようにステレオサウンド 45号に載っていた田中一光氏のリスニングルームの写真でだった。

JBLの4343もかっこいいスピーカーだと思っていた。
4343はステレオサウンド 41号の表紙の写真で、このスピーカーの存在を知り憧れた。

Harknessも憧れた。
でも4343への憧れとHarknessへの憧れは、共通するところもあったし、異った憧れの部分もあった。

41号での表紙での4343は、あくまでも4343単体での写真であった。
45号でのHarknessの写真は、
田中一光という、日本を代表するグラフィックデザイナーのリスニングルームにおさめられた写真である。

オーディオ機器(スピーカー)を、ここまで見事に置けるのか、と、
Harknessへの憧れととともに、その部屋の持主とそのセンスへの憧れでもあり、
さらに、これを実現できるだけの経済力にも憧れていたんだとおもう。

Harknessをかっこいいと思っていたのは、
Harknessそのものもかっこいいけれど、それだけでなく、使われ方もかっこよかったからだ。

Date: 6月 1st, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その3)

身銭を切って買うもの──、それがオーディオ機器であり、
手に入れるまでの苦労も、その人にとっての「音は人なり」となっていく──。

そうだとは思うし、そう思っている人も多いはず。
特に私よりも上の世代、
つまり五味先生の書かれたものを読んできた人にとっては。

五味先生は「オーディオマニアの五条件」のひとつとして、
金のない口惜しさを痛感していること、とあげられていて、
こう書かれている。
     *
貧しさを知らぬ人に、貧乏の口惜しさを味わっていない人にどうして、オーディオ愛好家の苦心して出す美などわかるものか。美しい音色が創り出せようか?
     *
ステレオサウンドから出ている「オーディオ巡礼」にも、これは載っているし、
私にとっての最初のオーディオの本「五味オーディオ教室」も載っている。
13の時に、だから読んでいた。

この五味先生の、金のない口惜しさを痛感していること、を表面的にだけ捉えている人からすれば、
今回の、私が「Harkness」を手に入れることは、
そんなんでいい音なんか出せっこない、ときっと言うに違いない。

Date: 5月 31st, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その2)

JBLのハークネス(Harkness)といえば、
横型のバックロードホーンエンクロージュアC40の愛称(通称)であり、
ユニット構成にはD130を一本おさめた使い方から、
D130をベースに高域の拡張をはかるか、
D130のウーファー版130Aをベースとした2ウェイでいくかで、
正式な型番は変ってくる。

JBLのSpeaker System Component Chartによれば、
130Aと175DLH(もしくはLE175DLH)の組合せ(ネットワークはN1200)は001、
D130と075の組合せ(ネットワークはN2400)は030であり、
C40のエンクロージュアにおさめた状態では、
130A + LE175DLHではD40001となり、D130 + 075ではD40030となる。

JBLのSpeaker System Component Chartには、D130 + LE175DLHという組合せはない。
私のところにもうじきやって来るHarknessには、
おそらく、というか、ほぼ間違いなくD130が入っている。
高域用は075ではなくLE175DLHだと思われる。

そして、このHarknessは、JBLの輸入元であった山水電気が日本に最初に輸入した「Harkness」である。
岩崎千明の「Harkness」である。

Date: 5月 31st, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その1)

人はいくつものスピーカーを鳴らすのか。

終のスピーカーがあれば、初のスピーカー(それとも始のスピーカーか)もある。
最初から、理想とするスピーカー、憧れのスピーカーを鳴らせる人もいることにいるだろう。
けれど、多くの人が、私もそうだったように、最初から理想や憧れのスピーカーという人はいない。

アンプやカートリッジを交換したり、使いこなしにあれこれ苦労しながら、
そのスピーカーを鳴らしていく。
ある時期がきたら、次のスピーカーに移ることもある。
長いつき合いのスピーカーもあれば短いつき合いのスピーカーもある。

スピーカーを手離す理由も、必ずしも次のステップとは限らない。
人にはいえぬ事情で手離すことだってある。

このスピーカーと添い遂げよう、とかたく決心していたとしても、
次の日に、スピーカーを買い替えることだってある。

終のスピーカーとは、だから言い切れないのがオーディオである。

にも関わらず、もうじき私のところにやって来るスピーカーは、終のスピーカーである。
いま住んでいるところから10kmも離れていないところに取りに行けば、
そのスピーカーは私のところにやって来る。

ほんとうはそのスピーカーが届いてから、これを書くつもりだった。
でも、はやる気持を、もう抑えられない。
だからこれを書いている。

「オーディオ彷徨」が復刊された日でもあるのだから。

Date: 5月 30th, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(序・続き)

ほぼ1年前に書いた「終のスピーカー(序)」。
この1年間は待ち遠しかった。
夢に出てきたこともある。
私にとっての「終のスピーカー」が、もうじきやってくる。
「終のスピーカー」ついて書ける日がやってくる。

Date: 5月 30th, 2013
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その8)

おそらくイギリスで復刻したとしても、LS3/5B的なことになってしまうだろう。

それはそれでいいことだとも思うのだが、私が欲しいのはLS3/5Aである。
だから、今回の中国による復刻を高く評価しているし、
ここまでできるか、という気持よりも、このことに関しては日本よりも上なのでは? と、
一時期はオーディオ大国といわれた日本なのに、翳りがみえているというだけでなく、
あきらかに中国、台湾といった後発の国に対して、
負けを認めなければならないことが出てこようとしている──、
そのことに対する「気持」のほうが強い。

たしかに日本はオーディオ大国だった。
オーディオ機器を、自社及び子会社・関連会社内だけで製造できるメーカーとなると、
その多くが日本のメーカーであった。

アンプであれば抵抗やコンデンサーといった受動素子、
トランジスター、FET、OPアンプなどの能動素子すべてをつくれるメーカーは、海外には少ない。

いま非常に高価なアンプやスピーカーを製造している海外のメーカーでも、
トランジスターを自社で開発することはできない。
日本のメーカーは、そういったことを当り前のようにやっていた。

このことが、優れたオーディオ機器をつくり出せることに直結しているかどうかは判断の難しい面もある。
それでも、いまふり返ってみて、日本人として生れ、
日本で育ち日本でオーディオをやっているひとりの人間として、
日本のオーディオ、日本のオーディオメーカーに対して、もっと誇りを持つべきだった──、
といまにしておもっている。

反省を込めて書いているわけだが、
私がいたころのステレオサウンド(1980年代のステレオサウンド)は、
日本のオーディオに対して厳しかった面がある。
それは期待ゆえの厳しさも含まれていたし、納得できるところもあったにしても、
バランスを欠いていた、といえなくもない。

それに、あの頃は、いまの状況はまったく予測できなかった……。

Date: 5月 30th, 2013
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その7)

LS3/5Aは欠点を少なからずもつスピーカーシステムであり、
その欠点をうまく補うように鳴らすことで、
このスピーカーでしか味わえない世界をつくり出してくれる、ともいえる。

LS3/5A以降、小型で優秀なスピーカーはいくつか登場してきた。
ここにスピーカーの進歩を感じるとともに、
スピーカーの面白さと難しさも同時に感じてしまう。
LS3/5Aは、好きな人にとっては、これほどハマるスピーカーは、他にあまりない。
だから、いまでも中古市場で人気があるのだろう。

ときどきLS3/5Aをそのままスケールアップしたスピーカーが出ないものか、と思うことだってある。
あのサイズだからこその魅力、ということも重々わかっていても、
それでも求めてしまうのは、ないものねだりでしかないのだが……。

LS3/5Aは日本市場にけっこうな数が入ってきているから、
中古を探すのはさほど大変なことではないものの、
誰が使ったのか(鳴らしたのか)が、不明なスピーカーは個人的には手に入れたいとは思わない。
できるかぎりスピーカーシステムは新品か、
すでに手に入らなくなったスピーカーシステムであれば、
誰が鳴らしていたのかがはっきりしていてほしい。

そんな私だから、LS3/5Aの復刻のニュースは嬉しかった。
中国製だから、というネガティヴな感情はなかった。

B110のベクストレン製のコーンの表面に塗布されたダンプ材にしても、
T27の周囲に貼られている厚手のフェルトにしても、
サランネット固定用のベルクロテープ(マジックテープ)にしても、
当時のLS3/5Aの質感そのものと思わせる。

どうして、ここまでコピーできるか、と思うとともに、
日本も以前はコピーの国だといわれていたけれど、
果して、これだけ見事なコピーをつくれるのだろうか、ともおもう。

もし日本で復刻することになったら、LS3/5B的なモノになったかもしれない。