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Date: 11月 12th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その11)

どのようなモノにも定番と呼べる存在がある。
オーディオにもある。

定番とは辞書には、
流行にかかわりなく,毎年一定の需要が保たれている基本型の商品。白のワイシャツ・白のブラウスなど、
とある。
だからこの意味通りの使い方からはズレてしまうのはわかっているが、
オーディオのジャンルでいえば、
トーンアームはSMEの3012や3009、
カートリッジではシュアーのV15シリーズ、オルトフォンのSPUなどがすぐにあげられる。
そういう意味での、ここでの定番という使い方である。

オーディオに関心のある人ならばほとんどすべての人が少なくともブランド、型番は知っている。
使っている(持っている)人も多い。
持っていなくとも、オーディオ店やオーディオ仲間のリスニングルームで聴いたことがある。
そういうモノが、他にもいくつもある。

こういう定番のオーディオ機器は、すでに評価が定まっている、ともいえる。
だから、そんなモノは使いたくない、と思う人もいることは知っている。
人と同じモノは使いたくない。
しかも定番と呼ばれるモノは、多くの人が使っているのだから、
そういう気持をもっている人にとっては、なおさら自分のモノにはしたくない、という気持も生まれるだろう。

この気持は、誰しも持っていることだろう。
私だって持っている。
以前に比べればそういう気持はほとんどなくなってしまっているともいえるけれど、
それでもまったくなくなってしまったわけでもない。

そういう気持は、オーディオには必要な要素かもしれない。
でも、だからといって定番のモノに対し、まったく見向きもしないということはやらない。

Date: 11月 11th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その10)

カンターテ・ドミノも聴いた、グールドのゴールドベルグ変奏曲も聴いた。
それにノイズの出方も充分にチェックできた。
これでテクダスのAir Force Oneの実力は、すべてとはもちろんいえないけれど、
相当はっきりと掴めた、といえる。

となると、そのあとに架けられたレコードを聴いている時は、
私の頭の半分ほどは妄想に使われていた。

たとえばワーグナーのパルジファル。
クナッパーツブッシュのバイロイト祝祭劇場でのライヴ、
カラヤンのスタジオ録音。
どちらがより名盤か、ということではなく、
クナッパーツブッシュのパルジファルをかけるアナログプレーヤーとしては、
私はなんら迷いなくEMTの927Dstを選ぶ。

927Dstで聴くクナッパーツブッシュのパルジファルは、
バイロイトに行ったことのない者にさえ、
バイロイト劇場の音とは、きっとこの感じそのままなんだろう、と思わせるだけの強い説得力がある。
そこで行われたクナッパーツブッシュのパルジファルにふさわしい、と迷いもなく思わせるのは、
927Dstの、このプレーヤーでしか聴けない音のみである。

だがカラヤンのパルジファルとなると、そのへんの事情は違ってきて当然である。
カラヤンの演奏の精妙さを、927Dstは十全に再現してくれるかは、
いくら927Dstに惚れ込んでいる私でも、そうはいえないところがあるのは認める。

カラヤンのパルジファルをかけるプレーヤーとしては、圧倒的にAir Force Oneだろう。
グールドのゴールドベルグ変奏曲でのアリアのハミングを、
ああも自然に、しかも特に耳を欹てなくとも容易に聴きとれるのは、
しかもそれがうなり声ではなくハミングだといえるAir Force Oneの音を聴いていて、
これでカラヤンのパルジファルを鳴らしたら……、
そう思えるほどのAir Force Oneの精妙さであり、
大編成のものを再生するに不可欠の安定性でもあった。

パルジファルのレコードは、クナッパーツブッシュのだけ、とか、
カラヤンのだけ、とか、どちらかひとつに決めなくてもいい。
どちらも持っていればいい。
他の指揮者のパルジファルも併せ持つこともできる。

だが、927DstとAir Force Oneの両方をもつことのできる人は、
世の中は広いからいることにはいるだろうが、
どちらかひとつでも自分のモノとできるだけでもすごいことである。

どちらを選ぶかは、パルジファルにおいてどちらを選ぶか、でもある。

Date: 11月 11th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その9)

Air Force Oneと927Dstの音を同じ基準で評価することは果して可能なのだろうか。
そんな気もする。

927Dstで聴ける、圧倒的と、誰もがいいたくなるであろう、あの音を聴いたあと、
そして927Dstの音を、仮に正しいとするならば、Air Force Oneの音は物足りなさを憶えるだろう。

Air Force Oneの音を正しいとするならば、927Dstの音はなにかが過剰な音と感じても不思議ではないし、
日常的に聴く音ではない、と思われるかもしれない。

インターナショナルオーディオショウの最終日、
ステラのブースで、カンターテ・ドミノのレコードの数枚後にグールドのゴールドベルグ変奏曲がかけられた。
1981年録音の方だ。
このレコードも、CDとアナログディスクで、いくどとなく聴いている。
ステレオサウンドの試聴室で聴いた回数はカンターテ・ドミノの方が多いが、
自分のオーディオで聴いた回数はグールドの方が多い。

アリアが鳴る。
Air Force Oneで聴くと、アリアのところでのハミングが、
これまで聴いたどのアナログプレーヤーよりも聴きとりやすい。
そこで鳴っているピアノも、ヤマハのグランドピアノというイメージがしっかりとある。

数年前に聴いた、非常に高価なスピーカーシステムによるアップライトピアノのような音ではない。

第一変奏曲が鳴る。
ここでアリアのときとピアノの音像の大きさが変化しているのもはっきりと出す。
お見事、と思いながら、
Air Force Oneと927Dstの違いについて考えてもいた。

いま別項で書いているカラヤンのパルジファルのことを思っていた。

Date: 11月 11th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その8)

テクダスのAir Force Oneとじっくり比較試聴してみたい現行製品となると、
ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logである。
外観的には、まるで方向性の違うプレーヤーであるだけに、どういう結果になるのか非常に興味がある。
そういう機会はおそらくない、と思うのだが、
それでもこのふたつのアナログプレーヤーは実物を前にして、音だけにとどまらず、
アナログディスクを再生するメカニズムとしてプレーヤーをどう捉え考えているのかを、
じっくりと比較しながら見ていくことは、おもしろい記事になるとも思っている。

音は聴かなければわからないもの、というよりも、
わからないところがあるものだが、
それでもAir Force OneとAnna Logとでは、前者のクォリティが全般的に上のような気がする。
それでも、アナログディスクを再生することの面白さとなると、
それは必ずしもAir Force Oneがいいとはいえなくなるような気もする。

アナログディスク再生のためのメカニズムをある種のカラクリとして捉えているのであれば、
Anna Logに非常に興味深い存在である。

現行製品の中ではAnna Logぐらいだが、
実際にアナログプレーヤーの購入を検討するときには、必ずしも現行製品だけとは限らない。
過去の製品も比較対象となってくる。

そうなるとAir Force OneとEMTの927Dstはどうなんだろうか。
おそらくずいぶんと傾向の異る音のはずだ。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その7)

カンターテ・ドミノは、ステレオサウンドの試聴室では井上先生の試聴の時に、
それこそ数え切れないほど聴いている。
オーディオ機器のチューニングのとき、これ一枚だけでかなりの部分でやられるときも少なくなかった。
だからこそ、井上先生のチューニングによって、カンターテ・ドミノの鳴り方がどう変化していくのか、
それを数多く体験できたのは、こういう場での音の確認の時に役立っている。

ステラのブースに響いていたカンターテ・ドミノの教会は、まぎれもなく木の印象のものだった。
それもピントのあまい音だった、ぼけた感じの音、そういう類の音で木の響きを、
いわばごまかしながら表現しているのではなく、
細部まできっちりと表現しながらも、木の独特の、やわらかな響きが無理なく拡がっていくのがわかる。

このカンターテ・ドミノのレコードを聴いて、
ステラのブースで、いま鳴っている音は信用できる音だと確信できた。
確信できたからこそ、カンターテ・ドミノのあとにかけられたディスクを楽しむことができた。

ステラのブースの、この時の音が、最高の音だとはいわない。
けれど、少なくとも、音楽を聴いていく上で、
しかもこういう場では、聴いたこともないディスクもかけられる。
そういうディスクであっても、そこでの音を信用できる、
という保証をカンターテ・ドミノのレコードの音で得られた。

そのことがAir Force Oneの凄さだと素直に認める。
現行製品のアナログプレーヤーとしては、音だけに関しては最高のモノといえるだろう。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: ショウ雑感, 瀬川冬樹

2013年ショウ雑感(瀬川冬樹氏のこと)

今日は瀬川先生の三十三回忌法要に行ってきた。

ほんとうに近しい人たちだけの、ということで、私が行っていいものなのか、と思いもしていた。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られることはかかさず通っていた。
いわばおっかけである。

私がステレオサウンドで働くようになったのは1982年1月から。
瀬川先生が亡くなられた後のことだ。
そういう者がはたして行っていいものか、とは思いながらも、
来てください、といわれていたので、行ってきた。

行ってよかった、とおもっている。
なぜ、よかった、とおもっているのかについては、いずれ書いていくかもしれない。
書かないかもしれない。

いまのところ、ひとつだけ書いておきたい。
ショウに関することだからだ。

瀬川先生がメーカーのショールームで、
定例プログラムを行われていたことは、この時代にオーディオに興味を持っていた方ならば、
多くの方がご存知だし、楽しみにしていた方も多かったはず。

瀬川先生の回は、どのメーカーのショールームでも人が多く集まっていた、ときく。
瀬川先生は、来る人拒まず、の姿勢だった、ときいた。
そして重要なのは、一人として最後まで誰も帰さない。
そういう覚悟で毎回行われていた、ということだった。

インターナショナルオーディオショウでもそうだが、
オーディオ評論家と呼ばれる人が講演という名の音出しをやっていても、
瀬川先生と同じ覚悟でやっている人は何人いるのだろうか。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その6)

カンターテ・ドミノは、スウェーデンのマイナーレーベルといっていいプロプリウスを有名にした一枚である。

プロプリウスは1960年代末にスタート。カンターテ・ドミノは1976年の録音。
教会でのワンポイント録音、テープデッキはルボックスのA77だった、ときいている。

1979年にスウェーデンのレコード賞を得て、
ヨーロッパのAESのコンヴェンションやオーディオショウでデモンストレーションのレコードと使われることが増え、
注目されるようになっていく。

1981年秋に来日したJBLのジョン・アーグルも、
この時の新製品、4435、4430のセミナーにおいて、カンターテ・ドミノを使っていた、とのこと。

このころになると日本でも話題になっていて、
1982年にマークレビンソンやSAEの輸入元でもあったRFエンタープライゼスが輸入を行うようになった。
日本で広くカンターテ・ドミノが知られるようになり、売れるようになったのは、このころからだろう。

カンターテ・ドミノのディスクは持っていないという人はいるだろうが、
一度も聴いたことがない、という人は少ないように思う。
どこかで耳にしていることが、きっとあるはず。

これほど有名なディスクにも関わらず、
日本人には教会ときくと、石造りのイメージがあるためか、
カンターテ・ドミノの録音が行われた教会もまた石造りだと思っている人がいる。

すでに何度か書いているように、カンターテ・ドミノで使われた教会は石造りではない。
だからカンターテ・ドミノで聴くことができる残響・反響は木の響きをイメージさせるものでなくてはならない。

テクダスのAir Force Oneで鳴ったカンターテ・ドミノは、
木の教会の響きを、実に自然な感じで再現してくれた。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その5)

エルプのレーザーターンテーブルのスクラッチノイズの出方が特徴的なのに対し、
テクダスのAir Force Oneでは、いわゆる一般的なアナログプレーヤーの出方なのだが、
ノイズは出ていても、あまり耳につかない。ノイズが尾を引かない。
ノイズの音そのものも低く抑えられている印象である。
つまりいいノイズの出方だった。

このへんは自分で操作しての印象ではないから断定まではてきないけれど、
おそらくノイズの出方の印象に関しては大きく変ってくることはないはず。

このノイズの出方を聴いていると、安心してアナログディスクが聴ける、という感じがしてくる。

ローズマリー・クルーニーの次はバリー・ベラフォンテだった。
その次はエリー・アメリングがかけられた。
このとのアメリングが、私の中にあるアメリングの印象よりもすこしばかり細めに聴こえて、
おやっ、と思うところもあったが、
アンプもスピーカーシステムも初めて聴くものばかりだから、
どこにそう聴こえる要因があるのかははっきりとはしない。

四枚目がプロプリウスのカンターテ・ドミノだった。
カンターテ・ドミノはCDもアナログディスクも何度となく聴いている。
自分のシステムでもかなりの回数聴いてきた。

このディスクの鳴り方で、ほぼおおよそのことは判断できる、ともいえる。

歌が始まる。
この瞬間で、Air Force Oneの実力の高さを確信できた。

Date: 11月 8th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その10)

インターナショナルオーディオショウの今年の講演スケジュール表をすみずみまでみていたわけではなかった。
なんとなく眺めて、今年はこんな感じか、という程度の眺め方だったから、
各ブースの各講演はすべて一時間だと思い込んでいた。

ステラの柳沢功力氏のときも三時すこしすぎてから入った。
四時までだな、とするともうひとつどこかのブースに行けるな(最終日は五時終了)と思っていた。

次々にアナログディスクをかけられる。
テンポもいい。
ふと時計をみると四時近くになっていた。
そろそろかなと思っていても、少しも終る気配が感じられなかった。

四時をまわってもまったく時間を気にすることなく進んでいく。
もしかすると、二時間なのか、とやっと気がついた。
つまりステラのブースに最後までいると、終了の時間になってしまう。
他のブースにはもういけない。

しかもずっと立ちっぱなし。
人も多い。

それでも結局最後までいたのは、くり返すが、柳沢氏のオーディオの楽しみ方が伝わってきたのが大きい。
柳沢氏との対比で書いた人のブースには、がまんにがまんを重ねても、30分はいられなかった。
会場に着いてからそれほど時間は経っていなかったから、
別にしんどかったわけでもない。
それでも、もうこれ以上、ここにいたくないとおもい、ブースの外に出た。

各ブースのメーカー、輸入商社の人たちは、
講演を依頼する人をどうやって決めているのだろうか。

なぜ、この人にしたんだろう? そうおもってしまうことが今年に限らず必ずある。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その4)

スクラッチノイズの出方で、今回のインターナショナルオーディオショウで印象に残っているのは、
タイムロードのブースに鳴っていた、いわゆるレーザーターンテーブルである。

カートリッジという機械式のピックアップではなく、
レーザー光を使った、非接触型のピックアップによるアナログディスク再生を可能にした、
エルプのプレーヤーのことだ。

ちょうどタイムロードのブースにはいったときに、
エルプのレーザーターンテーブルによる音出しだった。
入った瞬間、不思議な質感の音だな、と思って正面をみれば、
アナログディスクのジャケットが、いまかけているディスクとして置いてあった。

しかもスクラッチノイズの出方も、聴きなれた感じとは違う。
どのアナログプレーヤーが鳴っているのか確認してみれば、エルプのレーザーターンテーブルだった。

ダイアモンドの針先が音溝と接触している、これまでのカートリッジによる再生と、
光学式では、トーンアームの振動の問題も含めて、
アナログディスク再生といても、条件はそうとうに異る面・要素をもつ。

そのためなのかどうかは、タイムロードでの短い時間で聴いただけでははっきりしたことはいえないのだが、
それでもノイズが皆無なのではなく、その出方が、これまでとははっきりと違っている。

これだけノイズの出方が違っているということは、
音に関してもそうとうに違う質感で鳴ってきても不思議ではない。

ここでも比較対象となるアナログプレーヤーの音が聴けなかったので、
これ以上音について触れるのはやめておくが、
アナログディスクの音について考えていく上で、決して無視できない存在である。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その3)

フィードバックといっても、
位相が逆相であればいわゆるアンプでいうところのネガティヴフィードバック(NFB)に、
同相であればポジティヴフィードバック(PFB)ということになる。
同相か逆相、位相関係がはっきりとこのふたつにわかれるのであればことは簡単なのだが、
実際にはそうはいかずさまざまな位相関係が生じている、とみるべきである。

空気中を伝搬してくる振動に関してはスピーカーからの直接音もあれば、
床や壁に反射(一度の反射もあれば二度三度の反射もある)した音もある。
つまりそれらの位相は互いに干渉しあって複雑なものとなっていることだろう。

床を伝わってくる振動に関しても最短距離で伝わってくる新道もあれば、
そうでない振動もある。
それにプレーヤーはたいていなにがしかの台に置かれていて、
その台を伝わって振動はアナログプレーヤーに到達してくる。

アナログプレーヤーが受けている振動の実際を正確に把握することは無理であろう、
と思えるくらい、外部からの振動の絡みあいにさらされている。

床からの振動は台の重量、材質、構造、設置場所などによってある程度コントロールすることはできる。
それでもある程度である。
それにプレーヤーにもサスペンション機構が備わっている。
これがきちんとしたものであれば、使い手の工夫次第であるところまでは抑えられよう。

けれど空気中を伝わってくる音という振動に関しては、
その影響を逃れるには(小さくするには)、音量を下げるくらいしか手はない。

このことを徹底すれば、
スピーカーから音を出さずにヘッドフォンで聴けばいい、ということになる。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その9)

今回は会場にいた時間はそれほどながくはなかったので、
聴きたいブースの音のためには、時間に余裕がある時ならば、
あまり関心の持てない人の話をきかずにすむのだが、今回はそうはいかなかった。

そのブースを音を聴くには、オーディオ評論家と呼ばれている人の時間帯にあたってしまった。
それでも、どういう話を、どういう話し方でする人なのだろう、という関心はあった。

話が始まった。
五分もきいていたら、いいかげん音を聴かせて欲しい、と思っていた。
でも話は続く。
しびれがきれる寸前で、やっと音を鳴らすことになったのだが、
ここでもまた少し話があって、それこそ、やっと音が鳴った。

一曲終り、また話が始まる。
そして二曲目、話、三曲目……。

話と音楽が交互にくるのは、どの人でも同じである。
同じであるからこそ、話の内容、かける音楽の違いが、より鮮明になってくる。

今回のショウで最終日の最後にステラのブースで柳沢功力氏によるテクダスのAir Force Oneをきいていた。
きいていて、上に書いた人とは正反対で、こちらがしびれをきらすようなことはほとんどなかった。
話もきいていて面白い。
話の内容すべてに同意できるわけではないし、疑問があるところもないわけではないけれど、
それでも、柳沢氏の話をきいていて感じていたことは、
話の巧拙ではなく、ああ、この人はプライベートでは、こういうオーディオの楽しみ方をしているんだ、
そういうことが話をきいて想像できるから、おもしろかったし、退屈することがなかった。

そこで感じられた楽しみ方が、自分の楽しみ方と完全に一致する必要はない。
とにかく、その人がどういう楽しみ方、オーディオと音楽との接し方をしているのかが、
きちんと伝わってくれば、話をしている人と私とのあいだに、いろいろな違いがあっても、
そんなことは問題にはならない。

上に書いた人の場合、私にはその人のオーディオの楽しみ方が伝わってこなかった。
話をきいていて、この人は、オーディオで音楽を聴くことを楽しんでいるのだろうか……、とさえ思っていた。

Date: 11月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスク再生に必要なこと

[残心]
①不満や未練が残ること。未練。
②武道における心構え。一つの動作が終わってもなお緊張を解かないこと。剣道では打ち込んだあとの相手の反撃にそなえる心の構え、弓道では矢を射たあとその到達点を見極める心の構えをいう。

辞書(大辞林)には、残心について、こう書いてある。

アナログディスク再生に必要なことはいくつもある。
それらひとつひとつをここでは書かない。

オーディオ機器は音楽が鳴っている時、
つまりオーディオ機器が本来の動作をしているときには、聴き手の手からはなれている。
アナログディスクをかけるときもそうだ。

アナログディスクの上に針先を注意深く降ろしたら、
あとはボリュウムを上げるだけ、である。

だからこそ、この残心が求められる、と私は思っている。
ここでの残心は①の意味ではなく、②の意味であり、
その②の意味でも弓道の矢を射たあとの心構えが、
アナログディスクでの残心に近い。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その2)

スピーカーシステムとアナログプレーヤーは同一空間に置かれる。
このことがアナログディスクならではの音と深く関係しているのではないか。

少なくとも私は、音響的・振動的に完全に隔離された別々の部屋に、
それぞれスピーカーシステムとアナログプレーヤーを設置した音は聴いたことがない。
このときの音が、同一空間にスピーカーシステムとアナログプレーヤーを設置した音と共通する、
もしくは同じといえる音であるならば、このことは見当外れということになる。

少なくとも同一空間にスピーカーシステムとアナログプレーヤーがあった場合、
スピーカーシステムから空気を伝わってくる音という振動、
床や壁を伝わってくる振動が、アナログプレーヤーを揺さぶっている。

音が空気中を伝わる速度は約340m/secであるから、
スピーカーシステムとアナログプレーヤーとの距離が3.4mならば、
カートリッジが音溝をトレースして、その信号がスピーカーから出てから1/100秒後にはカートリッジを含めて、
アナログプレーヤー全体を揺さぶっている。

それとは別にスピーカーシステムが空気中に浮んでいないかぎり、
スピーカーユニットからの振動はエンクロージュアを伝わり、床を動かす。床からの振動は壁にも伝わる。
空気中を伝わる速度よりも、固体を伝わる速度のほうが速いから、
床を伝わってくる振動は音として伝わってくる振動よりも速くアナログプレーヤーを揺さぶっている。

これらは、いわゆる振動のフィードバックである。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その1)

世の中にはいろいろな方式がある。
入力機器となるアナログプレーヤー、CDプレーヤー、チューナー、テープデッキなど、
それぞれの方式の中で機器による音の違いがあるから、
たとえばアナログディスクならではの音、テープ特有の音ということを、
他の要素から切り離してどれだけ正確に認識できるかというと、あやしいところではなる。

けれどもオーディオも長年やっていて、それぞれの方式の、さまざまな音を聴いていると、
なんとなくではあっても、やはり方式固有の音が存在する、という感じが濃くなってくる。

アナログディスクにも、アナログディスク固有、アナログディスクならではの音がある。
それはテープからは出てこない音だし、CDから聴くことはできない。
その逆もまたいえることである。

もうこれは感覚論であって、技術的な裏付けはほんとうにてきるのだろうか、と思う。
それぞれの方式に固有の音があるのならば、それはその技術と密接に関係しての結果であり、
その技術とは科学の裏付けがあってのものだから、本来ならば技術的に説明できることのはず──、
そうなのだろうが、そういうことはメーカーの技術者、研究者におまかせしよう。

われわれ聴き手は、感覚的であっていい。
感覚的であることが嫌な人は、徹底的に究明するか、方式固有の音なんて存在しない、と否定すればいい。

アナログディスクならではの音は、いったいどういうことが関係しているのであろうか。