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オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(atmosphere design)
オーディオのデザイン、オーディオとデザインについて考えていると、
オーディオ機器のデザインだけにとどまらず、
もうそろそろ空気のデザインということを考えていく時期に来ているように感じてしまう。
空気のデザイン、
つまりはリスニングルーム内の空気、
特定の空気であるから、アトモスフィア(atmosphere)のデザインとなる。
それはリスニングルームに、音響パネル、その類のモノを置くことも含まれはするが、
それだけのことにとどまらず、
リスニングルーム内の空気をどうデザインするかの領域を含んでの考えである。
prototype(その8)
テクニクスのリニアフォースドライブスピーカーも、ビクターと同じように専用アンプ込みの技術である。
テクニクスは、スピーカーの歪の発生メカニズムを、Bl歪と電流歪の二つにわけられることとして、
この二つの歪の発生原因を専用アンプによる電子制御で除去しようとするものである。
Bl歪とは、ボイスコイルがギャップから離れたり、
ボイスコイル電流がギャップの磁束密度を変調させたりすることに起因する歪とある。
電流歪はボイスコイルが、ヒステリシスをもつ材質、
つまりポールピースや磁気プレートに囲まれているために発生する、
ボイスコイルのインピーダンスの非直線歪とある。
テクニクスの、この二つの歪解消のため、プッシュプル磁気回路を採用。
マグネットの両側にプレートがあり、ボイスコイルは二組ある。
そしてプレート間には制御コイルがあり、
ボイスコイルの両端にある磁気検出コイルからの信号により、
制御コイルに対して専用アンプが磁束フィードバックをかけている。
電流歪に対しては定電流駆動アンプを用いている。
磁束フィードバック用のアンプも定電流アンプである。
テクニクスもビクターも、理想といえるスピーカーシステムの開発には、
スピーカーだけでの技術ではなく、専用アンプ込みの技術をとっている共通点がある。
しかも汎用性の高い定電圧駆動のアンプではなく、定電流アンプを採用していることに注目したい。
「スピーカー」論(ピストニックモーションにまつわる幻想・その1)
ソニーのマイクロフォンの広告からエレクトロボイスのことを思いだし、
エレクトロボイスといえば、フェノール系のダイアフラムのことを私は連想する。
アルテックにしろJBLにしろ、
ウェスターン・エレクトリック系のコンプレッションドライバーのダイアフラムは金属である。
JBLのドライバーにも、フェノール系のダイアフラムのモノはあった。
2470、2482などがそうである。
だがこれらのドライバーはPA用に使われることが多く、
スタジオモニター、家庭用のスピーカーでは使われていなかったし、
JBLのコンシューマー用ドライバーにはフェノール系のダイアフラムのモノはない。
そのため、どうしても金属系のダイアフラムの方が音のクォリティは上で、
フェノール系は下にみられることもある。
それにコンプレッションドライバーのダイアフラムとして使われ、
ピストニックモーションの範囲内でしか使わないのであれば、
ダイアフラムの材質固有の音はしない、という意見もある。
そう主張する人たちは、フェノール系よりも金属系のほうがピストニックモーション領域が広い、
なのでフェノール系のダイアフラムを使う意味はない、ということになるらしい。
だが、そう言い切っていいのだろうか。
ほんとうにピストニックモーションの帯域においては、
ダイアフラムの材質固有の音はしない、と言い切れるのか。
オーディオ「原器」考(続・マイクロフォンこそが……)
マイクロフォンがオーディオの原器だと仮定して考えていけば、
エレクトロボイスは、
マイクロフォンとスピーカー、両方において積極的であったメーカーだったことに気づく。
アルテックのマイクロフォンもある。
鉄仮面と呼ばれている639が有名だが、他にどれだけのマイクロフォンがあっただろうか。
JBLは手がけてなかった。
タンノイはどうだったろうか。
マイクロフォンもスピーカーも、動作こそ対照的ではあるが音と電気の変換器である。
オーディオ「原器」考(マイクロフォンこそが……)
1977年のソニーの広告に、原器の文字がある。
マイクロフォンの広告だった。ステレオサウンド 45号に載っている。
こうあった。
*
「オーディオの原器。」
考えてみてください。
レコード、テープ、放送……どのオーディオをとってみても、
オーディオの出発点にマイクロホンが存在することを。
*
たしかにそのとおりである。
ソニーはコンシューマー用マイクロフォンだけではなく、プロフェッショナル用マイクロフォンも手がけていた。
広告には、C38Bの写真が大きく使われている。
こういう広告はコンシューマー用オーディオ機器だけでなく、
プロフェッショナル用も手がけていて、
それもマイクロフォンから録音器、プレーヤー、アンプ、スピーカーにいたるまで、
オーディオ機器のすべてを手がけているメーカーだからこそ、自信をもっていえることだと感じられる。
広告には、こうも書いてある。
《マイクロホンの進歩なしにはオーディオ機器全体の進歩は望めないとまでいえる。》と。
カラヤンのマタイ受難曲(その3)
もうひとつ思い出していた文章がある。
黒田先生の書かれたものだ。
1978年のユリイカに載った「バッハをきくのはメービウスの輪を旅すること」である。
東京創元社から1984年に出た「レコード・トライアングル」で読める。
*
J・S・バッハの音楽は、ニュートラルな、つまり雌雄別のない音でできているといういい方は、許されるであろうか。音が徹底的に抽象的な音でありつづけ、ただの音であることでとどまるがゆえに、永遠のメタモーフォシスが可能になるとはいえないか。
永遠のメタモーフォシスの可能性を秘めた音楽をきくということは、メービウスの輪の上を旅するのに似ている。どこがはじまりでどこが終わりかがわからない。はじめと終わりがわからぬまま、しかし、自分がつねに途中にいることを意識せざるをえない。
*
黒田先生は、指定楽器のないオープンスコアのフーガの技法について語られている。
とはいえ、ここで語られているのは黒田先生によるバッハ論ではなく、
音楽のききてとしての座標の意識についてである。
私にとって、これまでさけてきていたカラヤンのマタイ受難曲を聴くのは、
そういうことを確かめることなのかもしれないからこそ、
黒田先生の文章を思い出したのかもしれない。
真空管の美(その5)
物質の燃焼温度が高くなれば、火の色は変ってくる。
人があたたかみを感じる色は、比較的低い燃焼温度である。
1977年、アルテックは、コンプレッションドライバーの802-8Dのフェイズプラグを、従来の同心円状の形状から、
オレンジを輪切りにしたように、スリットが放射状に並ぶタンジェリン状のものに変更した802-8Gを出した。
このタンジェリン状のフェイズプラグの色はオレンジだった。
タンジェリン(mandarin orange)だから、オレンジ色にしたのであろうが、
この色が、アルテックの音の温度感を表しているともいえる。
フェイズプラグは通常の使い方では目にすることはない。
それでもアルテックは、あえて色をつけている。
アルテックのユニットはトランジスターアンプの普及にあわせて、
インピーダンスをそれまでの16Ωから8Ωへと変更している。
だから604-8G、802-8Gのようにハイフンのあとに続く数時はインピーダンスを表すようになっている。
型番の数字はトランジスターアンプとの組合せを推奨しているようにみえても、
フェイズプラグの色は真空管アンプとの組合せを推しているようでもある。
カラヤンのマタイ受難曲(その2)
昨夜寝る前に思い出したことがある。
五味先生が「メサイア」で書かれていたことだ。
*
『マタイ受難曲』を硬質で透明なクリスタル・ガラスの名器とすれば、『メサイア』は土の温もりを失わぬ陶器、それも大ぶりな壺だろうか。透明度は明晰性に、硬度は作者の倫理性に根差すのなら、『マタイ』が上位に位置するのは言う迄もないことだ。しかし土の温もりも私には捨て難いし、どちらかといえば、気軽に、身構えず聴く気になるのは『メサイア』第二部の方である。
*
マタイ受難曲を、硬質透明なクリスタル・ガラスの名器とたえとられている。
そのとおりだと思う。
ならば、なぜカラヤン/ベルリン・フィルハーモニーのドイツ・グラモフォン盤を、
これまで遠ざけてきたのだろうか、と思っていた。
理由ははっきりしている。
けれど、私にとってカラヤンのマタイ受難曲を遠ざけるもっとも大きな理由となった五味先生の文章が、
暗にカラヤンのマタイ受難曲を推しているようにも読めることに気づき、苦笑いするしかなかった。
まだカラヤンのドイツ・グラモフォン盤のマタイ受難曲は聴いていない。
それは硬質で透明なクリスタル・ガラスの名器のごとき演奏なのだろうか。
カラヤンのマタイ受難曲(その1)
カラヤン指揮によるバッハのマタイ受難曲は、
ふたつのCDが現在では入手可能である。
ひとつはドイツ・グラモフォンによる1972-73年にかけてのステレオ録音。
もうひとつは1950年のモノーラルのライヴ録音である。
1950年録音は、カスリーン・フェリアーが歌っているので、
アナログディスクでももっていた(ただし音はひどかった)。
CDになってからも購入した(まだこちらの方が音はまともになっていた)。
でもドイツ・グラモフォン盤は持っていないどころか、聴いたことがない。
聴こうと思ったことがなかった。
1970年代のカラヤンに対する、こちらが抱く勝手なイメージとマタイ受難曲との印象が異質な感じがして、
なんとなく聴く気がおきなかっただけが理由である。
けれどクラシック音楽における精神性と官能性、精神的なものと官能的なものは、
実のところ一体であって、不可分のものであることに気づけば、
カラヤンのマタイ受難曲(ドイツ・グラモフォン盤)に対しての興味がわいてくる。
このことは昔から気づいていたのかもしれない。
レクィエム(モーツァルトでもフォーレでもいい)において、
ある種の官能性が稀薄なものに関しては、名演といわれるものであってもさほどいい演奏とは感じてなかったからだ。
真空管の美(その4)
ずっと以前、電気がまだなかったころ、
人類にとっての最初の灯は燃える火であり、
その火の灯に近いのが白熱電球であり、
真空管のヒーターが発する色である。
prototype(その7)
ダイヤトーンの水冷式のパワーアンプの次に思い出すのは、
ビクターのスタンダードスピーカーシステムである。
このスピーカーシステムは、ステレオサウンド 50号、
岡先生による「オーディオ一世紀 昨日・今日・明日」で取り上げられている。
エンクロージュアの回折効果の影響をなくすために、卵形をしている。
ユニットはコーン型の円錐状の部分を発泡樹脂で充填した平面型の3ウェイ構成。
ウーファーは21cm、スコーカーは5.7cm、トゥイーターは2.6cm口径。
同じ構造の平面型スピーカーはKEFが1960年代に採用しており、
Lo-DもHA10000で同じ構造のユニットを全面的に採用している。
HS10000は平面バッフルに装着しての使用を前提としているのに対し、
ビクターのプロトタイプは、卵形のエンクロージュアが示すように4π空間での設置前提という違いがある。
それからHS10000はスーカーシステム単体として市販されたが、
ビクターのプロトタイプは専用アンプ内蔵の、いわゆるアクティヴスピーカーである。
3ウェイのマルチアンプ構成で、すべてのアンプは定電流駆動、さらにウーファーに関してはMFBもかけられている。
クロスオーバー周波数は550Hz、2kHzで、
デヴァイディングネットワークの前段でディフラクション補正を行っている。
ビクターの発表資料によると卵形エンクロージュアのディフラクションのグラフをみると、
500Hzあたりからなだらかに低域にかけて減衰していく。
この減衰カーヴと反対の特性の補正をかけることで、システム全体の周波数特性をフラットにしている。
ビクターのプロトタイプが登場したころ、
フィリップスは小型スピーカーにMFBをかけたシリーズを製品化していたし、
テクニクスはリニアフォースドライブスピーカーという技術を発表していた。
第50回audio sharing例会のお知らせ(黄金の組合せ)
3月のaudio sharing例会は、4日(水曜日)です。
テーマを何にしようかと考えていた。
4月のテーマはかなり前から決めていた。
今年の4月の第一水曜日は1日にあたるからだ。
だから五味先生のことを話そうと決めている。
でもその前に3月がある。
来週になればステレオサウンドの最新号が発売になる。
今号の特集はなんだろうと、ステレオサウンドのサイトをみたら、黄金の組合せとあった。
私も「黄金の組合せ」をテーマに書いている。
まだ途中であり、これからも書きつづけていく。
偶然にもダブってしまったから、今回のテーマは「黄金の組合せ」にしたい。
黄金の組合せという表現は、昔ほど目にしなくなっている。
「黄金の」というのが、時代にそぐわなくなってきたからなのだろうか。
それとも黄金の組合せと呼ばれるにふさわしい組合せが生れなくなってきたためだろうか。
オーディオの組合せは、オーディオの想像力だ、と以前書いた。
だからオーディオの組合せはじつに面白い。
けれどその面白さが誌面から伝わってくるからは、必ずしもそうとはいえない。
黄金の組合せはつくるものなのか、それとも発見するものなのか。
黄金の組合せといえるものができたとして、その普遍性はどの程度なのか。
音の鳴ってこない誌面で、黄金の組合せを伝えるのに必要なのはどういうことなのか。
そんなことを話せたら、と考えている。
時間はこれまでと同じ、夜7時です。
場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。
バスレフ考(その5)
HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たのは1979年春。
約一年前のステレオサウンド 44号、45号、46号の特集はスピーカーシステムだった。
実測データも載っている。インピーダンス特性ももちろん載っている。
これらのグラフをみてわかるのは、典型的なバスレフ型の特性を示すスピーカーシステムの方が、
1977年から1978年の時点で少なくなっていることがわかる。
バスレフ型ならではのインピーダンス特性、
共振のふたつの山ができているのは、エレクトロボイスのSentry V、サンスイのSP-L100、
パイオニアのExclusive 2301、アルテックのModel 19、ビクターのS3000ぐらいである。
意外に少ない。
たとえばアルテックの場合、Model 15とModel 19はどちらもバスレフ型なのに、
インピーダンス特性をみるかぎり、バスレフのチューニングの考え方は違っている。
Model 19の開口部は縦に細長い四角、Model 15は円である。
同じ四角の開口部をもつアルテックの612Cと620Aも、
低い方の山はけっこう高くなりそうではあっても、
掲載されているグラフは20Hzまでであり、それ以下の周波数はどうなっているのかははっきりしない。
けれど低い方の山を可聴周波数限界まで下げるという考え方は、瀬川先生の考え方と一致している。
ただ、ここがオーディオの面白いところなのだが、
だからといって瀬川先生の評価が高いのはModel 15ではなくModel 19であったりする。
JBLはL200、L300、4343、4301、4333などがテストされている。
いずれもバスレフ型だが、低域の共振の山はひとつだけである。
この中では4301がいちばん設計が新しく、インピーダンス特性も、
共振のピークは、他のJBLのモデルよりも抑えられていて、密閉型的な特性のようでもある。
サンスイも、SP-L100ははっきりとバスレフ型とわかる特性だが、
同じシリーズのSP-L150はそうではない。
意図的にメーカーはバスレフのチューニングを、
スピーカーの教科書に書かれていることからははずれたところでやっているともいえるわけだ。
オーディオにおけるスケッチとは(その1)
このブログを書こうと思い立ったのにはいくつかの理由・きっかけがある。
そのひとつは、川崎先生が毎日スケッチをされているからである。
ならば私はオーディオについての文章を毎日書いていこう、と思ったから、
audio identity (designing)を始めた。
スケッチ(sketch)には、写生(図)、下絵、素描、見取り図、略図といった意味であり、
素描をそこに見つけると、菅野先生の著書「音の素描」のことも考えたりする。
「音の素描」は、いいタイトルだと思う。
だからといって、ここでのタイトルに「音の素描」とつけるほど、ずうずうしくはない。
でも「オーディオの素描」とするのも、「音の素描」がある以上、ためらってしまう。
そうやって書き始めると、
オーディオのスケッチといえるものは、どういうものであるのか。
どういう行為を指すのだろうか、ということを考えるようになってきている。
毎日書いている。
けれど、まだオーディオにおけるスケッチがどういうものなのか、
まだ言葉にできるほどはっきりと見えてこない。