オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(atmosphere design)
オーディオのデザイン、オーディオとデザインについて考えていると、
オーディオ機器のデザインだけにとどまらず、
もうそろそろ空気のデザインということを考えていく時期に来ているように感じてしまう。
空気のデザイン、
つまりはリスニングルーム内の空気、
特定の空気であるから、アトモスフィア(atmosphere)のデザインとなる。
それはリスニングルームに、音響パネル、その類のモノを置くことも含まれはするが、
それだけのことにとどまらず、
リスニングルーム内の空気をどうデザインするかの領域を含んでの考えである。
REPLY))
私はかなり前から、オーディオは「空気感のデザイン」だろう、という風に考えていました。
最近、澤村さんの発行している「ステレオ時代」にビクターのプレーヤーを設計していた菅野さんのインタビューがあり興味深く読みました。菅野さんの思想は、私の考えていることと全く一緒で、「たぶんビクターのプレーヤーを設計した人はこう考えていたのだろう。」というその通りのコメントで嬉しくなりました。
私もプレーヤーは、トーレンスやビクター、パイオニアやマイクロなどいろいろ使いましたが、結局のところ何が重要かというと「空気感を殺さないこと」に気付きました。
たとえば、マイクロから出ていた糸ドライブのプレーヤーは、太い軸受けのオイルが音を吸い取ってしまうので、音は静かになるけれども解放感が無くなってしまうことに気付きました。イナーシャが増えると低音の共振周波数が下がって、物凄いサブソニックまで再現できるけれども、生演奏でそんなサブソニックなどは聞こえてこない。非常に不自然極まりない音に化けてしまう。「これは録音サイドの意図した音のバランスではないだろう」というのにも気づきました。
プレーヤーは筐体や素材からビスの果てまで全てが同じ土俵で共振を起こしているので、その部分の位相がバラバラになると音がキャンセルアウトして死んでしまったり濁ってしまったりする。私の目から見るとセラミックなどのアルミと異なった素材を混ぜると音が濁るように聞こえる。カンチレバーも硬ければ良いというものでは無い。太いアルミパイプで結構。ソリッドなボロンなどは音が硬くなるけれども妙なことに音も死んでしまう。要するにポジティブとネガティブの振動が合成されて振幅が小さくなる。異種素材をあちこちに使うとそのように振動の切断点が出来て音が変わってしまうことに気付きました。木やプラスチックの副作用が少ないのは、暴れた位相を適度に吸収し滑らかにするためだろうと。プレーヤーやカートリッジについて話し出したら止まらないのでこのあたりにしますが、要はオリジナルの音のエネルギーを如何に減らさないかが、プレーヤーとスピーカーに求められる性能だと考えています。そこで初めて空気感という情報が再現できるだろうと。
私はテープオーディオも好きなのでいろいろやってきましたが、実は周波数特性は音にあまり関係ない、と考えています。最も重要なものは、記録エネルギー。テープフラックスの量に応じてバイアスやイコライザーを定めますが、そこで気付くのは、残留フラックスが増えれば増えるほど空気感の再現性が良くなります。カセットだとノーマルとメタルでは周波数特性は実はそんなに違わない。それこそバイアスとイコライザーをいじれば一見同じようになる。けれども「音数」と「空気感」がかなり違う。オープンテープでもフラックス200nwB と355wBではかなり違う。また走行速度も38cmと76cmでは空気感が全然違う。けれどもf特はほとんど大差ない。「空気感」は音の情報量の多い少ないでかなり影響を受けることが体感できます。
私の耳には、CDはアナログレコードに遠く及ばない情報量のメディアにしか聞こえませんが、その最大の障壁は、CDの「耳に聞こえないノイズ」でマスクされているからだろうと考えています。そのノイズが音の情報を食べているのでは(つまり逆位相成分と音信号が合成される?)と。サンプリングノイズはノイズシェーバーで処理されるけれど、結局のところアースに落としているだけのこと。機器の内部では混在して音を濁らせる最大の障壁になっているに違いないと考えています。マルチビットDACの低音が良いのは、そのノイズ成分が悪さをしないようになっているためだろうと考えています。同じ音源をレコードとCDで聴き比べて何が一番違うのかというと、残響音の量。です。レコードにはマスターテープの位相乱れが記録されていて音場がゆらぐのを良く経験しますが、それがCDだと再現出来ていない。またCDは録音時に位相をいじっているらしいことが、その音から分かります。ノイズゲートが開いたり閉まったりするのが露骨に分かってしまいます。ドルビー回路を通すと敷居が変わるのを感知できますが、それに似たようにものです。録音サイドでも弱点分かっているらしく、近年の録音はどの音源にもデジタルディレイがかなり多くかけられています。けれども音の消え去る位置が場面の真ん中だったりして馬脚を現すことがあります。
コンサートホールの設計でも、現在の主要ツールはタイムインパルスです。ホールの壁や天井から反射された一次から二次の反射音が直接音と合成されると位相の位置によってインパルスの振幅が小さくなったり拡散したりします。音は音速ですから時速300キロで壁から跳ね返ってくるので、オリジナルの音の割合は合成されて3割くらいしかないです。ホールの音はホールの建築素材の音です。これはプレーヤーの音はプレーヤーの素材の音と言うのと全く一緒です。
せっかく録音技術者が現場の音を可能なだけ収録して録音しているのに、それをダンプしたり制動をかけてしまうのは、音を殺すことに他ならないと私は考えています。メーカーによっては制動材を多用するところもありますが、それはそういう結果になっているというのが良くわかります。結局のところオーディオ装置のデザインとはオリジナル音源の情報を如何に保持させるかの技術だろうと私は考えています。高価な材料、高級な回路、巨大な質量というものは音数に関してはむしろ悪い場合が多かった、というのが私の実感ですね。複雑で高級なオーディオ回路はむしろ音が濁って聞こえるものが多かったです。どこのメーカーのだとは言いませんが。