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Date: 7月 17th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その5)

JBLがエナジャイザーを搭載したのは、おそらくパラゴンが最初だろう、と(その3)に書いた。

パラゴンは1957年に登場している。
この時のユニット構成はウーファーが150-4Cである。
1964年に150-4CからLE15Aに変更され、それに伴いネットワークもN500HからLX5へと。

パラゴンは1980年にも変更を受けている。
アルニコマグネットのLE15AからフェライトマグネットのLE15Hへ、375が376へと。

この時点で150-4Cが製造中止になったのかと思いがちだが、そうではない。
パラゴンのユニット変更と同時期にハーツフィールドも仕様変更されている。
075が追加されている。ウーファーは150-4Cのままである。

JBLが150-4CからLE15Aにした理由は、理解し難いところがある。
150-4Cが製造中止になっていたとしても、JBLには130Aがあった。
150-4Cに近いのは、LE15Aよりも130Aであるにも関わらず、
ウーファーとしての設計がJBLとしては対極にあるLE15Aへの変更には、どういう意図があるのか。

パラゴンの弟分ともいえるメトロゴンは、1958年に登場している。
ユニット構成は150-4Cに375+H5041、ネットワークはN400の2ウェイで、
パラゴンのユニット構成を基本的に受け継いでいる。

メトロゴンにはヴァリエーションモデルとして、
130Aと175+H5040、130Aと275+H5040、D130のみなど、他にもいくつか用意されていた。
メトロゴンのユニット構成を見ると、
コンシューマー用ウーファーとして、150-4Cよりも130Aは一ランク下であったことがうかがえる。

130Aと375の組合せは、JBLとしては考えていなかったのか。
だとしたらパラゴンに130AではなくLE15Aにしたのはわからないわけではないが、
くり返すが150-4Cは1968年まで製造されているにも関わらず、
1964年にパラゴンのウーファーはLE15Aになっているのは、
スピーカーだけで考えていては、答は見えてこない。

エナジャイザーの登場と、
エナジャイザーを含めたトータルシステムとしてのパラゴンという完成像があっての、
ウーファーの大きな変更であり、
その意味ではLE15A搭載のパラゴンは、エナジャイザー搭載のアンプで、
その音を一度は聴いておくべきものだった、といえる。

Date: 7月 16th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その4)

ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」の座談会の最後、
「そして突然の終焉が」という見出しがついている。
     *
山中 ところがあろうことか、これらのアンプの製造が、ある時期になって突然打ち切られたのですね。別段人気が落ちたり、旧型になったからやめたというのではなくて、現役製品のバリバリのままだったのに、突如として製造を中止してしまった。これはもう、何ともわれわれとしては残念なことでしたね。しかしまた、その消えっぷりのよさも見事でしたね。これだけ魅力的な製品の最後としては非常によかったのではないかと、今になって思えばそういう気がするのですよ。あのままJBLがアンプの製造をつづけて、だんだん安物のアンプを作ってみたり、全然イメージが変わったもの出したしたら、かえって残念ですものね。
     *
JBLは1980年にコントロールアンプSG620、パワーアンプSA640を出す。
ブラックの筐体に、確かゴムのツマミを使っていた。
アンプ全体が醸し出す雰囲気は、まるで違ったものになっていた。

SG620とSA640の音は、聴いていない。
聴いたことのある人によると、最初に日本に入ってきたペアは、
びっくりするような音を聴かせてくれたそうだ。
その試聴機は故障、入念な修理がなされたはずなのに、音は明らかに変っていた、と聞いている。
最初の音がよかっただけに、その後の音には魅力を感じなかったようだ。

SA640は型番がSE640ではない。
EがAに変ったのは、エナジャイザーを搭載していないためであろう。

JBL独自といえるエナジャイザーだが、もしもJBLがアンプの開発を続けていたら、
変更されていったのではないか、と思えるところがある。

SE401用のエナジャイザーのイコライザーボードは、
左右チャンネルを一枚のプリント基板にまとめていた。
SE401Sになると、左右チャンネルが独立して、二枚のプリント基板になっている。

スピーカーシステムと対になってのイコライザーボードなのだから、
それにSE408Sもステレオ仕様なのだから、一枚のプリント基板のままでよかったのに、
あえて二枚にしているということは、
SE401Sの左右チャンネルに別々のイコライザーボードをさせるように考えていたのだろうか。
だとしたら、JBLはエナジャイザーによるバイアンプ駆動を……、
そうなったら専用のデヴァイダーが登場したのか……、
そんなことをつい考えてしまう。

Date: 7月 16th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(ロゴはかわる・その1)

メーカー名、ブランド名のロゴは、時代とともにかわっていくことがある。
ほんのわずかな変更が加えられることもある。
注意深く見ていないと気づかない変化もあれば、
誰の目にもはっきりと「かわった」と気づかさせる変更もある。

タンノイ(TANNOY)のロゴがかわっていたのは気づいていた。
いつのころからなのかは曖昧だけれど、
かわったんだな、とすぐに気づく変更だった。

TANNOYの表記に使われているロゴ自体の変更は何度か行われている。
いまのロゴは何代目なのだろうか。

私が最初に見たTANNOYのロゴは、TANNOYの文字だけだった。
けれど、しばらくして昔のロゴを見る機会があった。
書体も違っていたけれど、TANNOYの文字をはさみこむように両端の記号が、昔はあった。

その古いTANNOYのロゴを、すぐに頭に思い浮べられる人はいまはどのくらいいるだろうか。
両手を上にひろげたような記号がついていた。

何も知らないころ、この両端の記号をみて、
スピーカーのことを表しているのだ、と勝手に解釈していた。
それはコーンのひろがりのようでもあり、ホーンのそれのようでもあったからだ。
しかも、そのラインは真ん中で太くなっていて、
いかにもタンノイの同軸型を表しているようでもあったからだ。

この記号、スピーカーではなく電波を表しているということを読んだこともある。
確かにタンノイという会社はスピーカーから始まったわけではない。
タンノイの会社名の由来を知っている人ならば、周知のことだ。

この記号も、最初からついていたわけではないが、
私にとってのTANNOYのロゴは、ロゴ自体の書体よりも記憶に残っている。
両端に記号がついた、このロゴが、TANNOYらしいとさえ感じる。

両端の記号はなくなって久しい。
会社の形態も変化しているのだから、それも理解できるのだが、
ロゴから、その会社の歴史や特色をイメージさせる要素が消えていったり、
薄れていったりするのを、何も感じない人がいるのは、
世代の違いかも関係しているのだろうか。

ただ、この場合の「世代」は単なる年代の違いというよりも、
もう少し違う意味の世代でもある。

Date: 7月 14th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その3)

SE401がエナジャイザーとして最初に組み込まれたシステムは、どれなのだろうか。
ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」で、次のように語られている。
     *
岩崎 SE401が最初に組み込まれたシステムというのはやはりパラゴンあたりですか。
山中 いや、オリンパスかもしれません。
岩崎 オリンパスも組み込まれるようになっていましたけれど、パラゴンとどちらが先か知りたいのですけれど。
山中 ぼくが一番最初に日本で聴いたのは、河村電気でパラゴンを輸入しはじめ、その何台目かに入ってきた製品からエナジャイザーが付くようになっていたと思います。それからハーツフィールドの最後期の製品にも組み込まれていましたね。
     *
どれが最初なのかはっきりしないが、おそらくパラゴンではないかと推測できる。
SE401は筐体構造上、エナジャイザーとしての使用を前提としているが、
ステレオ仕様である。
エナジャイザーとしてスピーカーシステムに組み込むには、モノーラル仕様のほうが都合がいい。
にも関わらず、なぜステレオ仕様なのかを考えると、
パラゴンがそうだったから、というところに行き着く。

エナジャイザーの構想は、パラゴンというスピーカーがあったからではないか、とも思えてくるのは、
パラゴンのウーファーのバックキャビティの裏板に理由がある。
裏板は左右チャンネルのウーファーにそれぞれあるわけだから二枚なのだが、
エナジャイザーの取り付け用穴は片チャンネルだけである。

パラゴンというスピーカーの形態、SE401がステレオ仕様ということを考え合わせると、
私にはパラゴンがエナジャイザー搭載の最初のスピーカーシステムと思えてくる。

Date: 7月 14th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その2)

SE401は回路図を見ればすぐにわかるように、
真空管をトランジスターに置き換えたようなところを残している。

現代のパワーアンプのほぼすべては、NPNトランジスターとPNPトランジスターのプッシュプルだが、
SE401の出力段は、RCAのPNPトランジスターだけのSEPPであり、
そのため出力段の前段には位相反転回路が必要になり、SE401はここにトランスを使用している。

Tサーキットと呼ばれる上下対称のプッシュプルの出力段になるのは、
SE408Sからであり、このアンプから電圧増幅回路に差動回路を採用している。
SE400Sの型番末尾のSは、シリコントランジスターになったことを表している。

アンプの回路構成からいえば、SE401とSE408Sはまるで違う。
それでもアンプ全体のコンストラクションは基本的には同じといえる。

SE401もSE408SもエナジャイザーとしてJBLから登場している。
JBLのスピーカーシステムに内蔵するパワーアンプとしての呼称である。
ゆえにSE401もSE408Sも外装パーツを持たない。

アルミダイキャストのフロントパネル(というよりフロントフレームか)に、
パワートランジスターが取り付けられていて、ヒートシンクを兼ねている。

このフロントフレームが電源トランス、増幅回路、平滑用コンデンサーなどすべてを支えているし、
このフレームによりスピーカーのリアバッフルに組み込むための支えでもある。

フロントフレームがヒートシンクを兼ねているわけだから、
いわゆるヒートシンクにつきもののフィンはない。

SE401、SE408Sの構造を昨晩久しぶりにじっくりと見る機会があった。
前回見たのがいつだったか、もう憶えていないほど昔である。

そのころよりもオーディオについてはいろんなことを学んできた。
あの時、SE408Sを見ても気づかなかったことがいくつかあったことに気づかされた。

そして、こういうフロントフレームと呼びたくなる構造は、
アンプメーカーの発想ではない、とも思った。

スピーカーメーカーで、スピーカーユニットのメーカーでもあるからこそ、
こういう構造の発想ができたのだろうし、製品化することもできたといえる。

1970年代、アメリカには、
いくつものガレージメーカーとよばれる小規模のアンプメーカーが誕生した。
回路的には斬新な内容を誇っていたアンプでも、
JBLのSE401、SE408Sに匹敵するような構造のアンプはなかった。

規模の小さなメーカーでは、
ダイキャストのフロントフレームを採用することは負担が大きすぎるからだ。

Date: 7月 13th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その1)

1993年ごろ、マークレビンソンからはNo.29、
チェロからはEncore Powerが登場した。

このふたつのパワーアンプに共通する項目は、
出力談のアイドリング電流を抑え、発熱量を減らすことで、
パワーアンプに欠かせないヒートシンクを、できるだけ簡略化していることである。

パワートランジスターとヒートシンクは、振動源と音叉の関係に近い。
トランジスターを流れる電流で振動を発生する。
この振動がヒートシンクのフィンに伝わっていく。

だからパワーアンプ(ヒートシンクのつくり)によっては、
パワーアンプの出力に抵抗負荷を接ぐ、入力信号をいれ、ヒートシンクに耳を近づければ、
音楽が聞こえてくることもある。
その聞こえ方も、アンプの構造によって違ってくる。
それゆえにヒートシンクの扱いは、パワーアンプの音質を大きく左右するともいえる。

同時に発熱量が多ければ大型のヒートシンクになる。
ということは振動面で不利になるだけでなく、
パワートランジスターまでの配線の距離も長くなるという問題が発生する。
ドライバー段のトランジスターもパワートランジスターと同じヒートシンクに取り付ければ、
ドライバー段までの配線が長くなる。
この影響も無視できるものではない。

この他にもまだまだあるわけだが、ヒートシンクに関係する問題点を解消するには、
ヒートシンクそのものを使わずに澄むような回路設計にするというのも、ひとつの手である。
そうすることで優れたパワーアンプがすぐに出来上るというものではないが、
音質追求のためのA級動作のパワーアンプとは対極にあるアプローチでもある。

No.29、Encore Powerは、そういう考えから生れてきたモノだろうが、
アメリカには30年ほど昔に、同じアプローチといえるパワーアンプが登場していた。
JBLのSE401である。

Date: 7月 12th, 2016
Cate: オーディオマニア

オーディオは男の趣味であるからこそ(アルテック604)

中高域にホーン型を採用した同軸型ユニットがある。
アルテックの604、タンノイのデュアルコンセントリックがよく知られている。
ジェンセンのG610も古くからあった同軸型ユニットだし、他にもいくつかあった。
現行製品として中高域をホーンとした同軸型ユニットはある。

タンノイ、ジェンセンはウーファーのコーン紙をホーンの延長とみなしての設計であるため、
アルテックの604シリーズのように中高域のホーンがウーファーのコーンの前に存在しない。

いまもある同種の同軸型ユニットは、ホーンがアルテックの604のように前についている。
だからといってホーンがついている同軸型ユニットが604と同じとはいえないところがある。

ユニットを保管するとき、前面を下にして伏せておくことが多い。
通常のコーン型ウーファーやフルレンジユニットだと当り前のようにできる置き方だが、
アルテックの604も、同じように伏せておける。

つまり604のホーンはフレームよりも前に出ていないからだ。
けれど最近の同種の同軸型ユニットの中には、こういう置き方はできないモノが登場している。
ホーンがフレームよりも前に張り出しているからである。

同軸型ユニットとして、それも中高域がホーン型の場合、
ホーンを理論通りにしたいのは理解できる。
けれどそうしてしまえば、たいていの場合、ホーンが突き出てしまうことになる。

音のためにそうなってしまいました。
そうメーカーが広告やカタログに謳っていれば、その姿勢は評価されることが多い。
「音のために……」は、まさに男の趣味的でもある。

でもいまの私は「男の趣味」だからこそ、アルテックの604の姿勢を、より高く評価したい。
アルテックの技術者も、
つまりこのユニットのオリジナルの開発に関係していたランシングも、
もしかするともっとホーンを大きくしたいと考えたかもしれない。

ほんとうのところはわからないが、登場したユニットではホーンは突き出すことなく、
節操をもっていること、私は「男の趣味」として高く評価している。

604の、このサイズのホーンゆえに生じている同軸型ユニットとしての弱いところは、
当のアルテックの技術者はわかっていた、と思う。
それでもホーンを、あえてこのサイズとこの位置にまとめている。

そこを充分に理解して使うのが、男のはずだ。

Date: 7月 11th, 2016
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その36)

いまから20年ほど前は、日本でもMac World Expoが毎年開催されていた。
ある年のことだ。会場に着き、ブースを廻っていたときにパッと目に飛び込んできたモノがあった。
マウスだった。

どのブースだったのかはもう憶えていない。
そう大きくはないブースだったと思う。
ウィンドウズ用のマウス(Macでも使用可能)の新型が展示してあった。
ウィンドウズ用だから2ボタンで、マウスの中央にスリットが入っている。

さらにこのマウスには、スクロール用のホイールが新たについていた。
Mac World Expoの会場で、こういうマウスが世に出ていたことを知った。
そして、こんなモノを売っていていいんだろうか、とも思っていた。

そのマウスをしげしげ眺めて、そう感じたわけではなかった。
目に入ってきた瞬間に、そう感じた、「なんとヒワイなんだろう」と。
だから、こんなモノを売っていいんだろうか、と思ったわけだ。

フィデリティ・リサーチのFR7が男の性的なものを連想させるとすれば、
そのマウスは女の性的なものを連想させる、というか、
FR7よりも、もっと直接的にも感じた。

驚きのあまり、一緒に来ていた友人に「どう思う?」ときいてしまった。
そんなふうに捉えるのはお前ぐらいだよ、という返事だった。

そうかもしれないと少しは思っていても、
それにしても、なぜ、こんなふうに感じさせるのかを思っていた。

スクロール用のホイールがあれば便利なのはすぐにわかる。
問題は、デザインにある。
こういうのはデザインなのだろうか。

くり返すが性的なこと・ものを連想させるのが下品で悪いとはまたく思っていない。
けれどどこかあからさまで、安直とでもいおうか、つまりは何かが決定的に欠けているから、
見る人によってはそう見えてしまうのかもしれない。

もっとも、見る私の方に、何かが欠けているという可能性もあるけれど。

Date: 7月 11th, 2016
Cate: 憶音, 録音

録音は未来/recoding = studio product(続・吉野朔実の死)

2002年10月から2003年12月いっぱいまで、渋谷区富ケ谷に住んでいた。
最寄りの駅は小田急線の代々木八幡だった。

まだ高架になっていない。
踏み切りがある。駅も古いつくりのままである。
私鉄沿線のローカル駅の風情が残っている、ともいえる。

電車が通りすぎるのを待つ。
踏み切りが開く。視界の向うには階段がある。
山手通りへと続いている階段だ。

この風景、どこかが見ている。
どこで見たんだろう……、と記憶をたどったり、
手元にある本を片っ端から開いていったことがある。

ここで見ていたのだ、とわかったのは数ヵ月後だったか。
吉野朔実の「いたいけな瞳」の、この踏み切りがそのまま登場しているシーンがある。
一ページを一コマとしていた。(はずだ)。
印象に残っているシーン(コマ)だった。

「いたいけな瞳」は最初に読んだ吉野朔実の作品であり、
最初に買った吉野朔実の単行本だった。

あの風景は現実にあるのか。
記憶と毎日見ている踏み切りと階段の風景が一致したときに、そう思った。

今日ひさしぶりに小田急線に乗っていた。
代々木八幡駅を通りすぎるとき、この風景は目に入ってきた。

そうだった、吉野朔実はもう亡くなったんだ……、と思い出していた。

オーディオとは直接関係のないことのように思えても、
記録、記憶、録音、それから別項のテーマにしている憶音などが、
この風景と吉野朔実とに関係していくような気がした。

Date: 7月 11th, 2016
Cate: ヘッドフォン

ヘッドフォン考(終のリスニングルームなのだろうか・その7)

いま、オーディオの世界でESSといえば、
D/Aコンバーターのチップで知られるESS Technologyを指すようだが、
私くらいの世代まで上ってくると、ESS Labsのことである。

このESSには、ずっと以前ネルソン・パスとルネ・ベズネが働いていた。
ESSのロゴはルネ・ベズネのデザインである。

ESSはハイルドライバーで有名になったメーカーだ。
ESSのスピーカーは、ブックシェルフ型の普及クラスのモデルから、
フロアー型のフラッグシップモデルまで、すべて2ウェイでトゥイーターはハイルドライバーを採用していた。
いまではハイルドライバーよりも、AMT(Air Motion Transformer)のほうが通りがいい。

ESSのスピーカーの上級機種になると型番はamtから始まっていた。
ESSはヘッドフォンもつくっていた。MK1Sというモデルで、もちろんハイルドライバーを使っている。

1970年台の終りころ、日本では平面振動板のスピーカーが、一種のブームになった。
各社からそれぞれに違った構造、違った素材の振動板の平面型スピーカーが登場した。

コーン型につきものの凹み効果が発生しない平面振動板。
さらに振動板のピストニックモーションを考えても、
スピーカーとしての理想に確実に近づいた印象を私は受けてしまった。

当時は田舎町に住む高校生。
平面振動板のスピーカーシステムは、どれも聴く機会はないまま、
あふれる情報によって、それがあたかも理想に近いモノとして認識しようとしていた。

けれど数年後、実際の音を聴き、オーディオの経験を積んでいくうちに、
振動板の正確なピストニックモーションが、部屋の空気をそのように振動させているわけではない、
そのことに気づくようになってきた。
このことは以前書いている。

部屋の空気を動かすことに関して、平面振動板が理想に近いとは思わないようになってきた。
だからといって平面振動板のスピーカーシステムが聴くに値しない、といいたいのではない。
振動板の動きイコール空気の振動ではない、ということだけをわかってほしいだけである。

そう考えるようになってハイルドライバーのことが気になってきた。
ハイルドライバー(AMT)は振動板を前後にピストニックモーションさせているわけではない。

Date: 7月 11th, 2016
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その35)

フィデリティ・リサーチのFR7の対極にあるカタチのカートリッジといえば、
オルトフォンのConcordeシリーズである。

どちらもシェル一体型だが、スマートさにおいては両極端の存在である。
ConcordeはMI型がメインだったが、MC型のMC100、MC200も発売になった。

Concordeシリーズのカートリッジをトーンアームに取り付けて、
FR7と見較べてみると、このふたつのカートリッジのスタイルの違いは、はっきりとしてくる。

さらにオルトフォンには、
SMEのトーンアーム3009 SeriesIIIの交換パイプと一体型のSME30Hもある。
FR7は3009 SeriesIIIには取り付けられないので、
別のトーンアーム(例えばFR64S)に取り付けてみると、
カタチの違いはもっとはっきりとしたものになる。

どちらがよくて、もう片方がダメというようなことではなく、
どちらもアナログディスクの音溝をトレースするオーディオ機器であり、
アンプやスピーカーとは異り、サイズ、重さに制約を大きく受けるカートリッジであっても、
これだけ、その世界が大きく違うことは、アナログディスク再生の奥の深さでもあり、
私にとっては、どうしてもFR7のカタチが受け容れ難いのかを認識させてくれる。

これから書くことは、FR7を愛用されている方からすれば、怒りを買うかもしれない。
それでも、FR7を見ていると、昔も今も感じることに変りはなく、
どうしても気になってしまう。
そして、もしかすると瀬川先生かFR7を無視されているのは、同じ感じ方をされていた……、
そんなふうにも思ってしまう(まるで違う可能性も否定しない)。

FR7の傾斜している部分に丸がふたつある。
これが目のように見えてくる。
そうなると、FR7が何か動物の頭のように思えてしまう。
さらに針先の位置を表すための縦のラインが入っている。

そんなふうに受けとっているのはお前だけだ、と言われそうだが、
FR7のカタチは男性ならば毎日数回は接している体の一部を、あまりにもイメージさせる。
つまり性的なもののイメージである。

オーディオのデザインとして性的なイメージを感じさせるものがダメなのわけではない。
性的なイメージが、ヒワイなイメージとなってしまうのが、受け容れ難いのだ。
ようするに洗練されていない、と思っている。

Date: 7月 11th, 2016
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その30)

アナログプレーヤーの出力ケーブルが売られているということは、
簡単に交換できるからでもある。
つまりなんらかのコネクターを使っているから、ケーブルの着脱が用意に行える。

だがコネクターは接点である。
接点はそのままにしておけば経時変化によって、接点のクォリティが劣化していく。
それも急激におこる変化であれば、音の変化としても大きくあらわれるが、
徐々に変化するため、音の変化(劣化)もゆるやかに進行していく。
そのために気づきにくい、ともいえる。

接点はオーディオシステムのあらゆるところにある。
つまり接点のあるところでは、この劣化が進行しているわけだが、
アナログプレーヤーの出力は、再生系のシステムの中でも信号レベルがもっとも微小である。

そのため接点の影響を受けやすい。
接点を定期的に適切なやり方でクリーニングしていればいいけれど、
アナログプレーヤーの場合、機種によってはめんどうなことがある。

アナログプレーヤーの背面にRCAジャックを設けられているタイプであれば、
クリーニングはさほど面倒ではないが、
トーンアームの根元から出力ケーブルを交換するタイプとなると、
アームベースを取り外して行うことが多い。

慣れてしまえば、面倒だとは思わない人もいるだろうが、
それでも取り扱いの注意を怠ってはいけないことは変ることはない。

出力ケーブルを交換できるメリットもあるが、
交換できることによるデメリットもある。

Date: 7月 10th, 2016
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10・その13)

その4)でSL1200も標準原器だと書いた。
けれど、SP10他、テクニクスの標準原器として開発されたモデルとは、
標準原器として意味合いが違う。

SL1200はあくまでもディスクジョッキーにとっての標準原器であり、
標準原器として開発されたモノではなく、
ディスクジョッキーによって広く使われることによって標準原器となっていったモノだから、
テクニクスがSL1200を復活させるというニュースを聞いたとき、がっかりしたものだった。

昨年の音展では、テクニクスのダイレクトドライヴのプロトタイプが展示されていた。
アクリルのケースの中で回転していた。
それを見て、テクニクスはSP10に代るターンテーブルの標準原器を開発しようとしている、
そういう期待を勝手にもってしまった。

けれど実際に製品となって登場したのはSL1200である。
このニュースを聞いて、テクニクスの復活は本ものだとか、
さすがテクニクス、とか、そんなふうに喜んだ人がいる反面、
私のように、テクニクスに標準原器を求めてしまう者は、がっかりしていたはずだ。

テクニクスは名器をつくれるメーカーとは私は思っていない。
SL1200を名器と捉えている人もいるようだが、そうは思っていない。
最近では、なんでもかんでもすぐに「これは名器」という人が増えすぎている。

テクニクスは、そのフラッグシップモデルにおいて標準原器といえるモデルをつくれるメーカーである。
そう考えると、テクニクスというブランド名がぴったりくる。

だが新しいテクニクスは、以前のテクニクスとはそこがはっきりと違っている。
少なくともいまのところは。

テクニクス・ブランドの製品が充実してくれば、それでテクニクスは復活した、といえるのだろうか。
簡単に「これは名器」といってしまうような人であれば、
テクニクスは復活した、と捉えるだろうが、
以前のテクニクスを知り、テクニクスのフラッグシップモデルを知る者にとっては、
いまのテクニクスは、新生テクニクスかもしれないが、
テクニクスの復活とは思いたくとも思えない──のが、本音ではないだろうか。

Date: 7月 10th, 2016
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10・その12)

名器ではなく標準原器を目指していたとしても、
アナログプレーヤー関連の製品においては、
ターンテーブルとカートリッジとでは少し違ってくる面がある。

テクニクスのEPC100Cは、MM型カートリッジの標準原器といえるモデル。
SP10はターンテーブルの標準原器といえる。

カートリッジは標準原器として存在していても、
その性能を提示するには、カートリッジ単体ではどうにもならない。
トーンアームが必要であり、ターンテーブルも必要とする。
もちろんアナログディスク(音楽が収録されたもの、測定用)を必要とする。

アナログプレーヤー一式が揃わないと、標準原器としての性能は提示できない。
一方ターンテーブルはといえば、
トーンアームもカートリッジがなければどうにもならないモノでもない。

粛々とターンテーブルプラッターが回転していれば、それである程度は提示できる。
SP10の場合であれば、キャビネット取り付けることなく水平な台の上に置いて、
回転させていればいい、といえる。
ターンテーブルプラッターに手を触れたりスタートボタンを操作することができれば、
単体で提示できる性能は増える。

測定には測定用レコード、カートリッジ、トーンアームなど一式が必要となる項目もあるが、
ターンテーブル単体でも測定できる項目もある。

ターンテーブルは単体で動作(回転)することのできる機器である。
アンプは電源を入れただけでは動作しているとはいえない。
やはり入力信号を必要とする。

スピーカーもそうだ。単体でどうにもならない。
入力信号があってはじめて振動板が動き、動作している状態といえる。
しかもターンテーブルは、プレーヤーシステムを構成する一部(パーツ)にも関わらず、
単体で動作できる。

スピーカーシステムを構成する一部(ユニット、エンクロージュア、ホーンなど)で、
単体で動作できるものはない。

こういうターンテーブルならではのある種の特異性が、
SP10のデザインを生んだとすれば、
テクニクスがどんなにあのデザインを酷評されようと細部の変更を除き、
まったくといっていいほど変更しなかった理由がはっきりしてくる。

Date: 7月 10th, 2016
Cate: 型番

JBLの型番(075)

ステレオサウンド別冊HI-FI-STEREO GUIDE(年二回発行)を最初に買ったのは、
中学三年のときだから、Vol.6がそうである。

HI-FI-STEREO GUIDEは、カタログ誌である。
だからといってHI-FI-STEREO GUIDEを否定するようなことは書かない。
カタログ誌は必要なものだという認識だからだ。

むしろ2000年末の発行で最後になってしまったことを残念に思っているくらいである。

HI-FI-STEREO GUIDEを見ていて感じたのは、
ステレオサウンドの編集方針として、総があるということだった。
ステレオサウンド本誌の特集記事もそうだが、総テストと呼ばれる。
とにかく集められるだけのモノを集めてテストする。

HI-FI-STEREO GUIDEも市場で売られている全製品を網羅することを基本とする。
スピーカーやアンプといったオーディオ機器だけでなく、
アクセサリーも、マイクロフォンスタンドやラックまでも含めて掲載されていた。

総テストもそうなのだが、できるだけ集めることで見えてくるものがあるからこその「総」であり、
HI-FI-STEREO GUIDEもジャンルごと、ブランドごとに相当な数がまとめられいてることで、
気がつくことがいくつもあった。

そのひとつがJBLのトゥイーター075の型番のことだった。
当時はJBLのユニットはかなりの数揃っていた。
その中にあって、075と077だけが、型番が0(ゼロ)から始まっているのに気づいた。

コンシューマー用、プロ用すべてのJBLのユニットの型番を確認しても、
0から始まっている型番のユニットはなかった。
最初はトゥイーターだから、と思ったけれど、コーン型トゥイーターのLE20は当てはまらない。

その理由に気づくのは、HIGH-TECHNIC SERIESの四冊目、トゥイーターの号が出たからだった。
巻頭のカラーグラビアにダイアフラムの写真が写っている。
075、077のダイアフラムはドーム状ではなく、リング状であり、
その形はO(オー)であり、0(ゼロ)ということなのだ、と。