ヘッドフォン考(終のリスニングルームなのだろうか・その7)
いま、オーディオの世界でESSといえば、
D/Aコンバーターのチップで知られるESS Technologyを指すようだが、
私くらいの世代まで上ってくると、ESS Labsのことである。
このESSには、ずっと以前ネルソン・パスとルネ・ベズネが働いていた。
ESSのロゴはルネ・ベズネのデザインである。
ESSはハイルドライバーで有名になったメーカーだ。
ESSのスピーカーは、ブックシェルフ型の普及クラスのモデルから、
フロアー型のフラッグシップモデルまで、すべて2ウェイでトゥイーターはハイルドライバーを採用していた。
いまではハイルドライバーよりも、AMT(Air Motion Transformer)のほうが通りがいい。
ESSのスピーカーの上級機種になると型番はamtから始まっていた。
ESSはヘッドフォンもつくっていた。MK1Sというモデルで、もちろんハイルドライバーを使っている。
1970年台の終りころ、日本では平面振動板のスピーカーが、一種のブームになった。
各社からそれぞれに違った構造、違った素材の振動板の平面型スピーカーが登場した。
コーン型につきものの凹み効果が発生しない平面振動板。
さらに振動板のピストニックモーションを考えても、
スピーカーとしての理想に確実に近づいた印象を私は受けてしまった。
当時は田舎町に住む高校生。
平面振動板のスピーカーシステムは、どれも聴く機会はないまま、
あふれる情報によって、それがあたかも理想に近いモノとして認識しようとしていた。
けれど数年後、実際の音を聴き、オーディオの経験を積んでいくうちに、
振動板の正確なピストニックモーションが、部屋の空気をそのように振動させているわけではない、
そのことに気づくようになってきた。
このことは以前書いている。
部屋の空気を動かすことに関して、平面振動板が理想に近いとは思わないようになってきた。
だからといって平面振動板のスピーカーシステムが聴くに値しない、といいたいのではない。
振動板の動きイコール空気の振動ではない、ということだけをわかってほしいだけである。
そう考えるようになってハイルドライバーのことが気になってきた。
ハイルドライバー(AMT)は振動板を前後にピストニックモーションさせているわけではない。