Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 10月 18th, 2010
Cate: D44000 Paragon, JBL, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その31)

注目したいのはM60ではなくて、Exclusive M4である。

4350のミッドハイのドライバーは2440。375のプロ用ヴァージョンであり、
菅野先生自宅の3ウェイの中音域は、あらためて書くまでもなく、375と537-500の組合せ。
パラゴンの中音域も375だ。

はっきりと記憶しているわけではないけれど、スイングジャーナルでの組合せでも、
JBLのユニットを組み合わせての3ウェイのマルチアンプドライブの組合せにも、
M4を使われていたような気がする。

JBLの375(2440)とパイオニアのExclusive M4は、意外にも相性がいいのではないか、と思いたくなる。
コンポーネントの相性は、簡単には言い切れない難しさがあることは承知のうえで、
ここでは「相性がいい」といいたい。

「コンポーネントステレオの世界 ’78」のなかで、
「JBLの中・高域ユニットを、あるレベル以上のいい音で鳴らすためには、
M4を組合すのがいちばん安全だというふうに、私は思っています」とある。
これに対して瀬川先生も
「ぼくもいろいろなところで4350を鳴らす機会が多いんだけど、
M4を中・高域に使うとじつにうまくいんですよ」と語られている。

4343とM4の組合せは聴く機会があった。
M4の改良モデルM4aで鳴らした音を聴いたことがある。
M4はたしかに魅力的なアンプだ。
パワーアンプとしての完成後はM4aの方が高いのだろうが、個人的に魅力を感じるのはM4だ。

パラゴンに組み合わせるパワーアンプになにをもってくるのか、
そのヒントは、M4にあるのかもしれない。

Date: 10月 18th, 2010
Cate: D44000 Paragon, JBL, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その30)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’78」のなかで、
オーディオ・ラボのレコード(つまり菅野録音)を、
制作者の意図したイメージで聴きたい、という読者の要望に菅野先生がつくられた組合せがある。

スピーカーシステムはJBLの4350A、
パワーアンプは低域用がアキュフェーズのM60、中高域用がパイオニアのExclusive M4だ。
ちなみにコントロールアンプはアキュフェーズのC220、エレクトロニック・クロスオーバーもアキュフェーズでF5、
プレーヤーはテクニクスのSP10MK2にフィデリティ・リサーチのFR64SにカートリッジはオルトフォンMC20。
目を引くのは、グラフィックイコライザー(ビクターSEA7070)を使われていること。

ただ、本文を読んでいただくとわかることだが、菅野先生は/SEA7070を、トーンコントローラーといわれている。
その理由として、イコライザーという言葉が好きではない、ということだ。
それにSEA7070は、その後に登場してきた1/3バンドの33分割のグラフィックイコライザーではなく、10分割。

すこし話がそれてしまった。
パワーアンプに話を戻すと、このころ、菅野先生が自宅でJBLの3ウェイのマルチシステム用は、
低域用がやはりアキュフェーズのM60、中域用がこれまた同じパイオニアのExclusive M4、
高域用はサンスイのプリメインアンプAU607のパワーアンプ部を使われている。

低音用のM60は、その後、ステレオサウンド 60号の記事中でも変らず。いま現在も使われている。
M60に落ちつくまでには、マッキントッシュのMC2105、アキュフェーズのP300,
パイオニアのExclusive M3などを試された、とHigh Technic シリーズVol. 1に書かれている。

Date: 10月 16th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その18)

フルレンジユニットをなにか用意する。できれば素直な音のモノがいい。
このフルレンジユニットのインピーダンスが8Ωなら、直列に1mHのコイルをいれると、
6dB/oct.のカーヴで、カットオフ周波数はだいたい1.2kHzになる。

同じ1.2kHz以上をカットするのに、アンプ側にフィルターをもうける方法がある。
同じカットオフ周波数にしても、ネットワークでカットした音と、アンプ側のフィルターでカットした音を比較する。

ほぼ同じ周波数特性になっているはずだが、出てきた音は、似てはいるけれど、違うところもある。
できのよいフルレンジユニットがもつ、ある種の素直さと、そのことに関係してくる情報量にちがいが出る。

音楽のメロディの音域を得意とするフルレンジのよさをできるかぎり損なわず鳴らすには、
やはりコイルをいれるのはできるだけさけたい。

フルレンジユニットのよさは、パワーアンプとのあいだにネットワークがないこと──、これは無視できない。

こんなふうにかんがえてゆくと、瀬川先生の4ウェイ構想で、
ミッドバスにもネットワークを使われない理由が、浮びあがってくる。

そしてフルレンジユニットが中心にあることもはっきりしてくる。
4341(4343)とのわずかな違いもはっきりしてくる。

もうひとつはっきりしてくることは、このフルレンジを中心とした、ということにおいて、
瀬川先生と井上先生のスピーカに対しての共通点だ。

Date: 10月 16th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その17)

ウーファーにだけ独立したパワーアンプを用意するバイアンプドライブでなく、
ミッドバスまでマルチアンプドライブとされたことと、
4ウェイ構想をフルレンジユニットからはじめることは、
瀬川先生はふれられていないが、密接に関わっていると考えたほうがいいと思っている。

瀬川先生はマルチアンプの方が調整が容易で失敗が少ないため、と書かれている。
それだけとは思えない。

フルレンジからはじめるということは、パワーアンプとフルレンジユニットのあいだにはネットワークが介在しない。
とくに音楽のメロディの音域を受け持つユニットが、パワーアンプと直結されることの、音質的なメリットは大きい。

フルレンジからはじまり、フルレンジの音域をひろげるように発展していく瀬川先生の4ウェイ構想は、
フルレンジの音の特質の、ほんとうにおいしいところだけを活かしていくことでもあろう。

4340と同じバイアンプドライブでは、
ミッドバス(フルレンジ)に対してハイカットフィルターがパワーアンプとの間にはいる。
12dB/oct.のハイカットフィルターはコイルが直列にはいり、コンデンサーが並列にはいる。
4341(4343)では、1.7mHのコイルがはいっている。

この直列に挿入されるコイルを取り除いたマルチウェイのスピーカーシステムは、いくつか存在している。
よく知られるところではダイヤトーンの2S305である。
1.5kHzのクロスオーバー周波数の2ウェイ・システムだが、ウーファーにはネットワークはいっさい介在しない。
JBLの3ウェイのブックシェルフ型の4311もウーファーにはネットワークはない。
1990年代ごろのモダンショートもそうだった(輸入が再開されている現在の製品の詳細については知らない)。

Date: 10月 15th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その16)

瀬川先生の4ウェイ構想を整理しておくと、
ウーファーはスペースのゆるすかぎり大口径のものを、ということで、38cm口径を選択。
ウーファーの重い振動板に、音楽のメロディの音域を受け持たせたくないのと、
小〜中口径のフルレンジの得意とする帯域を活かすために、
ウーファーとミッドバス(フルレンジ)のクロスオーバー周波数は100Hzから300Hzの範囲に。

フルレンジは口径によって1kHzから2kHzまで受けもたせ、
ミッドハイにはJBLの175DLHもしくは同等のホーン型を、そして8kHz以上はスーパートゥイーターに。
ネットワークの使用はミッドハイとスーパートゥイーターのところだけ。

こう書いていくと、JBLの4343に近い構成だということがわかる。
High Technic シリーズVol. 1にも書かれているように、
JBLの4ウェイのスタジオモニター・シリーズが発表されたとき、
「あれ俺のアイデアが応用されたのかな? と錯覚した」とある。

4343よりも、その前身の4341にはバイアンプドライブ専用モデルの4340があった。
ウーファーとミッドバス間のLCネットワークがないこの4340は、4343(4341)より、
瀬川先生の4ウェイ構想に近いスピーカーシステムである。

にもかかわらず4340ではなく、ネットワーク仕様の4341を選ばれたのは、
自宅でアンプの試聴もしなくてはならないため、である。

それにして4340、4343にしても、瀬川先生の4ウェイ構想に近い。
ウーファーは、当時のJBLのウーファーのなかでは、もっともf0の低い2231A。ミッドバスは25cm口径の2121。
ミッドハイは2420に音響レンズつきのホーンの組合せ。形状は大きくちがうが、175DLHも音響レンズつき。
スーパートゥイーターは2405。

4341(4343)がもし登場してなかったら、JBLのユニット群からほぼ同じユニットを選択され、
自作の4ウェイを実現されていたかもしれない。
そして、ウーファーだけでなくミッドバスまではマルチアンプドライブされていたと思う。

Date: 10月 15th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その15)

この4ウェイ構想にいまも惹かれるのは、
フルレンジからスタートでき、すこしずつ段階を踏んでシステムを構築できるところがあるからだ。

オーディオのキャリアのながいひとで、腕にも自信があり、最初から予算にも余裕がある人なら、
いきなり4ウェイのシステムに取りくむのもいいけれど、
すこしでも不安を感じる人は、フルレンジからはじめたほうがいい。

スピーカーシステムの調整において、フルレンジスピーカーを鳴らした経験があるかないかは、
あとになってあらわれてくる。勘どころのつかみかた、とでもいおうか、
そういうところに違いがあらわれてくるように感じている。

だから、もしいま瀬川先生のこの構想に取り組もうという人がいたら、
予算が最初から十分にあっても、まずはフルレンジからはじめたほうがいい、とすすめる。

フルレンジ一発からはじめ、その次にトゥイーターを加える。
ここでは良質のLCネットワークとアッテネーターを使う。

フルレンジユニットにトゥイーターを加え、高音の領域を拡大するということは、
ほぼ、楽器の倍音の領域を補強すること、といいかえていいだろう。
これは重要な経験となる。
クロスオーバー周波数は、選んだトゥイーターの種類によって大きく違ってくるが、
2kHzから8kHzの範囲になる。

つぎの段階でウーファーを追加して、ここでマルチアンプドライブへと発展していく。
クロスオーバー周波数はさきにも書いたように100Hzから300Hzの範囲にする。
ここでカットオフ周波数をあれこれ試してみてほしい。
同じ周波数にしたり離してみたり、オーバーラップさせてみたり、
エレクトロニッククロスオーバーネットワークを使うことのメリットを最大限に利用する。
誰かが見ているわけでも聴いているわけでもないから、大胆に思いつくかぎりの設定を試したい。

最後にミッドハイを加える。
クロスオーバー周波数は1kHz付近と8kHz付近。
とうぜんだが、ここでスーパートゥイーター用のネットワークはつくりかえることなる。

Date: 10月 15th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その14)

ミッドバスとミッドハイ間もマルチアンプドライブする理由として、
自作の場合、失敗が少なくなるから、とされている。

マルチアンプドライブはたいへんそうに思えるが、自分だけのスピーカーシステムを構築していく上では、
マルチアンプの方がネットワークでやるよりも、やりやすい面がある。

たしかにパワーアンプの台数は増え、システム全体の規模は大きくなるが、
スピーカーの設計・調整に必要なクロスオーバー周波数の設定、スロープ特性の設定は、
エレクトロニッククロスオーバーネットワーク次第のところが多少あるものの、
自由度は比較にならないほど高く、試行錯誤もどれだけでも可能になる。

LCネットワークの設計ではスピーカーユニットのインピーダンス特性にも十分な配慮が必要となるが、
マルチアンプドライブでは無視できる。
そしてクロスオーバー周波数もツマミひとつで自由に変えられる。
できれば、クロスオーバー周波数ではなく、
それぞれのユニットのカットオフ周波数が個別に設定できるもののほうが、ずっといい。

たとえばウーファーのハイカット周波数を200Hzにしたからといって、
なにもミッドバスのローカット周波数も200Hzに合わせなければならない、というものではない。
200Hzでうまくいくこともあれば、250Hzにしたほうがよかったり、
さらには300Hzにして、スロープ特性も変えてみたほうがいいこともある。
もっといえばミッドバスのローカットを200Hzよりも低い値にして、オーバーラップさせるのもあり、だ。

こういったことをLCネットワークでやろうとすると、コイルやコンデンサーをいくつも用意して、
そのたびにネットワークをつくりかえる手間がかかる。

それにこまかいことを書けば、つくりかえるたびにハンダづけをやりなおしていたら、
熱によって部品は、多少なりとも劣化していく。そのたびに新品の部品を購入する……。
そうなると、意外にもマルチアンプドライブの方が最終的な費用は抑えられることもあろう。

Date: 10月 15th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その13)

瀬川先生のこの構想では、ウーファーとミッドバスのあいだ、
ミッドバスとミッドハイのあいだにはLCネットワークを介さずにマルチアンプドライブ、
スーパートゥイーターとミッドハイのあいだにのみネットワークが介在する。
つまり6チャンネル分のパワーアンプを使うことになる。

ウーファーとミッドバスにネットワークをつかわないのは、
クロスオーバー周波数を自由に低い周波数に設定するためである。
瀬川先生は、高くても300Hz、できれば150Hz以下にしたいと書かれている。

4343が300Hz。LCネットワークでシステムを構成するには、これより下のクロスオーバー周波数をもってくるのは、
LCネットワークの設計上、そうとうに無理が生じる。
300Hzでも、 LCネットワークにとってはかなり低い周波数で、ネットワークの設計面からいえば、
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は、もうすこし高くしたいところ。
最低でも500Hzくらいにまであげたい。だがそんなことをしてしまったら、ミッドバスを追加する意味合いが薄れる。

ミッドバスの存在を十分に活かすには、
いっそマルチアンプドライブにクロスオーバー周波数を自由に設定できるようにしたほうがいい。

瀬川先生の話は、既製品のスピーカーシステムに関してのもではなく、
あくまでも自分でつくる自分のためのスピーカーシステムの話だから、
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数を、
LCネットワークにすることで中途半端な値で妥協するくらいなら、
豊富な既製品のスピーカーシステムが揃っている時代において、わざわざ自作をする意味はなくなってしまう。

やはりウーファーとミッドバス間にネットワークは使わない。

Date: 10月 14th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その12)

16cmのフルレンジならば2kHzあたりぐらいまで、
20cmかそれよりも口径が大きくなると、1kHzよりもすこし上の周波数まで、ということになる。

それより上の帯域に、瀬川先生はJBLの175DLHを選択されている。
ただし175DLHでは中低音域とのつながりには問題はないものの、最高音域がそれほどのびていない。
その足りないところ(8kHz以上)を、スーパートゥイーターに受け持たせる。

瀬川先生の4ウェイ・システムを簡単に説明すると、こんなところになる。
実際にこの構想による4ウェイ・システムを使われていた(試されていた)時期がある。

スピーカーユニット、各帯域でいろいろ試されたようで、
ウーファーはパイオニアのPW38A、JBLのLE15A、
ミッドバスには、ダイヤトーンのP610A、ナショナル8PW1(のちのテクニクス20PW09)、
フォスター103Σ、ジョーダンワッツのA12(モジュールを収めたシステム)の二段積重ね使用、など。

ミッドハイは175DLHで固定、スーパートゥイーターにはテクニクスの5HH45、ゴトーユニット、
デッカ・ケリーのリボン型、JBLの075などだ。

ただ当時は、スピーカーユニットの数はそれほど多くなかったこともあり、
瀬川先生の構想にぴったりと合致するものが少なかったのが関係して、
どうしても各メーカー、各国のユニットの混成部隊になり、音のバランスではうまくいっても、
音色のつながりでうまくいかず、結局、ワイドレンジということでは多少の不満を感じながらも、
総体的な音のまとまりの良さで、JBL指定の3ウェイ(LE15A、375+537-500、075の組合せ)にされている。

私が、この瀬川先生の構想を読んだのは、High Technic シリーズのVol. 1だから、1978年。
このころ単売されているスピーカーユニットの数は多かった。
瀬川先生も、適したユニットが増えている、と書かれている。
だからこそ、もういちど、この構想について書かれたのだろう。

Date: 10月 13th, 2010
Cate: 4343, JBL
2 msgs

4343とB310(その11)

High Technic シリーズは、数あるステレオサウンドの別冊のなかで、
発行されるのが、とにかく待遠しくいちばん楽しみにしていた本だ。

4冊出ている。
Vol. 1がマルチアンプの特集、Vol. 2がMC型カートリッジについて長島先生が一冊まるごと書かれたもの、
Vol. 3はトゥイーターの、Vol. 4はフルレンジの特集号である。

Vol. 5、Vol. 6……とつづいていっていたら、ウーファーの特集号もあっただろうし、
マルチアンプの続編となる号も出ていたことだろう。
High Technic シリーズだけは、瀬川先生がいきておられたあいだは、つづけて発行してほしかった。

Vol. 4で、菅野、岡両氏との座談会の中で、フルレンジの魅力について瀬川先生は語られている。
     *
一つのユニットで音楽再生に必要な帯域をカバーしようというからには、スピーカーユニットの構造としての基本であるスピーカーコーンを、あまり重く作れないわけですから、反応の早い明るい音が得られると思います。特にその持ち味が、音楽再生で重要な中低域に発揮され、人の声までを含む広いファンダメンタル領域がしっかり、きれいに再生されるのが、ある意味ではフルレンジの最大の特徴であり、魅力ではないかと思います。
     *
いうまでもないことだけど、重要な中低域は、音楽においての「メロディの音域」のこと。
大口径のウーファーユニットが苦手としはじめる帯域こそが、
フルレンジユニットにとっての得意の帯域となっている。
つまり15インチ(38cm)の大口径のウーファーと、16cmから20cmぐらいのフルレンジを、
200〜300Hzを境にして組み合わせる。

フルレンジユニットも、ウーファーと同じコーン型ゆえに、
やはり口径からくる指向性の劣化が生じはじめる周波数がある。

どんなに高性能で理想的な新素材を振動板に採用しても、
コーン型の形状をとるかぎり指向性の劣化はさけられない。16cmのフルレンジでも、2kHzぐらいまでだ。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その10)

瀬川先生の、この構想のなかで具体的になっているのはウーファーについて、である。
大口径、つまり15インチ口径のウーファーということになる。
それも、f0の比較的高いウーファーではなくて、おそらく20Hz前後のf0のウーファーを想定されている、と思う。

つまり比較的重い振動板のウーファーとなる。
そういうウーファーに、低くても500Hz、高ければ1kHzという音域まで受け持たせることに疑問を抱かれている。
500Hzといかば、音楽の帯域でいえば、低音ではなく中音(メロディの音域)になる。
この大切な音域を、重い振動板のスピーカーユニットにはまかせたくない。

軽い振動板を使いながらも、グッドマンのAXIOM80のようにf0をさげることに成功したユニットがある。
AXIOM80は、外径9.5インチ(約24cm)というサイズにもかかわらず、その値は20Hzと、
軽めの振動板を採用したユニットとは思えないほど低い。
かりにそんなウーファーが存在していたとしても、やはり瀬川先生はウーファーに、1kHzまでは使われないはずだ。

軽い振動板を使い、高域特性もすなおに伸びていたとしても、15インチの口径のものであれば、
すでに指向性が劣化しはじめている。
くりかえすが、瀬川先生の構想には、指向性の広さも求められている。

それに、現実のところ、そのようなウーファーはない。
けれど、小口径から中口径(16cmから20cmぐらい)のフルレンジユニットが、存在している。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その9)

ステレオサウンド別冊のHigh Technic シリーズVol.1 には、
6畳というスペースに大型スピーカーシステムをあえて持ち込む理由について、次のように述べられている。

6畳という限られたスペースではどうしてもスピーカーとの距離を確保できない。近づいて聴くことになる。
そのため、音の歪、それに音のつながりがよくなかったり、エネルギー的にかけた帯域があれば、
広い空間(響きの豊かな空間)よりも、はるかに耳につきやすい。
音の豊かさは、低音域をいかに充実したエネルギー感で、豊かでそして自然にならすかにかかっている。
しかも6畳、それも和室となると、そのままでは低音が逃げていくばかりだから、
かなりしっかりしたウーファーをもってこないと、低音がの量感がとぼしくなり、
音全体の豊かさ、柔らかさ、深みを欠くことになる。

そして部屋の響きを助けがないということは、そこに指向性の狭い(鋭い)スピーカーをもってくると、
よけいに音が貧弱になりがちで、自然な響きがさらに得られにくくなる。
そのためにも全帯域にわたって均一の広い指向性を確保しなければならない。
そして音量についても、小音量だからこそ、できるだけ口径の大きなウーファーで、
できるだけ(部屋のスペースがゆるすかぎり)たっぷりの容積のエンクロージュアにおさめる。

これらの理由をあげられている。
いいかかれば、真のワイドレンジのスピーカーシステムを求められている、わけだ。
周波数帯域(振幅特性、位相特性ともに)、指向性、そしてダイナミックレンジ、
これらがバランスよく、どこにも欠落感がなく、十分に広くあること。

この構造を実現するために方法として、フルレンジユニットからスタートする4ウェイ・システムである。

Date: 10月 8th, 2010
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

確信していること(その6)

むかしたった一度聴いただけで、もう再び聴けないかと思っていたJBLのハーツフィールドを、最近になって聴くことができた。このスピーカーは、永いあいだわたくしのイメージの中での終着駅であった。求める音の最高の理想を、鳴らしてくれる筈のスピーカーであった。そして、完全な形とは言えないながら、この〝理想〟のスピーカーの音を聴き、いまにして、残酷にもハーツフィールドは、わたくしの求める音でないことを教えてくれた。どういう状態で聴こうが、自分の求めるものかそうでないかは、直感が嗅ぎ分ける。いままで何度もそうしてわたくしは自分のスピーカーを選んできた。そういうスピーカーの一部には惚れ込みながら、どうしても満たされない何かを、ほとんど記憶に残っていない──それだけに理想を託しやすい──ハーツフィールドに望んだのは、まあ自然の成行きだったろう。いま、しょせんこのスピーカーの音は自分とは無縁のものだったと悟らされたわたくしの心中は複雑である。ここまで来てみて、ようやく、自分の体質がイギリスの音、しかし古いそれではなく、BBCのモニター・スピーカー以降の新しいゼネレイションの方向に合っていることが確認できた。
     *
瀬川先生のハーツフィールドへの想いは、
もうひとつペンネーム「芳津翻人(よしづはると)」にもあらわれている。
芳津翻人は、ハーツフィールドの当て字だ。

そのハーツフィールドのユニット構成は、初期のパラゴンとほぼ同じだ。
ウーファーは150-4C、中音域のドライバーは375。基本は2ウェイだが、
のちに075を加えて3ウェイ仕様になっている。
エンクロージュアのホーン構造も途中から変更され、すこしばかり簡略化されている。

パラゴンも、初期のものはウーファーには150-4Cが使われていた。
ドライバーは、もちろん375で、パラゴンは初期モデルから3ウェイで、075を搭載。

比較的はやい時期からパラゴンのウーファーはLE15Aに換えられている。
じつはハーツフィールドもウーファーには多少の変更がある。
型番こそ150-4Cと同じだが、コーンアッセンブリーの変更により、
コーン紙の材質の変更、それにともなうf0が低くなり、振幅もオリジナルの150-4Cよりも確保できている、
と山中先生からきいたことがある。

つまりパラゴンのウーファーの変更と、同じ方向の変更がハーツフィールドにも行なわれていたわけだ。

搭載されているユニットの違いは、ハーツフィールドとパラゴンのあいだにはない、といってもいい。
にもかかわらず、瀬川先生にとって、ハーツフィールドとパラゴンへの想いには、相違がある。

Date: 10月 7th, 2010
Cate: D44000 Paragon, 瀬川冬樹

確信していること(その5)

1957年11月に登場したD44000 Paragonは、JBLにとって、ステレオ時代をむかえて最初に発表した、
文字通り、ステレオスピーカーシステムである。
そして60年をこえるJBLの歴史のなかで、もっとも寿命のながかったスピーカーシステムでもある。

パラゴンの前には、D30085 Hartsfield がある。
ステレオ時代のJBLを代表するのがパラゴンならば、このハーツフィールドはモノーラル時代のJBLを代表する。
1955年、Life誌にてハーツフィールドは「究極の夢のスピーカー」として取りあげられている。

ハーツフィールドとパラゴンは、デザインにおいても大きな違いがある。
どちらが優れたデザインかということよりも、
はじめて見たとき(といってもステレオサウンドの記事でだが)の衝撃は、
私にとってはハーツフィールドが大きかった。

はじめて買ったステレオサウンド 41号に掲載されていた「クラフツマンシップの粋」、
そのカラー扉のハーツフィールドは、美しかった。たしか、ハーツフィールドがおかれてある部屋は、
RFエンタープライゼスの中西社長のリスニングルームのはずだ。

こんなにも見事に部屋におさまっている例は、
しばらくあとにステレオサウンドで紹介された田中一光氏のハークネス(これもまたJBLだ)だけである。

ハーツフィールド(もしくはハークネス)が欲しい、と思うよりも、
この部屋まるごとをいつの日か実現できたら……、そんな想いを抱かせてくれた。

若造の私も魅了された。
ハーツフィールドと同じ時代をすごしてこられた世代の人たちにとっては、
私なんかの想いよりも、ずっとずっとハーツフィールドへの憧れは強く、熱いものだったろう。

瀬川先生にとってハーツフィールドは、
「永いあいだわたくしのイメージの中での終着駅であった」と書かれている。
(「いわば偏執狂的なステレオ・コンポーネント論」より)

Date: 10月 5th, 2010
Cate: D44000 Paragon, 瀬川冬樹

確信していること(その4)

じつは、この項に関しては、つづきを書くつもりはなかった。
最初に書いた3行だけだったのだが、デッカのデコラのことが頭に浮かんできて、
その次に、JBLのパラゴンのことが、ふいに浮かんできた。

デコラは浮かんできたことについて、すんなり理解できるものの、
パラゴンに関しては、ほんの少しのあいだ「?」がついた。

でも、そうだ、パラゴン「!」に変った。

じつは以前から、瀬川先生のパラゴンについて書かれたものを読むとき、
どこかにすこしばかり「意外だなぁ」という気持があった。
同じJBLのスピーカーとはいえ、瀬川先生が愛用されていた4341、4343といったスタジオモニター・シリーズと、
D44000 Paragon ずいぶん違うスピーカーシステムである。
もっともパラゴンは、他のどんなスピーカーシステムと比較しても、特異な存在ではあるけれど、
どうしても瀬川先生が指向されている音の世界と、そのときは、まだパラゴンの音とが結びつかなかったから、
つねに「意外だなぁ」ということがあった。

工業デザイナーをやられていたことは、けっこう早くから知っていたので、
パラゴンに対する高い評価は、音に対すること以上に、
そのデザインの完成後、素晴らしさに対することへのものが大きかったからだろう……、
そんなふうに勝手な解釈をしていたこともあった。

けれど、いくつかの文章を読めばわかることだが、パラゴンに関しては、絶賛に近い書き方である。
デザインだけではないことが、はっきりとしてくる。