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Date: 3月 26th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(その26)

ステレオサウンド 39号はカートリッジの特集号である。
岩崎先生も試聴メンバーとして参加されている。
岩崎先生の「テストの方法」には、次のことが書かれている。
     *
もうひとつのスピーカーシステムを、このラインナップに加えている。これは、ごく小さなブックシェルフ型の自作のシステムで、アルテックの12cmフルレンジ・405Aをたったひとつ収めたものだ。これは、至近距離1mほどにおいて、ステレオ音像のチェックに用いたものだ。いうなればヘッドフォン的使用方法だ。シングルコーンの405Aも、コアキシャル604−8Gもともに音源としてワンスポットなのでこの点からいえば大差ないはずともいえなくもないのだが、実際は好ましかるべきマルチセラーの高音輻射より405Aの方が音像をずっとはっきり判断できるのは、多分、単一振動板だからだろう。単純なものは必ず純粋に「良い」のをここで知らされる。それにも拘らず604をメインとしたのは、音質判断上もっとも問題とされてしまう音色バランスの判断のためである。
     *
このとき岩崎先生はカートリッジ123機種を、自宅で試聴されている。
だから試聴用スピーカーとして、メインに使われたのは上の文章からもわかるようにアルテックの620Aである。
この他に、405Aを使った自作のブックシェルフ型に、さらにJBLのハーツフィールドでも試聴されている。
10機種ぐらいの数であれば、3組のスピーカーシステムでの試聴もそう大変なことではない。
けれどステレオサウンド 39号では123機種という数である。

405Aとハーツフィールドはサブ的な試聴のためのものだったのかもしれないが、
それでも大変な手間をかけて試聴されている。
ちなみにアルテック620AとJBLハーツフィールドは別々の部屋に置かれているので、
アルテック620Aが置いてある部屋(パラゴンの置かれている部屋でもある)で、
620Aと405Aで試聴した後に、部屋を移動してハーツフィールドで聴かれていることになる。

ここで書きたいのは、そのことではなく、同軸型の604-8Gを搭載した620Aをメインとしながらも、
音像のより確かな判断をするために405Aを使われている、ということである。

この、音像の確かさは、岩崎先生によって、重要な要素であることは、
書かれたものをまとめて読んでいくと誰しもが気づくこと。
パラゴンを買われた理由のひとつにも、音像の確かさが大きく関係している。

そして、この音像の確かさを求められるのは、「対決」するためなのだと私は思う。そうとしか思えない。

Date: 2月 26th, 2012
Cate: 川崎和男

一度だけの……

オーディオのことで、たった一度だけ神頼みしたことがある。

「音は人なり」だから、神頼みしたところでどうにかなるものではないことは重々承知している。
けれど、あのときだけは「どうか、いい音で鳴ってください」と心の中でお願いしていた。
音が鳴りはじめるまで、何度も何度もそう神頼みしていた。

かけてもらったCDの前奏が流れてきた。
それまでの2曲とは、鳴り方が違う、と感じていた。
私だけが感じていたのか、そのとき、あの場所にいた人たちみながそう感じていたのかは確認していない。
とにかく安堵した。これならば、絶対に絶対にうまく鳴ってくれる、そう確信できた。

カレーラスの歌がきこえてきた。
「川の流れのように」をホセ・カレーラスがうたう。
このCDから、この曲を選んでよかった、と、やっと思えた。

後にも先にも、神頼みしたことは、この一回きりである。
これから先のことはわからない。
けれど、このとき、神はいるのかも……と想っていた。

いまから10年前の7月4日のこと。

Date: 2月 19th, 2012
Cate: 五味康祐

続・長生きする才能(その3・思い出したこととある映画のこと)

ジャクリーヌ・デュ=プレは1987年10月19日に亡くなっている。
このころは、まだ新聞を購読していた。デュ=プレが亡くなったことは新聞記事で知った。
大きなショックはなかった。けれど、デュ=プレが多発性硬化症だと知った時に、
治療法を見つけ出してやろうと思っていたことを、ずっと忘れていたことをデュ=プレの訃報記事は思い出せた。

もしもオーディオにのめり込まず違う道を選択していたとしても、
1987年の時点では私はまだ24歳だった。多発性硬化症の治療法なんて見つけ出せるはずがない。
土台無理なこと……。

デュ=プレが亡くなってから10年数年経ったころ、ある映画を観た。
「ロレンツォのオイル/命の詩」(原題:Lorenzo’s Oil)を観た。
この映画が日本で公開されたのは1993年、私はDVDになってから、この映画のことを知り観た。

実話に基づく映画である。
多発性硬化症ではないけれど、ここでも副腎白質ジストロフィーという難病が出てくる。
映画のタイトルのロレンツォは、主人公のひとり息子の名前。副腎白質ジストロフィーの患者だ。

ロレンツォの両親は医者ではない。医学知識を持った人たちではない。
だから最初は治療法(というより医者)をとにかく探し求める。けれど見つからない。
そして自力で治療法を見つけようとする。ロレンツォを助けるためにあきらめない。

結論を書いてしまうと、治療法を見つけ出す。
タイトルからもわかるように、ある特定のオイルがそれである。
映画のエンディングには、
ロレンツォのオイルで副腎白質ジストロフィーから回復した子供たちの写真が映し出されていた。

ロレンツォの両親の、治療法を見つけ出すまでの行動こそ、死に物狂いというのだろう。
ロレンツォの両親の、そういう姿を見ていて、また昔のことを思い出していた。

デュ=プレが多発性硬化症だと知った時に思っていたことだ。

ようするに私は死に物狂いになれなかった。
つまりは他人事でしかなかったわけだ。
どれほどジャクリーヌ・デュ=プレのエルガーのチェロ協奏曲に感動した、と言ったり書いたりしていても、
遠いイギリスに住む人の、他人事だったから、死に物狂いになる、そのずっと手前のところにしかいなかった。

「続・長生きする才能」を書き始めて、そのことを思い出していた。

Date: 2月 18th, 2012
Cate: 五味康祐

続・長生きする才能(その3)

いまの時代、剣豪はいない。
だからいまの時代、自殺できない人がいるとすれば、それはまわりが死なせてくれない人だろうと考えた。
どういう人がそうなのか。

ジャクリーヌ・デュ=プレは1971年(26歳のとき)から指先の感覚が鈍くなる症状が出始めていて、
1973年には多発性硬化症と診断され演奏家としてピリオドが打たれている。

私がデュ=プレのエルガーのチェロ協奏曲を聴いたとき、すでに彼女は現役の演奏家ではなかった。
デュ=プレが多発性硬化症だったことを知ったのが先だったのか、エルガーの協奏曲を聴いたのが先だったのか、
なぜか記憶が曖昧になってしまっているが、
とにかくデュ=プレのエルガーをはじめて聴いたときの衝撃は、いまでもはっきりと憶えているほどに強烈だった。
胸がしめつけられる、とはこういうことなのか、とも感じていた。

EMIはいちどもデュ=プレのエルガーの協奏曲を廃盤にはしていない、ともきいている。
イギリスのクラシック音楽を愛好する人たちにとって、デュ=プレはほんとうに特別な存在なのだろう。

バレンボイム指揮によるプロコフィエフの「ピーターと狼」のナレーションを
デュ=プレがやっているニュースを知ったとき、もうチェリストとしてのデュ=プレのレコードは聴けないのか。
誰か多発性硬化症の治療法を見つけ出さないのか、とも思ったこともある。
ほんの一時期の気の迷いであったのかもしれないが、医学の道に進んで治療法を……と考えていたことすらある。

私ですらそんなことを考えていたのだから、デュ=プレのまわりにはそういう人がいたことだろう。
実際に、いろんな人がいろんなことを言ってきた、ということも本で読んだことがある。
多発性硬化症は体の自由が奪われるから、デュ=プレの傍にはつねに彼女の世話をする人もいる。

もしデュ=プレが自殺を考えていたとしたら……、そんなことを「喪神」と絡めて思ったわけだ。
デュ=プレが自殺を考えたことがあるのかどうかはわからない。
あくまでも考えた、もしくはデュ=プレのような境遇の人が自殺を考えた、としよう。

多発性硬化症の進行によって体の自由がきかなくなっていくわけだから、
試みることすら困難なこととであろうし、もしなんらかの方法で実行したとしても、
ひとりでいることのできない身体だから、すぐに見つかり死ぬことはできない。

五味先生は「喪神」で、「自分を殺せるだけの人間を、もう一人造りあげて、その男に斬らせる」ことにされた。
デュ=プレの場合はどうすればよいのか。そのことを考えていたことがある。

Date: 2月 17th, 2012
Cate: 五味康祐

続・長生きする才能(その2)

「私の好きな演奏家たち」は遺稿集となった「人間の死にざま」(新潮社刊・絶版)に収められている。
「私の好きな演奏家たち」の、このくだりを読んだあとしばらくして頭に浮んできたのは、
「喪神」について書かれた五味先生の文章のことだった。

これは「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド刊)の「オーディオと人生」のなかで書かれている。
五味先生が世に出る機縁となった、そして芥川賞受賞作でもある「喪神」のモチーフとなったのは、
西田幾太郎氏の哲学用語を借りれば、純粋経験とある。
     *
ピアニストが楽譜を見た瞬間にキイを叩く、この間の速度というのは非常に早いはずである。習練すればするほどこの速度は増してゆき、ついには楽譜を見るのとキイを叩くのが同時になってしまう。経験が積み重なってゆくと、こういう状態になる。それを純粋経験という。
ルビンスティンもグールドも純粋経験でピアノを叩いている。それでいて、あんなに演奏がちがうのはなぜか。そこに前々から疑問を抱いていた。純粋経験とは、意志が働く以前のことで処理されているはずなのに、と。そのときふと思ったのは、これは線上で考え続けていたことだが、人を斬ったらどういう感じがするだろうか、ということだった。
一方、私はキリスト教神学を学んだときのことを思いあわせた。キリスト教が、我々人間に禁じている唯一のものは、自殺である。なぜそれがいけないか。誰にでもできるからにちがいない。私は、かつて貧乏のどん底にいて、俺にいますぐできることはなんだろうか、と考えたことがある。そのとき即座に頭に浮んだのが、自殺だった。名古屋へ行きたいと思っても旅費がない。徒歩で行くとしても、その間の食料を考えなくてはならない。パチンコをはじいてみても、玉はこちらの思うとおりにはころがってはくれない。つまり世の中で、貧乏のどん底にいる人の自由になるものは何もない。しかし死のうと思えば、いつでも、誰でも人は自殺することだけはできる。それでキリスト教は自殺を禁じたのだろうと考えていた。そこで、自殺のできない男というものを想いえがいた。
わが身を護るために、人を斬ってきた男が、やがて純粋経験で人を斬るようになる。これはもう、己の意志で斬るのではないから寝ているときに背後から襲われても、顔にとまった蝿を無意識に払いのける調子で、迫った刃を防禦本能でかわし、反射的に相手を仆してしまう。しかも本人は仆したことさえ気がつかない。ここに私は目をつけた。どんな強敵が襲いかかってきても、相手を倒すことのできる男、そこまで習練を積んだ男が、もし、おのれに愛想をつかして、自殺を思い立ったら、どうしたらよいか。自分の腹に短刀を当てようとした瞬間、純粋経験が働いて、夢遊病者のように短刀を抛り出してしまうだろう。そのことを自分で気がつかずにいるだろう。そんな男が死ぬには、どうすればよいか。自分を殺せるだけの人間を、もう一人造りあげて、その男に斬らせるよりほかない。
     *
この文章を何度目かに読んだときに、五味先生は自殺できない人間として、一人の剣豪に托して書かれたわけだが、
いまの時代、自殺できない人間は、どういう人だろうか、と思ったことがある。

思いあたったのは、ジャクリーヌ・デュ=プレだった。

Date: 2月 16th, 2012
Cate: 五味康祐

続・長生きする才能(その1)

「長生きしなければ成し遂げられぬ仕事が此の世にはあることを、この歳になって私は覚っている。」
と五味先生が、「私の好きな演奏家たち」のなかで書かれている。

「長生きしなければ成し遂げられぬ仕事」を「持つ」者は、
死ねない人生を歩むことになるのだろうか。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 8th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25)

JBL・D130のトータルエネルギー・レスポンスをみていると、
ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、
ほぼ40万の法則に添うものとなっている。
100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。

とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。
このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。

D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。
残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。
なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。
D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、
トータルエネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。

604-8Gのトータルエネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、
100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。

ならばタンノイのHPD315はどうかというと、
100Hzから4kHzのトータルエネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、
残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。
それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。

コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。
この音力が、D130とHPD315とではいくぶん開きがあるのと、
ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。
(試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。)

20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、
100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、
音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、
結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、
それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。

このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。
(私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。
そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。)

Date: 1月 27th, 2012
Cate: 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏のこと(YouTubeより)

1980年か1981年ごろのものと思われますが、
この時代のことを思うと、これが残っていたことはうまく言葉では表現できないものがあります。
30年ぶりにきく瀬川先生の話──。

YouTubeに、BBCモニターについて語られる瀬川先生の動画が公開されています。

昨年末にYouTubeに公開され、
それを今日、facebookで知りました。

Date: 1月 15th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。
国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、
トータルエネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。
測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、
トータルエネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータルエネルギー・レスポンスの良さだ。
D130よりもトータルエネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。
あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、
D130のトータルエネルギー・レスポンスは、
帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、
ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。

この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、
なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。
D130と同じJBLのLE8Tでも、トータルエネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、
その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。
サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、
トータルエネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。

その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、
このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。
ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。

とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、
トータルエネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、
周波数特性とトータルエネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)

ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。
高校生なりに考えた当時の結論は、
電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。
ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、
電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。
もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。

そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、
この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。

一方、トータルエネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、
エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。
そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、
音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。

では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、
これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。
単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、
音力と呼べるものはある、といまでも思っている。

音力を表したものがトータルエネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、
音力の一部を捉えたものである、と考えているし、
この考えにたって、D130のトータルエネルギー・レスポンスをみてみると、
その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22)

マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、
オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。
つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、
周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータルエネルギー・レスポンス、
残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、
残響室での能率とリアル・インピーダンスである。

サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータルエネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、
44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。
44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、
つまり周波数特性は向上している、といえる。
ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。
しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。

けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。
中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、
単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、
54号のトータルエネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。

けれど54号のトータルエネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。
サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、
ピンクノイズで計測したトータルエネルギー・レスポンスでは、
まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。
しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。

中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。
しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。
これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。

ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、
周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。

Date: 1月 13th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21)

ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、
いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。
4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。

パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。
そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、
パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、
その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。
パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、
この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、
スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。

ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。
こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。
スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。
スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、
8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。
しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。
可聴帯域内ではフラットなものもあるし、
低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。

おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、
スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。

TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。
たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、
レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。

だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。
そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。

この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。

Date: 1月 12th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20)

ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。
この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、
4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。

具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、
マイケルソン&オースチンのTVA1である。

D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、
この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。
これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、
ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、
MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。

MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。
ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。
他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、
トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。

MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。
1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、
10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。
D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。
4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。
ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。
1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。
TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。

こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、
周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、
これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。

Date: 1月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)

ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、
パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、
ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。

歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。
大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。
けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。

歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。
このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、
52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、
JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。

4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。
f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、
その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。
2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。
ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。

ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、
このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。
そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。
つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。

ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。
ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、
これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。