岩崎千明氏のこと(その26)
ステレオサウンド 39号はカートリッジの特集号である。
岩崎先生も試聴メンバーとして参加されている。
岩崎先生の「テストの方法」には、次のことが書かれている。
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もうひとつのスピーカーシステムを、このラインナップに加えている。これは、ごく小さなブックシェルフ型の自作のシステムで、アルテックの12cmフルレンジ・405Aをたったひとつ収めたものだ。これは、至近距離1mほどにおいて、ステレオ音像のチェックに用いたものだ。いうなればヘッドフォン的使用方法だ。シングルコーンの405Aも、コアキシャル604−8Gもともに音源としてワンスポットなのでこの点からいえば大差ないはずともいえなくもないのだが、実際は好ましかるべきマルチセラーの高音輻射より405Aの方が音像をずっとはっきり判断できるのは、多分、単一振動板だからだろう。単純なものは必ず純粋に「良い」のをここで知らされる。それにも拘らず604をメインとしたのは、音質判断上もっとも問題とされてしまう音色バランスの判断のためである。
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このとき岩崎先生はカートリッジ123機種を、自宅で試聴されている。
だから試聴用スピーカーとして、メインに使われたのは上の文章からもわかるようにアルテックの620Aである。
この他に、405Aを使った自作のブックシェルフ型に、さらにJBLのハーツフィールドでも試聴されている。
10機種ぐらいの数であれば、3組のスピーカーシステムでの試聴もそう大変なことではない。
けれどステレオサウンド 39号では123機種という数である。
405Aとハーツフィールドはサブ的な試聴のためのものだったのかもしれないが、
それでも大変な手間をかけて試聴されている。
ちなみにアルテック620AとJBLハーツフィールドは別々の部屋に置かれているので、
アルテック620Aが置いてある部屋(パラゴンの置かれている部屋でもある)で、
620Aと405Aで試聴した後に、部屋を移動してハーツフィールドで聴かれていることになる。
ここで書きたいのは、そのことではなく、同軸型の604-8Gを搭載した620Aをメインとしながらも、
音像のより確かな判断をするために405Aを使われている、ということである。
この、音像の確かさは、岩崎先生によって、重要な要素であることは、
書かれたものをまとめて読んでいくと誰しもが気づくこと。
パラゴンを買われた理由のひとつにも、音像の確かさが大きく関係している。
そして、この音像の確かさを求められるのは、「対決」するためなのだと私は思う。そうとしか思えない。