黒田恭一氏のこと(「聴こえるものの彼方へ」のこと)
今月の29日に公開できるように、いま黒田先生の文章の入力にとりかかっている。
すでにaudio sharingで公開している「聴こえるものの彼方へ」をEPUBにするのだが、
そのままEPUBにするよりも、未収録の文章もできるかぎり載せたい、と思い立ったからだ。
「聴こえるものの彼方へ」は、
ステレオサウンドに連載されていた「ぼくは聴餓鬼道に落ちたい」が基本になっている。
「ぼくは聴餓鬼道に落ちたい」はいったん42号で終了し、
43号から「さらに聴きとるものとの対話を」と題名が変り、始まっている。
「聴こえるものの彼方へ」には、「さらに聴きとるものとの対話を」は収められていない。
いま入力しながら、読み返していると、あらためて、
これらの黒田先生の文章を最初に読んだときの気持を思い返すことができることに気づく。
もちろん、ほぼ30年以上前に、どう感じていたかをすべて思い出しているわけではないが、
あのとき、黒田先生の文章から、なにを大事なものとして読んでいたのかは、そのまま思い出せる。
黒田先生は、「オーディオはぼくにとって趣味じゃない。命を賭けている」と言われたことがある。
1988年、ゴールデンウィーク明けの、黒田先生のリスニングルームにおいて、はっきり聞いた。
これがどういうことなのかも、「さらに聴きとるものとの対話を」のなかに書かれていたことに、
いま気づき、音楽を「きく」ということとは
(黒田先生は、聴く、とも、聞く、とも書かれずに、つねに「きく」とされていた)、
いったいどういうことなのか──、
あのときとなにが変ってきて、なにが変ってきていないのかを含めて、
ひとりでも多くの人に読んでもらいたいと思っている。