黒田恭一氏のこと(その15)
いまにして想えば、黒田先生は、アクースタットの試聴の最中に、ほぼ決心されていたのではないだろうか。
こう語られている。
「静電型のスピーカーということで、ぼくの先入観からパーカッシヴな音は不得意であろうとたかをくくっていたのですが、ほとんど不満のない反応を聴かせてくれたことも意外でした。
たとえば『トスカ』の第一幕の幕切れのところで鐘が鳴ります。これが甘い響きになるかと思ったんですけど、非常に硬質な音がしたでしょう。」
「トスカ」の硬質な鐘の音が鳴らなかったら、
「スーパー・ギター・トリオ」のレコードをリクエストされることはなかったのではないか。
不得意であろうと思われていたパーカッシヴな音が、しっかり響いてきたことで、
最後の駄目押し的な確認の意味をこめての「スーパー・ギター・トリオ」だったような気がする。
その「スーパー・ギター・トリオ」を、アクースタットは期待と予想を上廻る音で提示してきた。
これで、黒田先生は決心されたはずだ。