Archive for category トーラス

Date: 2月 24th, 2011
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その26)

これまで書いてきたようにフィードバックには、
ポジティヴ(乗算)とネガティヴ(除算)のふたつがある。

加算・減算はなんなのか。
フィードフォワードにも、ポジティヴとネガティヴがあるとしたら、
ポジティヴフィードフォワードが加算であり、ネガティヴフィードフォワードが減算と考えれば、
サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムは減算であるから、
いわばネガティヴフィードフォワードといえる。

加算のポジティヴフィードフォワードの回路となると、
QUADの405がそうだと思う。
405独自のカレントダンピング回路は、一種のフィードフォワード回路であり、
しかもサンスイの減算ではなく加算である。
もちろん405にも、NFBは用いられている。つまり加算と除算の組合せである。

この項の(その4)に書いた、
「回」の字がトーラスに見える、から、
本来スピーカーの同軸型について書いていくつもりだったのが、
「回」の字がつく回路という言葉から話がアンプに脱線してしまったが、
回路は circuit であることから、
同軸型がトーラスなのか、について考えていくこととまったく無関係とは思えない。

Date: 2月 22nd, 2011
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その25)

テクニクスがリニアフィードバック回路を最初に搭載したアンプは、SE-A5(パワーアンプ)である。

出力段の手前のプリドライバー段からポジティヴフィードバックを、初段にもどしている。
SE-A5の初段は差動回路で、その負荷にカスコード回路とカレントミラー回路を重ねていて、
ポジティヴフィードバックの信号は、初段の負荷のひとつであるカレントミラー回路にかけ、
見かけ上、初段の負荷抵抗が無限大になるようにして、
NFB(ネガティヴフィードバック)をかける前のゲインを、通常のアンプでは比較にならないほどかせげる仕組みだ。

ただこのままでは高域で発振してしまうため、実際の回路では高域でのゲインは落としてある。
NFBは通商のアンプと同じように出力段から初段の差動回路にかけてある。

前に書いたようにPFBとNFBを組み合わせた回路例は過去にもあった。
テクニクスのリニアフィードバックは、テクニクス独自の回路とは言えない面もたしかにあるが、
ここまで積極的にPFBを活用した回路は、おそらくテクニクスが最初だと思う。
つまり、理論としては以前からあった回路を、
テクニクスは独自のテクニックを用いて実現したところに特徴がある。

もうひとつリニアフィードバックの特徴は、
同じくNFBに対してメスを入れたサンスイのスーパー・フィードフォワード・システムにくらべて、
従来の回路にいくつかの部品を追加することで実現可能であるおかげで、普及クラスのアンプにも採用できる。

どうしても回路の規模が大きくなってしまうサンスイのスーパー・フィードフォワード・システムとは、
対照的といってもいい。

サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムは、
除算(ネガティヴフィードバック)と減算(フィードフォワード)の組合せ、
テクニクスのリニアフィードバック回路は、
除算と乗算(ポジティヴフィードバック)の組合せ、といえる。

Date: 10月 30th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その24)

私が昔読んでいたアンプの設計の基礎について書かれた本には、
NFBをかける前のアンプのゲイン(オープンループゲイン)は、無限大が理想だとあった。

アンプの仕上りゲイン(つまりNFBをかけた状態、クローズドループゲイン)が30dBが必要だったとしたら、
オープンループゲインがほんとうに無限大であれば、無限大のNFBをかけることができ、
そのことによる性能の改善の度合ははかりしれないものがあり、NFBアンプとしては理想的な姿となる。

ではオープンループゲインを無限大は無理としても、できるだけゲインをかせぐために、
増幅率の高い素子を使い、増幅段数を増やしていけば増やせないわけではないが、
そこにはやはり無理が生じて、回路の複雑化にともない高域の位相特性の悪化、
それにTIM歪も発生し、動作そのものが不安定になりやすくなる。

そんな状態でNFBをかけたところで、優れたアンプにはほどとおい状態にしか仕上らない。

一般的な素子を使い、増幅段数も十分安定した範囲までおさえて、
つまり言いかえれば、これまで培ってきたアンプの回路をそのままいかしながら、
オープンループゲインを飛躍的にあげる手法が、テクニクスの開発したリニアフィードバック回路である。

リニアフィードバック回路は、簡単に説明するならポジティヴフィードバック(PFB)を併用した回路である。
真空管アンプ時代からPFBとNFBを組み合わせた技術はあった。
実際の製品にもとり入れられている。
ダイナコの真空管アンプもそうだし、スチューダーのオープンリールデッキのC37の再生アンプもそうだ。
ただ、その使い方はテクニクスのリニアフィードバック回路とは異なる。

Date: 6月 30th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その23)

フィードバックとフィードフォワードの違いを一言で表わすならば、割り算と引き算ということになる。

アンプの出力端には、信号の他に、歪と雑音が加わっている。
この歪と雑音と同じレベルの、そして逆相の歪と雑音を加えて打ち消そうというフィードフォワードは、
つまり引き算によって歪、雑音をなくそうという発想から生れている。

フィードバックは、歪、雑音の除去よりも増幅度の安定を図った系であり、
そのことはNFBをかけたアンプの増幅度をもとめる式からもうかがえる。

反転アンプを例にとれば、NFBをかけたオーバーオールのゲインは、
NFBの抵抗値を入力に直列に挿入された抵抗値で割った値である。

NFBの抵抗値が10kΩ、入力抵抗が1kΩだとしたら、10kΩ/1kΩなので増幅度は10、つまり20dBとなる。
増幅度がフィードバックをかける前から減るのと同時に、歪、雑音も低下することになる。
つまり増幅度が割り算によって決定されるように、歪、雑音も割り算によって減少する。

フィードバックとフィードフォワードはどちらも歪、雑音を減らす効用があるが、
理論的に歪、雑音をゼロにできるのはフィードフォワードである。

割り算ではどんなに分母を大きくしていこうと、値をゼロにすることはできない。
ゼロに限りなく近づけることはできたとしても、そのときは増幅度も同じように限りなくゼロに近づいている。
その点、フィードフォワードは引き算ゆえに、まったく同じ値を逆相にして加える(つまりマイナス)ことで、
ゼロを実現することは計算式の上では可能となっている。

サンスイのスーパー・フィードフォワードは、割り算(フィードバック)だけでは除去できない歪、雑音を、
引き算(フィードフォワード)で打ち消すという、割り算と引き算を組み合わせた系である。

割り算(除算)、引き算(減算)のほかに足し算(加算)、かけ算(乗算)があるように、
割り算とかけ算を組み合わせた系が、テクニクスのリニアフィードバック回路である。

Date: 6月 2nd, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その2・余談)

ホーンと同じく、開口部の形状だけでなく、開口部周辺の形状が重要になるのには、バスレフダクトがある。
ダクトの長さ、径は、低域再生と直接関係するために、よく検討されているものが多い。
けれど、ホーン型同様、開口部周辺の形状までに気を使ったモノとなると、
いまのところ思い浮ぶのは、ひとつしかない。

ウェストレイクの Tower-12 だけだ。

Tower-12のバスレフダクトの開口部周辺の形状を見て、
こっけいだとか、目立ちすぎといったややネガティヴな印象を持つ方もいるだろう。
フロントバッフル面から突き出したかたちで、裾広がりになっているため、
裾野まで含めた全体の径は、開口部の径の2倍以上あるだろう。
その上に配置されているウーファーの口径と、そう変らない大きさになっている。

なんて大げさなパスレフダクトだろう、と最初見た瞬間はそう思っても、すこし考えれば、
ウェストレイクがわざわざ、この形状(大きさ)にした理由は浮んでくる。

バスレフダクトからは、音量が大きければ、かなりの空気量が出てくる。それもけっこうなスピードで、である。
そのため、この部分での聴感上のSN比の劣化を抑えるために、金属製のダクトを使用したもの、ダクト内に柔軟剤を使用しさらに柔らかくしたフェルトを貼りつけたもの、
エンクロージュア内部側の開口部をダンプしたもの、などの対策が、
実際の製品を見ていくと、各社様々の工夫がわかる。

これは、いわばホーンではいえば、ホーンの形状や材質の問題であって、フロントバッフルに取りつけた際、
そのマッチングについて検討されたものがごく少数なのと同じで、
バスレフダクトにおいてもバッフルをふくめての、最適の開口部周辺の形状が求められるはずだ。
この観点から、Towet-12 のバスレフダクトの開口部の形状を捉えたい。

Date: 5月 14th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その22)

以前にも書いているが、AU-D907 Limited を使っていたとき、サンスイ宛に手紙を書いたことがある。
スーパー・フィードフォワード・システムを搭載したAU-D907Fが登場したときに、だ。

AU-D907 Limited に手を加えて、スーパー・フィードフォワード・システムを搭載できないか、という、
いま思えば、かなり無謀なお願いの手紙だった。

当時は、その少し前にDCサーボが各社のアンプに採用されていたころで、
スーパー・フィードフォワード・システムも、DCサーボと同程度の規模の別の回路をつけ加えることで、
実現できるものだと、勝手に思っていたから、そんな手紙を書けた。

いまスーパー・フィードフォワード・システムの資料や実際の回路図をみると、
既存のアンプに手を加えて搭載することが、いかに困難なことか、というよりも、ほぼ無理なことはわかる。

それでも、AU-D907 Limited を母体としてスーパー・フィードフォワード・システムを世に問うていたならば、
と、どうしても思ってしまう。
最初からAU-X11で、問うべきレベルの回路だっただけに、
一連のFシリーズは、それまでのD607、D707、D907にくらべ、必ずしも評価が高かったわけではない。

特許の期限は20年だから、すでにサンスイのスーパー・フィードフォワード・システムの特許は切れている。
いま他社が、この方式を採用することはないだろう。
このまま埋もれてしまうには、もったいない回路技術である。

非反転アンプのNFBをトーラスと、反転アンプのNFBをメビウスの環としたら、
スーパー・フィードフォワード・システムは、クライン・ボトル、とまではいわないものの、
そこに通じるものが潜んでいるような気がしてならない。

クライン・ボトル的視点から、スーパー・フィードフォワード・システムを再検討してみたら、
先に進める予感がする。

Date: 5月 13th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その21)

サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムが、どういう回路になっているのか、その詳細は、
Google Patents で検索すれば、詳しい資料が見つかるし、
実際の製品ではどういう回路になっているのかは、海外のサイトを検索すれば、
当時のサンスイのアンプの回路図が見つかる。

当時のサンスイのカタログや広告に載っていた概略図では想像つきにくいが、
これらの資料をみればわかるように、スーパー・フィードフォワード・システムは、
サンスイの当時のアンプはすべて一般的なアンバランス出力だったが、
回路の規模は、バランスアンプとほぼ同程度のものを必要とする。

プリメインアンプのラインナップでも、上級機の907にはすぐに搭載せずに、
その下の707、607が早かったことからのイメージから、それほど規模の大きなものとは、当時は思いもしなかった。

本来ならば、スーパー・フィードフォワード・システムは、プリメインアンプならば最低でも907クラス、
できればセパレートアンプ(パワーアンプ)からさきに搭載すべきものである。

このへんは、サンスイだけの特殊なことではなく、国産メーカの多くは、新技術をまず売れ筋の価格帯に投入する。
海外メーカーならば、最上級機に投入するような新技術でも、なぜか最初は普及クラスから、となっていた。

もしスーパー・フィードフォワード・システムを、サンスイの威信を懸けたパワーアンプ、
もしくは907の上に位置するプリメインアンプに、まず投入していたら、
この方式への印象、そして評価ははずいぶん違ったものになっていたはずだ。

Date: 5月 13th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その20)

サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムを、最初に搭載したのは、
プリメインアンプのAU-D607FとAU-D707Fのパワーアンプ部である。

パワーアンプ部はいうまでもなく電圧増幅部と電流増幅部の、大まかにいって2つのブロックから構成されている。
オーバーオール(アンプの出口から入り口まで)でかけているのはフィードバック(NFB)だけである。
電圧増幅部も電流増幅部も、ひとつの大きなフィードバック・ループのなかにおさまっている。

フィードフォワードは、というと、電流増幅部のみにかけられている。
簡単に説明すると、電流増幅部がふたつ存在し、片方はこれまでどおり信号増幅用として使われ、
もう片方がフィードフォワードのループを形成するのに使われている。

電圧増部からの信号は2つに分けられ、それぞれの電流増幅部にはいり、
どちらの出力にもサミングネットワークが設けられている。
NFBは、このサミングネットワークと電流増幅部のあいだから電圧増幅部の入力へと返される。

フィードフォワードによる歪の打ち消しは、サミングネットワークを通ったあとで行なわれる。
サミングネットワークはNFBのループからは外れている。

フィードフォワードが成立つために必要な予測とは、
正確な補正信号と、その補正信号の正確なタイミングである。

正確な補正信号を作り出しても、合成時のタイミングがズレてしまえば、
歪を打ち消すどころか、逆に新たな歪を作り出すことになる。
このタイミングを揃えるための回路が、サミングネットワークと呼ばれているものだ。

Date: 5月 12th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その19)

こんなふうに人間の動作で考えていくと、フィードフォワードに必要な要素がはっきりしてくる。
予測と、その正確さ、である。

いいかげんな予測であれば、求める効果は望めない。
ただ、人間の動作と同じように、そこにフィードバックがかかっていれば、
即座に、予測の、そのズレを修正できる。

アンプにおいて、フィードフォワードがうまくいかなかったのは、
正確な予測が不可能であったためではないだろうか。
人間には脳がある。しかしアンプには、脳に相当するものは存在しない。

フィードフォワードがうまくかかっていない状態では、
出力段のパワートランジスターが過電流によってダメージを受けたり、
歪を打ち消すはずなのに、逆に歪が増えてしまうという現象が起こったりする、ときいている。

ならば人間と同じように、フィードフォワードとフィードバックを組み合わせれば、
うまく動作する可能性が出てくる、と考えるわけだが、
ここでもくり返しになるが、アンプには「脳」がない。

単に入力から出力、出力から入力に、
フィードフォワード、フィードバックをトータルループでかけてもうまくいくわけがない。

サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムは、この点を見事に解決している。

Date: 5月 10th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その18)

NFB以外で、これほど簡単に、追加する部品点数も少なくて、問題を解決できる手法があるだろうか。
補正信号の方向を、フォワードからバックにする発想の転換が、70年以上も有用な技術として使われ続けている。

NFBをかけたことによって、アンプが発振すると言われることがあるが、
NFB自体は、アンプを安定化するために生れてきた技術であり、きちんとかけることでアンプはその安定性を増す。

NFBは、本質的にひじょうに優れた技術のように思えてくる。

人間の身体にもフィードバックはある。フィードバックがあるから体験から学んでいける。
その学んだことをベースにフィードフォワードが成立する。

たとえば卵を、生れてはじめてつかむ。
当然力のいれ具合がわからないから、もしかするとつぶしてしまうかもしれない。
一度つぶした体験があれば、そこから学んで、次につかむときは力のコントロールを行なう。

このコントロールがフィードフォードである。

そうやっていくつもの体験を経て、はじめて手にするものでも、ある程度の予測は可能となる。
なにか重たいものを持ち上げようとしたとき、あらかじめ力をこめる。
それで持ち上がるときもあるし、持ち上がらなければ、さらに力をこめる。

追加の力のコントロールがフィードバックである。

Date: 5月 6th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その17)

NFB理論は、1937年に、ベル研究所にいたハロルド・ステファン・ブラック博士によって発明・発表されている。

ブラック博士は、その9年前に、フィードフォワードについて発表している。
フィードフォワードは、私が昔、すごいアイディアだと一瞬思ってしまったことと、同じ考えである。
1928年に考えられていたわけだ。私が思いついたのは1977年。50年も前にあったわけだ。
このとき、まだサンスイのスーパー・フィードフォワード・システムは、まだ登場していなかった。

ブラック博士が、フィードフォワードを考えたのは、
長距離の電話回線の中継アンプの不安定さ(レベルの変動)を解消するため、だったらしい。

ベル研究所の力を持ってしても、フィードフォワードはうまく動作しなかったようだ。
そのため、ブラック博士は、発想を180度転換して、NFBを発明している。

フィードフォワードでは演算アンプが必要になる。その演算アンプの精度が低ければ、うまく動作しないだろうから、
つまり親アンプと同等の演算アンプ(子アンプ)となると、それだけでアンプのコストは二倍近いものになるだろう。
それに使用部品が増えれば、それだけ故障発生率も高くなる。

ところがNFBとなると、基本的には抵抗を一本追加するだけですむ。

Date: 5月 6th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その16)

10代のころは、NFBは必要悪的なものだと思っていた。
いつまにかは、必要不可欠(もちろん無帰還アンプの存在は認めながらも)と捉えている。
そして、いまはNFBを適切なかたちでかけたものが、
理想的なかたちではないだろうか、と考えはじめるようになっている。

NFBの問題点について、わずかばかり知った中学3年のときに、
出力信号を入力に戻すくらいなら、入力信号を、アンプのへの入力と、出力端へ、と分岐させ、
そこで、NFBと同じように出力信号との比較(演算)をおこなえば、
NFBは使わずにすむだろう、と安易な考えをついた。

そのときすでに差動回路が、二つの信号の差分を取り出せることは知っていたから、
入力信号と出力信号を比較して、歪成分を検出し、180度反転させ逆相信号として、出力信号に加えれば、
歪みは打ち消せるはずだ、と思いついた。

でも、すぐにうまく動作しないようにも思えてきた。
差分信号を作り出すアンプにも、同じことをやる必要があるからだ。

つまり信号を増幅するアンプを親アンプとすれば、差分信号を作り出すアンプが子アンプ、
子アンプの歪をなくすために差分信号を作るアンプは孫アンプ、孫アンプの歪を……となっていくと、きりがない。

子アンプにNFBをかければ孫アンプ、ひ孫アンプは必要なくなるわけだが、NFBをなくすことはできない。

それにこの考えは、NFBの発明の9年前にすでに発表されたものであることを、あとで知る。

Date: 5月 2nd, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その15)

井上先生が、サイテーションXXを気に入っておられることは、
試聴に立ち会っていれば、自然と伝わってくるし、
ステレオサウンドのベストバイの短いコメントの中にも、はっきりとあらわれている。

サイテーションXXの設計にたずさわったマッティ・オタラ博士は、
ステレオサウンド 57号のインタビュー記事の中で、NFBをアスピリンに喩えている。

「もし、私の頭が痛くなかったら、アスピリンはいらないでしょう。アンプがよければ基本的にはNFBはいらない。しかし、頭がちょっと痛ければ、ほんの少しのアスピリンでずっとよくなるでしょう。アンプも少し悪いのなら、ほんの少しのNFBをかけることでよくなるでしょう。10kgのアスピリンを飲んだら死んでしまうのと同じように、NFBをかけすぎるとアンプの音も死んでしまう。
私はたしかにNFBをたくさんかけてはいけない、NFBは少ないほどいい、といってきました。と同時に、NFBは上手に使うと非常に有効であることもいってきたつもりです。NFBの非常にいいポイントをさがすとゼロよりはいい。もちろん、ここでいう良いというのは、測定値のことをさしているのではなくて、聴感上の歪ということです。」

つまりサイテーションXXのNFB量9dBは、聴感上の歪が少なくなる最適量ということになる。

サイテーションXXの手法だけが、NFBの問題点を解消するわけではない。
日本のメーカーからも、この問題に違う視点から、しかし真っ正面からとりくんだ結果のアンプ技術がある。

テクニクスのリニアフィードバック回路と、サンスイのスーパー・フィードフォワード・システムだ。

Date: 5月 1st, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その14)

高帰還の真空管パワーアンプとして有名なウィリアムソンアンプのNFB量は24dBである。
真空管アンプ全盛時代は、これでも多量のNFBであった。

トランジスターアンプでは、かなり少なめのNFBでも20dB前後はかかっているだろうし、
40dB、60dB以上、100dBこえるNFBがかかっているアンプもある。

そういう時代に登場したサイテーションXXの9dBのNFB量は、そうとうに低い値である。
サイテーションXXは、 なにもNFB量を減らすことだけで
TIM歪、IIM歪、PIM歪の発生を抑えようとしているわけではない。
いくつもの回路上の工夫が凝らされているはずだ。

そのひとつが、あまり知られていないが、サイテーションXXは反転アンプであることだ。
この点は見逃せない。

サイテーションXXは、わりと地味な印象をまとったパワーアンプではあるが、
ビスの締めつけトルクを管理した、おそらく世界初のアンプであるし、
設計に携わったマッティ・オタラ博士はフィンランド人、ハーマンカードンはアメリカのブランド、
製造していた新白砂電気は日本のメーカー、という、グローバルなアンプでもあった。

それほど人気の高さはなかったが、堅実な作りのアンプであったし、
このアンプは、井上先生のお気に入りのパワーアンプでもあった。そして自宅でも使われていた。

サイテーションXXが現役の時、
私は、サイテーションXXの音を地味に感じていた。面白みのない音だ、とも思っていた。
それがいまは、意外といい音だったのかも、と思い直している。
いま聴いたら……、とも思う。

井上先生は、少し手直ししてやると、そうとうにいいアンプだ、と言われていたし、
新白砂電気で、このアンプに関わっていた人の話でも、
いくつかの箇所を変えれば、ものすごく良くなる、ということだった。

Date: 4月 29th, 2010
Cate: トーラス

同軸型はトーラスなのか(その13)

NFBのかかった反転アンプを、グラフィック的にメビウスの環として捉えるのであれば、
同じくグラフィック的にとらえたときに、クライン・ボトルといえるフィードバックのかけかたは、
いったいどんなものだろうか、と考えてみる。

マッティ・オタラ博士が、1963年にTIM(Transient Intermodulation)歪を発見。
’68年からTIM歪の理論づけをはじめ、’70年までにほぼ終え、’72年にTIM歪の抽出法の論文発表。
’74年にTIM歪の測定法を発表し、翌年TIM理論を発表している。
’76年には、IIM(Interface Intermodulation)歪、
’79年にはPIM(Phase Intermodulation)歪を発見し、発表している。

これらの歪の違いは、TIM歪が、スピーカーを接続しない状態でのアンプ内部でのNFBに起因するもので、
IIM歪は、スピーカーをつないだ状態でTIM歪と同じ追求をしたもの。
PIM歪は、位相と振幅の直線性の不一致を問題にしているもの、とのことだ。

これらの歪を発見したマッティ・オタラ博士によると、最良のNFB量は、
回路構成や使用部品の違いによって多少は異るものの、
1970年の時点では22dB、’80年では12dB程度で、オタラ博士が設計したパワーアンプ、
ハーマンカードンのサイテーションXX(ダブルエックス)は、わずか9dBである。