所有と存在(その17)
黒田先生の「ききたいレコードはやまほどあるが、一度にきけるのは一枚のレコード」に、
フィリップス・インターナショナルの副社長の話がでてくる。
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ディスク、つまり円盤になっているレコードの将来についてどう思いますか? とたずねたところ、彼はこたえて、こういった──そのようなことは考えたこともない、なぜならわが社は音楽を売る会社で、ディスクという物を売る会社ではないからだ。なるほどなあ、と思った。そのなるほどなあには、さまざまなおもいがこめられていたのだが、いわれてみればもっともなことだ。
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「ききたいレコードはやまほどあるが、一度にきけるのは一枚のレコード」は1972年の文章、
ほぼ50年前に、フィリップス・インターナショナルの副社長は、こういっている。
サブスクリプション(subscription)を、よく目にする時代になった。
音楽関係においても、頻繁に目にするようになってきた。
○○解禁、というふうに、サブスクリプションについて語られる。
○○には、日本人のミュージシャンの名前、グループ名が入る。
フィリップス・インターナショナルの副社長の発言からほぼ50年経って、
「ディスクという物を売る会社」ではなく「音楽を売る会社」へとなりつつある、ともいえる。
当時のフィリップス・インターナショナルの副社長は、いまも存命なのだろうか。
ようやく、そういう時代が訪れたな、と思っているのだろうか。
黒田先生の「なるほどなあ」は、いまならば、どういうおもいがこめられただろうか。