所有と存在(その13)
虚構の「虚」とは、くぼんで、中があいているさま、と辞書にはある。
虚構とは、辞書には、
事実でないことを事実らしく作り上げること、また,作り上げられたもの、作りごと、とある。
虚構の世界には、何も満ちていいないのだろうか。
そうだとしたら、虚構世界であるオーディオに、感動することがあるのか。
──そんなことを考えていたら、上村一夫の「同棲時代」が浮んだ。
「同棲時代」の、もっとも知られているであろうシーンである。
男と女が向いあっている。
ふたりの横顔のあいだに、独白がある。
どちらかのセリフというわけではない。
*
愛はいつも
いくつかの過ちに
満たされている
もしも愛が
美しいものなら
それは男と女が犯す
この過ちの美しさに
ほかならぬであろう
*
虚構世界も、もしかすると過ちに満たされているのか──、
そう思いたくなる。
過ちの美しさがあるからこそ、なのかもしれない。