Archive for category the Reviewの入力

Date: 3月 5th, 2010
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その41)

オーディオ・コンポーネントの主役は、いかなる時代においてもスピーカーシステムであって、
アンプは、そのスピーカーシステムを十全に鳴らすためのもの、ということは、
オーディオに関心をもち始めた頃から、なんども目にしたことであり、
この基本的事実はこれから先も変らない、ということは重々承知している。

オーディオ・コンポーネントの選択においては、まずスピーカーシステムが選ばれたのちに、
アンプ(それもセパレートアンプならパワーアンプがコントロールアンプよりも先に)が選ばれる。

にもかかわらず、マークレビンソンのアンプに合うスピーカーシステムは何だろう? 
と考えていたころが、実はある。

決して「基本」は忘れていなかったが、それでもあえて「基本」を無視したくなるほど、
マークレビンソンのアンプは、主張の強い音だったように、いまは思う。
夢中になる人もいれば、拒否する人もいたのは、そのせいもあったのだろう。

この主張の強さは、ML2Lが登場したころが、ピークだった。
ML2Lの発表のあとに、HQDシステムも発表している。
以前も書いているが、ハートレイのウーファーと、QUAD・ESLのダブルスタック、
デッカのリボン・トゥイーターから構成されるスピーカーシステムを、
マルチアンプで駆動するという、大がかりなシステムではあるが、
意外にも、というべきか、当然ともいうべきか、ハートレイもQUADもデッカも、
いわゆるレビンソン的主張の強い音を持つものではない。

Date: 3月 4th, 2010
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その40)

すこしまえまで、the Review (in the past) において、瀬川先生のオール・マークレビンソンによる、

4343のバイアンプドライヴの記事を入力していた。

読んでいただければわかるように、4343を極限まで鳴らし切る、という企画ではあるものの、
結果としては、主役はマークレビンソンのアンプ群であり、そのなかでも、
4343のウーファーを完全に御したという表現を使ってもいいであろうML2Lのブリッジ接続が、
ひときわ目立つ、真の主役という感じを受ける。

ブリッジ接続のため、低域だけでML2Lが4台必要となり、消費電力は400W×4で1.6kW。
出力は100W(8Ω負荷)。重量は、1台29.6kgと発表されているから、計120kg。

片チャンネルあたり、バイアンプのため3台のML2Lだから、約90kg。
4343の重量は79kgだから、パワーアンプのほうが重いわけだ。
容積的にも、ML2L、3台分だと、4343の6割から7割程度だろう。

その音も、4343が主役ではなく、マークレビンソンというアンプが主役であったようだ。
こうなってくると、マークレビンソンのアンプの音を、もっともよく伝えてくれる、
もしくは活かしてくれるスピーカーシステムは何か? という、
本質的には本末転倒な考えが出てきても、さほどふしぎでもなくなっていた。

それだけのある種の異様な「パワー」を、ML2Lのブリッジ接続は持っていたのかもしれない。

Date: 1月 24th, 2010
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その39)

アンプ専業メーカーであったクレルが、スピーカーシステムを手がけたように、
パス・ラボも、またスピーカーシステムを手がけている。

パス・ラボの主宰者、ネルソン・パスは、自身の最初の会社スレッショルドを創立するまでは、
アメリカ・サクラメントにあったスピーカーメーカー、ESSにつとめている。

ESSは、オスカー・ハイル開発のハイルドライバーを搭載したモデルをつくっていた会社で、
パスは、ESSの後援を受けて大学に通っていた、とインタビューで答えている。
パスのESSでの仕事は、ネットワークの設計をやっていたとのことだが、
会社にとっては、トラブルメーカーと思われていた、と語っている。

パスは新しいことをやりたくて、製品を改良しようとしていたことが、会社の経営陣からは、
よけいなことだと思われていたらしい。
だから、大学卒業と同時に、辞めてくれ、といわれ、ESSを離れている。

このESS時代に同僚だったのが、一緒にスレッショルドを創立したメンバーの一人、
グラフィック・デザイナーのルネ・ベズネである。
スレッショルドの社名は、ベズネが、ESSで働いていたときに、思いついたものだそうだ。

Date: 9月 8th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続々続補足)

AGIが特許を取ったというパワーアンプのバイアス回路の資料を、やっと見つけ出せた。

AGIもしくはAudio General Inc.で、Google Patentsで検索してもだめで、
511の設計者、デヴィッド・スピーゲル (David Spiegel) の名前で検索したら、簡単に見つかった。
スピーゲルのつづりが、さっきまでわからなかっただけ、ということである。

パテントナンバーは、4,237,425で、タイトルは”AUTOMATIC BIAS ADJUSTING CIRCUIT”。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・補足の余談)

サンスイからスーパー・フィードフォワード・システム採用のAU-D907Fが登場したとき、
私が使っていたのは、AU-D907 Limitedだった。

高校生が使うアンプとしては高価なアンプだし、不満を感じていたわけではないが、
それでもスーパー・フィードフォワード・システムに関する記事や広告を読むたびに、
このアンプ(AU-D907 Limited)にも、搭載することはできないのか、という思いが募っていった。

それでサンスイに手紙を書いたことがある。
AU-D907 Limitedを改造してもらうことはできないのか、
スーパー・フィードフォワードシステムを搭載することは無理なのか、とたずねた。

返事はこないだろうと思って出した。
しばらくしたら、返事があった。

AU-D907 Limitedへの搭載は、技術的にまず無理だということ。
そして、907 Limitedは、完結したモデルであるから、大事に使ってほしい、と書いてあったことを思い出した。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続々補足)

サンスイは、NFBとの併用の、この方式をスーパー・フィードフォワード・システムと呼び、
パワーアンプの出力信号と、逆位相の歪成分が出合う箇所(サミングポイント)を、
正確なものとするために(ここの精度が甘いと逆に歪を増してしまう)、
スピーカーの負荷変動に影響を受けないサミングネットワークを開発し、特許を取得している。

さらに歪成分の検出は、電圧増幅部と出力段の中間でおこなっているのも、
サンスイ独自の工夫である。

AGIがフィードフォワード方式だけで、パワーアンプの開発を行なっていたのか、
NFBとの併用だったのかは、わからない。
サンスイの特許を回避してのフィードフォワード方式のパワーアンプが実用となるのかどうかも、
私の、いまの知識でははっきりとしたことは言えない。

技術には、いくつかの解決方法があるはずだから、AGIがあきらめずに研究をすすめていれば、
もうひとつのフィードフォワード方式のパワーアンプが誕生していたかもしれない。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・続補足)

にも関わらず、あとに発明されたNFBが、大半のアンプに採用され、
アンプの発展をうながしてきたのは、フィードフォワード方式を現実の製品に組み込む難しさ、
回路構成の複雑さ、それにパワーアンプへの採用が、かなり困難だったこともあるだろう。

動的特性の改善を実現した511だけに、ペアとなるパワーアンプにも、
ほぼ間違いなくフィードフォワード方式を採用しようとしたはずだ。

けれど満足のいく特性、というよりも安定度を確保できなかったのではないだろうか。
フィードフォワード方式を、パワーアンプで、実際の製品に搭載したのは、
おそらくサンスイのプリメインアンプ、AU-D607F/707F/907Fが最初であろう。

サンスイのアンプは、フィードフォワードだけを採用しているのではなく、
NFB方式と組み合わせることで、実使用時の安定度を確保している。

言葉で書いていると、簡単なことのように受け取られるかもしれないが、
実際の開発には5年間の歳月と、2度の挫折があったときいている。

Date: 9月 6th, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その4・補足)

511で、あれだけ高い技術力を示したAGIが、なぜパワーアンプを開発できなかったのか、
その理由の正確なところは、開発者以外には、誰にもわからないことだけれど、
おそらくフィードフォワード方式にこだわったためであろう、と私は考えている。

あまり知られていないことだが、511はフィードフォワード方式を採用し、
歪率、周波数特性などの諸特性を改善している。

フィードフォワードは、1937年にフィードバック(NFB)理論を発明したH・S・ブラックが、
さかのぼること9年前に発明していた技術で、
アンプの出力信号から歪成分を検出し、これをいったん180度位相反転し、ふたたび加えることで、
歪のみを打ち消すという理論である。

NFBは、その名の通り、出力信号の一部を入力に戻す(バック)することで、特性を改善するわけだが、
歪率を低減化するためには多量のNFBが必要となる反面、1970年代後半に、
マッティ・オタラによって問題提起されたTIM歪に関しては、減らすどころか、発生のメカニズムになっている。

理論としては、先に発明されたフィードフォワード方式が優れていると言ってもかまわないだろう。

Date: 9月 3rd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その38)

マークレビンソンのアンプが登場して、何が変ったかというと、
いくつかあるなかでまず挙げられるのは、それまでオーディオコンポーネント(組合せ)において、
主役はあくまでもスピーカーであったのが、特にML2Lの登場以降、
アンプのほうが主役になってきたように感じている。

さらに80年代にはいり、アポジーのスピーカーの登場で、
低インピーダンス・低能率のスピーカーを十全に駆動するために、パワーアンプの規模が大きくなり、
アンプの顔つきも変ってきたのではないだろうか。

パワーアンプはスピーカーを鳴らすための、ある意味、裏方という考えは、さも古い、といわんばかりに、
パワーアンプが、存在を自己主張しはじめてきた──、そんな印象すらある。

早瀬さんが導入したクレルのEvolution 302は、出力が、8Ω負荷で300W+300Wだから、
お世辞にもコンパクトなサイズとは言えないが、パネルフェイスといい、
ヒートシンクを筐体内におさめたコンストラクションといい、
受ける印象は、どことなく地味で質素なところがあり、オーディオコンポーネントの主役は、
アンプではなく、スピーカーである、と語っているようにも受けとれる。

これは、ダゴスティーノがスピーカーを手がけたことと、決して無関係ではないはずだ。

Date: 9月 3rd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その37)

こんなふうに思いはじめていただけに、この春、早瀬さんと、
JBLの4341 をいま鳴らすとしたら、どんな組合せにするか、どんなアンプをもってくるか、
電話で話していた時、当時のパワーアンプ、SAEのMark 2500やGASのAmpzillaで鳴らすのも、
おもしろいだろうけど、スピーカーという難物を駆動することにかけては、
確実に、現代のよく出来たパワーアンプほうが、過去のアンプよりも優れている。

そんな、現代の優れたパワーアンプのなかから、何を選ぶか。

人の個性を表立って感じさせないブランドのモノを選ぶのも、
ヴェテラン・エンジニアの手によるモノ、
クレル、パスラボ、ジェフ・ロゥランドDGといったブランドから選ぶのも、人それぞれだろう。

早瀬さんが、DD66000のために、クレルとウエスギアンプという、
日米の、ヴェテランエンジニアの手によるアンプを導入されたことを意外に思う人もいるかもしれないが、
私は、すごく納得できるし、興味深く思っている。

Date: 9月 3rd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その36)

優れた処女作がもつ「絶妙な味わい」に惹かれてきたわけだ。

厳密な意味では、いつの時代の、どのアンプの音も、それでしか鳴らし得ない音ではあるのだが、
フィッシャー・ディスカウほどの名歌手が、一生に一度しかうたえない歌という意味では、
処女作の絶妙な味わいが、それに近いといえるのではないか。

クレルにしてもスレッショルドにしても、第二弾、第三弾……と、アンプの完成度は増していく。
それに伴い、絶妙な味わいは薄れていく。
そのことが完成度が高くなっていくことの証なのだが、
だからといって、アンプとしての魅力が、それに比例しているとは、正直、私は思っていない。

そんな私も歳をとった。いろんな音を聴いてきた。
そして、「音で苦労し人生で苦労したヴェテランの鋭い感覚でのみ作り出すことのできる、
ある絶妙の味わい」をもつアンプを、心底、魅力的と思えるようになった。

Date: 9月 2nd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その35)

「音で苦労し人生で苦労したヴェテランの鋭い感覚でのみ作り出すことのできる、ある絶妙の味わい」なんてものは、
しょせん、そのアンプ固有の色づけなのだから、そういうものをアンプには求めない。
求めるのは、極力色づけのない、高性能なアンプという人もいるだろうし、
だからこそ、いくつものメーカーが成り立っているし、競い合ってもいる。

つまり、どちらのアンプが優れているか、という問題ではない。
どちらのアンプを求めるか、の違いがあるだけだ。

私は、というと、「ある絶妙な味わい」のアンプに惹かれる傾向がある。
それも、ヴェテランの鋭い感覚による絶妙な味わいよりも、
どこかに未完成さを残している、初々しさが感じられる絶妙な味わいに、ころっといくことがある。

だからクレルのPAM2とKSA100の音に惹かれたのだし、初期のマークレビンソンのLNP2、JC2にもそれを感じる。
スレッショルドのデビュー作、800Aの、底力を秘めた、どこか清楚な感じのする音も魅力的に思っている。

Date: 9月 2nd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その34)

マドリガル体制になってからのマークレビンソンも、パワーアンプの開発には積極的なのは知っている。
だが、クレル、スレッショルド/パスラボ、ジェフ・ロゥランドDGは、
ひとりのエンジニアがキャリアを重ねていっているのに対し、
いまのマークレビンソンには、そういうエンジニアはいないはずだ。

初期に関わっていたジョン・カール、その後のトム・コランジェロは、かなり以前に離れているし、
No.20L開発の中心エンジニアだったケビン・バーグ(だったと思う)も、いまはいない。

これは国産のアンプメーカーにも同じことがいえよう。
どのメーカーも、アンプ作りのキャリアは長い。
だが、ひとりのエンジニアのキャリアが、同程度長いわけではない。

それではたして「音で苦労し人生で苦労したヴェテランの鋭い感覚でのみ作り出すことのできる、
ある絶妙の味わい」をもつアンプをつくれるのだろうか。

Date: 9月 2nd, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その33)

マッキントッシュが、
さまざまな出力管を使い(6V6、6L6G、6BG6、1614、6550/KT88、7027A、7591、6LQ6/6JE6Bなど)、
回路構成も、位相反転段がオートバランス回路、カソード結合型、P-K分割型があり、
出力段の前段にカソードフォロワーをもってきているものもある。
アンプそのもの規模も、初期の15E-1と真空管アンプの最後を飾ったMC3500とでは、
プリアンプと大型パワーアンプぐらいの違いがある。

クレルもスレッショルド/パスラボがつくってきたパワーアンプも、実に豊富だ。
いろいろなことを試みている。
クレルがModel 250Mで採用した、モノーラル構成ながら、左右対称の筐体構造はじつに意欲的だったし、
パスラボのアレフ・シリーズも、非対称A級シングル動作という、ひじょうにユニークな回路構成となっている。

ジェフ・ロゥランドもそうだ。初期のModel 7、8、9から、一転してパワーICを並列接続したアンプや、
スイッチングレギュレーターもいち早く採用。
さらにB&Oが開発したICEpowerへの注目・採用もはやかった。

こういうヴァリエーションの豊富さは、
ともに創立者がいたころのマランツにもマークレビンソンにはなかった。

クレルも、スレッショルド/パスラボ、ジェフ・ロゥランドDGも、
30年のキャリアの中で、意欲的にパワーンアンプに取り組んでいる。

Date: 9月 1st, 2009
Cate: the Reviewの入力

the Review (in the past) を入力していて……(その32)

優れたコントロールアンプ、そして後々まで語られていく魅力的なコントロールアンプを生みだすには、
どこか才気走ったところが、エンジニア(プロデューサー)には、求められるのかもしれない。
そういう人間に、ひとつのところにとどまれ、というのが、ある意味、無理な要求なのかもしれない。

そういう人間は、ときに、魅力的なモノを生みだす。
だが、瀬川先生がアンプに求められた「音で苦労し人生で苦労したヴェテランの鋭い感覚でのみ作り出すことのできる、
ある絶妙の味わい」となると、どうだろうか。

そういう人間を、ヴェテランと呼べるだろうか。
やはり、いま現役のエンジニアでヴェテランとすなおに呼べるのは、
ダゴスティーノ、パス、それからジェフ・ロゥランドだろう。
特別枠で、ジェームズ・ボンジョルノもあげておく。

みな1970年代のおわりから1980年ごろにかけて会社をつくっている。
30年のキャリアをもっている。