the Review (in the past) を入力していて……(その36)
優れた処女作がもつ「絶妙な味わい」に惹かれてきたわけだ。
厳密な意味では、いつの時代の、どのアンプの音も、それでしか鳴らし得ない音ではあるのだが、
フィッシャー・ディスカウほどの名歌手が、一生に一度しかうたえない歌という意味では、
処女作の絶妙な味わいが、それに近いといえるのではないか。
クレルにしてもスレッショルドにしても、第二弾、第三弾……と、アンプの完成度は増していく。
それに伴い、絶妙な味わいは薄れていく。
そのことが完成度が高くなっていくことの証なのだが、
だからといって、アンプとしての魅力が、それに比例しているとは、正直、私は思っていない。
そんな私も歳をとった。いろんな音を聴いてきた。
そして、「音で苦労し人生で苦労したヴェテランの鋭い感覚でのみ作り出すことのできる、
ある絶妙の味わい」をもつアンプを、心底、魅力的と思えるようになった。