Archive for category 使いこなし

Date: 12月 29th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その19)

いざマイクロのRX5000+RY5500に取り付けてみると、そんなに悪くないことに気づく。
砲金製のターンテーブルは金色、ベースは黒。武骨で素っ気無い雰囲気が、
3012-R Specialの品格を引き立ててくれる感じもする。

信頼できる、とまでいかなくても信用できる音の入口を確保できたという手ごたえはあった。
これがハタチの時である。無理はしていたが、これでロジャースのPM510を鳴らすスタートに立てた。

この時の組合せは、コントロールアンプはJBLのSG520、パワーアンプはEL34プッシュプルのオルソン型。
惚れ込んでいたスピーカーだから、ハタチの若造だったけれど、ここまでのシステムを揃えることができたし、
ここまで揃えるまではPM510を鳴らそうとは思わなかった。

ずっと手に入れたかったスピーカーを、苦労して自分のものにした時、とにもかくにも音を出してみたい、
早くその音を聴きたい、という強い衝動をあえて抑えて、
少なくともその惚れ込んだスピーカーにふさわしい環境を用意できるまでは鳴らさないということが、
スピーカーと良好な関係を作ってくれることになることもある。

あきらかにそのスピーカーの水準に遠く及ばないアンプやプレーヤーを接いで、
最初の出てきた音に失望するくらいなら、私はがまんする、がまんできる。

Date: 12月 28th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その18)

アイクマンがテクニクスのSP10を使っているのを見て、ふっきれたところがある。
3012-R Specialを取り付けたターンテーブルは、マイクロのRX5000+RY5500だった。

ヘッドシェルのことも、じつはあった。
3012-R Specialにっもともよく似合うのは、やはりオリジナルの、あの穴あきのモノ。
オルトフォンのGシェルと基本的に同じ形のこのS2シェルは、音がいいヘッドシェルとはいえない。
ヘッドシェルは、オーディオクラフトのAS4PLを使っていたし、これをそのまま使うつもりでいたけれど、
デザイン的なことでいえば、3012-R Specialにお似合いなわけではない。
だからといって、S2シェルは……。

SPU-Gシリーズを使えば解決なのだが、ユニバーサルトーンアームといえる3012-R Specialでは、
いくつかのカートリッジを交換していきたいと思っていた。

3012-R Specialとのデザイン的な組合せを細部まで追求しようとすることに、
当時は無理を感じてもいた。

だからマイクロでいこう、と決めた。

Date: 10月 22nd, 2009
Cate: 使いこなし
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使いこなしのこと(その17)

かっこいいターンテーブルであれば、3012-R Specialとマッチするデザインであれば、
なんでもいいというわけではなかった。
当然、満足できる、つまり信頼できるモノでなければならない。

だから、ダイレクトドライブ型は最初から除外していた。

見た目だけで選ぶなら、ラックスのPD121のロングアーム版が出てくれていたら、
しかもそれでベルトドライブであったら、決めてしまっていただろう。

早く決めてしまいたい気持は、強くなる。
そこで思ったのは、SMEのアイクマンが使っているのと同じターンテーブルはどうだろう、ということだった。
調べてみると、テクニクスのSP10だった。

白木の大型のキャビネットに、2台のSP10が取り付けられていて、
その下にコントロールアンプが収められているいる写真が見て、すこしふっきれた。

ちなみにアイクマンの、このときのシステムは、
QUADのESLを4段スタックした上で、コーン型のサブウーファーを、センターに2発設置するという、
非常に大がかりな規模のもので、パワーアンプはラックスのM6000(と思われる)。

Date: 10月 22nd, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その16)

SMEの3012-R Specialと組み合わせるターンテーブル選びは、現行製品だけでなく、
ガラードの301やトーレンスのTD124まで範囲を広げてみた。

ちょうど、このころ、BBC仕様というガラードの301が中古市場に現れはじめていた。
塗装がシルバーのハンマートーン仕上げで、心がぐらっときたものの、
301とロングアームを組み合わせると、意外にプレーヤーキャビネットのサイズは大きくなりすぎて、
プロポーション的に、お世辞にもスマートとはいえなくなる。
それに、BBC仕様の301は、当初、相当に高価だった。

トーレンスのTD124に、ロングアーム用のアームベースがあることがわかった。
しかも程度のいいものが、あるところに一台あることもわかった。
譲ってもいい、ということだったけれど、TD124/IIではなく、オリジナルのほうで、
つまりターンテーブルの素材が鉄なのだ。

比較的マグネットが小さいMM型カートリッジであれば問題はないけれど、
内蔵マグネットが大きなMC型カートリッジでは、ターンテーブルに吸いつくため、針圧が増す問題があった。

カートリッジは、EMTのXSD15とオルトフォンのMC20IIが候補だったから、無視できない。

ただ実際にどの程度、針圧が増えるのかは、計測したわけではないのでなんともいえないが、
ただ鉄(磁性体)というのが、なんとなく精神衛生上、ひっかかる。

Date: 10月 6th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その15)

トーレンスのTD226で、もうひとつ気になっていたのは、トーンアームを2本装着できるサイズが、
私にとっては大きすぎたこと。
ロングアームが使える1本アーム仕様のものが出てくれたら、と思っていたら、
わりとすぐにTD127が発表になった。

そんなに高価なものは購入できないし、TD127を目標に貯金に励もう、と考えていたら、
「TD226に1本だけアームをつけて、反対側のアームベースには、
重量バランスをとるためにちょっとしたウェイトを乗せたほうが、
TD127よりも安定感のある音がして、いいんだよ」とさらりと言われた。
井上先生の、この一言で、ターンテーブル選びは振出しにもどった。

TD226のフローティングベースは、当然1本アームのTD127よりも大きく、
重量もその分増しているため、

それとフローティングベースの重量バランスが、
1本アーム仕様のものよりも優れていることも関係しての音の差であろう。

TD226を1本アームで使うのは、使わないトーンアームの共振による影響をなくすためである。

それからもう一言あった。
「TD226もTD127も、螢光灯は、ノイズの発生源だから消しとくんだぞ」
TD226もTD127もレコード盤面を照らすための螢光灯が、ターンテーブルの奥にある。
この螢光灯を灯けると、聴感上のSN比は、たしかに悪くなる。

Date: 10月 1st, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その14)

3012-Rを手に入れたものの、組み合わせるターンテーブルはない。
しばらく、手持ちのオーディオ機器は、トーンアームだけ、という、
他に、こんなヤツはいないであろう、という状況が続いた。

ステレオサウンドで働くようになるまで続いていたから、
はじめての編集後記に、そのことを書いている。

瀬川先生は、3012-Rの試聴は、マイクロのSX8000で行われている。
たしかに音はいいだろう、でも3012-Rの美しさにしっとり似合うかというと、武骨すぎる。
それに高価すぎた。

3012-Rはロングアームだけに対象となるターンテーブルは、どうしても限られてしまう。
そのころ、トーレンスからロングアームが搭載可能なTD226が出ていた。

じつはこれが第一候補だった。
ただ、実物を見ると、木目の、赤みを帯びた仕上げが個人的に受け入れられなかったのと、
3012-Rの美しさが映えるかというと、無難という感じにとどまる。

それでもサウンドコニサーの表紙は、TD226に、3012-R Goldとの組合せ。
金メッキが施された3012-Rだと、TD226の仕上げも気にならない。

とはいうものの、私がもっているのは通常の3012-Rだから、TD226は、私にとって、つねに次点候補だった。

Date: 9月 5th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その13)

3012-R Specialの、瀬川先生の記事を読んだ時のことも、はっきりと覚えている。

「これは、絶対に必要なアイテムだ」と確信し、
とにかく、これだけは真っ先に手に入れておかねば、と思ったのは、
当時のハーマンインターナショナルの広告には、300本の限定販売と書いてあったからだ。

瀬川先生の文章を何度も読み返せば返すほど、それから先、どんなスピーカーを使うことになろうとも、
このトーンアームは絶対に必要不可欠なものはなるはず、とつよく思っていた。
だから、まだアルバイトも始めてなかった学生時代に、9万円弱のトーンアームを、12回払いで買った。
ステレオサウンド 58号を読んだのが1981年の3月。
一カ月後に手にしていたわけだ。

結局、3012-Rは、限定販売でおわることなく、継続して販売されることになったから、
無理して買うこともなかったのだが、
電車で帰宅するまでのあいだ、すこしの衝撃も与えないように、
両手で抱きしめるように持って帰ったものだ。

Date: 9月 5th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その12)

正確に記憶しているわけではないが、
1980年代のシーメンスのコアキシャルの広告に、伊藤先生の達筆で、こんなふうなことが書かれていた。

「ひどいアンプで鳴らされる良質のスピーカーほど、惨めなものはない」

まったくそのとおりだと、その時、思ったことを覚えている。
まだまだま経験の少なかった頃だったが、それでもグレードアップを図っていく順序は、
音の入口からだ、と感じていた。

スピーカーが優秀であればあるほど、アンプやプレーヤー、それに使いこなしの不備をあからさまにすることは、
少し考えれば、すぐに理解できることでもある。
音の入口のクォリティはそれほど重要であり、
だから、音の入口にあたるところは、つねに重視してきた。

東京に出て来た時に、実家で使っていた装置はそのまま置いてきた。
そして、東京で、とにかく、これだけは手に入れておかねば、と思い、
相当無理して買ったのは、SMEの3012-R Specialだった。

Date: 9月 4th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その11)

かなり以前の大型で、高能率のスピーカーは、当時から、うまく鳴らすのが難しい、と言われ続けている。
これに対し、井上先生は、疑問を投げかけられていた。

たしかに、当時は、なかなか、その手のスピーカーはうまく鳴らなかったのは事実だけれど、
それはスピーカーそのものの持つ性格が鳴らしにくいものではなく、
パワーアンプ以前の、装置の不備や、使いこなしの未熟さを、
スピーカーが、なまじ高感度ゆえに、そのままストレートに出していたのではないか、と、
私は、井上先生の言葉を、そう解釈している。

物理的なSN比の高さは、もちろん高能率スピーカーを鳴らす上では重要だが、
聴感上の高SN比も求められる。
このSN比が悪いアンプ(とくにパワーアンプ)をつなごうものなら、それは聴くに堪えぬ音になるだろう。

当時の高能率スピーカーが、いま新品同様のコンディションで存在していたとして、
現代のアンプで、現代のプログラムソースを鳴らしたら、
当時の苦労の多くは、もとより存在しなかったものだったのかもしれない。

あくまでの仮定の話であって、確かめる術は、誰にもないけれど、
それでも、スピーカー以外のオーディオ機器の基本性能が高くなれば、
それだけスタート地点が変ってくることは、確実にいえる。

だから、QUADのESLは、発売された当初よりも、アンプをはじめとする周辺機器の進歩と音質向上にともない、
その評価は確実に高くなっているのは、ESLの真価が、発揮できる環境が整ってきたからである。

くりかえしになるが、これはESLに関していえるのではなく、
ESLと同時代の、当時高い評価を得ていたスピーカーならば、同じことが言えて、当然であろう。

Date: 8月 7th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その10)

The Goldを手にいれたのは、QUADのESLの前のスピーカー、セレッションのSL600を使っていたときなので、
ESLは最初からThe Goldで鳴らしていたわけだ。

このときは気がつかなかったが、好奇心から他のパワーアンプで鳴らしてみたことがあった。
そのとき、この狭い部屋で壁に押しつけるような置き方にもかかわらず、
ESLが、こんなにうまく鳴ってくれていたのは、パワーアンプのおかげ、
つまりThe Goldのおかげ──もちろんそれだけではないのだけれど──が大きかったのだと確認できた。

使いこなしの難しさの要因は、実はパワーアンプにもあるように、そのときから思いはじめている。
ほんとうに優れたパワーアンプを用意できれば、それだけでずいぶんとスタート地点が変わる。
難しさのいくつかが軽減される。これははっきりと言えることだ。

そしてスピーカーに対して、不充分なパワーアンプ(価格的に、という意味ではない)しか用意できなかったときは、
使いこなしの難しさは、ただ増すばかりともいえよう。

Date: 6月 22nd, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その9)

たとえばコンデンサー型スピーカー。
一般には、後面からも音を放射しているため、
できるだけ後面の壁からは距離を取り、というふうに言われてきている。

QUADのESLを、約5.5畳ていどの狭い部屋で聴いた経験から言えば、必ずしもそうでもないよ、と言いたい。

瀬川先生の影響もあって、まずスピーカーは、部屋の長辺の壁側に置く。
できるだけ左右のスピーカーの間隔を広げたいためでもあり、
私の経験でも、そんなに多くの部屋で鳴らしているわけではないが、
やはり部屋を横長に使ったほうが、低音の鳴り方の自然さ、伸びやかさを含め、好結果が得られる。

だから、ESLも、そのように置いた。だからESLの内側の縁は、
ほとんどスピーカー後の壁にくっつくかどうかのところまで、近づけて置くしかなかった。

このときの音を実際に聴いていない人は、この置き方をみただけで、ひどい音がするんだろうな、と判断するだろう。
でも、くり返しになるが、スピーカーの置き方に定石はない。

ESLは、実に伸びやかな音を鳴らしてくれた。
このとき使っていたパワーアンプはSUMOのThe GOLDである。

Date: 6月 21st, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その8)

インターナショナルオーディオショウのブースは、音響処理が施されているわけでもないし、
あれだけ広く大きな施設だから、電源事情もあまりよくないと言われている。

しかもショウの前日に器材やらを搬入してセッティングして、というように時間の余裕はそれほどない。
だからいい音なんか出せるわけない、とは、少なくとも、どのブースのスタッフも、口にしないはずだ。
どのブースも、スペースの大小はもちろんあるが、基本的な条件は同じ。
そのなかで、毎年の経験を積み重ねていくことで、それぞれにコツを掴んでいるのだろう、
ショウの期間中、聴き惚れる音を出してくれるところが、いくつか出てきている。

スピーカーが毎年同じモノなら、音出しの苦労もすこしは軽減されるのだろうが、
ショウは新製品のお披露目の場でもあり、ぎりぎり間に合ったというスピーカーもある。

そういうスピーカーでも、ごく短時間のうちにセッティングしなければならない。
セッティングし音出しをしていく過程で、スピーカーの素性を捉えていく作業が要求される。

しかもスピーカーのセッティングに、定石はない。
せいぜい左右のスピーカーの条件をできるだけ揃えることと、
ガタつきなくセッティングすることであろう。

Date: 6月 20th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その7)

そのブースの音に関しては、2007年だけでなく、いままで聴き惚れる音が出ていたためしがない。
だから、ずっと、この会社(仮にA社としておこう)のスタッフには、
きちんとオーディオ機器をセッティングできる人がいないんだろうな、と勝手に決めつけていた。

でも、どうやら違うようなのだ。
A社の社長(Bさんとしよう)は、そのへんの事情に詳しい知人(Cさん)から、つい最近きいた話では、
チューニングのテクニックが豊富な人だということだ。

Cさんは、Bさんのリスニングルームに行き、そのテクニックのいろいろを、その目で見て、
耳ですごさを実感した、と力説してくれた。
Cさんの言葉を疑う理由もないし、おそらくCさんの言うとおりなのだと思う。

ならば、なぜA社のブースの音は、いつになっても、音楽に聴き惚れさせる音を出しえないのか。

Date: 6月 20th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その6)

そのブースに入ったとき、何の曲が鳴っているのか、正直、すぐにはわからなかった。
しばらくして(といっても10秒もたたないうちにだが)、「もしかしてベートーヴェン?」と思った。

そういえばコリオランの序曲である。
またしばらくして「これって、コリン・デイヴィスの演奏?」と思った。

そのくらい違う音楽に聴こえた。
つまり音のバランスがとれているとか崩れているとか、そういった音の良し悪しではまったくなく、
ベートーヴェンの音楽が変質してしまっている。
音楽性が歪められている、といってもいいだろう。

なぜ、こんなふうになってしまうのだろうか……、と逆に関心が湧いてくるほどの、変りようだった。

Date: 6月 19th, 2009
Cate: 使いこなし

使いこなしのこと(その5)

2007年のインターナショナルオーディオショウで、いちばん耳にした曲は、
そのすこし前に、エソテリックから菅野先生のリマスター監修で発売になったばかりの
サー・コリン・デイヴィスのベートーヴェンのコリオラン序曲だった。

この曲が鳴っていると、どこのブースに入っても、「あっ、ベートーヴェンだ、コリオランだ」とすぐにわかる。
すこし聴くと、これまたコリン・デイヴィスの演奏だと気がつく。

このSACDが発売になる前に、菅野先生のリスニングルームで3回聴いている。
コリオランだけでなくエグモントも聴いている。
だから、このディスクに関して菅野先生のリスニングルームでの鳴り方が、
私の中ではリファレンスになっている。

各ブースの音の良し悪し、というよりも、音の特徴、個性が、おかげでよく掴めた。
ここでは、どこのブースの音がこうだったとか、あそこのブースが音がよかった、とか言いたいのではなく、
あるブースで鳴っていた音を聴いて、すこし考えてしまったことを書いていく。