Archive for category 4343

Date: 2月 25th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その6)

ステレオサウンド 47号には、前号(46号)の特集、モニタースピーカーの測定結果が掲載されている。
この測定結果も実に興味深いものだが、ここではその一部、つまり2405に関することだけを書く。

47号には10機種(アルテック602A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンMonitor1、JBL・4333A、4343、
K+H・O92、OL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M)の実測データが載っている。
これらのデータで首を傾げてしまったのが、4333Aと4343の超高域周波数特性だった。
いうまでもなく4333Aと4343のトゥイーターは2405。
なのに実測データをみると、同じトゥイーターが付いているとも思い難い違いがあった。
4333Aと4343ではLCネットワークに違いはあるというものの、2405に関してはローカットだけであり、
47号に掲載されている超高域周波数特性の、
それも20kHz以上に関してはLCネットワークの違いによる影響はないもの、といってよい。
なのに、47号のデータはずいぶん違うカーヴを描いている。

もしかすると2405のバラツキなのかも……、と思ったりしたが、確信はなかった。
ステレオサウンドで働くようになって、2405はバラツキが意外と多い、という話も耳にした。
このときはそうかもしれないぁ、ぐらいに受けとめていた。

ステレオサウンドを離れてけっこう経って、ある方からある話を聞いた。
実はNHKはJBLのスタジオモニターの導入を検討していたことがあった、という話だった。
最終的にはJBLは採用されなかったのだが、その大きな理由が2405の、予想以上のバラツキの大きさだった。
導入台数が1ペアとか2ペアといったものではなく、
ひじょうに大きな台数であっただけにバラツキの大きさは無視できない問題となった、ときいた。

結局、2405の、それもアルニコ時代のものは、
クサビ状イコライザーとダイアフラム間の精度(工作精度、取付け精度)にやや問題があり、
周波数特性でのバラツキが出ていた、らしい。
(おそらく、この問題はシリアルナンバーが近いから、連番だから発生しない、ということではないはずだ。)
この点は後期のものでは改良されたようで、
それがいつごろからなのかははっきりしないものの、
少なくともフェライト仕様の2405Hでは解消されている、ときいている。

もちろん2405のアルニコ・モデルすべてに大きなバラツキがあるわけではないけれど、
バラツキのまったくないスピーカーユニットというのも、少し極端な言い方をすれば、ひとつもない、といえる。
スピーカーユニットは、大なり小なりバラついているモノである。

この事実を、どう受けとめるかは、結局はその人次第のはずだ。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その5)

JBLのトゥイーター、2405を最初に写真で見た時、
ホーン型といわれてもすぐにはどういう構造なのか理解できなかった。
JBLのホーン型トゥイーターの075は写真を見れば、すぐにわかる。
それに較べると2405は、不思議な形をしているものだ、と感じた。

仮に075が2405と同じ周波数特性をもっていたとして、
4343のトゥイーターとして075(そのプロ仕様の2402)がついていたら、
4343の印象とずいぶんと違ったものになっていたことは間違いないし、
そうだとしたらステレオサウンド 41号の表紙を見た時に、これほど強くは魅かれなかった可能性もある。

2405は、075とは違う系統のトゥイーターのようにも思えていた。
だとしたら、2405はどうやって生れてきたのか。

10年ほど前か、2405は最初オーディオ用のトゥイーターとして開発されたものではなくて、
警察がスピード違反を取り締まるため、その測定用のモノとしてつくられ、
聴感上も特性上も好ましいモノだったので、のちにオーディオ用として使われていった、という話を聞いた。

この話をしてくれた人も細部の記憶があやふやで、それが事実なのかはっきりとはしなかった。
075の形、2405の形を見れば、それも頷けるものの、もっとはっきりとしたことが知りたかった。

スイングジャーナル 1978年6月号にJBLproのゲイリー・マルゴリスのインタヴュー記事が載っている。
そこに24045のことが語られている。
     *
最初このツイーターは、ある鉄道会社の依頼で列車の連結台数を数える超音波の発信器として作ったのですが、これが特性的にも聴感的にも優れたもので、現在2405と呼ばれるものです。
     *
2405についての話は細部は違っていたものの、
もともと測定用の超音波発生器として開発されたものであることは事実だった。

Date: 9月 29th, 2011
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その14)

それでは瀬川先生の音のバランスの特長は、どこにあるのかといえば、
それは、基音(ファンダメンタル)と倍音(ハーモニクス)とのバランスにある、と推断する。

これを理解できずに、瀬川先生の出されていた「音」を、周波数スペクトラム的な観点から、や、
使用されていたオーディオ機器への観点から追い求めても、まったく似ても似つかぬ(ただの)音になってしまう。

残念なのは、基音と倍音のバランスの観点(感覚)から、
実際に瀬川先生の「音」を聴かれた人の、瀬川先生の「音」について語られているのが、ない、ということだ。

Date: 9月 26th, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々続々余談)

このレベル調整の大事なところのひとつは、ものには順番がある、ということ。
これは、スピーカーシステムのレベル調整だけではなくて、システム全体の調整についても同じことがいえる。

基本的にシステムの調整は、音の入口側(上流側ともいう)、
つまりアナログプレーヤー、CDプレーヤーから手をつけていく。
ここが一通り終ったら、次はアンプにうつり、スピーカーシステムへと手をつける。
長年愛用してきて、ずっと調整をしてきたシステムであれば、どこか一箇所に手をつけることのほうが多くなるが、
システムを構築したばかりのころは、今日はアンプ関係を、明日はスピーカーシステムを、と、
気のむくままにあちこちに手をつけるのではなくて、基本にしたがい音の入口側からきちんとやっていく。

スピーカーシステムのレベルコントロールの調整も同じで、
初めて鳴らすスピーカーシステムで、しかも4343のようにレベルコントロールが3つのあるような場合、
音を鳴らして気になった帯域を気のむくままいじっていても、全体のバランスをうまくとることはむずかしい。
めんどうくさいと感じても、ここでも順番を守って調整していくことで、基本的なバランスを得られる。

この基本的なバランスを得ずに、気の向くままいじっていては、オーディオはいつまでたっても泥沼のままだ。
とにかく基本的なバランスを最初に得ることが大事である。
そして、低音を基本として、という意識をつねにもっていたい。

低音こそ音楽の土台であり、この土台をしっかりと構築していくことが基本である。
土台をいいかげんなままにしておいて、その上に築き上げられる帯域をあれこれいじっても、うまくいくわけがない。
そうやっていても、たまたまうまく鳴ることがあるけれど、ほかのところをいじって、その音がくずれたとき、
もう一度、その音を再現できるかというと、難しいはずだ。
それは土台となる低音域が構築されていないからである。

五味先生は「音の清澄感を左右するものは、低音である」と「五味オーディオ教室」に書かれていた。

低音という土台・基本を出発点としているならば、この言葉を実感できるはずだ。

Date: 9月 26th, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々続余談)

ミッドバス(2121)のレベル調整がいちおう決まったら、
次はミッドハイのレベルコントロールを上げていきレベル調整を行う。
ここでも、くり返すが、モノーラル音源を使うことを忘れないこと。

ミッドハイのあとはトゥイーター(2405)のレベル調整を行う。
もちろん、ここでもモノーラル音源を使う。

モノーラル音源は、なにもモノーラル録音である必要はない。
コントロールアンプにモードスイッチがついていれば、モノーラルにすればいい。
思い出してほしいのは、コントロールアンプについている機能は、
音を調整していくためにも必要な機能でもある、ということだ。

こうして4343を構成する4つのスピーカーユニットのレベル調整が終ったら、
しばらくの期間は、好きな音楽を聴いて過ごすのがいいと思う。

もちろんモノーラルでのレベル調整を終えた後にステレオで再生して、さらに細かいレベル調を続けて行っていい。
けれど、トゥイーターのレベル調整を終えるのに、ひとりでこの作業を行っているとけっこうな時間をとらえる。
誰か協力してくれる人がいて、4343の脇でこまかくレベルコントロールをいじってくれる人がいれば、
椅子から立ち上らなくても済むだけでなく、それ以上にレベル調整の作業ははかどるものである。

でもひとりだと、そうはいかない。
何度も何度も椅子から立ち上り4343のところへ行きレベルコントロールを動かしては、
また椅子に坐り音を聴き……、をくり返さなければならない。

まとまった時間のとれた時にこの作業を行ったとして、けっこうくたくたになる人もいるはず。
2405のレベル調整を終えた時点で疲労を感じていたら、その日はもうやめたほうがいい。

微調整は残っているとはいえ、ここまできちんと調整を行っていれば、
4343が変なバランスで鳴っている、ということはないからだ。

Date: 9月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々余談)

ここからのレベル調整で気をつけたいのは、レベルコントロールの位置を左右で合わせようとしないこと。
スピーカーユニットにはバラツキがある。
これは以前も書いていることだが、
JBLはスピーカーユニットに関しては、生産上の能率差を±1dBを許容範囲としている。
もっともこれは4343をつくっていた頃の、
JBL proのアプリケーション・エンジニアのゲーリー・マルゴリスの発言で、いまのJBLがそうだということではない。

けれど4343の時代では、最大で2dBの能率差が生じることもあるわけだ。
ステレオサウンドで使っていた4343、4344ではコーン型ユニットに関しては能率差は感じなかったが、
ドライバーユニットに関してははっきりと認められるだけの能率差があった。

だから前回の補足になるが、ウーファーだけを鳴らしたときも、
できれば左右の音圧差がないかどうかチェックしておきたい。
このときプログラムソースはモノーラルのものを使った方がいい。
これは、マルゴリスも、ステレオサウンド 51号掲載の4343研究の中で語っていることだ。

左右一本ずつでの音出しをし、モノーラルでの両チャンネルの音出しで中央に音源が定位するようにすること。
場合によってはアンプのバランスコントロール、
もしくはパワーアンプの入力レベルコントロール(左右独立調整のもの)での調整が必要になるかもしれない。

ミッドバス(2121)のレベルコントロールも同様で、モノーラルの音源を用意しておきたい。
モノーラル1本ずつでレベルを調整し、モノーラル音源の中央の定位が明確になるようにしていく。

ウーファーをネットワーク通さずに鳴らしたときと、
ネットワーク通しミッドバスまで鳴らしたときの再生帯域はそう違わない。
けれど、実際にこのふたつの音を比較すると、大きな違いがある。
片方はネットワークを経由していないウーファーだけの音、
もう片方は3つのフィルター(ウーファーのハイカット、ミッドバスのローカットとハイカット)を通って、
しかも2つのスピーカーユニットが鳴っているわけだから、違いがあって当然なのだが、
このときの音の違いは記憶しておきたい。

Date: 9月 21st, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続余談)

4343のウーファー2231Aが弾むような感じでうまく鳴ってくれるところ、
音楽を聴いて手応えを感じられるような音で鳴ってくれるところが見つかったら、
ここで床からの距離を試してみる。

最初から1cm刻みで高さを変えていくという人もいるだろうが、
最初は5cm単位、10cm単位ぐらいでいい。
それで床に直置き、5cmあげた状態、10cmあげた状態、15cmあげた状態の音を聴いて、
たとえば床直置きと5cmあげた状態、どちらか迷うのであれば、その中間を試してみる。
このとき4343をもちあげる台は、まず木のブロックがいい。
もちろんほかの材質のブロックを使ってもかまわないが、
最初は同じ材質で高さの違うブロックを用意しやすいということで、木をすすめる。

この時点で、ウーファーを固定しているネジの締付け具合による音の変化も確認しておきたい。
しっかり締めた状態、すこしゆるめた状態、あきらかにゆるめた状態の音を聴いて、
音楽のメロディが明瞭に聴こえるところにしておく。
締めつけすぎはよくないが、しっかり締まっていなければ、音楽のメロディは明瞭に聴こえてこないはずだ。

ここまでやって、これから上3つのユニットのレベル調整にとりかかる。
ここからはバイアンプ駆動のロータリスイッチを通常のポジションに戻す。
ミッドバス(2121)、ミッドハイ(2420)、トゥイーター(2405)のレベルコントロールは完全に絞っておく。
そしてミッドバスのレベルコントロールをあげていく。ウーファーとのバランスをはかりながら調整していく。
ミッドバスのレベルをあるところまで調整できたら、ここでもミッドバスを固定しているネジ締付け具合を調整する。

だからといって、ここでものすごいこまかい微調整まで行わなくてもいい。
まだチューニングの途中なのだから。

Date: 9月 21st, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・余談)

低音域こそが土台であり基本であり、そこに、その上の帯域を築いていく、ということは、
なにも既存のスピーカーシステムにスーパーウーファーを加えて調整するときだけでなく、
既製品のスピーカーシステムについても同じことだ。

今年の2月から毎月第一水曜日に四谷三丁目の喫茶茶会記で行っている公開対談の前々回で、
JBLの4343をどう鳴らすのかをテーマにしたときにも話したことだが、
4343の調整方法として、こういうやり方もある。

4343はバイアンプ駆動が行えるようになっている。
リアバッフルの入力端子の近くに、
マイナスドライバーで切り替えられるようになっているロータリースイッチがある。
これをまずバイアンプ駆動のポジションにする。
そしてパワーアンプからのスピーカーケーブルは下側の端子(つまりウーファー用の端子)に接ぐ。
ウーファーの2231A(もしくは2231H)をフルレンジとして鳴らすことになる。

ボイスコイルボビンとコーン紙との接合部分に、
f0を下げるためのマスコントロールリングが装着されている2231Aだから、
2220やD130のウーファー版の130Aのように、
またはアルテックの515のようにある程度まで中高域まで伸びているわけではないが、
高域は完全に不足しているものの、音楽のメロディは聴きとれる。
この状態で、4343の設置場所をあれこれさぐる。
つまりウーファー(低音域)ができるだけよくなるところをさぐりだすわけだ。

スピーカー背面の壁からの距離、左右の壁からの距離をあれこれ試す。
このときは、床に直置きでもかまわない、というか、直置きのままのほうが動かしやすく、
最適もしくは好適な場所をさぐりやすい。

床からどのぐらい離すかは、最初にやらなくてもいい。
もちろんブックシェルフ型のスピーカーシステムだったら別だが、
4343は4面仕上げしてあるとはいうもののフロアー型スピーカーシステムであるからだ。

Date: 7月 23rd, 2011
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その13)

瀬川先生が4ウェイ・スピーカーシステムについて語られるのを、
単に周波数特性(振幅特性)の見地からでしか捉えてしまっている人がいる。
そうなってしまうと、瀬川先生がなぜ4ウェイのスピーカーにたどり着かれたのかを見落してしまうことになる。

「瀬川冬樹に興味がないから、別にそんなことを見落してもどうでもいいこと」──、
そんなふうなことが向うから返ってきそうだが、スピーカーシステムに関心があり、
ステレオ再生における音像の成り立ちに肝心がある人ならば、瀬川先生の4ウェイ構想から読み取れるものはある、
読み取れるはずである。

スピーカーの理想像は人によって一致しているところとそうでないところがある。
だから瀬川先生の4ウェイ構想に全面的に同意できない人がいて当然である。
完全なスピーカー構想というものは、まだまだ存在していないのだから。

それでも、あの時点で、なぜこういう4ウェイ構想を考えだされたのかについて考えてゆくことは、
スピーカーの理想について考えていく上でも意味のあることだと思っている。

それに瀬川先生の4ウェイ構想は、
瀬川先生がどういう音(広い意味での「音」)を求められていたのか知る重要な手がかりでもある。

瀬川先生の鳴らされていた音のバランスは、瀬川先生にしか出せないものだった、ときいている。
ただ、このことを鵜呑みにしてしまうと、
いつまでもたっても瀬川先生の音がどういうふうに鳴り響いていたのかはつかめない。

瀬川先生は4343、4345についている3つのレベルコントロールはほとんどいじっていなかった、と発言されている。
つまり周波数スペクトラム的な音のバランスに注意して聴いていても、
そしてそれによる瀬川先生の音を表現した言葉を聞いていても、すこしもそこに近づいたことにはならない。

このブログを書くためにも、瀬川先生の「本」をつくるためにも、
瀬川先生の書かれたもの、語られたものに集中的にふれてきて、
そして10代のころからずっと思い考えてきたことから、実感をもって言えるのは、
瀬川先生の音のバランスの特長は、周波数スペクトラム的なこととは違うところにある、ということだ。

だから、あの時点での4ウェイ構想だ、と理解できる。

Date: 7月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・モアレ音響について)

音のモアレ効果について調べていくと、作曲家の住谷智氏が、
1960年代に、音にもモアレ効果があることを発見され、
音響の多層化(モアレ・サウンド)と名づけられ発表されている、ということがわかった。
論文も発表されている、とのこと。
住谷氏の「降り注ぐ流星群」という作品は、モアレ音響を使ったものらしい。

住谷氏がモアレ・サウンドと呼ばれている効果と、
私がジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットの音を聴いて感じ思ったモアレ的な効果とが、
まったく同じものなのか、ある程度同じものなのか、それともまるっきり違うものなのかは、
住谷氏の論文を読んでいないので、何もはっきりしないが、
真のステレオ再生にとって、精確でどこにも乱れのない波紋が、
左右ふたつのスピーカーから放射されることが、通常思われている以上に重要なことは共通している気がする。

Date: 7月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その12)

オーディオの解説書やカタログなどで、スピーカーからの音が放射される様を弧を描いて表している図がある。
スピーカーから出た音が、きれいな等高線のように描かれ、ステレオだから、とうぜんスピーカーは2本あり、
この等高線のようなきれいな弧は中央で重なり合う。
そこには交点が生れ、等高線は編目のようになっていく。

実際のスピーカーからの音は、これほどきれいな弧を描いているわけではない。
それでも、こういった図を見ていると、モアレについて考えてしまう。

ステレオ再生で、ふたつのスピーカーのあいだに、なぜ音像が浮び上るのか。
このこととモアレが結びつく。
オーディオでは、ふたつのスピーカーからまったく同じ音が放射されることは、まずない。
そのために左右のスピーカーの交わるところでは、ずれ(のような)ものがある。
そのずれ(のような)ものが、視覚的なモアレ同様、音像を立体的に錯覚させているような気がする。

もしそうだとしたら、モアレをより効果的にするためには、それぞれのスピーカーから放射される音が、
微細なところまで、しかも広範囲にわたって乱れのない、
それこそ絵に描いたような等高線を思わせるような波形・放射パターンでなければならないはず。
周波数によって弧が歪んでいたり、スピーカーの正面では比較的きれいな弧でも周辺にいくほど乱れていては、
モアレは最大限の効果を生まないどころか、音像そのものを歪めてしまうことになりはすまいか。

ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットによる優れた音を聴いていると、
そういうことをつい思ってしまう。
DDD型ユニットからは美しい波紋が、左右からまわりに広がっていく。
スピーカーの中央で、直接音(波紋)が重なり、壁に反射した音(波紋)もまた重なり合う。
それらがうまく作用したときに、輪郭線を感じさせない、まさに立体的な音像が目の前に再現される。

このモアレに似た作用を実現するためにも、指向特性は非常に重要な項目となってくる。

Date: 6月 23rd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その19・補足 2440のこと)

JBL初の4ウェイのスピーカーシステム、
4350のミッドハイを受け持つコンプレッションドライバー2440につながるネットワークはハイパスのみだと書いた。

4350の後継機4355では2440から2441に変更され、ネットワークもハイパスもローパスもある。
一般的なネットワークと同じ仕様となっている。

2440の周波数特性のグラフを見ればわかるように、ほぼ10kHz以上急峻にレスポンスが低下する。
ほぼ垂直に音圧が減衰している。
このような特性であれば確かにローパス(ハイカット)フィルターは不要かもしれない。
ネットワークでカットするよりもずっと急峻なカーヴで減衰しているからだ。

2441はダイアフラムのエッジをダイアモンド(折紙)状にすることで、高域のレスポンスを広げている。
2440と2441の周波数特性のグラフを重ねてみると、2441の高域の延びはあきらかだが、
4〜5kHzからはなだらかにレスポンスがさがっていく。
このあたりの帯域から10kHzまでのレスポンスをくらべると2440のほうがフラットといえる。

2440と2441の相違点は、ダイアフラムのエッジのみ、であったはずだ。
なのにこれだけ高域の周波数特性において違いが生じている原因は、
2440(375もそうだが)は、エッジの共振点を9.6kHzに設定しているからである。

だから2440(375)の周波数特性は10kHzで肩を張ったようになっている。
肩を張ったような特性だから、
2441(376)よりも再生限界の10kHzまで2440(375)のほうがフラットに近い、というわけだ。

10kHzまでほほフラットで、それから上の帯域では急激にレスポンスが低下するのであれば、
ネットワークのローパスフィルターが不要になるし、なんら問題がないように思えるが、
共振を利用したものは、その共振の悪影響が音として現れる。
2440(375)ではエッジの共振周波数(9.6kHz)あたりが耳につきやすくなることは容易に想像できる。

ここが4350の鳴らし込みの難しさと面白さに大きく関係している、と思っている。
2440の周波数特性を利用してネットワークのローパスフィルターを省いた良さと、
9.6kHzのエッジの共振が耳につきやすいという悪さが同居している。

ならば2440にローパスフィルターを加えればすべて解決するかというと、そうはならない。
2405とのクロスオーバー周波数9kHzである以上、ネットワークでどうこうできる問題ではない。

ではどうしたらいいのか。
ていねいに鳴らし込んでいくしかない。

Date: 3月 10th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その11)

スピーカーシステムの後側の壁面が大きなガラスだったら、
ほとんどの人が嫌がるだろうし、実際ガラスとの距離がそれほど確保できない場合は、そのままでは耳障りになる。

ジャーマン・フィジックスのDDDユニットが、
ほかのスピーカー(つまりピストニックモーションによるもの)と大きく異るのは、まずここだ。
水平方向には無指向性があるから、ガラスのような反射壁に近づけたら、
フロントバッフルにのみスピーカーユニットがある通常のものよりも、
ガラスからの反射が多くなりよけいに耳障りな響きがのってくる、と思いきや、
実際には響きが豊かになるけれど、耳障りな響きが増すわけではない。

推測にしかすぎないが、
おそらくDDDユニットから放射されている波面がきれいに広がっていっているためだと思っている。

水面に石を落す。
波紋がきれいに広がっていく。石を複数落していくといくつもの波紋ができ、ぶつかりあう。
ぶつかることで波紋が乱れるかといえば、そんなことはない。

DDDユニットを壁にぐんと近づけても、いやな響きがのりにくいのは、このことと関係している気がする。
おそらくDDDユニットから放射される音の波面を真上からみたとしたら、
水面にできる波紋と同じようにきれいに広がっていっているのだろう。

乱れがない(極端に少ない)から、壁に当っても反射されてくる波面も乱れが少ない。
だから壁の素材の固有音に起因するいやな響きがのりにくい。
私は、そう考えている。

まわりの壁の影響を受けやすいスピーカーは、波面の乱れが大きい(汚い)せいではないのか。

Date: 3月 9th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その10)

スピーカーの指向特性については、人によって意見が分かれる。
広ければ、直接音に対する壁からの反射による間接音の比率が増えてくるわけだから、
それだけ部屋の影響を受けやすくなる。
それに聴くのは、つねに左右のスピーカーから等距離でいつも聴いているから、
むしろ狭い方がいいくらいだ、という声は、ずいぶん昔からある。

ときには、こんな声もある。
楽器に無指向性のものはないのだから、無指向性スピーカーのどこに意味があるのか、と。

だが、ほんとうに指向特性のいいスピーカー、もっとも優れている無指向性スピーカーは部屋の影響を、
より受けやすいのか。つまりいい部屋でなければ、うまく鳴らないのか。

たとえば以前からあったビクターのGB1や、
比較的新しいところではソリッドアコースティックスの12面体のスピーカーが、
いわゆる無指向性スピーカーと、なぜか呼ばれてきている。

これらは小口径のフルレンジスピーカーを多面体のそれぞれの面にとりつけたものにしかすぎず、
決して無指向性スピーカーではない。
これらのスピーカーを無指向性スピーカーとするならば、確かに部屋の影響は受けやすいだろう。

でも、ジャーマン・フィジックスのDDDユニットのように、水平方向のみではあるが、
真に無指向性スピーカーは、何度か聴く機会があり、セッティングを自由に変えてみることもできた。
だからいえるのだが、DDDユニットは、むしろ部屋の影響を受けにくい。

過去のオーディオの常識にとらわれていると、そうは思えないことだろうが、事実だ。

Date: 2月 19th, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その9)

瀬川先生の4ウェイ構想は、
各帯域を受け持つスピーカーユニットをできるだけピストニックモーションの範囲内で使いたいがため、
たいてい、こう受けとめられている。

それは誤解とまではいえないけれど、
瀬川先生の4ウェイ構想は、ピストニックモーションと同じくらい、指向特性を重要視しての結果であることが、
意外に見落されている。

私は、むしろ指向特性の方をより重視されていると受けとっている。

私が読んだ瀬川先生の4ウェイ構想は、
ステレオサウンド別冊のHIGH-TECHNIC SERIES-1に掲載されてたもので、
そこでは指向特性については、それほど触れられていない。
私も、最初読んだときは、ピストニックモーションの追求しての構想だと受けとっていたし、
その後、数年間はそう思い続けてきた。

けれど、瀬川先生の書かれたものを広く読んでいくと、
そのなかでも瀬川先生のリスニングルームの環境について書かれたものを読んでいくうちに、
スピーカーの指向特性をひじょうに重要視されていることがわかってきた。