Archive for category 電源

Date: 4月 17th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その5)

位相反転にオートバランス回路を採用しているのは、
伊藤先生による349Aプッシュプルアンプもそうである(つまりウェストレックスのA10、A11も、である)。

伊藤先生の349AではここにE82CC(A11では6SN7)を使われている。
E82CC、6SN7、どちらも三極管である。
QUAD IIにはEF86、五極管で、回路を比較していくと、
単に三極管と五極管の違いだけとはいえない違いがあるのに気がつく。

2本のEF86のスクリーングリッドがコンデンサー(0.1μF)で結ばれている。
いうまでもなく三極管にはスクリーングリッドはないわけで、
伊藤先生の349Aアンプには、この0.1μFに相当するコンデンサーは存在しない。

オートバランスの位相反転回路の動作からいって、このコンデンサーの必要性はない。
にもかかわらずQUAD IIには使われている。

オートバランスという位相反転回路は、プッシュプル回路の上下(+側と−側)において、
信号が通る真空管の段数に違いが生じる。

通常回路図は左端が入力で横方向に信号が流れるように描かれることが多い。
プッシュプル回路の場合、上下に真空管が配置されることになる。
それで上の球、下の球という表現がなされるわけで、
ここでも上の球、下の球という表現を使って説明していく。

QUAD IIでは入力信号はまず上側のEF86で増幅される。
この出力は上側のKT66に接続される一方で、抵抗ネットワークによって分割・減衰された信号が、
下側のEF86に入力される。
つまり上側のEF86での増幅された分を抵抗ネットワークで減衰させ、
上側のEF86に入力された信号レベルと同じにするわけだ。

下側のEF86で増幅された信号は下側のKT66へと行く。
つまり上側のKT66にいく信号はEF86を一段のみ通っているのに対し、
下側のKT66への信号はEF86を二段(プラス抵抗)を通っていることになる。

Date: 4月 15th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その4)

QUADの真空管アンプの回路のユニークさについての解説は、
ステレオサウンド別冊「往年の真空管アンプ大研究」に掲載されている石井伸一郎、上杉佳郎、是枝重治、三氏による
「QUADII+22の回路の先見性・魅力の源泉を探る」をお読みいただきたい。
(すでに絶版になっているが現在は電子書籍で入手できる)

これまでQUADの真空管アンプの回路について解説は、いくつか読んだことがある。
それでもはっきりとしないことがいくつもあって、それらがほとんどはっきりしたのが、この本のこの記事である。

QUADの真空管アンプの回路のユニークさについてこまかく解説していこうとすると、
それだけでけっこうな文量になるし、その多くを「往年の真空管アンプ大研究」から引用することになる。
なのでQAUDのアンプの詳細について知りたい方は「往年の真空管アンプ大研究」を参考にしてほしい。

「往年の真空管アンプ大研究」のQUADを記事を読んで、改めて思ったのは、
ピーター・ウォーカー氏は、五極管を使いこなしに長けていた人ともいえることだ。

コントロールアンプの22のフォノイコライザーは五極管EF86を1本だけで構成している。
しかも長年22のフォノイコライザーに関しては、CR型なのかNF型なのか、議論されてきていた。
それでも納得のいく答を出せていた人はいなかった(少なくとも私が読んだ記事の範囲においては)。

フォノイコライザーを真空管1本だけ(1段)だけで構成するのは、
三極管では増幅率が低く、まず無理であり、五極管を使うしかない。
三極管の2段構成すればもちろん可能になるわけだが、ピーター・ウォーカーはあえてそうしていない。

パワーアンプのQUAD IIもそう。
QUAD IIには三極管は使われていない(22はラインアンプはECC83の2段構成)。
初段は22のフォノイコライザーと同じEF86を2本使い、
基本的にはオートバランス型と呼ばれる位相反転回路となっている。

けれど、ここが22のフォノイコライザー同様、迷路的な回路となっていて、
なかなかその正体(動作)が把握しにくくなっている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その3)

QUADの50Eの増幅部の回路構成は、
P-K分割の位相反転回路をもつ真空管のプッシュプルアンプの増幅素子をトランジスターに置き換えたもの、
ということで説明できるわけだが、
このことをQUADのアンプの変遷のなかでみていくと、
そこには創立者であるピーター・ウォーカーのしたたかさと柔軟さ、とでもいうべきなのか、
そういう面が浮び上ってくる。

QUADは1948年に最初のアンプQA12/P(インテグレーテッドアンプ)を出している。
KT66のプッシュプルアンプということ、それにモノクロの写真以外の資料はなく、
どんな回路構成だったのか、以前は不明だったのだが、
いまは便利なものでGoogleで検索すれば、QA12/Pの回路図は簡単に見つけ出せる。

その後1950年にQUAD Iを、1953年に今でも良く知られているQUAD IIを発表している。

この3つのアンプの回路図を比較すると、すでにQUAD IIに至る出発点としてQA12/Pが生れていたことがわかる。
なので、これからはQUADの真空管アンプ=QUAD IIとして話を進めていく。

50Eは真空管アンプのプッシュプル回路と基本的には同じである──、
実際にそうなのだが、だからといってQUAD IIの回路と同じかというと、まったく違う回路である。

真空管時代のQUADのアンプは、コントロールアンプの22にしても、パワーアンプのQUAD IIにしても、
細部をみていけばいくほど、「?」が浮んでくる、そういう回路構成となっている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その2)

私がQUADの50Eの存在を知ったのは、ステレオサウンド 43号に載った記事である。
「クラフツマンシップの粋」という連載記事で、鼎談形式により過去の銘器について、
その時点の視点から捉え直そうというもの。

43号ではQUADの管球式アンプがとりあげられていて、
最後のところでQUAD初のソリッドステートアンプの50Eについても語られている。

山中先生の発言をひろってみる。
     *
この50Eというアンプは、いままでのパワーアンプと違って(註:QUADのそれまでの管球式アンプのこと)、完全に最初からソリッドステートということを意識したスタイリングをもっているわけで、これも大変シンプルで、しかもプロ的なイメージの強い製品として興味深いんですが、音の点でも大変ユニークな製品だったと思うんです。いわゆるソリッドステートアンプということではなく、球のアンプのもつスムーズさというか……。これはピーター・ウォーカー氏によれば、現時点ではもう特性的に魅力がないんだということですが、実際に聴いてみると、303とはやはり全然違った魅力というのはありましたね。
     *
ピーター・ウォーカーの発言がいつのことなのかは、これだけでははっきりとしないが、
ステレオサウンド 43号は1977年3月に出ている。
すでにカレントダンピングという新しい回路を搭載した405は世に登場していた。

405の登場の時の発言なのか、それとも303の時点での発言なのか。
どちらにしても50Eが「特性的に魅力がない」ということは、そのまま言葉通りに受けとめていい、と思う。

けれど音の魅力としては、山中先生の発言にもあるように「魅力がない」とはいえない。

私は43号を読んだ時点では、50Eをそういうアンプとして受けとめていた。

50Eは1965年ごろに発表されている。
もう50年近く経っている。
ステレオサウンド 43号の1977年は50Eが発表されて約10年、
製造中止になってそれほど経っていないころだ。

この間、アンプだけをみてもずいぶんと変遷があり、
あのころの50Eをみていた眼といま50Eをみている眼は、私個人に関してもずいぶんと変化してきている。

あらためて50Eの回路図を眺めていると、どこか新鮮さにつながるものを感じている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 電源

電源に関する疑問(その28)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、ウェストレックスのA10がベースになっている。
A10はいうまでもなく映画館で使われるアンプであり、
そこではセリフのとおりがもっとも重要視される。

もしA10で鳴らしたときに低音がボンつくことがあったら、
セリフの明瞭度は著しく落ち、とおりも悪くなるだろう。
だからA10では、絶対にそういうことがないだけでなく、
むしろセリフの明瞭度ととおりが、他のアンプ(いいかえれば家庭用のアンプ)より優れていなければならない。

そういうアンプに、ウェストレックスの開発陣は出力管に350Bを使い、
出力トランスの2次側からのNFBをかけることをとっていない。
かわりにチョークインプットと1kΩの抵抗の直列挿入を行っている。

つまり、このことはA10の出力段はAクラス動作であることを表してもいる。
A10の出力段、伊藤先生の349Aアンプの出力段がBクラスもしくはABクラスであったなら、
1kΩという値の抵抗を直列にいれることは無理となる。

抵抗の中を電流が通れば、電流×抵抗値の分だけ電圧降下が起る。
出力段の電流変動の大きいBクラス、ABクラスだと大出力時、電流が多く流ることで電圧降下が大きくなり、
結果出力管のプレートにかかる電圧が大きく低下することになってしまう。

電流変動がごくわずかであればこそ、電源回路に1kΩという抵抗を挿入することができる。

ウェストレックスのA10は一見すると無駄の多い回路のようにもうけとれる。
チョークインプットと1kΩの抵抗で、電圧のロスはかなり大きい。
抵抗が発する熱もかなり大きい。
そして三極管より効率の高い多極管をあえてAクラスで使い、出力はアンプ全体の規模からすれば小さい。

こういうアンプを、あえてウェストレックスの開発陣がつくったということは、
セリフの明瞭度ととおりを重視してのことなのかもしれない。

Date: 4月 13th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その1)

この項の(その2)にこう書いている

真空管アンプには、いくつか採用例があったチョークインプット方式だが、
トランジスターアンプになってからは、1987年に登場したチェロのパフォーマンスまで採用例はなかった(はず)。

今日、ある方から、このことで指摘を受けた。
QUAD最初のソリッドステートアンプ50Eも、チョークインプットだ、と。

回路図を見ると、たしかにチョークインプットである。
となると、ほぼまちがいなくトランジスターアンプで最初にチョークインプットを採用したのは50Eだろう。

50Eの増幅部の回路構成は、真空管アンプのプッシュプル回路の増幅素子をそのままトランジスターに置き換えた、
そういえる回路構成である。

そのため、一般的なトランジスターアンプ(シングルエンテッドプッシュプル型)にはない位相反転回路がある。
真空管アンプのP-K分割ならぬ、トランジスターだけにC-E分割回路である。
50Eは出力トランスも搭載している。

こういう回路構成のアンプ、当時いくつかのメーカーで試作品的なものはつくられたそうだが、
実際に製品化されたのはQUADの50Eだけ、らしい。

実は増幅部の回路構成については回路図を以前みたときから知っていた。
でも、そのときは電源部にまで注意がいかなかった。

増幅部の回路構成が真空管アンプそのものであるなら、
電源部もそうである、と、なぜか当時は思わなかった。

Date: 4月 10th, 2013
Cate: 電源

電源に関する疑問(その27)

伊藤先生による349Aアンプにおける電源回路の1kΩの働きが、
ほんとうのところはどういうものであるのかは、
実際に、この349Aアンプを製作して、しかも電源トランスの2次側のタップをふたつ用意して、
片方は1kΩがなくてとも規定の電圧がとれるタップ、
もうひとつは1kΩを挿入した状態で規定の電圧がとれるタップとで、
1kΩの抵抗のあるなしの音を聴いていくしかない。

1kΩの抵抗なしでも低音がボンつくことなく鳴るのであれば、
伊藤先生の349Aアンプの音の秘密は、別のどこかにあるということになる。
1kΩの抵抗なしで低音がボンつけば、
1kΩの抵抗による効果ということができ、そうなると(その26)に書いた推論が、ある程度正しいといえよう。

こんなことを書いている暇があったら、さっさと伊藤先生の349Aアンプを作って確かめればすむこと。
1kΩの抵抗の役割に気がついて、もう20年以上が経つ。
にも関わらず検証せずにいる。

それでも1kΩの抵抗の役割について考えていくと、
ある時期のゴールドムンドのパワーアンプの平滑コンデンサーの容量が小さかったこと、
47研究所のアンプにしても、ぎりぎりの容量のコンデンサーしか搭載していないこと、
これらの理由は主に応答速度と語られることが多い、そのことについてもこれだけではない見方ができる。

確かに同一コンデンサーで、容量だけが違うものを集めて測定すると、
充放電の時間は容量が小さなコンデンサーのほうが、わずかとはいえ速い。
ゆえに応答速度の速さが音の反応の良さに活きている──、
そういえないこともないけれど、
電源トランスとの2次側のコイルとの共振周波数の、
コンデンサーの容量による変化も忘れるわけにはいかない。

Date: 10月 18th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その26)

電源部を構成する部品は、そう多くはない。
ここでは伊藤先生の349Aプッシュプルアンプの音を聴いたことから出発しているから、
ここでの電源部とは定電圧電源を使用しない、真空管アンプ用の電源を前提としてすすめていく。

定電圧電源にすれば部品点数はすごく増えるものの、
いわゆる非安定化電源ならば、
電源トランス、整流管もしくは整流ダイオード、平滑コンデンサーがあればいい。

電源トランスは磁性体のコアに2つ以上のコイルを巻いたものである。
1次側のコイルがAC電源に接がれ、
2次側のコイルが整流管(整流ダイオード)を経てコンデンサーへと接がっている。
さらに真空管アンプではコンデンサーは出力トランスの1次側のコイルへ、となっている。

つまりコイルとコンデンサーとコイルが並列になっている状態である。
コイルとコンデンサーがあれば、必ずどこかで共振する。
電源トランスの2次側のコイルと平滑コンデンサーとが、
平滑コンデンサーと出力トランス1次側とのコイルとが、共振していると考えていいはず。

共振であれば、そこには共振周波数とQが存在する。
コンデンサーの容量をやみくもに増やすことは共振周波数を下げていくことになる。
そしてレギュレーションをよくするために電源回路のインピーダンスを下げるということは、
Qに関係してくる。つまりQが大きくなるわけだ。

共振周波数とQの具合によって、低音がボンつくとは考えられないだろうか。

こう仮説をたてると、電源回路に直列にはいっている1kΩの抵抗の役割がはっきりしてくる。
これだけ値の高い抵抗をいれることで電源インピーダンスは高くなるけれど、
それゆえにQを抑えることができる。

整流管を内部抵抗の小さな5AR4から内部抵抗の高い274Bに変えることも、
整流管としての5AR4と274Bの内部構造、材質の違いなどの差も音に関係していると同時に、
内部抵抗が高いことによってQが抑えられている、ということも考えられる。

Date: 4月 29th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その25)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、初段がEF86で位相反転にはE82CCが使われている。
E82CCのカソードは結合されてはいるものの、いわゆるムラード型の位相反転ではなくオートバランス型である。

つまり+側の信号はEF86、E82CCという信号経路だが、
−側はEF86、E82CC、E82CCと信号経路としてE82CCを一段余計に通る。
NFBは+側のE82CCのプレートからEF86のカソードにかけられている。

ウェストレックスのA10も回路は同じで、
初段が6J7、位相反転6SN7、出力管が350B、という使用真空管の違いだけである。
伊藤先生の349AプッシュプルアンプはA10のスケールダウン仕様といえる。

でも、この回路構成が低音がボンつかない理由とはいえない。

349Aプッシュプルアンプは無線と実験に発表されたものだが、
実際に製作されたアンプと掲載されている回路図は多少異る点がある。
そのもっとも大きな違いは、出力トランスの1次側インピーダンスで、
無線と実験に載っている回路図、部品表ではラックスのCSZ15-8、
つまり1次側インピーダンスが8kΩということになっているけれど、実際に搭載されているのはCSZ15-10、
1次側インピーダンスが10kΩ仕様であり、
このことは低音がボンつかない理由に関係しているとは思えるものの、それほど大きな理由とは思えない。

このことは、しばらく疑問のままだった。
アンプの回路を信号部だけを見て考えていたままだったら、
いまでも、なぜだか低音はボンつかない、としかいえないままだったはずである。

アンプの回路は、信号部と電源部から成っている、という当り前すぎることを再認識すると、
ウェストレックスのA10、伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、
ビーム管、五極管を出力段に使いながらオーバーオールのNFBがかけられていないということと、
電源部に直列に1kΩの抵抗が挿入されていることは切り離せないことではないか、と気づく。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その24)

向ったのは六本木にあるおつな寿司。
上杉先生は、ここのいなり寿司が好物だ、とこのとき聞いた。

上杉先生との食事は楽しかった。
いろいろな話があったが、さきほどまで真空管アンプを作られていたわけだから、
真空管、真空管アンプに関する話題が当然出てくる。

このときすでに349Aのプッシュプルアンプを作ろうと考えていたので、
たしかNさんが上杉先生にこのことを話されたので、こういう回路のアンプを作ろうと説明した。

上杉先生から返ってきたのは、「出力トランスからNFBはかけないんですか」だった。
出力管に五極管の349Aを、五極管接続で使用するのだから、上杉先生がそういわれるのはもっともである。
上杉先生の経験からも、どんな球であろうと、五極管、ビーム管をオーバーオールのNFBなしで使用したら、
低音がボンついてまともな音はしない、ということだった。

ステレオサウンドの製作記事のオルソンアンプもオーバーオールのNFBはかかっていない。
無帰還アンプである。出力管はEL34。五極管ではあるが、
オリジナルのオルソンアンプでは6F6を三極管接続している。上杉先生はEL34を三極管接続で使われている。

五極管、ビーム管を無帰還で使うのならば三極管接続するのが、いわば常識的にいわれていた。
上杉先生は、だから「三結にもされないんですか」ときかれた。「五極管接続です」とこたえた。
さらに伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプでは、低音がボンつくことはなかったことを説明したものの、
上杉先生を納得させるだけの説明を、このときの私には無理だった。

私自身、なぜ伊藤先生の349Aプッシュプルアンプではそういったことがおこらないのか、
その理由がまったくわからなかったのだから、しょうがない。

349Aがウェスターン・エレクトリックの球だから、ということは理由にもならない。
コンデンサーや抵抗といった部品にいいものを使ったからも、この理由にはならない。
伊藤先生が作られたから、も、もちろん、その理由にはならない。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その23)

上杉先生によるオルソンアンプの製作記事はステレオサウンド 64、65、66号に載っている。
65号には実際の製作過程が写真で載っていて、このときの撮影には立ち合うことができた。
目の前で上杉先生のアンプ作りを見ることができたのは、幸運だったと思う。

65号は1983年発行のステレオサウンドで、当時20の私よりもいまの私の方が、
つぶさに見れたことを幸運だと思っている。

完成品の内部を見る機会はいくらでもある。写真で見たり、実物の天板をとって中を覗いてみたりなどができる。
けれど、なかなかその製作過程を最初から最後まで見る機会はめったにない。

誌面上でどれだけ写真を多用して事細かに説明文をつけたとしても、
写真と写真のあいだにあったことを伝えるのは、まず無理だといっていい。

真空管アンプで、プリント基板を使わずに手配線によって製作していくには、
製作者の流儀といえるものがある。
その流儀は、上杉先生には永いアンプ作りから身につけられた流儀があり、
伊藤先生には伊藤先生の流儀がある。

このころから、私は真空管アンプに関しては伊藤先生の流儀をなんとか身につけたい、と思っていた。
だからといって、ほかのアンプ製作者の流儀が参考にならないか、というとそんなことはまったくない。
直にアンプが形を成していく過程をじっと見ていけば、そこから学べることはかなりのものがある、といっていい。

記事のためのアンプ作りなので、製作過程の要所要所で撮影をするわけで、
しかも撮影カット数は記事で使われている写真点数よりもずっと多い。
撮影のたびにアンプづくりの手を止められるわけではないが、
細かいところの撮影などで手を休めてもらうことになる。
だから、こういう記事のためのアンプ作りは、実際のアンプ作りよりもずっと時間を必要とする。

もう30年近く前のことだから、何時ごろから始まったのかは忘れてしまった。
憶えているのは撮影が終って(つまりアンプが完成したあとに)、
上杉先生とこの記事の担当者のNさんと三人で遅い食事に行ったことだ。

Date: 4月 27th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その22)

ウェストレックスのA10にしても伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプにしても、
出力トランスからNFBはかかっていない。
伊藤先生の349AのアンプはA10を範とした設計だから、
NFBのかけ方も同じで位相反転の+側出力を初段のカソードに戻している。

出力管に三極管を使った真空管アンプでは無帰還のものは少なくない。
けれど五極管、ビーム管を出力段に使ったパワーアンプでは、
ほぼすべてといっていいほど出力トランスの2次側から初段のカソードへとNFBがかけられている。

伊藤先生も五極管、ビーム管では適切なNFBをかけることが重要だといわれている。
にもかかわらず349Aのプッシュプルアンプには出力トランスからのオーバーオールのNFBはない。

一般的に五極管、ビーム管のオーバーオールのNFBなしのアンプだと、
低音が、いわゆるボンつくようになって聴けたものではない、と昔からいわれ続けている。
なのに私が聴いた伊藤先生製作の349Aアンプには、そういった傾向はまったく感じられなかったどころか、
むしろ低域のすっきりした透明感の高さに驚き、すっかり魅了されていた。

この349Aのアンプを聴いたとき、どういう回路になっているのかはまったく知らなかった。
聴いた後で、無線と実験に掲載された記事のコピーを、当時のサウンドボーイの編集長だったOさんにもらった。
そして、オーバーオールのNFBがないことを知った。

なのになぜ低音がボンつかないのか。
ちょうど349Aのアンプを作ろうと部品を集めていたころに、
ステレオサウンドで上杉先生がオルソンアンプの製作記事を発表された。
この記事はNさんの担当だった。
Nさんはウェスターン・エレクトリックの350Bのプッシュプルアンプを作ろうとしていた。
ふたりとも伊藤先生のアンプの世界に魅かれていた──。
そういう時期の、上杉先生のオルソンアンプの製作記事。ふたりで盛り上っていた。

Date: 9月 19th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(その21)

ウェストレックスのパワーアンプ、A10の出力管の+B電圧は270V(電圧増幅段は375V)。
それに対し電源トランスの2次側のタップは525V。整流管は5R4Gで前述しているとおりチョークインプット。
そして出力管用の電源ラインには1kΩの抵抗が直列にはいっている。

出力管(6L6Gもしくは350B)のプレート電流は一本当たり64mA。プッシュプルで128mA。
それにスクリーングリッド用の電流を含めると、1kΩの抵抗が介在することで約140Vの電圧降下が生じている。
ここで生じる発熱も大きい。だから1kΩの抵抗は50Wというかなり大型のものが使われている。

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、電源トランスのタップは310V。整流管はGZ34。
こちらはコンデンサーインプットでチョークコイルは使っていない。

ここでひとつ訂正しておきたいことがある。
伊藤先生の349Aのアンプにも1kΩの抵抗が使われていると書いた。
たしかに無線と実験に掲載された回路図には、1kΩとある。
1kΩの抵抗にかかる電圧は、コンデンサーインプットだから380V。
349Aのプレート電流とスクリーングリッド用の電流、その2本分は64mA。
すると1kΩの抵抗での電圧降下分は64Vになり、380V−64Vでは、316Vになってしまい275Vよりも41Vも高い。
つまり1kΩではなく、1.6kΩだった可能性が非常に高い。

Date: 9月 13th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(続・余談)

電源トランスがこれだけ発熱している理由は、どうもここにあるな、と判断し知人の了解を得て、
120V仕様に変更してみた。つまり1次側巻線を並列にすることで、巻線ひとつあたりに流れる電流を減らせる。

そのアンプの電源電圧の変更は、電源トランス附近のプリント基板上で配線をやりかえるだけで簡単に行える。
もし結果が芳しくなくても、すぐにもとの100V仕様にもどせる。

該当アンプの電圧増幅部はICによるOPアンプ(5532使用)、電力増幅段にもゲインをもたせている。
まあ多少アンプ部にかかる電圧が低下しても、動作上ほぼ問題はないと,私なりに判断しての作業である。

120V仕様にして電源をいれる。ファンの速度も低速でまわっている。
10分経過しても、ファンの速度は変らず。つまり電源トランスの発熱がぐんと減っている。
1時間経っても、天板がほんのり温かくなるだけ。それまでの熱さはなくなった。

これだけ変われば、音もとうぜん変化している。
即断してもらうよりはしばらくこのままで聴いてもらい、
もし以前のまま(100V仕様)のほうがよかった、ということであれば、
すぐに元に戻すから、ということで引き上げた。

結果、知人はそのまま使っている。
電源電圧が低下したわけだから、多少出力の低下はある。
それでも聴いた感じでは、むしろ120V仕様を100Vで使った方が音の伸びに関しても良い、といっていた。
アンプの動作にも、なんら異状は出ていない、という。

今回の手法が、どの海外製アンプにも通用するわけではない。
電源電圧の低下でアンプの動作に多少なりとも異状をきたすものもあるだろうし、
音質面でも芳しくない結果になるアンプだってある。

だが電源トランスの発熱の多さが気になるアンプでは、
どういうふうに100Vに対応しているのか、を回路図が入手できて調べることができれば、
今回の手法で解決できることもあろう。

Date: 9月 13th, 2010
Cate: 電源

電源に関する疑問(余談)

1年ほど前ことになるが、知人からアンプのことで相談があった。
彼が使っているのは業務用のパワーアンプで、何に困っているかというと発熱だった。

スペックをみてもそれほどの大出力アンプではないし、
回路図が、そのアンプメーカーのウェブサイトからダウンロードできたので目をとおしても、
発熱に関しては、それほど問題にならないはず、と判断できたにもかかわらず、
実際に知人の使っているアンプは、電源をいれてわりとすぐに天板がけっこう熱くなり、
2段切替えになっているファンも常時フル回転している。

30分ほど動作させたあと、天板をとってヒートシンク、その他の箇所にさわってわかったことは、
この熱の発生源はヒートシンクよりも、電源トランスだったこと。

電源トランスがすぐに熱くなり、すぐ近くのヒートシンクにもその熱が伝わっていた。
不思議なのは、電源トランスがこれほど熱くなること。
回路図上で電源トランスまわりをみると、ひとつ気がついた。
このアンプは、電源トランスの1次側のタップの配線をなおすことで、100、120、220、240Vに対応できる。
知人のアンプは、とうぜん100V仕様になっていた。

一見問題ないように見えるのだが、
もうすこし気をつけると、100V時だけ、他の電源電圧時と仕様が異ることがわかる。
1次側の巻線は120V用のがふたつある。

そのうちのひとつの巻線に100V用のタップが出ている。
120V時には、このふたつの巻線を並列にしているし、220V時には直列に接続して100V+120Vで対応している。
240V時には120V+120Vで、240Vにしている。

つまりふたつの1次側巻線を、100V時だけはひとつしか使っていない。
この電源電圧では、並列にしろ直列にしろ、巻線はふたつとも使っている、その違いがあった。