ACの極性に関すること(その5)
ステレオサウンド 57号で井上先生がいわれているのは、
レコードにもACの極性が存在するということである。
ステレオサウンドは55号から「オーディオ・ジョッキー」という短期連載が始まった。
ACの極性に関する試聴記事が一回目(55号)で、
放送局、PA、スタジオなどのプロの現場でのAC極性のコントロールについての取材が二回目(56号)で、
レコードにもACの極性があることにふれたのが三回目(57号)である。
記事は井上先生と黒田先生の対談形式。
この記事から井上先生の発言をいくつか拾っておく。
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今回は、オーディオのプログラムソースで一番重要なレコード自体にも、AC極性があるということをとりあげてみたい。レコードは、録音からカッティングに至る制作過程で数多くの機材を使用します。当然、これら機械類はAC電源を必要としますから、出来上ったレコード自体にもAC極性があるのではないかということでいろいろチェックしてみると、これが明らかにあるのですね。
(中略)
これまでにもACのコントロールをしていって、おかしいなと感じたことはあったのです。うまく鳴ってくれるレコードと、うまく鳴ってくれないレコードとがある。機器間の極性は合っているはずなのに、何とはなしモタモタするとか、妙にコントラストがついてくっきりしすぎちゃって、うるさい感じになる。
(中略)
簡単にいうと、発端はテープレコーダーなんです。AC極性を合わせた再生システムにテープレコーダーを加えると、テープレコーダーの極性を変えることによって2種類の音が録音できるでしょう。さらに極性を変えながらこのテープを再生すると、また2種類できる。録音再生で4通りの音になるわけです。それなら、レコードが極性によって鳴り方が変っても当然じゃないかということで……。
(中略)
昔から、ACのことをよくわかっている人でもどうも昨日の音とは違う、特に,マルチアンプの場合にはかなり細かくレベル調整をしてバランスをとっていくと、あるレコードはいいのだけれどあるレコードではダメということがあったでしょう。これはACをひっくり返すと直っちゃうんです。この事も一つのきっかけといえます。
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レコード制作側が、録音・カッティングなど、
レコードが出来上るまでのすべてのプロセスにある機材のACの極性を合せていれば、
本来ならば起らない問題なのだが、現実には、そうではないことがわかる。
このレコードにおけるAC極性の問題を、黒田先生はオスとメスがある、という表現をされている。
ほとんどのレコードはオスであっても、少数ではあるがメスのレコードがある。
つまりACの極性を合せる、の「合せる」の意味に少し違う意味が加わってくることになる。