Archive for category ショウ雑感

Date: 10月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感

2015年ショウ雑感(続々ヘッドフォン祭)

昔からスピーカーの鳴り方・鳴りっぷりは、車の乗心地に例えられることがある。
時速50kmで走っていたとしても、小型車と大型車では乗心地が違うのと同じように、
同じ音量においても、小型スピーカーと大型スピーカーの鳴り方・鳴りっぷりは違ってくる。

完全密閉型(アコースティックサスペンション方式)時代のARのスピーカーシステムを、
井上先生は高回転・高出力のエンジンの車にたとえられていた。

大音量(つまりエンジンを高速回転させている)時は、
驚くほどの低音を聴かせてくれる。
パワーを上げれば上げるほど、活き活きと鳴ってくれる。
オーディオ的快感ともいえる鳴りっぷりがある。
一方で音量を絞ってしまうと、バランスは崩れやすく、
ウーファーの反応も鈍く感じられてしまう──、そんな話を井上先生から聞いている。

ARのスピーカー(正確にはプロトタイプ)がデビューした1954年、
ニューヨークのホテルで開催されていたオーディオフェアで、
250ℓのエンクロージュアのスピーカーシステムを出品していたワーフェデールのベースに、
ARのエドガー・M・ヴィルチュアは、一辺が40cmに満たない立方体のスピーカーを持ち込んでいる。
公開試聴をヴィルチュアは申込んでいる。

この時、ハイプオルガンのレコードで、充分な量感を聴かせたのは、大型のワーフェデールではなく、
小型のヴィルチュアのスピーカーだったことは、
ワーフェデールのブリッグスとともに会場の多くの人が認めている。

この公開試聴の音量はどれほどの大きさだったのかはわからない。
かなり大きな音量だったのではないか、と推察できる。

音量をかなり絞った状態であれば、ワーフェデールのスピーカーに軍配をあげる人もいたかもしれない。
想像でしかないが、このふたつのスピーカーは大きさだけでなく、鳴りっぷりと、
その鳴りっぷりの良さが活きる音量も大きく違っていたはずだ。

現行のARのスピーカーシステムには、そういう点はないであろう。
もう完全密閉型ではないし、時代も技術も変っているから。

こんなことをARのヘッドフォンアンプを見て思い出していたし、
そういえば……、と思い出したことがもうひとつある。

Date: 10月 25th, 2015
Cate: ショウ雑感

2015年ショウ雑感(続ヘッドフォン祭)

ヘッドフォン祭に、アコースティックリサーチのヘッドフォンアンプAR-M2があった。

ARのロゴは以前のロゴに少し変更が加えられていたが、一目で、あのARとわかる。
正直、ARはなくなっていたと勝手に思っていた。
だからARのロゴを見て、まだあったのか、が先にあった。

そこにはAR-M2のみの展示だったから、さっそく他の製品は出していないのか、
スピーカーシステムはどうなのか、ヘッドフォンアンプを出すくらいだから、ヘッドフォンも出しているのか、
そんなことが気になって、すぐにiPhoneで検索していた。

ARはあった。
本国のサイトには、D/Aコンバーターもあり、やはりヘッドフォン、イヤフォンもあった。
スピーカーシステムもあった。

ARSP80TGWNというモデルが、現在のARのスピーカーのトップモデルのようだ。
トールボーイの、このスピーカーシステムはリアバッフルにポートをもつバスレフ型である。

時代の変化とともに会社も変っていくのか……、と思う。

ARの完全密閉型のスピーカーシステムが、うまく鳴っているのは聴いたことがない。
コンディションもあまりよくなかったこともあっただろう。

私はARのスピーカーシステムに関心をもつことはなかった。
そんな私なのに、いまARのことを書いているのは、以前井上先生が話されたことが残っているからだ。

どの機種だったのかは聞いていないか、忘れてしまったか、
ARの完全密閉型をハイパワーアンプで思いっきり鳴らした音は、凄かった、と聞いている。

Date: 10月 24th, 2015
Cate: ショウ雑感

2015年ショウ雑感(ヘッドフォン祭)

今日から中野で開催されているヘッドフォン祭に行ってきた。
今年は聴いておきたいモノがあった。
シュアーが先日発表した、同社初のコンデンサー型のKSE1500が聴きたかった。

注目の新製品ということとイヤフォンという性格上、
試聴するには整理券が必要だった。
私が行った時間がタイミングが悪かったのか、
いちばん早い時間の整理券でも二時間後だった。

あの会場で二時間待つのはちょっとつらいので、結局聴かずに帰ってきた。
タイムスケジュールをみながら、二時間待とうかどうか思案していた私の横で、
シュアーのブースの受けつけの人に、ぶしつけなことを言っている人がいた。

見た感じ四十代後半か、それより上の世代の人。
スタッフの人に「シュアーにコンデンサー型なんてないでしょ。どこに作らせたの?」と言っていた。

KSE1500は発表になったばかりだから、その存在を知らなくともかまわないけれど、
訊ね方というものがある。
こんな訊ね方をされても、シュアーのスタッフはイヤな顏ひとつせずにきちんと説明されていた。

ヘッドフォン祭は若い人たちが圧倒的に多い。
今回もやはり多かった。女性ひとりで来場されている人もいる。

その中に昔からのオーディオマニアと思われる世代の人がいる(私もここに属する)。
インターナショナルオーディオショウやオーディオ・ホームシアター展(音展)と違い、
そういう世代の人たちのほうが少数であり目立つように感じている。

その中のひとりが、横柄ともとれる訊ね方をしている。
本人にはそういうつもりはなかったのかもしれない。
ただ単に、ものを知っていると思われたくての発言だったかもしれない。

それでも傍にいた私には、そういうふうには聞けなかった。
シュアーのスタッフは若い人だった。
もっと年輩の人がスタッフだたら、違う訊ね方をしていたのかもしれない。
そうだとしたら、この人は若い、オーディオに関心を持ち始めた人に対して、
今回と同じような話し方をするのかもしれない──、そんなことを思ってしまった。

数ヵ月前に、若者のバイク離れは、上の世代が原因のひとつという記事を読んでいた。
オーディオにも同じことがいえるのではないか、とその時思っていたから、
他の人からすれば、どうでもいいことに反応してしまったのかもしれない。

2015年ショウ雑感(その6)

こういう試聴方法で何が聴きとれるのか。
五味先生の「五味オーディオ教室」にも書いてある。
     *
 音の味わい方は、食道楽の人が言う〝味覚〟とたいへん似ているように、思う。
 佳い味つけというのは、お吸物(澄まし)の場合なら、ほとんどが具の味をだしに生かしてあり、一流の腕のいい板前ほど塩加減でしか味つけをしない。したがって、たいへん淡白な味だが、その淡白さの中に得も言えぬ滋味がある。でもこれを、辛くて粗雑な味の味噌汁を飲んだあとで口にすると、もう滋味は消え、何かとても水っぽい味加減に感じるものだ。
 腕のいい板前はだから、他の料理が何であるかも加味して、吸物の味をつけるという。淡白で、しかもたいへん上品な味加減のその素晴らしさは、粗悪な味のあとでは賞味できないものだから。
 人間の舌はそれほど曖昧——というより、他の味つけの影響をとどめやすいものなので、利き酒を咽喉に通さず、一口ふくんでは吐き出す理由もここにあろう。
 ヒアリング・テストも同じだ。よほど耳の熟練した人でも、AのスピーカーからBのスピーカーに変わった瞬間に聴き分けているのは、じつは音質の差(もしくは音クセ)なので、そのスピーカー・エンクロージァがもつ独自な音色の優秀性(また劣性)は、BからAにふたたび戻されたときには、もう聴き分け難いものとなるのがしばしばである。
     *
私がオーディオに興味を持ち始めた1976年の時点で、
すでに瞬時切り替え試聴の問題点は指摘されていた。

それでも……、と反論する人がいると思う。
いるからこそ、今回のオーディオ・ホームシアター展(音展)での、あのやり方が行われたのだろう。

Aの音とBの音の違いが聴きとれれば、何の問題もないじゃないか、という人がいるだろう。
だが、このやり方で聴きとれるのはAの音とBの音の違いではなく、あくまでも差である。

くり返すがA-Bの音という差、B-Aの音という差であり、
違いではなく差であるからこそ、A-Bの音とB-Aの音は、人間の感覚として同じになることはない。

味覚では、この話は通用するのだが、
なぜか聴覚となると、私の耳はそうではない、といいはる人がいて、通じない場合もある。

違いと差は決して同じではない。
そして試聴(特に比較試聴)では、
何が聴きたいのか、何を聴こうとしているのか、何を聴いているのか、
これらのことを曖昧にしたままでは、何を聴いているのかがわからなくなってしまう。

それできちんとしたデモ、プレゼンテーションができるわけがないし、
ましてスピーカーの開発は……、である。

2015年ショウ雑感(その5)

瀬川先生が「コンポーネントステレオのすすめ」の中で、
この瞬時切り替え試聴の注意点について書かれている。
     *
 たくさんのスピーカーが積み上げられ、スイッチで瞬時に切換比較できるようになっている。がそこには大別して三つの問題点がある。
 第一、スピーカーの能率がそれぞれ違う。アンプのボリュウムをそのままにして切換比較すると、能率の高いスピーカーは大きな音で鳴り、能率の低いスピーカーは小さな音になってしまう。馴れない人は、大きな音が即、良い音、のように錯覚しやすい。スピーカーを切換えるたびに、同じような音量に聴こえるよう、アンプのボリュウムを調整しなおすこと。
 第二、AからB、BからCと切換えて聴くと、その前に鳴っていた音が次の音を比較する尺度になってしまう。いままで鳴っていた音が、次の音を聴く耳を曇らせてしまう。この影響をできるだけ避けるため、A→B→Cと切換えたら、こんどはB→A→C、次はC→B→A、B→C→A……と順序を変えながら比較すること。もしも少し馴れてきたら、切換比較をやめて、あるレコードをAで聴いたらそこで一旦やめて、Bのスピーカーで同じ部分を改めて反復する。そして、音色の違いを比較しようとせずに、どちらがレコードをより楽しく、音楽の姿を生き生きとよみがえらせるか、という点に注意して聴く。
 第三、スピーカーの置かれてある場所によって、同じスピーカーでも鳴り方が変る。下段は概して低音が重くなり、音がこもり気味になる。冗談は低音が軽くなり、音のスケール感が失われがち。中段が大体いちばん無難、というように、本当に比較するなら、抜き出して同じ場所に置きかえなくてはわからないが、それが無理なら、一ヵ所に坐って聴かずに、鳴っている二つのスピーカーの中央に自分の頭を移動させる。めんどうくさがらずに、立ったりしゃがんだりして聴く。あるべくスピーカーのそばに近づいて聴いてみる。別の店で、同じスピーカーの置き場所が違うと音がどう変るか聴いてみるのも参考になる。
     *
今回のオーディオ・ホームシアター展(音展)での、
そのブースではふたつのスピーカーシステムの音量はほぼ同じに感じられるようになっていた。
なので、ここでは第一の問題点について取り上げる必要はない。

第三のスピーカーの置かれている場所による音の違い。
これは厳密には試聴のたびにスピーカーを移動して、という作業をする必要がある。
ステレオサウンドの試聴室ではそうやっていた。
だが、今回のケースはいわばオーディオショウという場であり、
限られた時間でのデモということを考慮すると、しかたないという面もある。
だから、この問題点についても、とやかくいわない。

問題としたいのは、第二のことである。
今回は比較対象となるスピーカーシステムは二組だから、AとBということになる。
10秒ごとのスピーカーの瞬時切り替えということは、
A、B、A、B……となるわけで、そこで聴いているのは
Aの音、Bの音というよりも、A-Bの音、B-Aの音である。

A-Bは、前に鳴ったAの音とBの音の差であり、
B-Aは、前に鳴ったBの音とAの音の差である。

AとBは交互に鳴っているわけだから、A-Bの音とB-Aの音は同じじゃないか、と考える人もいよう。
だが人間の感覚として、A-Bの音とB-Aの音は同じではない。

A-Bの音とB-Aの音が同じだと考えているから、
そのブースでは10秒ごとの瞬時切り替えを行っていたのではないのか。

2015年ショウ雑感(その4)

そのブースに入ると、正面のディスプレイに、どういうプログラムで試聴を行うかが表示してあった。
そこで鳴らされるソースは鑑賞曲と試聴曲とにわけられていて、交互にかけられていた。

鑑賞曲ではそのメーカーのスピーカーシステムだけで鳴らされる。
試聴曲で他社製のスピーカーシステムとの比較ができるというわけである。

このやり方は問題はない。
問題があるのは、試聴曲の鳴らし方だった。
10秒ごとに自社製と他社製のスピーカーシステムを切り替える。
曲を再生しながらである。

いわゆる瞬時切り替えによる試聴である。
それも切り替えて、曲の頭に戻るのではなく、
一曲を流したままでの瞬時切り替えを、このブースではやっていた。

この試聴は、ずっと昔、オーディオ販売店でみられたやり方だ。
多くの販売店にはスピーカーが壁一面に積み上げられていて、
アンプも棚に何台も収納されていた。

これらはすべて切り替えスイッチに接続されていて、
ボタンを押すだけで、希望するスピーカー、アンプに切り替えられる。
いまでもこのシステムを使っているところはある。

どんなモノでもそうだが、問題はどう使うかである。
ボタンひとつで切り替えできるからといって、
曲を流したままにして、ボタンを押してAB比較をやる。

これが昔々のやり方だった。
このやり方は、ずいぶんとまずいもので、
当時からこの比較試聴に対しては、心ある人たちが問題視していた。
そして、いつしかそういう比較試聴はなくなっていった。

なくなってずいぶん経つ。
それをやっているメーカーがある。

このことに驚いたわけである。
少なくとも彼らは、自社製と他社製のスピーカーの音の違い(優劣)を、
来場者にはっきりと示したい、と考え、
もっとも有効なやり方として、今回の方法をとったのだろう。

ということは、彼らはそのスピーカーシステムの開発においても、
同じ聴き方をしているということにもつながっていく。

2015年ショウ雑感(その3)

去年のオーディオ・ホームシアター展(音展)で驚いたのはNHKの8Kのデモだった。
今年もNHKは8Kをやっていた。
今年は8Kのロゴの下に”SUPER Hi-VISION”とあった。

8KがSUPER Hi-VISIONなら、次に登場するであろう16KまではSUPER Hi-VISIONのままで、
その次の32Kまでいくと”ULTRA Hi-VISION”となるのかなと思いながら、8Kのデモを観ていた。

去年の驚きがあるから、今年はそれほど驚いたわけではなく、じっくりとみていた。
やっぱり8Kはいいな、と思う。
来年には試験放送がはじまり、2020年までには本格的普及を目指すということだった。

その展開の速さに今年は驚いていた。

今年のオーディオ・ホームシアター展(音展)で驚いたのは、
どこかのメーカーの製品の音ではなく、あるブースの比較試聴のやり方だった。

そこではスピーカーのデモが行われていた。
そのメーカーのスピーカーの他に、
ほぼ同サイズの他社製のスピーカー(世評の高い者)を並べての比較試聴である。

こういうデモをやるということは、それだけ自信があるということであり、
そのこと自体はとやかくいうことではない。

ただ、その比較試聴のやり方に驚いてしまった。
いまどき、こんな比較試聴をやるのか、
だとしたら、このスピーカーの開発過程における試聴でも、
彼らはそういう試聴をやっているのではないか──、
そう思って驚いていた。

それは昔々の比較試聴のやり方だった。

Date: 10月 16th, 2015
Cate: ショウ雑感

2015年ショウ雑感(その2)

今日から開催のオーディオ・ホームシアター展(音展)に行ってきた。

先月聴いたヤマハのNS5000がまた聴けるということで行ってきた。
だが残念ながらNS5000はなかった。

出かける前にヤマハのウェブサイトにあるNS5000のイベント情報で確認していた。
そこにはオーディオ・ホームシアター展(音展)の日程が書いてある。
誰だって、こう書いてあればオーディオ・ホームシアター展(音展)でNS5000が聴けると思ってしまう。
さきほどまた確認したが、やはりオーディオ・ホームシアター展(音展)のことがイベント情報で表示されている。

ヤマハのブースに入ろうとしたら、ヤマハの人に「NS5000は聴けないんですか」と訊ねている人がいた。
NS5000の音が聴けるのを楽しみにされていたのだろう。

そのやりとりを横で聴いていた私は、ヤマハのブースには入らなかった。
NS5000をオーディオ・ホームシアター展(音展)に持ってこないのは事情、理由があってのことだとしても、
それならばNS5000のイベント情報を更新しておくべきだ。

ヤマハの人に「NS5000は聴けないんですか」と訊ねていた人、私以外にもNS5000を目的で、
オーディオ・ホームシアター展(音展)に行かれる人がいると思う。
だからもう一度書いておく。

今回のオーディオ・ホームシアター展(音展)では、NS5000は聴けないし見ることもできない。

Date: 10月 7th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・余談として)

私がオーディオに興味を持った1970年代後半、
ヤマハのスピーカーユニットはトゥイーターのJA0506とウーファーのJA5004ぐらいしかなかった。

そのヤマハが1979年にスピーカーユニットのラインナップを一挙に充実させた。
20cm口径のフルレンジユニットJA2071とJA2070、
トゥイーターはJA0506の改良型のJA0506IIの他に、
同じホーン型としてJA4281、JA4272、またドーム型のJA0570、JA0571、JA0572。
スコーカーはホーン型のJA4280、ドーム型のJA0770、JA0870。

コンプレッションドライバーはJA4271、JA6681、JZ4270、JA6670があり、
組み合わせるホーンはストレートホーンのJA2330、JA2331、JA2230、
セクトラルホーンのJA1400、JA1230が用意されていた。

ウーファーは30cm口径のJA3070、
38cm口径のJA3881、JA3882、JA3871、JA3870と揃っていたし、
これらの他にも音響レンズのHL1、スロートアダプター、ネットワークもあった。

このラインナップに匹敵するモノを、いまのヤマハに出してほしいとは思っていない。
ただひとつだけNS5000と同じ振動板の、20cm口径のフルレンジユニットを出してほしいと思っている。

JA2071とJA2070のコーン紙は白だった。
NS5000の振動板も白(微妙な違いはあるけども)である。
素性のとてもいいフルレンジユニットとなりそうな気がする。

それはこれからにとって必要なモノだと考えるし、
出来次第では重要なモノ、さらには肝要なモノへとなっていくことを夢想している。

Date: 10月 5th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その6)

感じただけで、実際にAPM8の音を聴くことはできなかった。
それもあってだろう、いつしか忘れてしまっていた。
思い出したのはダイヤトーンのDS10000を聴いたときだった。
五年が経っていた。

ダイヤトーンのDS10000はDS1000をベースにしていることはすでに書いた通りだ。
DS1000の音は、私にとっては井上先生がステレオサウンドの試聴室で鳴らす音とイコールである。

何度かのその音を聴いている。
DS1000の良さは、だから知っている。
ちまたでいわれているような音とは違うところで鳴る音の良さがある。

当時DS1000の評価は、すべての人が高く評価していたわけではなかった。
うまく鳴っていないケースも多かったというよりも、
うまく鳴っていないケースのほうが多かったらしいから、それも当然である。

それでも高く評価する人たちはいた。
誰とは書かない。
この人たちは、どれだけうまくDS1000を鳴らしたのだろうか、と疑問に思ってもいた。
それこそ聴かずに(少なくとも満足に聴かずに)、試聴記を書いているではなかったのか。

DS10000が出た。
価格はDS1000の三倍ほどになっていたし、
エンクロージュアの仕上げも黒のピアノフィニッシュになっていた。
専用スタンドも用意されていた。

音質的に配慮されたスタンドだということはわかっていても、
このスタンドに載せたDS10000の姿は、あまりいい印象ではなかった。
なんといわれていたのかはいまでも憶えているが、
いまもこのスピーカーシステムを愛用している人はきっといるはずだから、そんなことは書かない。

でも、DS10000から鳴ってきた音を聴いて驚いた。
DS1000の音はしっかりと把握していたからこそ、
そこでの「どこにも無理がかかっていない」と思わせる鳴り方に驚いた。
そして黒田先生のAPM8の試聴記を思い出してもいた。

Date: 9月 30th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その5)

瀬川先生がステレオサウンド 52号「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」で書かれている。
     *
 新型のプリアンプML6Lは、ことしの3月、レビンソンが発表のため来日した際、わたくしの家に持ってきて三日ほど借りて聴くことができたが、LNP2Lの最新型と比較してもなお、歴然と差の聴きとれるいっそう透明な音質に魅了された。ついさっき、LNP(初期の製品)を聴いてはじめてJBLの音が曇っていると感じたことを書いたが、このあいだまで比較の対象のなかったLNPの音の透明感さえ、ML6のあとで聴くと曇って聴こえるのだから、アンプの音というものはおそろしい。もうこれ以上透明な音などありえないのではないかと思っているのに、それ以上の音を聴いてみると、いままで信じていた音にまだ上のあることがわかる。それ以上の音を聴いてみてはじめて、いままで聴いていた音の性格がもうひとつよく理解できた気持になる。これがアンプの音のおもしろいところだと思う。
     *
52号は1979年に出ている。
私はまだ16だった。
オーディオをどれだけ聴いていたか──、わずかなものだった。

アンプとはそういうものなのか、アンプの音とはそういうものなのか、と思い読んでいた。
そして考えた。これがスピーカーだったら、アンプの音の透明度に相当するもの、
つまり「それ以上の音を聴いてみてはじめて、いままで聴いていた音の性格がもうひとつよく理解できた気持になる」音とは、
何なのかを考えていた。すぐには思いつかなかった。

そんなことを考えて半年、ステレオサウンド 54号が出た。
スピーカーシステムの特集だった。

黒田先生、菅野先生、瀬川先生が国内外の45機種のスピーカーシステムを聴かれている。
その中に黒田先生のエスプリ(ソニー)のAPM8の試聴記がある。
これを読み、これかもしれないと思った。
     *
化粧しない、素顔の美しさとでもいうべきか。どこにも無理がかかっていない。それに、このスピーカーの静けさは、いったいいかなる理由によるのか。純白のキャンバスに、必要充分な色がおかれていくといった感じで、音がきこえてくる。
     *
とはいえ、この時はいわば直感でそう感じただけだった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その4)

ダイヤトーンが40周年記念モデルとして、1985年にDS10000を出してきた。
このころのダイヤトーンはDS5000、DS1000、DS2000といったスピーカーが主力であり、
これらをきちんとセッティングして鳴らした音は、オーディオマニアとして惹かれるところがあった。

とはいっても自分のモノとして買うかとなると、それはなかった。
それでもきちんとした状態で鳴るこれらのスピーカーの音には、
オーディオマニアとして挑発されるところがあった。

DS10000は型番からわかるようにDS1000をベースにした限定モデルである。
ウーファーは27cm口径、スコーカー、トゥイーターはハードドーム型。
エンクロージュアはピアノフィニッシュのブックシェルフ型だった。

こう書いていくと、今回のヤマハのNS5000も同じといえる構成である。
構成、外観が共通するところがあるにとどまらない。

昨日、NS5000の音を聴きながら、DS10000の音を初めて聴いた時のことを思い出していた。
DS10000を聴いた時の驚きを思い出していた。

NS5000にも、そういった驚きがあった。
同じといえる驚きの部分もあったし、そうでない驚きもあった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その3)

24日のNS5000の発表された内容を読んでいて、
インターナショナルオーディオショウに行って音を聴きたい、と思うようになったのは、
まず型番がそうだった。

現在のヤマハのプリメインアンプとCDプレーヤーは、1000番、2000番、3000番の型番がつけられている。
NS5000はNS1000でも、NS2000でもNS3000でもなく、NS5000である。
NS1000とNS2000は既に使われている型番だとしても、なぜNS3000でないのか。

もしかするとNS3000という型番で開発は始まったのかもしれない。
それがなんらかの理由で、NS5000になったとしたら……、そんなことを考えていた。

そして価格をみると一本75万円(予価)とある。ペアで150万円。
ヤマハのCD-S3000、A-S3000の価格からしても高い価格設定である。
ということは、CD-S5000、A-S5000が今後登場してくるのかもしれない。
それだけではない、いまはプリメインアンプだけだが、セパレートアンプの復活もあるのではないか。

そんな勝手な期待をしていた。
これがインターナショナルオーディオショウに行こうと思った理由のひとつ。

もうひとつはNS5000の外観にある。
30Cm口径ウーファーに、ドーム型のスコーカーとトゥイーター、
エンクロージュアのサイズはいわゆる日本的なブックシェルフ。

エンクロージュアも写真を見る限りはラウンドバッフルではない。
ただの四角い箱に見える。
いくら仕上げがピアノフィニッシュであっても、
598のスピーカーと一見似たような内容で、十倍以上の価格をつけて出してくる。

あえて、このスタイルでヤマハは出してくるのか──、
これがふたつめの理由である。

もうひとつは昨年のショウ雑感にも書いているように、
ヤマハのプレゼンテーションは、なかなかよかった。
今年もいいプレゼンテーションであるだろうし、
昨年と同じということもないであろう。そういう期待も理由のひとつであった。

Date: 9月 27th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その2)

ヤマハのスピーカーシステムの型番には基本的にはNSとついている。
NSとはナチュラルサウンド(Natural Sound)の略である。

NS1000M、NS690、NS10M、NS500、NS8902などの製品があった。
これら以外にも数多くのヤマハのNSナンバーのスピーカーシステムは登場してきた。

1980年代に登場したヤマハのスピーカーの大半は、
ステレオサウンドで聴いている。
そうやって聴いてきて、
ヤマハが目指している・考えているナチュラルサウンドがどういう音なのか、
それがわかった・つかめたかというと、そんなことはなかった。

こちらの聴き方が悪いのかもしれない。
でも、それだけではなかったはずだ。

たとえばNS690IIとNS1000Mは、どちらも30cm口径のウーファーの3ウェイ、
スコーカーとトゥイーターはどちらもドーム型だが、NS690IIはソフトドームでNS1000Mはハードドーム型。
エンクロージュアの仕上げ、色もまったく違う。

それぞれのスピーカーから鳴ってくる音は、
他社製スピーカーとの比較においてはどちらもヤマハのスピーカーであることははっきりしているのだが、
NS690IIとNS1000Mとでは性格が同じスピーカーとはいえないところもあった。

ヤマハはどちらの音をナチュラルサウンドと呼ぶのか。
私にとって、このことはながいこと疑問だった。

今回NS5000を聴いて、
やっとヤマハの「ナチュラルサウンド」をはっきりと耳で聴きとれた、と実感できた。

Date: 9月 26th, 2015
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その1)

25日からインターナショナルオーディオショウが始まった。
今回は仕事の関係で行けない(行かない)かもと思っていた。

けれど24日にヤマハからNS5000のリリースが発表になった。
これだけは聴いておきたいと思い、なんとか時間のやりくりで、26日の夕方の、二時間半ほど会場を廻っていた。

目的のヤマハのブースでは私が到着する少し前に試聴が始まっていた。
これまでならばそれでもブースに入れたものだけど、今回は無理だった。
となると本日の最後のデモ(18時から)を聴くしかない。
そのためにはヤマハのブースに最低でも15分前には入っておきたい。

つまり他のブースを廻る時間は一時間ちょっとになってしまう。
NS5000以外にも聴いておきたいモノはあった。
でも今回はNS5000を最優先とすることにした。

おかげでNS5000を約50分間聴けた。
予想をこえていた音が鳴っていた。
詳細は明日以降書いていくが、明日(27日)に行かれる方は、とにかくNS5000の音を聴いてほしいと思う。

NS5000からは「日本のオーディオ、これから」を聴き取ることができたからだ。