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Date: 10月 31st, 2008
Cate: LS3/5A, サイズ

サイズ考(その25)

LS3/5AとAE2とでは、まさしく隔世の感だ。

おそらく早瀬さんのリスニングルームのエアーボリュームではSL700でも、
あそこまでの音量を、何の不安さを感じさせずに鳴らすことは無理だろう。
ましてLS3/5Aでは、低域を思いっきりカットしたとしても、到底無理である。

だからといって、LS3/5AがAE2に対して、すべての面で劣っているとは思っていない。

ちょうどいまごろの季節、夜おそく、ひとり静かにしんみりと、ひっそりと音楽を味わいたいとき、
ごく小音量で親密な音楽との接し方を望むとき、LS3/5Aは、やはり最適の存在である。

この良さが、SL6以降、薄れはじめ、AE2では、もう希薄というよりも、無いと言いたくなる。

たとえ深夜であろうと、まわりを気にせず、好きな音量で聴ける環境を持っていたとしても、
日本に住んでいると季節感と無関係ではいられない。
個人的な趣向かもしれないが、肌寒くなって来はじめたころになると、
LS3/5Aの鳴り方が恋しくなってくる。

こういう情緒的なところをもつスピーカーを、手元においておきたいものだ。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その24)

ARのスピーカーが、それまでのフロアー型スピーカーと比べると小型化に成功したときから、
小型スピーカー・イコール・密閉型という図式が続いてきたと思う。

セレッションのSL6以前の小型スピーカーのディットン11も密閉型だし、
すこし大きめのUL6はパッシヴラジエターを採用して、低域を補っている。

およそ小型スピーカーでバスレフ型というのは、アコースティック・エナジー以前には見たことがない。
そして、この後、小型スピーカーのバスレフ型が増えていくことになる。

このことは、おそらく小口径ユニットが各部の改良によって、
かなりの振幅でも使えるようになったためではないかと思う。

AE2は、早瀬さんが一時期鳴らされていたことがあるので、
数回にわたって、かなりの時間を聴くことができた。

当時の早瀬さんのリスニングルームは、広かった、そして大きかった。
おそらく50から60疂ほど広さで、弧を描いている天井も、いちばん高いところでは、
5、6mほどあったと思う。
さらに低域がこもらないようにと、廊下と続いている。
もうエアーボリュウムとしては相当なものだ。

そういうところで鳴らしても、まったく平気だったのがAE2だ。
なんの心配することなくボリュームを上げていける。
おそらくアコースティック・エナジーの謳い文句どおりに、
ウーファーのアルミ振動板がきっちり放熱しているのだろう。

LS3/5が登場したのが1970年、改良モデルのLS3/5Aが75年、SL6が82年、
AE1、AE2の日本登場は90年だが、イギリスでは87年に登場しているらしい。

SL6からわずか5年である。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: Celestion, LS3/5A, SL6, サイズ

サイズ考(その23)

セレッションのSL6の登場以降、いわゆる小型スピーカーの鳴り方は、
ロジャースLS3/5Aと比べると大きく変化した。

小型スピーカーだから、あまりパワーを入れてはいけない、大きな音はそれほど望めない、
低域に関してもある程度あきらめる……などといった制約から、ほぼ解放されている。

SL6はその後、エンクロージュアの材質を木からアルミ・ハニカム材に変更した上級機SL600を生み、
さらにトゥイーターの振動板をアルミに変更し、
専用スタンドとの一体化をよりはかったSL700へと続いていく。

同じイギリスからは、すこし遅れてアコースティック・エナジーが登場している。
フィル・ジョーンズが設計をつとめたAE1とAE2は、
アルミ合金を芯材として表面を特殊処理の薄膜シートで被うことで、
高剛性と適度内部損失を両立させただけでなく、
大入力時のボイスコイルの熱を効率良く振動板から逃がすことにも成功している。
口径はわずか9cm、センターキャップが鋭角なのも視覚的な特徴であるとともに、
このブランドのスピーカーの音とぴったり合う。

トゥイーターもマグネシウム合金を採用するなど、意欲的な設計だ。

そしてAE1、AE2が、LS3/5Aとはもちろん、SL6とも大きく異るのは、
バスレフ型エンクロージュアを採用していることだ。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その22)

セレッションSL6の開発スタイルは、同じイギリスのアレックス・モールトンとそっくりだと思う。

アレックス・モールトンは小口径ホイールの自転車で、
日本で一時期流行したミニサイクルの原型と言われている。

開発者のモールトン博士は、理想の自転車を開発するために、
まず従来の大口径ホイール(28インチ)とダイヤモンド・フレームという組合せだけでなく、
いままでの自転車の乗り方にまで疑問を持ち、自ら、ひとつひとつの疑問に答を出し、
その結果が、小口径ホイール(17インチ)とサスペンション、トランス・フレーム採用の、
現在の形態である。

通常とは異る乗り方も考え出したらしいが、危険な面もあり、従来の位置関係を踏襲している。

モールトンは、まずサイズありき、でもない。一般的な常識ありき、でもない。
従来の枠組みの中での理想を追い求めたのではない。

アレックス・モールトンの輸入元は、
質量分離型トーンアームの DV505やスーパーステレオ方式、
ダイヤモンドカンチレバーを早くからカートリッジに採用していたダイナベクターである。
ブリヂストンがライセンス生産しているブリヂストン・モールトンもある。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(余談)

47研究所のアンプGainCardを使っている、意外な店が東京・吉祥寺に2軒ある。

1軒は、ジングルジャングルという、ハワイをイメージした飲み屋で、
もう1軒は、洞くつ家という、横浜家系のラーメン店。

どちらもジャズ喫茶や名曲喫茶ではないので、GainCardの音を真剣に聴くという雰囲気ではないし、
店内に入ってすぐにわかるようなところに置いてあるわけでもなく、見つけ難いかも。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その21)

セレッションSL6の横幅は20cmである。
開発リーダーのグラハム・バンクが当時語っていたのが、
エンクロージュアの横幅が広いと音場感の再現に悪影響をもたらす、ということだった。

エンクロージュアの左右の角からの不要輻射とユニットからの直接音との時間差がある程度以上になると、
人間の耳は感知し、その結果、音場感がくずれてしまうらしい。
スピーカーを左右の壁に近づけすぎると、
スピーカーからの直接音と壁からの一次反射音との時間差が少なくなると、
部屋の響きとしてではなく、音の濁りとして感知されるということは、
以前から言われていたが、エンクロージュアの不要輻射に関しては反対のようだ。

おそらく面と線(エンクロージュアの角)の違い、
反射と不要輻射の違いからくるものだろう。

個人的な意見だが、エンクロージュアの側板の鳴きは、響きが美しければ、
スピーカー全体の音を豊かに響かせてくれると感じている。
スピーカーの角度の振りは、聴取位置から、
エンクロージュアの側板が見えるくらいの方が、時として楽しめる音を出してくれる。

グラハム・バンクによれば、ひとつの目安として、
エンクロージュアの横幅は、人間の左右の耳の間隔と同じにすることらしい。
これよりあきらかに横幅が大きくなると、音質上問題が生じるとのこと。

SL6のウーファー口径の15cmは、
エンクロージュアの横幅をぎりぎりまで狭くしたいことも理由のひとつだったのかもしれない。

日本のスピーカーで、ラウンドバッフルが流行った。左右のコーナーを直角ではなく、丸く仕上げている。
ラウンドバッフルは指向性の改善のためと言われているが、
ある程度低い周波数まで効果があるようにするには、かなり大きいカーヴが必要になる。
ダイヤトーンの2S305くらいのラウンドバッフルでなければ、改善効果は高い周波数に限られる。

にも関わらずカーヴの小さなラウンドバッフルが増えてきたのは、不要輻射を抑えるためである。
直角よりも少しでもラウンドバッフルにしたほうが、
エンクロージュアの左右の角からの不要輻射は減ることがわかっている。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その20)

一般的なコーン型ユニットの口径は、8cm、10cm、12cm、16cm、20cm、25cm、30cm、38cmである。

セレッションのSL6のウーファーの口径は15cm。おそらく他のメーカーだったら16cmを採用しているだろう。
15cmと16cm、それほど大きな違いはないようにも感じられるが、
あえて15cmにしている点は見逃せないと思える。

SL6のユニットは、トゥイーターもウーファーも、専用の新規開発だから、
16cmすることもたやすかったはず。
それにウーファーは面積が大きいほど低音再生に関しては有利になってくる。

SL6はウーファーは高分子系重合材を振動板に採用している。
剛性、内部損失、経年変化の度合い、製造時のバラツキの少なさなどを考慮しての選択だろうが、
おそらく16cmもつくっていると、私は思っている。もしかしたら14cmのものをつくっているのかもしれない。

それらをレーザー光線による振動の動的解析を行なった上で、振動板の材質との兼合いも含めると、
15cm口径が、彼らの求める性能を実現してくれたからなのだろう。

まずサイズありき、の開発では、15cm口径のウーファーはあり得なかっただろう。

そういえば、同じイギリスのグッドマンのAXIOM80も、約22.5cmという中途半端な口径だった。
どちらかといえば保守的な印象の濃いイギリスだが、
暗黙の規格に縛られないところもイギリスの良さなのかもしれない。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その19)

ジェフ・ロゥランドDGのModel10、12のカタログには、
8Ω負荷時38Wの連続出力を持つパワーデバイスを、Model10は12個、
Model12は12個だが、こちらはモノーラル仕様なのでステレオだと24個使っている、とある。

このパワーデバイスは、ようするにパワーICで、47研究所のGainCardに使われているものより、
ひとまわりサイズが大きく、出力も大きいLM3886というパワーICである。

Model10は、LM3886を12個使っているわけだから、片チャンネル当り6個使用。
内部を見るとわかるが、LM3886のNFBループ用の抵抗には、
コンピューターや最近のデジタルオーディオ機器に使われるようになったチップ抵抗を、
プリント基板に取り付けられているものの、サイズの小ささを活かして、
LM3886のリード線ぎりぎりまで近づけて、やはりNFBループをかなり小さくするよう配慮されている。

つまりGainCardと同じ思想でつくられたアンプを、
Model10は、片チャンネル当り6個並列に接続しているといえる。
アンプ全体としてみると、GainCardよりもかなり大型のジェフ・ロゥランドDGのアンプだが、
中身に関しては、特徴的なところはそっくりである。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その18)

クレルの初期のパワーアンプとは対照的な思想でつくられているのが、47研究所のGainCardだ。

GainCardのクローンという意味のGainCloneで検索すると、海外の自作マニアのサイトが数多くヒットする。
47研究所のGainCardをそっくりそのまま模倣したものから、
設計思想はそのままで、使用するパワー ICを、より大出力のものに変更したり、
電源とアンプ本体を一体化したり、真空管によるバッファーを前段に設置したり、と、
それぞれ創意工夫がこらされている。なかには空回りしているものも……。

トランジスター、FET、抵抗やコンデンサーを組み合わせてつくるディスクリート構成と比べると、
OPアンプ(パワーIC)によるアンプは性能だけでなく音質面でも低いものと見がちだが、
必ずしもそうではなく、結局は、広い意味での使いこなしである。

GainCardは、パワーICを使い、入力端子、出力端子との配線も極力短縮化し、
信号経路の短縮化を実現している。
さらにパワーICのリード線に直接NFB用の抵抗をハンダ付けすることで、
NFBループもひじょうに小さなものになっている。
結果、アンプ本体は手のひらに乗せることが出来る。

47研究所のサイトでは信号経路の短さが謳われているが、注目したいのは、NFBループの小ささだ。

携帯電話やパソコン、インバーター式の家電製品が氾濫し、オーディオ機器は、
あらゆる高周波ノイズにさらされている。

高音質化をうたい、高音質パーツ(大概大きい)を使い、ディスクリート構成で安易に組み上げると、
NFBループが大きくなってしまう。ここから高周波ノイズがはいってくる。
NFBループは小さいほどいい。

パワーICを使っても、プリント基板にパーツを配置して、となると、
リード線に直接ハンダ付けと比較するとNFBループは大きくなる。
それを嫌い、作業としては何倍も面倒なリード線にハンダ付けの手法をとっている。

アマチュアライクという人もいるだろうが、確実な方法だと私は思っている。
47研究所のGainCardと同じ思想でつくられているのが、ジェフ・ロゥランドDGのModel 10、12だ。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その17)

クレルの独自のパーツ配置は、その後、他社のアンプと同じように凝集されていく。
パーツ同士が近接すれば、互いに干渉する度合いが強まる。
離せば、干渉は減っていくが、配線がのび、信号経路が長くなる。

一概にどちらが正しいとは言えない。
それでも初期のクレルのアンプで聴けた音の質感は、
あのコンストラクションと無縁ではないと、いまでも思っている。

クレルのKSA100やKMA200のコンストラクションで特徴的だったことをひとつ書くと、
ヒートシンクとファンの位置関係がある。

ファンを使っているアンプでは、ヒートシンクが横方向に置かれていることが多いが、
クレルでは縦方向であり、ファンの位置も、こういう場合、ヒートシンクの上に取りつけられる。
クレルはというと、シャーシ底板とヒートシンクの間に、
ファンがゴムプッシュを介して取りつけられている。めったにない取付け方法だ。

パワーアンプのパーツの中では、電源トランスに次ぐ重量物がヒートシンクであり、
通常なら、シャーシにしっかりと固定するものを、
あえてファン上に置き、左右に力を加えると、多少ふらつくようにしている。

おそらく、この点は、常識にとらわれることなく、耳で判断しての結果であろう。

Date: 10月 28th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その16)

1981年ごろのクレルとスレッショルドのパワーアンプのラインナップ構成は似ている。
最上級機がモノーラルで、下の2機種がステレオ構成で、規模も出力も価格に比例している。

こういうラインナップは川の流れに例えられる。
上流がいちばん小型の機種、中堅機が中流、最上級機が下流といったぐあいに、だ。

川の上流に行くにしたがい、川幅に狭くなり水流も少なくなる。
けれどわき出したばかりの水は勢いがあり、水しぶきも目にまぶしい。

中流に行くと川幅も広くなり水の量も増える。ただし水そのもの透明度や新鮮さは薄れている。

下流になると、圧倒的な水流になる。
天候の影響で水かさが増したとき、上流ではそれほど増えなくとも、下流ではものすごい水流となる。

クレルもスレッショルドも真ん中の機種、KSA100とSTASIS2が中庸といえる。
そのラインナップのリファレンス的な音であり、規模である。

下のモデル、KSA50、STASIS3になると、より反応がきびきびした印象が増してきて、
透明感も聴感上のSN比の良さもきわだってくる。
かわりに、やはりスケール感は、最上級機と比べるとあきらかに小ぶりになる。

KMA200、STASIS1は価格も規模も違うだけあって、たっぷりと音が出てくる印象をまず受ける。
すべてに余裕があり、SL6をKMA200で鳴らしたときのように、思わぬ驚きを聴かせてくれる。
これに、KSA50、STASIS3がもつ、反応の、きわだった良さが加われば
ほんとうに素晴らしいことだが、
残念ながら、80年代のアンプはこの傾向を克服できなかったように思う。

現在のアンプはどうだろうか。
同一ブランドのパワーアンプすべてをならべて聴く機会がないため、なんとも言えないが、
少なくとも技術は進歩している。
出力段に使われるトランジスター、FETにしても、
従来なら複数個並列接続して得ていた出力を、
いまなら1組、もっと少ない数の素子で実現できる。

もしかすると、いまは最上級機がすべてにおいて優れているのかもしれない。
けれど、それは案外、オーディオをつまらなくしている面もあるだろう。

以前のクレルやスレッショルドのような音の傾向の違いは、
何を求めるかによって──純度の高さを優先する人なら、
KMA200やSTASIS1を購入する経済力があっても、
KSA50やSTASIS3の選択があり得た。

KMA200やSTASIS1が買えなくて、KSA50、STASIS3をかわりに買ったとしても、
これならではの魅力に気がつけば、イソップ童話のキツネになることはない。

以前のパワーアンプには、こういう、必ずしもヒエラルキーに支配されない面白さがあった。
いまはどうなのだろう。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その15)

クレルのPAM2とKSA100が印象ぶかく記憶に残っているのは、音だけではなくて、
独特の処理による、シルクのような白い質感のフロントパネルと、
クレルのブランドロゴを刻んだ金属プレートとマイナス・ビスの金色、
この対照的な金属の組合せが醸し出す雰囲気は、クレルの音そのものだった。

金色のプレートはその後も変らなかったが、
シルクの質感に近いパネル処理は、しばらくしてなくなり、青色になったり、
また白にもどっても、初期のパネルとは違う質感だったりと、入荷の度に変わっていた。

のちにわかったことだが、初期のクレルのパネルの処理は、ある職人ひとりの技術で、
誰にもマネできないものだったのが、
その職人の死により、技術そのものが消えてしまったときいている。
同じ質感を再現しようと、かなりの試行錯誤をくり返したが無理だったらしい。

クレルのパワーアンプのラインナップは、KSA100(100Wのステレオ機)のほかに、
KSA50(50Wのステレオ機)とKMA200(200Wのモノーラル機)から成っていた。
これと同じといえるラインナップを揃えていたのが、スレッショルドであり、
STASIS1、STASIS2、STASIS3の3機種だ。

STASIS1がトップモデルで、これだけがモノーラル構成、STASIS2が中堅モデルで、
STASIS3はもうすこし規模が小さくなる。

型番が示すように、3機種ともSTASIS(ステイシス)回路を採用している。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その14)

クレルのデビュー作、KSA100は、A級動作で100W+100Wの出力を持つということもあって、
かなり大型のシャーシを採用しているが、自然空冷ではなくファンによる強制空冷である。

あれだけの大きさのシャーシであれば、ヒートシンクをシャーシの両サイドに配置することで、
自然空冷も可能だろうが、KSA100は、かわりに内部のパーツ配置に、
それまでの他のアンプでは見られなかったほどの余裕を割いている。
熱の問題に対処するためだというパーツ配置だが、
電源トランスからはフラックスが出ているから、あまり近くにパーツがないほうがいい。
それに平滑用の電解コンデンサーからもフラックスは出ている。

1980年代のパイオニアのアンプやCDプレーヤーの内部を見ると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いている。これもフラックス対策のひとつだ。

プリント基板のパターンや部品のリード線に銅箔テープが接触しないように注意するだけで、
あとはコンデンサーに巻くだけだし、結果が芳しくなくても、剥がせば元どおりになるのだから、
試して、どのくらいフラックスが音に影響を与えているのか、確認するのも難しいことではない。

KSA100の出力段のパワートランジスターは、A級動作ゆえ、発熱量はかなり大きい。
ファンを使うことのデメリットはあるが、もちろんメリットもある。
自然空冷よりもシャーシ内の温度は低くできる。
一般に、電子機器のシャーシ内温度が5度高くなれば、故障率は2倍になるという。
あまり温度が低くても、また別の問題が発生するが、
あまりに高温になりすぎて、故障にいたらなくても、
アンプ内部には高温に弱いパーツがいくつもある。これらは確実に劣化の度合いが早まる。

パワーアンプ内で振動発生源として大きいのは、電源トランスと出力段(ヒートシンクを含む)である。
振動をできるだけ発生させないのはもちろんだが、起こった振動の影響からどう逃げるか。
いろんな対処法があるが、熱や電磁波、フラックスと同じく、
出来るだけ距離をとるのは、有効である。

アンプやCDプレーヤー、スピーカーが見た目そのままの大きさではなく、
それらが出している振動や熱、電磁波、フラックスなども考慮することで、
見た目以上のサイズをもつのと同じように、
アンプに使われているパーツも、必ずしも見た目そのままの大きさではない。

パーツ同士の相互干渉をできるだけ取り除くことも、地味だが、大事なことである。

クレルのパワーアンプのパーツレイアウトは、
それらのことが反映されていると、私は捉えている。
もっとも不用意にパーツを離しすぎると、配線が長くなることで、
インダクタンス成分の増加の悪影響が出てくることになる。

Date: 10月 24th, 2008
Cate: Celestion, SL6, サイズ

サイズ考(その13)

私がステレオサウンドに入ったころの、試聴室でリファレンスアンプとして使われていたのは、
マッキントッシュのC29とMC2205の組合せだった。

セレッションのSL6も、最初、この組合せで聴いた(はずだ)。
まだCD登場前だから、プログラムソースはアナログディスクで、
プレーヤーはパイオニア・エクスクルーシヴのP3aと、
カートリッジはオルトフォンのMC20MKIIを使用。

この組合せから出てきた音に、驚いた。
そしてクレルのKMA200と、純正のコントロールアンプPAM2の組合せにつないだときの驚きは、
オーディオで体験した驚きの中で、いまでも強烈な印象を残している。

何がそこまで強烈だったのか。低音の再現力の素晴らしさであった。

JBLの4343BWX(もしくは4344)でも、当然KMA200の音を聴いている。
JBLでの、マッキントッシュとクレルの差よりも、SL6で聴いたほうが違いが素直に出てきた。
低域にその違いがはっきりと出た。

SL6のウーファーは、高分子系の振動板で、ダストキャップのないワンピース構造という特徴はあるが、
口径はわずか15cm。JBLは38cm口径。
にも関わらず、圧倒的な、最低域まで素直に伸びた、量感ある低音を聴かせてくれたのはSL6だった。

アンプを変えたことで、ここまでスピーカーの低域の再現能力が大きく変化するとは、
JBLで、KMA200を聴いた時には想像できなかった。だから驚きは倍加された。
しかも安定した鳴りかたで、まったく不安定さを感じさせない。
こういう低音は、聴いていて気持ちがいい。

そして、クレルのアンプも、サイズについて考えるのに好適の存在である。

Date: 10月 23rd, 2008
Cate: LS3/5A, サイズ

サイズ考(その12)

LS3/5Aも、価格的に不釣り合いなアンプ、
アナログプレーヤーやCDプレーヤーと組み合わされる例も多い。
相当に高額なアンプで鳴らされている例をネットで見たこともある。

そういう気持ちにさせる一面をLS3/5Aは持っている。
とはいえ、個人的には奢った組合せでも、やはりある程度の節度は保ってこそ、
LS3/5Aの魅力は、より活きてくると感じている。
ここに関しては個人差が、ひときわ大きいように思うけど。

もしLS3/5Aを、自由な組合せで鳴らせるとしたら、まっさきに組み合わせてみたいのは、
スチューダーのパワーアンプA68だ。
瀬川先生の愛機でもあったA68の、アメリカのアンプとはまったく違う音の出しかたが、
LS3/5Aの世界に寄り添ってくれそうな気がするからだ。

すこしでもいい音を出すために、制約をできる限り取り除き、
物量も惜しみなく投入してつくり上げられることの多いアメリカのアンプと比べると、
A68には最初から、ある枠が設けられているかのように、節度ある品の良さを感じさせるし、
それゆえに音楽のもつ情感がひたひたと迫ってくる様は、
いまでも、アメリカのアンプからはなかなか得難い特質のように感じられる。

音の情報量の多さでいえば、現代アンプの方が上であるし、
私も基本的には情報量は多い方がいいと思っているが、
単純に多ければいいというわけでもないと感じている。
情報量と音量は絡み合っているところがあるからだ。

音量の制約があるLS3/5Aには、だからこそA68だと思う。

それにしても、こんなことを書いていると、A68を手に入れたくなってくる。
それもできれば瀬川先生が使われていたA68そのものを。