サイズ考(その14)
クレルのデビュー作、KSA100は、A級動作で100W+100Wの出力を持つということもあって、
かなり大型のシャーシを採用しているが、自然空冷ではなくファンによる強制空冷である。
あれだけの大きさのシャーシであれば、ヒートシンクをシャーシの両サイドに配置することで、
自然空冷も可能だろうが、KSA100は、かわりに内部のパーツ配置に、
それまでの他のアンプでは見られなかったほどの余裕を割いている。
熱の問題に対処するためだというパーツ配置だが、
電源トランスからはフラックスが出ているから、あまり近くにパーツがないほうがいい。
それに平滑用の電解コンデンサーからもフラックスは出ている。
1980年代のパイオニアのアンプやCDプレーヤーの内部を見ると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いている。これもフラックス対策のひとつだ。
プリント基板のパターンや部品のリード線に銅箔テープが接触しないように注意するだけで、
あとはコンデンサーに巻くだけだし、結果が芳しくなくても、剥がせば元どおりになるのだから、
試して、どのくらいフラックスが音に影響を与えているのか、確認するのも難しいことではない。
KSA100の出力段のパワートランジスターは、A級動作ゆえ、発熱量はかなり大きい。
ファンを使うことのデメリットはあるが、もちろんメリットもある。
自然空冷よりもシャーシ内の温度は低くできる。
一般に、電子機器のシャーシ内温度が5度高くなれば、故障率は2倍になるという。
あまり温度が低くても、また別の問題が発生するが、
あまりに高温になりすぎて、故障にいたらなくても、
アンプ内部には高温に弱いパーツがいくつもある。これらは確実に劣化の度合いが早まる。
パワーアンプ内で振動発生源として大きいのは、電源トランスと出力段(ヒートシンクを含む)である。
振動をできるだけ発生させないのはもちろんだが、起こった振動の影響からどう逃げるか。
いろんな対処法があるが、熱や電磁波、フラックスと同じく、
出来るだけ距離をとるのは、有効である。
アンプやCDプレーヤー、スピーカーが見た目そのままの大きさではなく、
それらが出している振動や熱、電磁波、フラックスなども考慮することで、
見た目以上のサイズをもつのと同じように、
アンプに使われているパーツも、必ずしも見た目そのままの大きさではない。
パーツ同士の相互干渉をできるだけ取り除くことも、地味だが、大事なことである。
クレルのパワーアンプのパーツレイアウトは、
それらのことが反映されていると、私は捉えている。
もっとも不用意にパーツを離しすぎると、配線が長くなることで、
インダクタンス成分の増加の悪影響が出てくることになる。