Archive for category BBCモニター

Date: 5月 8th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その8)

グラハムオーディオのLS5/8は、ほぼ間違いなくロジャースのPM510ではなく、
チャートウェルのPM450に近い音を出すであろう。

でも、そのことをあれこれ考えて、というよりも、
グラハムオーディオのLS5/8の写真を見た時からわかっていたことかもしれない。

チャートウェルのLS5/8の別の型番はPM450Eであり、
そのパッシヴ型(LSネットワーク仕様)がPM450であるわけだが、
チャートウェルの、このふたつのスピーカーは、実はフロントバッフルの仕上げが違う。

LS5/8はプロフェッショナル用ということもあって、黒の塗装仕上げ、
PM450はグラハムオーディオのLS5/8と同じようにツキ板仕上げである。
PM450は、ウーファーの水平方向の指向特性を改善するために、
ウーファーをフロントバッフルの裏側から取り付け、開口部を丸ではなく矩形にしているのに対し、
グラハムオーディオは矩形ではなく丸である。

ロジャースのモノも初期の製品では矩形だったが、すぐに丸に変更になっている。
ただしいずれもウーファーはフロントバッフルの裏から取り付けている。
つまりウーファーのフレームが露出しておらず、
この部分からの輻射の影響を抑えている。

チャートウェルのPM450の写真は、ステレオサウンド 62号掲載のオーディオクラフトの広告で見れる。
当時のオーディオクラフトの社長であった花村圭晟氏は、チャートウェルのPM450を、
「完全に私の好み」と表現されている。

花村氏のPM450は本来別の人のモノだったが、無理をいって借りて鳴らされていた。
広告にはこう書いてある。
     *
私は森田さんのお宅に伺うたびに、ほれにほれ込んで……といっても絶版ではどうにもなりませんしね。ロジャースの510が登場した時はしめたとばかりに飛びついたんですけどね。しかしオーディオは面白いもんでして、作る人間が変ると同じような技術でも音が違うんですね。確かに同じ系列のスピーカーシステムなんだけど、私はほれた女が悪かった。良すぎたんですね。結局510は現在お蔵入り……。510もいいスピーカーなんですけどね。
     *
花村氏はグラハムオーディオのLS5/8を聴かれたら、なんといわれるだろうか。

Date: 5月 8th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その7)

頼りになるのは瀬川先生の文章である。
ステレオサウンド 56号でのPM510の記事、
それからステレオサウンド 54号の特集でのLS5/8の試聴記がある。
     *
 たまたま、自宅に、LS5/8とPM510を借りることができたので、2台並べて(ただし、試聴機は常に同じ位置になるように、そのたびに置き換えて)聴きくらべた。LS5/8のほうが、PM510よりもキリッと引緊って、やや細身になり、510よりも辛口の音にきこえる。それは、バイアンプ・ドライヴでLCネットワークが挿入されないせいでもあるだろうが、しかし、ドライヴ・アンプの♯405の音の性格ともいえる。それならPM510をQUAD♯405で鳴らしてみればよいのだが、残念ながら用意できなかった。手もとにあった内外のセパレートアンプ何機種かを試みているうちに、ふと、しばらく鳴らしていなかったスチューダーA68ならどうだろうか、と気づいた。これはうまくいった。アメリカ系のアンプ、あるいは国産のアンプよりも、はるかに、PM510の世界を生かして、音が立体的になり、粒立ちがよくなっている。そうしてもなお、LS5/8のほうが音が引緊ってきこえる。ただ、オーケストラのフォルティシモのところで、PM510のほうが歪感(というより音の混濁感)が少ない。これはQUAD♯405の音の限界かもしれない。
 いずれにせよ、LS5/8もPM510も、JBL系と比較するとはるかに甘口でかつ豊満美女的だ。音像の定位も、決して、飛び抜けてシャープというわけではない。たとえばKEF105/IIのようなピンポイント的にではなく、音のまわりに光芒がにじんでいるような、茫洋とした印象を与える。またそれだから逆に、音ぜんたいがふわっと溶け合うような雰囲気が生れるのかもしれない。
(ステレオサウンド 56号)

最初のモデルにくらべると、低音域を少しゆるめて音にふくらみをもたせたように感じられ、潔癖症的な印象が、多少楽天的傾向に変ったように思われる。しかし大すじでの音色やバランスのよさ、そして響きの豊かになったことによって、いわゆるモニター的な冷たさではなく、基本的にはできるかぎり入力を正確に再生しながら、鑑賞者をくつろがせ楽しませるような音の作り方に、ロジャース系の音色が加わったことが認められる。低音がふくらんでいる部分は、鳴らし方、置き方、あるいはプログラムソースによっては、多少肥大ぎみにも思えることがあり、引締った音の好きな人には嫌われるかもしれないが、が、少なくともクラシックのソースを聴くかぎり、KEF105IIの厳格な潔癖さに対して、やや麻薬的な色あいの妖しさは、相当の魅力ともいえそうだ。
(ステレオサウンド 54号)
     *
54号の試聴記で最初のモデルと書かれているのはチャートウェルのPM450E(LS5/8)のことである。
ここでチャートウェルのLS5/8には潔癖症な印象があり、
それがロジャース版では楽天的傾向になり、
さらにPM510では享楽派となっていたことが読みとれる。

チャートウェルとロジャースでは、音が違う。
とはいえLS5/8というBBCナンバーで発売するスピーカーシステムであるのだから、
ロジャース版の開発を担当したリチャード・ロスも、そこから大きく逸脱することはしなかった──、
そう思えるし、そんな縛りのないPM510では、より積極的であったようにも読める。

つまりPM510ならではの、あの音の世界はリチャード・ロスによる独自の音の世界だとわかる。
ロジャースのLS5/8は聴く機会があった。
PM510と直接比較ではなかったけれど、たしかに瀬川先生が書かれているとおりの音の違いがあった。

そうなるとグラハムオーディオのLS5/8に、PM510の音の世界は、あまり期待しない方がいいだろう。
グラハムオーディオの開発スタッフの写真は見ていると、
そこにリチャード・ロス的雰囲気の人はいない。

Date: 5月 7th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その6)

ロジャースのPM510の記事は、ステレオサウンド 56号が最初だった。
瀬川先生が担当された新製品紹介の記事だった。
夢中になって、何度も何度も読み返した。

チャートウェルのPM450はもう聴けないとわかったので、よけいに読み返していた。
この記事の終りに、こう書かれている。
     *
 同じイギリスのモニター系スピーカーには、前述のようにこれ以前には、KEFの105/IIと、スペンドールBCIIIがあった。それらとの比較をひと言でいえば、KEFは謹厳な音の分析者。BCIIIはKEFほど謹厳ではないが枯淡の境地というか、淡々とした響き。それに対してPM510は、血の気も色気もたっぷりの、モニター系としてはやや例外的な享楽派とでもいえようか。その意味ではアメリカUREIの方向を、イギリス人的に作ったらこうなった、とでもいえそうだ。こういう音を作る人間は、相当に色気のある享楽的な男に違いない、とにらんだ。たまたま、輸入元オーデックス・ジャパンの山田氏が、ロジャースの技術部長のリチャード・ロスという男の写真のコピーをみせてくれた。眉毛の濃い、鼻ひげをたくわえた、いかにも好き者そうな目つきの、まるでイタリア人のような風貌の男で、ほら、やっぱりそうだろう、と大笑いしてしまった。KEFのレイモンド・クックの学者肌のタイプと、まさに正反対で、結局、作る人間のタイプが音にもあらわれてくる。実際、チャートウェルでステヴィングスの作っていたときの音のほうが、もう少しキリリと引緊っていた。やはり二人の人間の性格の差が、音にあらわれるということが興味深い。
     *
チャートウェルのPM450とロジャースのPM510の音の違い、
PM450はキリリと引緊っていて、PM510はモニター計としてはやや例外的な享楽派。
同じスピーカーユニット、同じサイズのエンクロージュア、おそらくネットワークも同じか、
違っていたとしてもそう大きな違いはないと思われるのに、
PM450とPM510には共通した音の性格がありながらも、はっきりとした違いがあることがわかる。

リチャード・ロスの写真も、ステヴィングスの写真も見たことがある。
一枚の写真でどれだけのことがわかるのか──、それはなんともいえないけれど、
ロスとステヴィングスの顔つきは、
レイモンド・クックとリチャード・ロスほどの違いはないけれど、やっぱりずいぶんと違う印象を受ける。

となるとグラハムオーディオのLS5/8の音を想像していく上で重要なのは、
開発スタッフの写真ということになる(?)。

Date: 5月 7th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その5)

私が1982年に購入したロジャースのPM510は、
サランネットを外すにはスピーカー本体を仰向けにして、底板前方にあるネジを二本外さなければならなかった。
いわゆるマジックテープ(面ファスナー)で固定されていたわけではなかった。

今回のグラハムオーディオのLS5/8は写真をみるかぎり、
面ファスナーでサランネットを固定しているようだ。
つまりロジャース時代のLS5/8、PM510はサランネットを装着したままで聴くことを前提としている、
そういう見方ができるのに対し、
グラハムオーディオのLS5/8はフロントバッフルもツキ板仕上げとしていることと考え合わせると、
サランネットなしで聴くことを前提としている、
もしくはサランネットなしで聴くことも想定してある、とみていいのではないか。

もちろんフロントバッフルの仕上げの違いによっても音は変化する。
塗装仕上げとツキ板仕上げでは音は違って当然であり、
サランネット装着を前提としていても、
仕上げによる音の違いを考慮してのツキ板仕上げとも考えられないわけではないが、
どちらかといえばサランネットなしを前提としているように思える。
(このへんは実際に音を聴いてみないことにははっきりとはいえない。)

個人的には音の違いがあったとしても、フロントバッフルは黒で仕上げてほしかった。
これはポリプロピレンという乳白色の半透明の素材であるだけに、
ユニットが取り付けられるバッフルは黒い方が、ポリプロピレンコーンが色気を感じさせてくれる。

そんなふうに見てしまうのは私だけなのかもしれないけれど、
フロントバッフルをツキ板仕上げ(つまり木目)にしてしまうと、
ウーファーがそこだけ浮いてしまうように感じる。

これはPM510のイメージが強く残っているからかもしれない。

Date: 5月 6th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その4)

チャートウェルのPM450、ロジャースのPM510、そして今回のグラハムオーディオのLS5/8は、
どんな違いがあるのだろうか。

PM450は1978年に登場している。日本への入荷数は数ペアだときいている。
PM510は1980年に登場。こちらは私も購入したくらいだし、けっこうな数が入荷していると思われる。
けれどもう30年以上経過しているスピーカーシステムということになる。

いまもロジャースという会社は残っているけれど、
このころのロジャースとは違ってきている。
PM510のメンテナンスをどうしたらいいのか。悩まれている方も少なくないはずだ。

ポリプロピレンコーンは特許をとっている。
その内容のすべてを知っているわけではないが、そのひとつは接着に関することである。
当時ポリプロピレンの接着は非常に難しかった、ときいている。

最近になってやっと日本の接着剤メーカーからポリプロピレンを接着できる製品が登場している。

余談だが、LS5/8、PM510は、当時のイギリスのスピーカーシステムとしては高耐入力だった。
そのためリアバッフルには”WARNING”と書かれたシールが貼られている。
耳の孔に指を差し込んでしかめっ面をしているイラストの横には、
耳を痛めるほどの大音量再生が可能なので、注意、とある。

山中先生がスイングシャーナルの組合せの取材でLS5/8を使われた。
その取材に立ち会った人から直接きいた話なのだが、
たしかにパワーは入る。それで気持ちよく聴いていたら、
ウーファーのポリプロピレンコーンが溶けてしまったそうだ。

ボイスコイルが発する熱がポリプロピレンコーンに伝わりそうなったらしい。

話を戻そう。
PM450にしてもPM510にしても新品同様のモノはもう存在しない。
充分に使い込まれ、鳴らし込まれたモノである。
そういうスピーカーシステムと、
でき上ってきたばかりのグラハムオーディオの LS5/8を並べて聴く機会が仮に得られたとしても、
参考程度にはなっても正確な比較試聴は無理である。

比較は想像の上でしか成り立たないのである。
ならば……、と想像してみよう。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その3)

チャートウェルのPM450からロジャースのPM510にも、外観上の変更点はあった。
PM450は型押ししたフォーム・プラスチックで、縦に三本のラインがアクセントになっていたのに対し、
PM510では平織りの一般的なサランネットになっていた。アクセントとなる縦のラインもない。

LS5/8はプロ用モニターということもあって、
エンクロージュア両サイドに持ち運びを容易にするための把手があった。
PM450よりもPM510は把手がすこし下がった位置になっている。

今回のグラハムオーディオのLS5/8にも、
トゥイーターのレベルコントロールの他にいくつかの外観上の変更点がある。
まず把手が省かれている。
それからフロントバッフルがツキ板仕上げとなっている。

チャートウェルもロジャースのLS5/8、それに他のBBCモニターも、
フロントバッフルは黒の塗装仕上げである。
このことは、サランネットを装着した状態で聴くことを前提としている。

ところがグラハムオーディオのLS5/8(LS5/9もそうだが)、
フロントバッフルを外の面と同じに仕上げてあるということは、
サランネットを外した状態を、標準としていると見ていいだろう。

それとスペックをみて気づくのは出力音圧レベルに違いがある。
PM510はカタログ発表値は94dB/W/m、グラハムオーディオLS5/8は89dB SPL (2.83V, 1m)とある。
インピーダンスは8Ωだから、測定条件は同じといえるわけだから、
このふたつの発表値を信じるのであれば、5dBほど能率が低くなっている。

このことはトゥイーターのレベルコントロールの増設は関係しているような気がする。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その2)

ということはグラハムオーディオのLS5/8は、
チャートウェルPM450、ロジャースPM510の復刻といえるのかというと、
写真をみると、そうともいえない点がある。

グラハムオーディオのサイトには、今日の時点ではLS5/8のことは公開されていない。
だがグラハムオーディオのfacebookには、LS5/8の情報と写真がいくつか公開されている。
それを見ると、フロントバッフルには、LS5/8、LS5/9と同じタイプのトゥイーターのレベルコントロールがある。

PM450、PM510にはこのレベルコントロールはない。
つまり今回のLS5/8は、PM450、PM510のLS5/9的モデルとでもいおうか、
BBCモニター的仕様とでもいったらいいのか、
とにかくLS5/8の正確な復刻モデルとも、PM450の正確な復刻モデルともいえない。
その中間に位置するような復刻である。

とはいえ、私は今回のLS5/8は聴いてみたい、と思っている。
LS5/8そのままの復刻でもないし、PM510そのままの復刻をめざしたモノでないからこそ、
聴いてみたい気持にさせてくれる。

グラハムオーディオのLS5/8は、
チャートウェルのPM450に、より近いスピーカーシステムのような気がするからである。

チャートウェルのPM450は、ステレオサウンド 49号に登場している。
瀬川先生が書かれている。
     *
おそらくバイアンプのせいばかりでなく、LS5/1Aよりも音のひと粒ひと粒を際立たせるような解像力のよい、自然な、しかしイギリスの良質のスピーカーに共通のどこか艶めいた美しい音は、聴き手をひき込むようなしっとりした雰囲気をかもし出す。
     *
チャートウェルのPM450E、PM450は、元PM510ユーザーとして、いまでも一度聴いてみたいスピーカーなのだ。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その1)

今年の一月だったか、そのくらいの時期、
BBCモニターのLS5/9を復刻したイギリスのグラハムオーディオがLS5/8も復刻する予定だと知った。

LS5/8には日本はチャートウェル・ブランドとロジャース・ブランドのふたつが輸入されている。
前者のLS5/8の輸入量はごくわずかである。
チャートウェルそのものがロジャースに買収されてしまったためだ。

LS5/8は他のBBCモニターと違う点がある。
それまでのBBCモニター、LS3/5AにしてもLS3/6、LS5/5にしても、
BBCがプロトタイプを開発して、それを民間のオーディオメーカーにライセンス料を聴取してつくらせていた。

LS5/8はチャートウェルが独自開発したモデルをBBCが、
LS5/8というスタジオモニターとして採用した初めての例である。
それゆえにLS5/8は、チャートウェルのPM450Eという型番も持っていて、
日本にはノアがPM450Eとして輸入していた。

LS5/8(PM450E)は、QUADのパワーアンプ405のシャーシないのわずかな隙間に、
エレクトロニッククロスオーバーを組み込み、バイアンプ駆動するというシステムだ。

チャートウェルにはこのPM450Eの他に、PM450もあった。
こちらは内蔵ネットワーク仕様モデルである。

これらがロジャース・ブランドの LS5/8、PM510となっていく。
グラハムオーディオがLS5/8を復刻すると知って、この点をどうするのかが気になっていた。
オリジナルのLS5/8を受け継いでバイアンプ駆動とするのか
(当然アンプは405が製造中止なので他のアンプに変更されるだろうが)、
それともPM450(PM510)のように内蔵ネットワークとするのか。

製品として売れるであろうと思えるのは、内蔵ネットワーク仕様である。
けれど仮にもLS5/8を謳っている以上は、バイアンプ仕様とするのか。
この点が気になっていた。

結果、登場したLS5/8は内蔵ネットワーク仕様である。

Date: 2月 18th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その17)

株、為替といったものは変動することで利益が生れる。
安定してしまっていたら、これらで利益を得ることはできないのではないだろうか。
そう考えると、いまの資本主義においては、変動こそが利益なのかもしれない、と思ってしまう。

だからそれぞれの業界は変動を必要とする。そうも思えてしまう。
ブームがあるのもそのためではないのか。

私はBBCモニターへの思い入れが強い。
BBCモニターが最高のかたちで復刻されるのは嬉しいし、
さらには新しいBBCモニターが開発されること(おそらくないだろうが)も望んでいる。

そうであるから、昨今のBBCモニターの復刻を好意的にみていきたい、という気持は強い。
それでも、復刻が続いている理由のひとつは、
BBCがライセンス料で稼ぎたいということが大きく絡んでいるような気がするのだ。

BBCモニターのLSナンバーを型番に使うには、BBCにライセンス料を収めなくてはならない。
だから当時は、同クラスのスピーカーシステムよりも、
LSナンバーがつくスピーカーは高価だった。
これはいまもそうだと思う。

もしかすると、いまはライセンス料が撤廃されているのかもしれない。
だとしても、最近のBBCモニターの復刻は、こういう世の中で利益を得るための変動要素なのではないか。
そう思えてしまうところがある。

そんなことはない、と払拭しようとしても、そう思える。
これは何もBBCモニターに関してだけではない、
アナログディスクのブームにも、同じような臭いを感じてしまう。

Date: 2月 18th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その16)

スピーカーの完成度は高くなり、完結しているのが理想ではある。
けれど完成度を高くすることを目指しているうちに、完結することを忘れてしまったスピーカーもある。

そういうスピーカーシステムのつくり手は、もしかすると完結していることを目指していないのかもしれない。
私は完成度の高さとともに完結していることをスピーカーに求めているけれど、
すべてのつくり手がスピーカーを完結させようとしているとは限らないし、
また受け手(鳴らし手)においても、私と同じように完結していることを求めている人もいれば、
ひたすら完成度の高さのみを求める人もいよう。

だから完成度が高く完結していることを理想とするのは、必ずしも一般的な理想とはいえないのかもしれない。
どちらが正しいということではなく、完結であることを求める人とそうでない人とでは、
スピーカーの評価も違ってくる。

BBCモニターは、いうまでもなくモニタースピーカーとして開発されたモノだ。
モニタースピーカーをどう定義するのかについて、ここで書いていくと、
いつまでも先に進めなくなるので割愛するが、
モニタースピーカーに完結していることは求められるのか。

私がこれまでに聴いてきたBBCモニターに感じてきた完結している良さは、
つくり手が意識していたことなのか、それとも聴き手(つまり私)の勝手な解釈にすぎないのか。

LS3/5A、LS3/6、LS5/9と復刻が続いているBBCモニターをじっくりと聴く機会はないものの、
なんとなく感じているのは、このことである。
なんとなくでしかないのだが、完結しているかどうかに関してのつくり手側の意識はないか、
稀薄になってしまったかのように感じてしまっている。

そこで、BBCモニター、復権か、と考えてしまう。

Date: 2月 18th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その15)

菅野先生が、ステレオサウンド 70号の特集の座談会でいわれたことを、いまも思い出す。
特集はComponents of the yearで、ダイヤトーンのDS1000が選ばれていて、
このスピーカーについての座談会で発言されている。

《スピーカーというのは、ものすごく未完成ではあるけれど、
ものすごく完結していなくては困るものだと思うんです。》

未完成であるけれど、ゆえに完結していくこることが求められるオーディオ機器が、
スピーカーシステムであることは、
歳を重ね、さまざまなスピーカーシステムを聴き、
スピーカーの進歩というものにふれていると、つよく実感できる。

ロジャースのPM510は未完成なスピーカーシステムだった。
けれど、PM510よりも完成度の高いほかのスピーカーシステムよりも、完結していた。

このことはLS3/5Aについてもいえる。
当時のLS3/5Aは、こまごまとした欠点を抱えているスピーカーではあったが、
ある条件下での完結した音の世界は確実にもっていたスピーカーであった。

そのことがひとりの聴き手のために親密に鳴ってくれる感じを醸し出していたのかもしれない。

昨秋のオーディオショウで聴いたスターリング・プロードキャストのLS3/5a V2は、
その点で疑問を感じている。
広いスペースでの鳴らし方ということもあったし、じっくり聴けたわけでもなかったので、
はっきりしたことはなんともいえないのだが、音色的にはLS3/5Aと感じても、
30年以上前に聴いて、購入したLS3/5Aに感じた良さはかなり薄れてしまっているかのようだった。

スピーカーとしての完成度はスターリング・プロードキャストのLS3/5a V2は高くなっているのかもしれない。
けれど完結しているということに関しては、いまのところなんともいえない。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その14)

JBLの4343が一本560000円だった時期とPM510の登場には半年ほどの間があるというものの、
ほぼ同価格帯のスピーカーシステムとして見られていたことだろう。
そうなると、4343は15インチ・ウーファー、10インチ・ミッドバス、ホーン型のミッドハイとトゥイーター、
しかもマグネットはすべてアルニコ。
PM510は12インチ・ウーファーとソフトドーム型トゥイーター。マグネットはフェライト。
こんなふうに書いてしまうと、4343とPM510はスピーカーとしてのポテンシャルに大きな違いあるように感じる。

実際に大きな違いがあった。
ステレオサウンド 56号の組合せの特集で、瀬川先生がこう書かれている。
     *
 だが、ここにもっと欲ばった要求をしてみる。クラシックも好き、ジャズやロックも気が向けばよく聴く。ニューミュージックも、ときに艶歌も聴く。たまにはストリングス・ムードなどのイージー・リスニングも……。そういう聴き方だから、レコードの録音も新旧、内外、多岐に亘り、しかも再生するときの音量も、深夜はひっそりと、またあるときは目の前でピアノやドラムスが直接鳴るのを聴くような音量まで要求する──としたら?
 これは決して架空の設定ではない。私自身がそうだし、音楽を妙に差別しないで本当に好きで楽しむ人なら、そう特殊な要求とはいえない。だとしたら、どういうスピーカーがあるのか。
 再生能力の可能性の、こんにち考えられる範囲でできるだけ広いスピーカーを選ぶしかない。となると、これが最上ではないが、といってこれ以外に具体的に何があるかと考えてみると、結局、これしかないという意味で、やはりJBL♯4343あたりに落ちつくのではないだろうか。
     *
音とは正直な面があり、広範囲の要求をすれば、
PM510よりも4343に可能性がある、といえる。

PM510よりもすべての点で4343が優っているわけではなくとも、
瀬川先生も書かれているように「再生能力の可能性」ということでは、はっきりとした違いがある。

このことを承知のうえで、私はPM510を買った。
4343も欲しかったスピーカーである。

瀬川先生はKEFのLS5/1AとJBLの4341(のちに4343にされている)を鳴らされていた。
これを目標としていた。
どちらを先に手に入れるか。
迷うことなくPM510だった。

なぜか。
4343よりもPM510のほうが、私ひとりのために鳴ってくれる実感を強く感じたからだ。

Date: 11月 3rd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その13)

ハイエンドオーディオショウでLS3/5Aでの鳴らし方、
個人宅でのいくつかのLS3/5Aの鳴らし方、
これらを聴くたびに、私がBBCモニターに感じている良さは違うだけでなく、
個人的なところにつよく関係している良さであることを確認していたように思う。

BBCモニターは万能なスピーカーシステムでは決してない。
欠点も少なくない。
なのに、私の場合、これまで挙げてきたBBCモニターで聴くと、ほとんどストレスを感じない。

ジャズを眼前に鳴っているようには絶対に鳴らないスピーカーである。
PM510はジャズ好きの人が「低音がぶよぶよじゃないか」といっているくらいだから、
強烈な音のエネルギーを浴びるような聴き方にはまったく向いていない。

それではジャズがまったく聴けないのか、というと、そうでもない。
確かに眼前で鳴っている感じはしないし、強い衝撃的な音でもPM510はそのまま出してくることはない。

その意味で不満を感じる人がいるけれど、
そういった音を直接的に表現しないだけで、
聴き手には、いま鳴っている音はその種の音だということは伝えてくれる。
だから、私はPM510でもジャズを聴いていける。

このことにストレスを感じてしまう人もいれば、
私のようにストレスを感じることなく聴ける人もいる。
多くを要求しようとするとBBCモニターのスピーカーには不満が少しずつ生じてくることだろう。

それでも人は多くを求めたくなる。
私だってそうである。
PM510は一本440000円した。

このときJBLの4343はフェライト仕様のBタイプになり、価格も変った。
サテングレー仕上げが720000円、ウォールナット仕上げが730000円(その後600000円、630000円になる)、
アルニコ仕様の4343は、その半年前までは560000円と580000円だった。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その12)

LS3/5Aはもともと大きな音で鳴らせるスピーカーではなかった。
ウーファーは10cm口径。
昔のステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEを見れば、
このユニット(B110)はウーファーのところではなくスコーカーのところに掲載されている。

しかも以前はアナログディスクで鳴らされることがもっぱらだった。
低域共振の問題をうまく処理しておかなければLS3/5Aのようなスピーカーを鳴らすのは難しい。
ウーファーが余計な信号で揺すられてしまえば、そのだけパワーは入れられなくなる。

CDにはそういった問題はなかった。
低域共振の問題から解放されたLS3/5Aは、意外にもパワーが入れられる。
そうなるとLS3/5Aのセッティングも、以前とは違ったものになってきた。

LS3/5Aを持っている人は割と多い。
そういうところで何度か聴いている。
私がそうやって聴いたLS3/5Aの持主はメインスピーカーは別にもっていて、
あくまでもLS3/5Aはサブ的な使い方(鳴らし方)だった。

ただ皆2mから3mくらい離れたところに置いて鳴らしていた。
そうやって鳴らされるLS3/5Aの音を聴くたびに、
この人もLS3/5Aはいいスピーカーだ、といっているけれど、
私が感じている良さとこの人が感じている良さは、かなり違うようだ、と思っていた。

CDのおかげでパワーの心配をする必要はなくなったけれど、
それでもLS3/5Aはぐっと近づいて聴いてこそ魅力的な世界を展開してくれる。
私が理想とするLS3/5Aのセッティングは一辺が1mの正三角形の頂点にスピーカーと聴き手の頭がくる配置である。

ここまで近づいた時にLS3/5Aの音はある種の密度の高さがあり、
このスピーカーがなぜこれほど高い評価を得てきたのかが瞬時に理解できるはずだ。

Date: 11月 2nd, 2014
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(その11)

BBCのライセンスが与えられていることをあらわすLSナンバーのつくスピーカーシステム。
現在入手できるのは、ロジャース・ブランドのLS3/5A。
これには通常のヴァージョンの他に、65th Anniversary Editionもある。
それからLS5/9。こちらも型番の末尾に”65th Anniversary Edition”がつく。

ロジャースといっても、以前の体制とは違っていて、いまでは中国で製造されている、ときく。
とはいえ写真で見ても、販売店に並んでいるモノを見ても、少なくとも見た目の雰囲気は、
昔のロジャースのLS3/5Aそのものに感じられる。

同様に中国で生産されていると言われているのが、チャートウェル・ブランドのLS3/5Aだ。

これらとは異りイギリスで製造されているのが、
スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2とLS3/6。
それにグラハムオーディオのLS5/9である。

これらの中で、スターリング・プロードキャストのLS3/5a V2の音は、
ハイエンドオーディオショウでたまたま入ったブースで鳴っていた。

LS3/5a V2の真横にもスピーカーシステムが置いてあったし、後にも複数のスピーカーシステムが並べてあったが、
鳴っていた音を聴いて、LS3/5a V2が鳴っていることはすぐにわかった。

これはきちんと聴いておきたいと思い、いちばん前の席がひとつ空いているのを見つけ坐った。
でもすぐにスピーカーが他の機種に切り替えられてしまった。

じっくりとは聴けなかった。一曲のみである。
しかも聴いたことのディスクではあった。

ただ音量が少しばかりLS3/5aには大きすぎていた。
女性ヴォーカルのCDだったが、そこでの張った声がヒステリックになりかけていた。
あきらかにLS3/5aというスピーカーに要求する音量をこえたところで鳴らしているからである。