Archive for category KEF

Date: 9月 21st, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その12)

KEFのModel 107の低音部は、ケルトン型の一種と考えられるが、
KEFではCoupled Cavityと呼んでいる。

Uni-Qユニット搭載の105/3、104/2にも、Coupled Cavityは採用されている。
どちらもトールボーイのエンクロージュア内部に二発のウーファーをおさめている。

ただ107と、105/3、104/2が違うのは、ダクトの形状と、その位置である。
105/3、104/2ではフロントバッフル中心よりもやや下のところに、
バスレフ型のダクトよりも二回りほど径のあるダクトが設けられている。

KEFのReference Seriesのカタログ(英文)には、
Coupled Cavityの簡略化した構造図がのっている。
103/3はウーファー一発で、
エンクロージュアが小型ということもあって、ダクトはエンクロージュア下部に下向きになっている。
ウーファーの二発の方は、この図では105/3、104/2のようにフロントバッフルにダクトはある。

通常、下か前である。
ところが107は上である。

107のアピアランスで、エンクロージュアの前面、中央あたりに、
Coupled Cavity用の大きめのダクトがひとつポツンとあっては、
けっこう無気味な感じがしよう。

ならばサランネットをつけるとか、下側につけるという手もある。
にも関らず上である。

その理由をレイモンド・クックに直接訊ねたいところだが、
クックは1995年に亡くなっている。

ならば考えるしかない。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その11)

ステレオサウンド 48号で、井上先生がサブウーファーの実験をやられている。
「超低音再生のための3D方式実験リポート」という記事だ。
この記事の冒頭、
音楽における低音の重要性を探る 低音再生のあゆみと話題のサブ・ウーファー方式について」、
そこには、こう書いてある。
     *
 オーディオの世界で、もっとも重要で、しかも困難なことは、いかにして音楽再生上のベーシックトーンである低音の再生能力を向上するかということである。
 実際にスピーカーシステムで音楽を再生してみると、たとえば3ウェイ構成のスピーカーシステムであれば、トゥイーター、スコーカー、ウーファーと受け持つ周波数帯域が下がるほど、エネルギー的に増大することが容易にわかる。どのように強力なトゥイーターを使っても、部屋の天井や床が振動するほどのエネルギーは得られないが、ウーファーでは、たとえ10cm程度の小口径ユニットでさえも、エンクロージュアを振動させるだけのエネルギーは得られる。
 低音は、音の波長からみても100Hzで3・4m程度と長く、エネルギーがあるだけに、大量の空気を振動させなければならない。そのためには、より大口径のウーファーが要求されることになる。
 ディスクが誕生して以来のオーディオの歴史は、主にこの低音再生能力の向上を、常にメインテーマとして繰りひろげられてきたといってもよい。最近、サブ・ウーファーシステムが台頭し、従来の3D方式をも含めた新しい方式として注目されてきている。現実に、その効果は目ざましいものがある。そこで、ここでは、オーディオにおける低音再生の歴史をふりかえるとともに、話題のサブ・ウーファーシステムの特徴や効果などについて述べてみたいと思う。
     *
低音再生能力の向上、というメインテーマ。
LS3/5Aを中心にして、このテーマを追求した場合の、
ひとつの模範解答、それもLS3/5の開発者自らの具体的な解答が、
KEFのModel 105だと、私は捉えている。

低音再生能力の向上のためには、
どうしてもある程度以上の口径のウーファーを必要とする。
400Hz以下を受け持つ30cm口径のウーファーが、Model 105の場合のそれだが、
これだけの口径のウーファーが追加されることにより、
当然ながら音源の面積は大きくなる。

点音源に近いといえるLS3/5Aであっても、
LS3/5Aの発展型といえる105のHEAD ASSEMBLYであっても、
30cm口径のウーファーがつけば、もはや点音源に近い、とはいえなくなる。

この点音源という言葉も、ある種のまやかし的要素が多分に含まれている、というか、
その使われ方はそうといえる。
そのことにはここでは触れずに先に進むが、
LS3/5の開発者ならば、できるだけ音源を小さくしながら、
低音再生能力の向上を実現したいと、考えるのではないだろうか。

このことはLS3/5Aの聴き方とも関係してくることだ。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その10)

LS3/5Aをきちんとセッティングした音にまいってしまった人は、けっこういる。
至近距離で聴く、その音は、精巧な、と表現できるほどである。
しかも聴いた者には、しっかりと余韻を残していく。

けれど低音に関しては、無理がきかない。多くは望めない。
だからLS3/5Aにウーファーをつけて……、と考えた人は少なくないはずだ。

瀬川先生もステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
LS3/5A(チャートウェル製)に、サブウーファーを追加するという組合せをやられている。

ここではJBLの136Aを、サンスイのエンクロージュアEC10に収めたモノを使われている。
クロスオーバー周波数は300Hzである。

このころ、ロジャースからは、L35Bという型番をもつサブウーファー、
専用のデヴァイダーとパワーアンプを同一筐体におさめたXA75から成るシステムを、
Reference Systemとして発売していた。

L35Bに収められているウーファーの口径は33cmだった。
クロスオーバー周波数は150Hzである。
L35Bのエンクロージュア上部にはLS3/5Aの設置位置がマーキングされていた。
ロジャースは、その後AB1というモデルも出している。

これらはうまくいったのだろうか。
私はどちらのモデルも聴く機会はなかった。

「コンポーネントステレオの世界 ’79」で瀬川先生が興味深いことをいわれている。
     *
 じつはぼく自身が、かつてマルチアンプをさんざん実験していたころ、たとえばウーファーに15インチぐらいの口径のものをもってきて、その上に小口径のコーン型ユニットを組合わせた場合、理論的にはその小口径のコーンだって100Hz以下の、70とか60Hzのところまで出せるはずです。特性をみても実際に単独で聴いてみても、100Hzが十分に出ています。
 したがって、たとえば100Hzぐらいのクロスオーバーでつながるはずですが、実際にはうまくいかない。ぼくにはどうしてなのかじつはよく分らないんだけれど、15インチ口径のウーファーで出した低音と、LS3/5Aのような10センチぐらいの小口径、あるいはそれ以上の20センチ口径ぐらいまでのものから出てくる中低音とが、聴感上のエネルギーでバランスがとれるポイントというのは、意外に高いところにあるんですね。
 いいかえると、100Hzとか200Hzあたりでクロスオーバーさせていると、ウーファーから出てくるエネルギーと、それ以上のエネルギーと、バランスがとれなくてうまくつながらないわけです。
 そしてぼくの経験では、エネルギーとして聴感上、あるいは感覚的にうまくクロスオーバーするポイントというのは、どんな組合せの場合でも、だいたい250Hzから350Hzあたりにあるわけです。それ以上に上げると、こんどはウーファーの高いほうの音質が悪くなるし、それより下げると、こんどはミドルバスのウーファーに対するエネルギーが、どうしてもつながらない。とういことで、この場合でも、300Hzでいいんですね。
 もちろん、そうしたことを確認するなり実験するなりしたい方には、クロスオーバーをもっと下げられたほうが面白いわけで、そういう意味でほかの、100Hzまで下げられるデバイダーをお使いになるのは、まったくご自由ですよ、ということですね。
     *
この瀬川説があてはまるのならば、
ロジャースのReference Systemのクロスオーバー周波数は、低すぎる、ということになる。
KEFのModel 105は、この瀬川説が証明しているのかのように400Hzであり、
ウーファーの口径は30cmである。

Date: 9月 19th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その9)

BBCモニターで、日本でもっとも人気があり知名度も抜群にあるのはLS3/5Aである。
これは断言していい。

ロジャースからLS3/5Aが登場したのは1975年。
40年以上前のモデルが、いまも人気があり、
数社から復刻モデルが出ているだけでなく、中古の相場も値崩れすることはないようだ。

このLS3/5A(正確にはLS3/5)の開発は、レイモンド・クックだった、といわれている。
彼ひとりでの開発だったのか、それとも何人かでの共同だったのか、
そこまでは知らないが、クックがLS3/5に関っていたことは事実である。

LS3/5AのユニットはKEF製である。
LS3/5AのウーファーB110は、Model 105のスコーカーにも使われている。
トゥイーターはLS3/5A採用のT27の1ランク上のT52で、クロスオーバー周波数は2.5kHz。

LS3/5Aのクロスオーバー周波数は3kHz。
トゥイーターの口径の違いが、クロスオーバー周波数にあらわれているが、
105のHEAD ASSEMBLY(ダルマ状の中高域)は、LS3/5Aを、
もう一度レイモンド・クックが設計したように、昔から感じていた。

しかも105のHEAD ASSEMBLYはトゥイーターとスコーカーの音源の位置合せも行われているし、
フロントバッフルの横幅も極力狭めてあるし、
コーナーは角張ることなく丸められている。

LS3/5AのサイズよりもHEAD ASSEMBLYは少し大きいが、
105のみるたびに、開発過程においては、
LS3/5AがそのままHEAD ASSEMBLYとして使われていた可能性を考えてしまう。

Date: 9月 18th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その8)

ステレオサウンド 86号の新製品紹介で初めて対面した107。
中高域は105と同じでも、低音部は大きく違っていた。
ウーファーは見えない。

当時の輸入元はBSRジャパンからベニトーンへと移っていた。
86号では柳沢功力氏が担当されていて、その記事を読みなおすと、
ベニトーンから詳しい資料は提供されていなかった、はずだ。

この形状から推測できるのは、
低音部は、いわゆるケルトン型であることぐらいしかわからなかった。。

KEFも、路線変更したのか、
こういうモノを作るようになったのか、とがっかりした。
KEFらしくキワモノ的な感じを、対面した時に抱いてしまった。

1988年、この時点でKEFのModel 107への興味がわくことはなかった。
音も聴いている(はずだ)。
と曖昧に書くのも、ほとんど記憶にないからだ。

86号掲載の新製品の他の機種のことは思い出せるから、
やはり聴いている。にも関らず印象に残っていない。
107のことは、記憶の片隅に追いやられてしまっていた。

「107? そういえば、そんなモデルがあったな」と思いだすきっかけは二年前、
2015年8月28日だった。

友人のAさんからのSNSのメッセージに、KEFの107を、興味のある人にゆずりたい、とあった。
それからだ、107のことをインターネットで検索し調べはじめたのは。

インターネットには写真、図も含めて、意外にも多くの検索結果が表示された。
日本では知っている人すらほとんどいないモデルであって、
私もほとんど忘れかけていたモデルであっても、
海外ではなかなか高い評価を得ていたようである。

構造図もあった。
ウーファーは内部に二発ある。
内部構造は、私が想像していたよりも、少し複雑なようにも感じた。
二本のウーファーユニットは金属棒で連結されていることもわかる。

低音の開口部は、エンクロージュア上部にあることは、
86号の時点で現物を見て確認済みのはずなのに、それすらも忘れていた。
160Hz以上をうけもつHEAD ASSEMBLYは、
このダクト後半分をやや覆うような位置にある。

この位置関係を、いま実際に確かめて思ったのは、
バイロイト祝祭劇場のようだ、である。

Date: 9月 17th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その7)

1983年春に、ステレオサウンド別冊「THE BRITISH SOUND」が出た。
山中先生が、イギリスの主だったメーカーを訪ねられてのブランド・ストーリィが、
「THE BRITISH SOUND」のメイン記事である。

KEFにも行かれている。
試聴室の写真が載っている。
小さく、モノクロだがら、細部は不鮮明だが、
Model 105.2が設置してある。
どう見てもキャスターは外した状態での設置である。

これはどういうことなのだろうか。
キャスターは、日本の輸入元がつけたのだろうか、とまず思ったが、
KEFの英文のカタログを見ても、キャスターがついている105である。
そさに輸入元が変ってもキャスターはそのままだったことからも、
KEFでつけているということになる。

となると、キャスターをつけていると、スピーカーの移動は簡単である。
それこそ部屋のどこへでもすぐに移動できる。
つまりスピーカーがよく鳴る位置を探すためには、実際にそこにスピーカーを置いて鳴らすしかない。

それにはキャスターがあれば、苦労することはない。
とにかく、この段階ではこまかなことを気にせずに、
大胆にスピーカーの位置を試して鳴らしてみろ、ということなのだろう。

位置が決ったらキャスターを外して、こまかな調整に取り組めばいい。
そういうことだったのではないのか。

Model 107は45kgと、105のどれよりも重い。
にも拘らずキャスターはついていない。

Date: 9月 17th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その6)

KEFのModel 105の底面にはキャスターが取り付けられていた。
いまの常識からすれば、キャスターがついていることは、
音にとってマイナスでしかない。

1980年代でも、キャスターがついていることはマイナスと認識されていた。
でもその数年前はキャスターがついていることに疑問をもつ人は、
少なくともオーディオ雑誌を見ていたかぎりではなかった。

Model 105だけではない、
スペンドールのBCII、BCIIIの専用スタンドもキャスターつきだった。
国内メーカーが販売していたスタンドの中にもキャスターつきのモノがあった。

私が聴いたModel 105もキャスターつきだった。
キャスターつきの状態であっても、
瀬川先生がバルバラのレコードを鳴らしながら調整された音は、
ステレオサウンド 45号の試聴記にあるとおりだった。
     *
調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションは、ピンポイントのような一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。
     *
この「音」を実際に聴くことができた。
何も誇張なく書かれたものだといえる。

このスピーカーで、大好きな女性歌手のレコードを聴けたら……、
と当時高校生の私は、どうやったら105を買えるのだろうか、と真剣に購入計画をあれこれたてていた。

あるとき、円高のおかげで定価がすこし下がったことがある。
けれどしばらくするとまた価格が上ってしまった。
この時のショックは大きかった。
いくつかの販売店に旧価格の105がないか、と手紙を書いて問い合せまでした。

Model 105のラインナップとして、105.4、105.2が登場した。
すべてキャスターがついていた。
15は36kg、105.4は22kg、105.2は36kgである。

キャスターがあれば動かしやすいことはそうだが、
このくらいの重量ならば、キャスターなしでも動かせる。

105の登場が1980年代にはいってからだったら、
キャスターはなかったかもしれない。

ふとおもう。
誰もModel 105のほんとうの音を聴いていないのではないか、と。

Date: 9月 16th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その5)

読まれている人の中には、「また瀬川冬樹のことか」と思われる人もいよう。
私にとって、KEFのスピーカーについて語るということは、
その三分の一くらいは瀬川冬樹についても語ることでもある。

だからこそ、Model 105やModel 303のころの時代のKEFと、
いまのKEFについて語るということは、その点で最初から違ってきているわけだ。

レイモンド・クックは、「惜しみて余りあり」で、
瀬川先生について、こう書いている。
     *
 過去40年近くにわたって、私がオーディオの仕事を通じて出会い、知るに至った数多くの評論家のなかで、瀬川冬樹氏はクリティーカーとしてのあらゆる必要な資質を、まさに申し分のないバランスで併せもった類い稀なる人物の一人でありました。
     *
レイモンド・クックは、何も日本のオーディオ評論家にばかり会っていたわけではなく、
KEFのスピーカーが販売されている国のオーディオ評論家(批評家)とあっていた。
そのうえで、そう書いているのだ。

レイモンド・クックは、続いて自身の経験を書いている。
     *
 1976年のある日、私達はKEFのスピーカーについて長時間の対談と試聴をする機会を得ましたが、そのおり起ったことのすべてを、私は機能の出来事のように記憶しています。
 瀬川氏と私は、夕刻7時に、軽い夕食を共にするためにお会いしましたが、その時からすでにふたりの討論は始まっていました。食事を終えて一緒に雑誌社のオフィスに行き、われわれふたりは議論と試聴で一晩を明かしました。私がホテルに帰ったのは、朝が過ぎ、太陽が頭上に昇ってからだったことを覚えています。瀬川氏自身が、まえもってそのスピーカーについて、長時間ヒヤリング・テストを重ねていた事実を考え併せると、記事を書くという実際の仕事(その後、出版されましたが)はさておき、試聴と討議に費やされた全時間数は実に厖大なものでした。
     *
レイモンド・クックと瀬川先生が、1976年に長時間の対談と試聴をしたスピーカーは、
おそらくModel 105のはずである。

ステレオサウンド 45号で、
《一年以上まえから試作品を耳にしてきた》と書かれているからだ。

45号では《さすがに長い時間をかけて練り上げられた製品》と、
Model 105のことを評価されている。

Model 107は、その105の延長線上にあるスピーカーだ。
105の登場から約十年。KEF創立25周年記念モデルということも考えあわせると、
Model 107の開発にも長い時間をかけて、練り上げたはずである。

なのにModel 107は、登場時、日本には輸入されなかった
瀬川先生が亡くなられて、五年が経っていた。

Date: 9月 16th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その4)

KEFのModel 107の不幸は、1986年当時、
輸入元がごく短期間に変った(そのことによる空白もあった)と思うということ以上に、
瀬川冬樹という、最大の理解者が亡くなられていた、ということが大きいと、
いまさらながら思う。

たったひとりのオーディオ評論家の存在が、
どこまでオーディオ機器の評価と売行きに関係してくるのか、
一概にいえないのはわかっていても、まったくないとはいえない。

少なくとも日本におけるModel 105の評価は、
瀬川先生の評論があってのものだ、と私は認識している。

ステレオサウンド 61号で、岡先生が書かれていることを思いだす。
     *
 ぼくの知っている限り、音楽が根っから好きな数すくないオーディオ評論家のなかで、瀬川さんぐらい音楽と演奏の個のみがはっきりしていて、しかもよくききこんでいるひとはいない。それが瀬川冬樹のオーディオ哲学の基礎を形成していた。これが、彼の他にかけがえのないユニークな仕事をなさしめたゆえんでもあった。考え方がまるでちがっていても、理解しあえ、論争をお互いに楽しんできたというのも、音楽という共通の場が存在していたからであった。KEFのレイモンド・クックをはじめ、ヨーロッパのオーディオ・エンジニアリングの専門家に音楽好きが多いから、そういう点で瀬川さんの意見が高く評価されたのは当然である。
     *
ここまで書いて、また思い出すことがあって、
今度はサプリーム 144号をひっぱりだしてきた。

サプリームはトリオ(現ケンウッド)が発行していたオーディオ誌である。
サプリーム 144号の表紙には、「ひとつの時代が消えた 瀬川冬樹追悼号」とある。

ここにレイモンド・クックの「惜しみて余りあり」が掲載されている。
     *
 オーディオ評論という仕事には、天賦の才能と感性との、稀有とも称しうる次元での調和が要求されます。ある人は、この仕事を単なる技術の追求と見做しているようですが、技術的側面のみの追求では、オーディオ製品に不可欠な人間的側面を見失うことになってしまいます。また、ある人は技術的な考察をすべて無視して、まったく主観的なアプローチを試みようといたします。しかしながらこの方法に深入りすると、よくご存知のように、現実の技術的進歩や開発の成果に眼をつむって、音響の神秘的側面のみを語るという陥穽にはまってしまうことになるのです。
 さて、試聴テストと性能測定が終了し、人間工学的追求が終わると、次に、これらすべての情報を明快で魅力的な文章に書きとどめるという、もっとも重要な仕事がまっています。この点についていえば、優れた解説を書くことのできるオーディオ評論家の数はきわめて限られています。
     *
レイモンド・クックの文章は、この書き出しで始まっている。

Date: 9月 15th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(余談)

KEFをケフと呼ぶ人は、昔からいた。
なぜケフと、その人たちは呼ぶのか理由はわからない。

KEFはケーイーエフである。
瀬川先生も、熊本のオーディオ店に来られたときに、
「KEFをケフと呼ぶ人がいるけれど、正しくはケーイーエフです」といわれていた。

BSRジャパンの次の輸入元のKEFジャパン。
1988年のステレオサウンドの広告索引をみればわかるが、
ケフジャパンだった。

ケーイーエフジャパンではなかった。
輸入元からしてそうだった。

いまではケーイーエフジャパンになっている。

Date: 9月 15th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その3)

KEFの創立は1961年、
25年目は1986年。

このころはまだステレオサウンドにいた。
だがModel 107を聴いた記憶はない。

1986年に出たステレオサウンドをめくってみたけれど、
新製品紹介ページには登場していない。

Model 104、Model 103、Model 105の時代、
KEFの輸入元は河村電気研究所だった。

1980年ごろ、BSRジャパンにかわった。
はっきりと記憶しているわけではないが、BSRジャパンはKEFの取り扱いをやめたはずだ。
KEFの輸入は一時途絶えていたのかもしれない。

KEFジャパンの広告がステレオサウンドに登場するのは87号である。
1988年になってからだ。
その広告にはUni-Qユニットを搭載したモデルとともに、
Model 107も載っている。ただ扱いとしてはそれほど大きくはなかった。

二年前のモデルなのだし、KEFにとってUni-Qユニットこそ、
これからのKEFを背負って立つ技術なのだから、当然だろう。

なので私にとってModel 107は、写真で存在を知っているだけの存在だった。
しかも1988年は、B&Wの801がSeries2になり、かなり高い評価を得るようになった。

801の、あのスタイルはKEFのModel 105がオリジナルなのに……、と私などは思っていたが、
KEFの、このスタイルは影が薄くなりつつあった。
KEFも、Uni-Qに力を注いでいる印象だったから、
よけいに影が薄くなっていた、ともいえよう。

Date: 9月 14th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その2)

私にとってKEFとは、レイモンド・クック時代のKEFである。
いまのKEFもKEFではあっても、
私のなかでは、どこか違ってしまったKEFである。

どちらがいいかといえば、いまのKEFなのかもしれない。
あのころのKEFはそれほど売れている、という印象はなかった。

いまのKEFの方が知名度は高いし、売行きもいい、と思う。
でも私は、いまのKEFには思い入れはない。

思い入れのないKEFが、私のところに八年前にやって来た。
Un-Qを搭載したトールボーイのモデルだった。

悪いスピーカーという気はさらさらない。
でもレイモンド・クックのいないKEFのスピーカーに対して思い入れをもてない私には、
それこそつまらない音にしか聴こえなかった。

くどいようだが、KEFのスピーカーが悪いわけではなく、
私の聴き方ゆえの問題である。
もうどこまでいっても、私にとってKEFはレイモンド・クック時代なのだ。
そのことを音を聴いて、改めて確認しただけだった。
そのKEFは手元にはない。

確認したとともに、あのころのKEFのスピーカーを欲しい、というおもいが芽生えてきた。
当然、中古しかない。

中古というモノは、売れたモノしか出廻らない。
さほど売れなかったモノの中古は、ほとんどないのが当り前である。

KEFの中古を見たことがないわけではないが、
数えるほどしかない。
Model 105の中古は見たことがない。

いまでこそそんなことはいわれなくなっているが、
当時は、上にモノを乗せられないスピーカーは売れない、といわれていたし、
オーディオ店も扱うのを嫌がっていた、ときいている。

Model 105は、改良モデルを含めて、日本ではどれだけ売れたのだろうか。
売れていないモノの中古はめったに出ない。

けれど、今日、Model 107がやって来た。
KEF創立25周年モデルのModel 107は、
Model 105の後継機でもある。
そのスピーカーが、やって来た。

Date: 9月 14th, 2017
Cate: 107, KEF

KEFがやって来た(その1)

KEFとJBL。
イギリスのスピーカーメーカーとアメリカのスピーカーメーカー。

ダイレクトラジエーション型をメインとするKEF、
ホーン型を得意とするJBL。

どちらもアルファベット三文字のブランド。

私より上の世代では、
JBLの反対の極にあるスピーカーといえば、タンノイがあった。
JBLでジャズを、タンノイでクラシックを、
ピアノはJBL、弦はタンノイ、
そんなことが語られていた時代があったし、
そのころのオーディオ雑誌に登場するオーディオマニアは、
確かにJBLとタンノイが同居していた。

私は、といえば、JBLとタンノイという気持がある。
でも同時にJBLとBBCモニターという気持が、同じかそれ以上に強い。

BBCモニターの中に含まれるといえば、そうなのだが、
でも私のなかでは少し違うところにあるメーカーとして、
そしてJBLとKEFという気持が、はっきりとある。

これは瀬川先生の影響である。
KERFのModel 103、Model 104aB、Model 105、Model 303、
これらの瀬川先生の評価はよかった。
これらはすべて聴く機会があった。

Model 105は瀬川先生が調整された音を聴けたことは、以前書いている。

そのころのKEFのスピーカーは、真面目な音である。
決してハメをはずすことのない、
聴く人によっては、つまらない、という、そのくらいにイギリスのスピーカーとして、
アキュレートサウンドを目指したスピーカーである。

それにLS5/1Aを市販したのはKEFである。
私にとってKEFは、JBLの一方の極として、あのころ常に気になっていたブランドだった。

Date: 2月 13th, 2015
Cate: KEF

KEF Model 109 “The Maidstone”(その6)

1983年春にステレオサウンド別冊として”THE BRITISH SOUND”が出た。
山中先生がイギリスの各オーディオメーカーを訪問されたのをメインとした本である。

KEFも訪ねられている。
KEFのページに、Model HLMの写真がある。

エンクロージュアの形はアコースティック・リサーチのLSTと同じで、
傾斜している両サイドにModel 105に搭載されているウーファーB300を二発ずつ、計四発、
スコーカー、トゥイーターもModel 105のユニットをそのまま採用している。
スコーカー(B110)は上下に二本、その間にトゥイーター(T52)が配置されている。
3ウェイ7スピーカーの、KEFとしてはかなり大がかりなシステムで、
このようなユニット配置をとったのは、垂直・水平方向の志向特性が対称になるようにである。

BBCの第4スタジオに、Model HLMはおさめられている。
けれど、このスピーカーシステムが製品化されることはなかった。

聴いてみたいとも思っていたけれど、
Model 105と使用ユニットは同じとはいえ、コンセプトは大きく違っているスピーカーシステムだけに、
そして写真でみる限り、いい音がしそうに思えなかったこともあり、
聴きたくないような気持もあった。

BBCの第4スタジオは、ロック・ポップス録音用のスタジオであることも、
Model HLMに、何かModel 105とは違う血筋のようなものを感じていた。

結局、KEF(レイモンド・クック)の1980年代以降の集大成となると、Uni-Qなのだろう。

Date: 2月 13th, 2015
Cate: KEF

KEF Model 109 “The Maidstone”(その5)

ステレオサウンド 54号。スピーカー特集でとりあげられたKEF Model 105SeriesIIの、
瀬川先生の試聴記。
     *
 数ヵ月前から自宅でリファレンス用として使っているので今回の試聴でも物差しがわりに使った。とくに、音のバランスが実によく練り上げられている。しかしこのスピーカーの特徴を聴くには、指定どおり、いやむしろ指定以上に、中〜高音域ユニットと聴き手の関係を、できるかぎり正確に細かく調整する必要がある。左右のスピーカーの正しい中央に坐り、焦点が合うと、スピーカーの内中央に歌い手が確実にそしてシャープに定位し、たとえば歌手の声(口)の位置と伴奏との、音源の位置──左右、奥行、そして(信じ難いことだが)高さの相違まで、怖いようなシャープさで鳴らし分ける。ただこのスピーカーの音色は、やや抑制の利いた謹厳実直型、あるいは音の分析者型、で、もう少し色っぽさやくつろぎが欲しくなることがある。また、ポップスではJBL的なスカッと晴れ渡った音とくらべると、ちょっと上品にまとまりすぎて物足りない思いをする。それにしても、価格やサイズとのかねあいで考えれば、たいした製品だ。
     *
このスピーカーシステムを指定以上に正確に細かく調整された音を、
しかも左右のスピーカーの中央で聴いた人はそういない、と思う。
聴いていない人は、この試聴記に書かれていることを信じられないかもしれない。

《焦点が合うと、スピーカーの内中央に歌い手が確実にそしてシャープに定位し、
たとえば歌手の声(口)の位置と伴奏との、音源の位置──左右、奥行、
そして(信じ難いことだが)高さの相違まで、怖いようなシャープさで鳴らし分ける。》
こう書いてある。

でも、これは決して誇張でもなんでもない。
私が熊本のオーディオ店で、瀬川先生が調整されたModel 105で聴いたバルバラのレコードは、
まさにここに書かれているとおりの音だった。

KEFのmodel 105を、
瀬川先生は《敬愛してやまないレイモンド・クックのスピーカー設計理論の集大成。》とされている。
(ステレオサウンド 47号より)

Model 105はレイモンド・クックの集大成といえるスピーカーシステムである。
1970年代までのクックの集大成である。

では1980年代以降の集大成は……、となる。