井上卓也
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「超低音再生のための3D方式実験リポート」より
オーディオの世界で、もっとも重要で、しかも困難なことは、いかにして音楽再生上のベーシックトーンである低音の再生能力を向上するかということである。
実際にスピーカーシステムで音楽を再生してみると、たとえば3ウェイ構成のスピーカーシステムであれば、トゥイーター、スコーカー、ウーファーと受け持つ周波数帯域が下がるほど、エネルギー的に増大することが容易にわかる。どのように強力なトゥイーターを使っても、部屋の天井や床が振動するほどのエネルギーは得られないが、ウーファーでは、たとえ10cm程度の小口径ユニットでさえも、エンクロージュアを振動させるだけのエネルギーは得られる。
低音は、音の波長からみても100Hzで3・4m程度と長く、エネルギーがあるだけに、大量の空気を振動させなければならない。そのためには、より大口径のウーファーが要求されることになる。
ディスクが誕生して以来のオーディオの歴史は、主にこの低音再生能力の向上を、常にメインテーマとして繰りひろげられてきたといってもよい。最近、サブ・ウーファーシステムが台頭し、従来の3D方式をも含めた新しい方式として注目されてきている。現実に、その効果は目ざましいものがある。そこで、ここでは、オーディオにおける低音再生の歴史をふりかえるとともに、話題のサブ・ウーファーシステムの特徴や効果などについて述べてみたいと思う。
ディスクによる再生音楽の世界では、当初のアコースティック蓄音器が、開口面積とその長さにより制約を受けるホーンそのものに依存していたために、いわば中音域のみで音楽再生をしていたことになる。低音域の再生に格段の進歩をもたらしたきっかけは、当時の新技術であるエレクトロニクスの導入と画期的な発明であるダイナミック・コーン型スピーカー(現在のコーン型スピーカーユニット)の実用化の2点によるところが大きい。
もちろん、当時の業務用機器の代表であった映画用の再生系には、すでにレシーバー(現在のドライバーユニット)と大型ホーンを組み合わせた巨大なホーン型スピーカーシステムが使われていたが、それとても、100Hz以下の低音域の再生は、ホーン型の特長として、ホーンのフレアーカットオフ周波数では急激にレスポンスが下降するため、望みうすであったわけである。
コーン型スピーカーユニットは、ホーン型と比較してわりあい小型のプレーンバッフルや後面開放型のエンクロージュアで充分な低音再生が可能であるため、その特長を活かして、コンシュマー用の電気蓄音器が実用化され、これを契機としてハイフィデリティ再生という言葉が使用されるようになった。つまり、当時はプログラムソース側のディスクもSP盤であり、ディスク制作用のカッターも、また再生側のカートリッジとトーンアームが一体となったピックアップやピックアップヘッドの性能からも、高域再生は期待できなかったために、聴感上でのバランスから、いかに低音再生が可能であるかが、ハイフィデリティ再生のポイントになっていたことになる。
ちなみに、昭和十年頃のオーディオ雑誌を見ると、低音再生に関する問題が数多く見受けられるし、アンプでは、管球式で、増幅段とパワー段の段間の結合用コンデンサーを取除く、ロフチン・ホワイト方式と呼ばれた直結結合型のアンプの試作記事などがある。
この当時も現在と同様に、オーディオのアマチュアの技術レベルよりも、メーカーの技術レベルのほうが特例を除いて格段に高く、米GE社でのバスリフレックス型エンクロージュアの開発や、多分米RCA社の製品であったと思うが、エンクロージュアの底板部分に、パイプオルガン状に長さと直径の異なったパイプを多数設置して充分な低音を再生しようとした製品があった。これらは、それぞれユニークなオリジナルアイデアに基づいた、低音再生へのアプローチの結果に他ならない。
昭和二十年代前半の頃になると、まだ国内メーカーの製品は、プレーヤー、アンプ、スピーカーを一つの箱の中に収めた、いわゆる電蓄の形態を採用していたが、各社のトップクラスの製品やデモ用のモデルは、充分な低音を再生するために、現在のスピーカーシステムでいえば、JBL4343程度以上のものが多く、なかには小型の洋服ダンスほどもある超大型のモデルがあり、椅子の上に乗らないとディスクがかけられないといったものもあり、一種の超大型電蓄時代といった感があったこともある。
しかし、ディスク再生で革命的にといってもよいほどの出来事は昭和三十三年に33 1/3回転のLP盤が米コロンビアで開発されたことと、ほぼ時を同じくして米RCAから、45回転17cm直径のEP盤が開発されたことである。このことによりディスクにカッティングできる周波数帯域が、50~15000Hz程度に飛躍的に拡大されたのである。
また、ディスクの材料がSP盤のシェラックから、ビニール系合成樹脂に変わったために、スクラッチノイズのピッチが上がり、量的にも激減したこともあって、当時はその優れた低域特性よりも高域特性に注目しがちであった。いかに高域の再生能力が優れているかが、ハイフィデリティ再生のポイントになっていたわけだが、すでに、当時から一部の時代の先端をいくオーディオファンは、新しいこれらのディスクの低音再生能力に着目し、音楽のベーシックトーンである低音再生の向上に取組みはじめていたのである。
昭和二十年代後半から三十年代前半になると、新しく登場したLP/EP盤の優れた性能を発揮できるコンポーネント製品が海外製品には存在し、かなり輸入されてはいたが、非現実的に高価格であった。国内メーカー製品にもシステムとして開発されたものは2~3存在したが、主に業務用的な性質の製品で、一般的なコンシュマー用とは考えられなかった。また一方において、海外では新しい技術を盛込んだ優れたアンプであるパワーアンプのウィリアムソン方式、ultraリニア方式に代表される優れた性能をもった各種の新方式が発表された。これらの新情報が入手できたこともあり、この当時は、国内のメーカー製システムの平均的技術レベルに比較して、アンプをはじめとするプレーヤーシステムやスピーカーシステムを自らのために製作し音楽を楽しむオーディオアマチュアの技術レベルのほうが圧倒的に優れていた、いわば過渡的な珍しい時代である。
当時のスピーカーユニットを収めるエンクロージュアは、20cmクラスの場合でも、現在のスピーカーシステムでいえば、かつてのJBL4341程度が標準的な外形寸法であり、エンクロージュア形式はバスレフ型、もしくは密閉型である。一部の前衛的な人々は、大型のストレートやコーナーを利用した各種の低音ホーンや、部屋の壁面や押入れを利用した壁バッフルを使って、低音再生へのアプローチが試みられていた。これらの方式による圧倒的な低音再生の威力は物凄く、大型のバスレフ型エンクロージュアの低音とは隔絶した素晴らしいものであった。
一方海外においては、ステレオLPが開発される昭和三十二年にいたるモノーラルLP末期が大型フロアー全盛期であり、現在ではその中の限られた一部の製品のシリーズが残っているだけである。
代表的な例としては、部屋のコーナーを利用し、コーナー効果によりエンクロージュア容積を小さくし、しかも大型フロントホーンに匹敵する高能率化を実現することに成功した、パウル・クリプッシュの発明したクリプッシュK型ホーンがある。このK型ホーンは、ホーンの形状が横方向から見るとアルファベットのK字状を形成していることから名付けられたもので、折曲げ変形のコーナーを利用したフロントロード型ホーンである。
このクリプッシュホーンは構造的に複雑ではあるが、各種小型化するために採用された折曲げ型のホーン型エンクロージュアのなかで、低音再生能力が優れているために、クリプッシュ社の製品に採用され現在に至っている。他に、米エレクトロボイス社もクリプッシュのパテントを獲得して、かつてのパトリシアンシリーズの700にいたる一連の大型システムや、少し小型のジョージアンにも採用された。パトリシアンは、ウーファーに大口径の46cmユニットが使われ、クリプッシュ型ホーンとしてはもっとも大型のシステムであった。しかし、パトリシアンシリーズの最後のモデルとなった800は、クリプッシュのパテントが切れたこともあって、エンクロージュア形式が変更され、ウーファーユニットに76cm口径の超大型ユニットを起用した、フロントにショートホーンをもつ密閉型となっていることから考えても、このクリプッシュ型ホーンの威力を計り知ることができるといえよう。
その他、このクリプッシュ型ホーンを使った製品としては、現在も残っている英ヴァイタヴォックスの191コーナーホーンシステムがあるが、このシステムは、ウーファーに38cmユニットを採用し、部屋の壁面と接する部分の構造が少し異なっている。
ホーンを折曲げ、いたずらに全長が長くなりやすいフロントロード型ホーンの短所を補って、全長を短縮したタイプがW型ホーンである。このタイプは゛本来シアターサプライなどの業務用途に使われたものだが、部屋のコーナーの両側の壁面と床との3面の、いわゆるミラー効果を利用し、小型化したものが、コンシュマー用のホーン型エンクロージュアである。この例としては、かつてのJBLの傑作とうたわれたハーツフィールドがある。
またW型ホーンを、低域レスポンスの改善というよりは、低域の能率を向上する目的で使用した例としては、現在のエレクトロボイス社のフロアー型システム・セントリーIVがある。このシステムは、ウーファーに30cm口径のユニットを2個使用し、38cm型ユニットに相当するコーンの有効面積を確保しながら、見かけ上の振動板の形状を矩形に等しくしてホーン形状を単純化し、かつ小型化している点に特長がある。
フロントロード型ホーンが、ウーファーユニット前面に放射される音を使うことと対照的に、ユニット背面にも放射される音を低音だけホーン効果を利用しようとするタイプが、バックロード型ホーンエンクロージュアである。
このタイプでは、古くから米RCAのオルソンが発明した、複雑な構造を採用しホーンの全長を充分に低音再生ができるだけ長くとったオルソン型ホーンが知られているが、実際の製品として発売されたものは知らない。これを単純化したタイプがCW型ホーンで、英ロージアの製品が知られている。オルソン型、CW型は、ともに20cm口径の中口径全域型ユニットと組み合わされることが多く、38型ユニット使用の例としては、CW型で2個並列使用をした米ジェンセンの製品があったようだが、オリジナル製品は輸入されてなく、国内で設計図を基にして詩作されたものを見たことがあるのみだ。
バックロード型ホーンで、部屋のコーナーを利用するタイプには、英タンノイのオートグラフ、GRFシステムが──エンクロージュアは国産化されているが──現在も残っている製品である。ホーンの構造はかなり複雑で、カット図面からはやや実体を知るのは難しいであろう。このタイプで折曲げホーン構造を単純化した例が、かつての米JBLのC34コーナー型エンクロージュアであり、コーナー型でなく一般のレクタンギュラー型にモディファイしたものが、以前の同じJBLのC40ハークネスである。このシステムは、部屋のコーナーも床面も利用できない構造のため、エレクトロボイスのセントリーIVと同様、低音の能率改善と中音以上を受け持つホーン型ユニットとの音色的なマッチングが、低域レスポンスの改善以上の目的と思われる。
ステレオLPの時代となると、それまでのモノーラルとは違い、2つのスピーカーシステムが必要となるために、現実にコンシュマーのリスニングルーム内にセッティングする場合、住宅事情が格段によい米国あたりでも場所的な制約が大きくなり、ことにモノーラル時代に大型フロアーシステムを使っているファンほど、ステレオ化が遅れたのは当然のことである。いかに小型のスピーカーシステムで、大型フロアーシステムに匹敵する充分な低域レスポンスを獲得できるかが、最大のポイントとしてクローズアップされてこないはずはない。
このような、今日的な表現によると、ニーズを背景にして登場してきたステレオ時代に応わしいスピーカーシステムが、エドガー・ビルチャーが考えたエアーサスペンション方式のスピーカーシステムである。これは、小型のエアタイトな完全密閉型エンクロージュアに、コーンの振幅が大きくなっても歪みの発生が少ない、いわゆるロングトラベル型ボイスコイルをもつ、新構想のウーファーを使用したものである。
簡単に考えれば、比較的にウーファーとしては小さい口径のユニットを使うが、コーンの振幅を大きくして、大口径ユニットに匹敵するだけの空気を動かして充分な低音を得ようとするもので、そのために必然的にボイスコイル巻幅は、磁界から外れないだけの寸法が必要になる。ということは、ボイスコイルの一部だけしか磁束が流れないため、ユニットとしての能率は10~16dBと大幅に低下するというデメリットをもつことになる。
能率が低下した分だけスピーカーをドライブするパワーアンプのパワーが要求されるため、高出力パワーアンプがこの方式には必須条件だが、幸いなことに、アンプ側でも管球タイプがソリッドステート化され、比較的容易に高出力アンプが得られるようになった背景もあって、この方式が急速にスピーカーシステムの主流の座についてしまったのは当然のことでもあるともいえよう。
ちなみに、スピーカーの能率が3dB下れば、同じ音量の音を出すために、アンプのパワーは2倍必要となり、6dBで4倍、10dBで10倍ということになる。まさしく、アンプのソリッドステート化がなければ、この方式は実用化不可能であったはずであろう。しかし、能率を犠牲にしたとはいえ、従来では想像もつかぬ超小型エンクロージュアで、それまでの大型フロアーシステムに匹敵するというよりは、むしろ勝るとも劣らぬくらい充分に伸びた低域レスポンスと量感を得ることができるようになった点については、このエアーサスペンション方式は時代の要求に答えて生まれた、実に画期的な新スピーカーであったことは事実である。
余談ではあるが、小口径ユニットを改造し、ボイスコイル巻幅を拡げ、密閉型エンクロージュアに収めて低域レスポンスを改良しようとする方法は、AR以前に、当時、東京工大に居られた西巻氏が提唱され、国内のアマチュアの間でかなり広く実用化されていたことを記憶されておられる方もあるだろう。これを一段と発展させ、エンクロージュアをエアタイトな完全密閉型とし、許容入力の大きい中口径ユニットを採用して、充分大型システムに匹敵するパワフルな低域再生を可能とした点に、AR方式の長所があると思う。
現在のスピーカーシステムは、完全密閉型全盛時代に得た経験と技術を基盤とし、より音色が明るく、表現力の豊かな新世代のバスレフ型が登場し、完全密閉型に替わって主流の座を占めている。つまり、低域レスポンスの面では一歩後退したことになるが、音楽を再生するスピーカーシステムとしては、平均してより表現力が豊かな完成度の高さを身につけているといってもよいだろう。
一方においては、かつて完全密閉型システム全盛以前に一次急激に台頭し、急激に衰えた英グッドマンのマキシムの再来ともいうべき超小型スピーカーシステムが、ヨーロッパ製品の成果を契機として国内各メーカーから続々と発売されているが、これらのシステムのエンクロージュア形式は、ほとんど完全密閉型である。この種の超小型システムになると使用ウーファーも10cm口径程度が標準であり、これで聴感上でかなり低音感を得ようとすると、エンクロージュア形式は完全密閉型にせざるを得ないわけで、このタイプの特長が大きく活かされている。
このようにいかに小型化したスピーカーシステムといえども、低音再生はもっとも重要なベーシックトーンであり、音楽再生上、最優先に考えなければならないポイントである。
最近、スピーカーシステムのジャンルで話題を提供しているものに、サブ・ウーファーと呼ばれる方式がある。このタイプは、サブという言葉から、何か言葉どおりに補助的なウーファーを使う方式のように受け取られやすいが、コンプリートなスピーカーシステムの最低音のみを増張して、周波数特性的にも音色的にも、低音の質的向上を計ろうとする考えによるものである。
基本的には、かつて一部の高級ファンに愛用された3D方式を発展したものと考えてもよいだろう。この3D方式は、その発端をステレオ初期にさかのぼる。ステレオになって一対のスピーカーシステムを使用するとなると、それまでのモノーラル再生で、大型スピーカーシステムを使っていた場合ほど場所的・経費的な制約が大きくなる点を解決する目的で、方向感がブロードな低音だけを一本のウーファーで受け持たせてステレオ再生をしようとするものである。当時の製品では、エレクトロボイスのステレオシステムが知られている。当然、このシステムはウーファーがなく、中域以上のユニットのみで構成されているために小型であり、ステレオ化を促進する一つのアプローチであったことは事実である。
現在のサブ・ウーファーシステムは、超小型で質的に内容の高いスピーカーシステムの実用化に続く、第2弾のステップとしての低音再生の向上、コンデンサースピーカーシステムに代表される平面振動板を使う製品の低域の改善などの目的から、左右チャンネルの最低域に各一個のサブ・ウーファーを組み合わせるオーソドックスな方式から、3D方式までを含める範囲で登場したものである。
この場合、メインとなるコンプリートなスピーカーシステムの低域側に、ディスク再生情で有害ともなる超低域と、マルチウェイスピーカーシステムのクロスオーバー周波数に相当する部分のハイカットフィルターを組み合わせた、バンドパス特性の最低域を加えようとするものが標準と考えられる。もちろん、ハイカットフィルターの部分は、マルチウェイ方式のクロスオーバー周波数と同様に、ハイカットとローカットのフィルターを組み合わせるタイプや、音響的にサブソニック領域の超低音をカットするもの、特にこの部分にフィルターを使用しないもの等もバリエーションとして存在することになる。このメインスピーカーシステムと実質的にクロスオーバーするハイカットフィルターは、平均的に100Hz以下に選ばれているのが、このサブ・ウーファーシステムの特長で、かつての標準的な3D方式が、低くても150Hz程度以上のクロスオーバー周波数で使用されていたことに比較して、異なっている点といえよう。
サブ・ウーファーシステムは、3D方式で使用する場合でも、左右の、この場合にはメインとなる一対のスピーカーシステムが置かれている幅の内側に置いてあれば、音場感、定位感的には問題は全くない。部屋の構造、条件にもよるが、たとえば左右メインスピーカーの外側にセットするとすれば、聴感というよりは皮膚感的に、一種の圧迫感を生じやすく、これによってサブ・ウーファーの位置が感知されることが多い。もちろん、左右各一個のサブ・ウーファーを使用するタイプでは、オーソドックスに、サブ・ウーファーの上にメインシステムを置けば、超小型システム数段スケールの大きいスピーカーシステムに変貌するのは当然のことである。
現在のサブ・ウーファーシステムは、時期的にその出発点にあるため、この方式用として開発されたコンポーネントの絶対数に限りがあり、また、価格的にも海外製品では高価格なものが多く、一般的においそれと手の出せない状況にある。しかし、国内メーカー各社が、急激にミニサイズのスピーカーシステムを製品化したことを考えれば、年末までにはかなりのサブ・ウーファーシステム用のコンポーネントが製品化されると予想できる。
この場合、ウーファーユニットにしても、サブ・ウーファー用として開発された製品に、当然のことながらメリットは多くあり、超大口径の特別なウーファーを除いて、標準タイプのウーファーでは、あまり多くの効果は期待できそうにない。フィルター関係も同様で、マルチアンプ方式のエレクトロニック・クロスオーバーでは、使用する周波数そのものに制約がある。サブ・ウーファーシステムとして少し追い込んでいくと、特にハイカット周波数の細かい選択が不可能で、他用途の流用は不可能であることを知らされる。この場合、この方式での経験、ノウハウが充分にあり、これをベースとして優れた設計により開発された専用フィルターは、抜群の威力を発揮し、サブ・ウーファーシステムのトータルな音楽再生上でのメリットを充分に引き出してくれる。この格差は、予想よりもはるかに大きく、それだけに専用コンポーネントの開発が望まれることになる。
サブ・ウーファーシステムは、サブ・ウーファーからの音響エネルギーを使い、低音の再生能力を改善する方式であるが、これ以外にも、低域を改善する方法には、電気的な低音トーンコントロールやグラフィックイコライザーなどで、低域を増強する方法がある。電気的な方法は、ちょっと考えると、もっとも容易に低域増強がおこなえると思われがちだが、最終的には、パワーアンプで低域を増強した信号をスピーカーシステムで再生しなければならないために、使用するスピーカーシステムの低域再生能力がもっとも大きなポイントになる。一般的に、エンクロージュア形式がバスレフ型、もしくは密閉型を採用し、充分なエンクロージュア容積をもった、限られた大型フロアーシステムであれば、電気的な低域増強が期待できる。しかし、たとえ大型フロアーシステムであっても、ホーン型エンクロージュア採用の場合は、ホーンの性質から、カットオフ周波数ではそのレスポンスが急激に下降するため、電気的に低域を増強しても希望する低音は得られないことになる。簡単にいえば、ホーン型エンクロージュアは、カットオフ周波数以下の低音が出ない点に特長があると考えてよい。
ブックシェルフ型になると、特に完全密閉型の場合には、低域特性がゆるやかに下降する特長をもつため、電気的に低域増強をしやすいタイプである。平均的な音量で再生する場合であっても、低域を電気的に増強するということは、増強した分だけ低域のパワーを増大してスピーカーをドライブすることになるわけであるから、かなりパワーアンプとスピーカーシステムに負担を強いることになる。たとえば50Hzを3dB増強したとすれば、スピーカーは電力でドライブするため、50Hzのパワーは2倍となり、6dB増強で4倍、10dB増強で10倍となり、無視できないパワーになってしまう。まして、平均的な低音コントロールの場合には、50Hz以下でも周波数が下れば増強する割合いは大きくなるため、音量が平均的であったとしても、音楽のピークを見込めば、たちまちにして増強した低域ではパワーアンプがクリップしてしまうことになる。簡単に、中域での平均パワーが0・1W、50Hzで低域を10dB増強、音楽のピーク値を16dBとラフに設定したとすれば、ピーク時には、50Hzのパワーは40Wとなり、ピーク値を20dBとすれば、同様に100Wになることになる。また、そのパワーでもアンプは歪まないとしても、ウーファーユニットの許容入力、歪率などから良い低音再生はまったく望まれなくなるわけだ。この点、音経典に低音を増強するサブ・ウーファーシステムのメリットは大変に大きいといわざるを得ない。
電気的に低域を増強する新しい方式として、dbxからブームボックスと名付けられた、低域のみ入力の1オクターブ下の音を作り出す製品が輸入されて、一部で注目されている。このタイプは、簡単に考えれば、録音・再生のプロセスで失われやすい低音の基音成分を、1オクターブ上の高調波から合成するものとすると、一種の発想の異なった低域増強の方式であることがわかる。このあはいにおいても、使用するスピーカーシステム、パワーアンプはある程度の水準を越した低域再生能力を持つことが必要条件であることは、トーンコンロートルなどの電気的な低域増強とまったく同様である。
このように、現在においても、スピーカーシステムを中心とし、パワーアンプなどのエレクトロニクスを含めて、低音再生能力の向上、それも実用的な範囲での外形寸法的、価格的制約のなかで各種の試みが続けられている。一方のディスクを中心としたプログラムソース側でも、機器自体の改良をはじめ、新技術を導入した物理的特性の向上への努力が絶え間なく続けられ、ダイレクトカッティング方式、76cm/secのマスターテープの使用や、45回転、半速カッティングなど従来の方式のなかでの改良、さらに、デジタル的なパルス・コード・モジュレーション方式を採用したPCMレコーダー、PCMディスクが誕生しようとしている。
これらのプログラムソース側の進歩により、さらに一段と低音再生の可能性をプログラムソース自体が持つことになり、現在はこれを再生するコンポーネントシステムの低音再生能力がさらに重要視されるべき時代に入っているといえよう。
現在の国内の生活環境からは、リスニングルームの容積が充分に確保しがたく、それだけに低音再生上での制約を受けやすいが、逆に考えれば、不利な条件をもつだけに、ベーシックトーンである低音再生に必要以上の注意と努力をしなければならないことになる。
前述したように、音楽再生上のベーシックトーンである低音の再生能力を、いかにして向上するかが、オーディオの世界での最も重要克困難なテーマである。その問題を克服するために、レコードの出現以来、各社各様の研究がなされてきたわけである。先に述べたいろいろな低音再生のための各種の大型エンクロージュアや大口径ウーファーの開発、ステレオ時代に入って、ブックシェルフ型に採用されたエアサスペンション方式などがその代表的な例である。
現代においては、最近になって登場してきた新しい考え方によるサブ・ウーファーシステムを、低音再生能力向上の意味から見逃すことはできない。先ほど述べたように、電気的に低音を増強するにはかなりの制約があるわけだが、その点、音響的に低音を増強するサブ・ウーファー(スーパー・ウーファー)システムのメリットは大変に大きいからである。
今回は、最近話題を集めているサブ・ウーファーシステムの、低音再生能力の向上という点から、その効果を探るために、もっとも簡単に実施できる3D方式に焦点を当てた小実験を行なってみた。
実験内容は
①ブックシェルフ型+スーパーウーファー
②中型フロアー型+スーパーウーファー
③ミニスピーカー+スーパーウーファー
の3例について行なった。この3例は、一般ユーザーがスーパーウーファーを使用して低音再生を行なう場合、最も多く採用されるものと考えた空手ある。以下のページは、それぞれの例についての実験リポートである。
なお、現時点ではまだ3Dシステム用の製品が少なく、限定された条件下での実験リポートであることをお断りしておきたい。今年中にも各社から、スーパーウーファーをはじめ、ネットワークなどの製品の発表があることが予想され、今後の展開が大いに期待されるところである。
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