KEFがやって来た(その6)
KEFのModel 105の底面にはキャスターが取り付けられていた。
いまの常識からすれば、キャスターがついていることは、
音にとってマイナスでしかない。
1980年代でも、キャスターがついていることはマイナスと認識されていた。
でもその数年前はキャスターがついていることに疑問をもつ人は、
少なくともオーディオ雑誌を見ていたかぎりではなかった。
Model 105だけではない、
スペンドールのBCII、BCIIIの専用スタンドもキャスターつきだった。
国内メーカーが販売していたスタンドの中にもキャスターつきのモノがあった。
私が聴いたModel 105もキャスターつきだった。
キャスターつきの状態であっても、
瀬川先生がバルバラのレコードを鳴らしながら調整された音は、
ステレオサウンド 45号の試聴記にあるとおりだった。
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調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションは、ピンポイントのような一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。
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この「音」を実際に聴くことができた。
何も誇張なく書かれたものだといえる。
このスピーカーで、大好きな女性歌手のレコードを聴けたら……、
と当時高校生の私は、どうやったら105を買えるのだろうか、と真剣に購入計画をあれこれたてていた。
あるとき、円高のおかげで定価がすこし下がったことがある。
けれどしばらくするとまた価格が上ってしまった。
この時のショックは大きかった。
いくつかの販売店に旧価格の105がないか、と手紙を書いて問い合せまでした。
Model 105のラインナップとして、105.4、105.2が登場した。
すべてキャスターがついていた。
15は36kg、105.4は22kg、105.2は36kgである。
キャスターがあれば動かしやすいことはそうだが、
このくらいの重量ならば、キャスターなしでも動かせる。
105の登場が1980年代にはいってからだったら、
キャスターはなかったかもしれない。
ふとおもう。
誰もModel 105のほんとうの音を聴いていないのではないか、と。