Archive for category ステレオサウンド

Date: 11月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その106)

JBLの4301BWX(150,000円、ペア)に、プリメインアンプはテクニクスのSU-V6(59,800円)、
アナログプレーヤーはパイオニアのPL30L(59,800円)、
カートリッジはオルトフォンのVMS30MKII(35,000円)、
システム合計金額は304,600円。

こんな組合せをステレオサウンド 59号の特集ベストバイを見ながらつくっていた。
瀬川先生が56号の特集で示された組合せの一例(KEFのModel 303にサンスイのAU-D607)に、
対抗する気持が少しばかりあっての組合せだ。

もしかすると瀬川先生も、予算30万円の組合せならば、
これに近い組合せをつくられたかも……、と思いながら考えていた。

4301Bの音はModel 303とは対照的だ。
どちらかといえば地味な傾向の303、
小型であってもやはりJBLといえる明るい軽妙な音の4301。

アンプはサンスイのAU-D607もいいけれど、
59号のころ(1981年)にはAU-D607Fになってしまっていた。
だからテクニクスを選ぶ。

57号のプリメインアンプの総テストで、
オルトフォンのVMS30MKIIが、SU-V6の良さを特に活かす、と書かれている。
私も、このシステムでもクラシックを聴きたいから、
アメリカのカートリッジではなくヨーロッパのモノを選びたい。

SU-V6にヘッドアンプは内蔵されているけれど、
あくまでもこたの価格帯のアンプとしては良い部類でも、
MC型カートリッジの良さを活かすとはいえないようなので、
そうなるとVMS30MKIIに絞られていく。

読み応えのあまりない59号の特集だったけれど、
こんな楽しみ方をしていた。

Date: 11月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その105)

ステレオサウンド 59号の表紙はJBLの4345。
4343が表紙の41号から読みはじめた私は、
どうしても41号と59号を、記憶のなかで比較してしまう。

つまり、それは4343と4345のプロポーションの比較であり、デザインの比較でもある。

どちらも正面からの撮影である。
バックの色調が違うということ、
41号の4343はウォールナット仕上げではなく、サテングレー仕上げだったこと、
59号の4345はウォールナット仕上げ、そういう違いもあって、
受ける印象はずいぶん違う。

改めて4343のデザインの良さを認識してしまうことになる。

59号の特集はベストバイである。
51号、55号のベストバイにがっかりしていたから、
59号にも期待はしていなかった。少しは良くなってたらいいけど……くらいだった。

実際の59号の特集は、51号、55号よりは少しは良くなっていた。
やはり評判が良くなかったんだろう、と思った。

それでも43号のベストバイには及ばない。
このころは編集のことをなにひとつ理解していなかった。
いまはその理由もわかる。
けれど、それはあくまでも編集側の都合であって、
読み手はそんな特集を望んでいるわけではない。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その104)

瀬川先生は、国による音の違い、特徴について言及されていた。
アメリカとヨーロッパ、それに日本、
それも特にスピーカーにおいて、それぞれの国柄が音として聴きとれる。

アメリカといっても東海岸と西海岸とではまた違う傾向を持ち、
ヨーロッパもイギリス、ドイツ、フランスでははっきりとした違いが音にある。

もちろん同じ国の中のメーカーによっても音は違うが、
数多くのスピーカーシステムを集めて聴くことで見えてくるのが、
国による音の違いである。

今回ステレオサウンド 58号をひっぱり出して読んでいて、
瀬川先生は1980年代には、時代による音の違いについて言及されたであろうと、
改めて思っていた。

改めて、と書いたのは、以前もそう思ったことがある。
1988年のことだ。
モノーラルからステレオ時代になってからだけをみても、
1960年代、1970年代、1980年代、それぞれの時代の音というのがあるように感じていた。

1989年の春号は90号。
1990年代の音を予測する、という意味も含めて、
これまでの時代の音をふりかえる、という企画を特集用として考えた。

企画書も下書きではあったが書いた。
でも、企画を詰めることなくステレオサウンドを辞めることになった。

90号の特集は、違う企画である。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その103)

3012-R Specialについての、瀬川先生の文章を読んで、
はっきりとオーディオは新しい時代に入ったんだな、と確信していた。

4345の文章だけでは、新しい時代を迎えつつある──、そんなふうな感じ方だったのが、
はっきりと変った。
時間にすれば10分程度のあいだに、である。

ステレオサウンド 58号は1981年春号だ。
4343が’70年代のスピーカーとすれば、4345は’80年代のスピーカーなんだ。

SMEの新しいトーンアームは、そのためにも必要不可欠なモノなんだ、とも思ってしまった。
思い込んでいた、といってもいい。

ステレオサウンドを41号から読みはじめて四年ほどのあいだに、
欲しいと憧れたスピーカーは4343に加え、ロジャースのPM510が加わり、
4343の代りに4345に代ろうともしていた。
(いまでは4343なのだが)

アンプにおいても、そうだった。
欲しいと憧れていたモノは少しずつかわっていく。

憧れのモノを買える日には、またかわっていよう。
それでもトーンアームに関しては、3012-R Specialのままでいける──、
そんな確信めいたものがあった。

3012-R Specialは、いまもいいトーンアームである。
美しいトーンアームである。
その後の3012-R Proよりも、3012-R Specialの方が優美だ。

音に関してだけはSMEのSeries Vがある。
それでもレコード盤上を弧を描いていく様は、
3012-R Specialに惚れ惚れとしてしまう。

18の春、3012-R Specialは音も聴かずに買った。
ショーケースの中に箱に入ったまま飾られていた。
在庫は、その一本だけだった。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(続・瀬川冬樹氏の原稿のこと)

瀬川先生の未発表原稿の公開は、このブログの10,000本目に行う。
いまのペースで書いていけば、2019年12月31日が10,000本目の予定である。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その102)

ステレオサウンド 58号の新製品紹介のページも、くり返し読んだものだ。
JBLの4345とSMEの3012-R Specialのページを、それこそ何度読んだろうか。

どちらも瀬川先生が書かれている。
4345のページを先に読み、わくわくしていた。

4343と比較するとプロポーション、そしてデザインにおいて見劣りする4345なのだが、
その音は、瀬川先生の文章からJBLが新しい時代を迎えつつあるように感じた。

4345の記事最後に、こうある。
     *
 一応のバランスのとれたところで、プレーヤーを、P3から、別項のマイクロSX8000とSMEの新型3012Rの組合せに代えてみた。これで、アッと驚くような音が得られた。が、そのことはSMEの報告記のほうを併せてご参照頂くことにしよう。
     *
《アッと驚くような音》とは、いったいどういう音なのか。
4345の記事と3012-R Specialの記事とのあいだには、
いくつかの新製品の記事があった。それらをすべてとばして、3012-R Specialの記事を読みはじめる。
     *
 音が鳴った瞬間の我々一同の顔つきといったらなかった。この欄担当のS君、野次馬として覗きにきていたM君、それに私、三人が、ものをいわずにまず唖然として互いの顔を見合わせた。あまりにも良い音が鳴ってきたからである。
 えもいわれぬ良い雰囲気が漂いはじめる。テストしている、という気分は、あっという間に忘れ去ってゆく。音のひと粒ひと粒が、生きて、聴き手をグンととらえる。といっても、よくある鮮度鮮度したような、いかにも音の粒立ちがいいぞ、とこけおどかすような、あるいは、いかにも音がたくさん、そして前に出てくるぞ、式のきょうび流行りのおしつけがましい下品な音は正反対。キャラキャラと安っぽい音ではなく、しっとり落ちついて、音の支えがしっかりしていて、十分に腰の坐った、案外太い感じの、といって決して図太いのではなく音の実在感の豊かな、混然と溶け合いながら音のひとつひとつの姿が確かに、悠然と姿を現わしてくる、という印象の音がする。しかも、国産のアーム一般のイメージに対して、出てくる音が何となくバタくさいというのは、アンプやスピーカーならわからないでもないが、アームでそういう差が出るのは、どういう理由なのだろうか。むろん、ステンレスまがいの音など少しもしないし、弦楽器の木質の音が確かに聴こえる。ボウイングが手にとるように、ありありと見えてくるようだ。ヴァイオリンの音が、JBLでもこんなに良く鳴るのか、と驚かされる。ということきは、JBLにそういう可能性があったということにもなる。
 S君の提案で、カートリッジを代えてみる。デンオンDL303。あの音が細くなりすぎずほどよい肉付きで鳴ってくる。それならと、こんどはオルトフォンSPUをとりつける。MC30とDL303は、オーディオクラフトのAS4PLヘッドシェルにとりつけてあった。SPUは、オリジナルのGシェルだ。我々一同は、もう十分に楽しくなって、すっかり興に乗っている。次から次と、ほとんど無差別に、誰かがレコードを探し出しては私に渡す。クラシック、ジャズ、フュージョン、録音の新旧にかかわりなく……。
 どのレコードも、実にうまいこと鳴ってくれる。嬉しくなってくる。酒の出てこないのが口惜しいくらい、テストという雰囲気ではなくなっている。ペギー・リーとジョージ・シアリングの1959年のライヴ(ビューティ・アンド・ザ・ビート)が、こんなにたっぷりと、豊かに鳴るのがふしぎに思われてくる。レコードの途中で思わず私が「おい、これがレヴィンソンのアンプの音だと思えるか!」と叫ぶ。レヴィンソンといい、JBLといい、こんなに暖かく豊かでリッチな面を持っていたことを、SMEとマイクロの組合せが教えてくれたことになる。
     *
これを読んで、3012-R Specialだけはとにかく借ってお粉ければ思ったものだ。
58号のハーマン・インターナショナルの広告には、その文字はなかったけれど、
57号の広告には、大きな赤い文字で限定発売とあったからだ。

4345もマークレビンソンのアンプはすぐに買えないけれど、
当時88,000円のトーンアームならば、学生の身であっても無理をすれば買える。

上京して、すぐに3012-R Specialを買った。
88,000円のトーンアームを12回の分割払いで買った。

実家で鳴らしていたシステムは置いてきたから、
東京では音を出すシステムはななかった。

取りつけるターンテーブルのことを想像したり、
58号の瀬川先生の文章を読み返しては、3012-R Specialを飽きずに眺めていた。

Date: 11月 14th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(瀬川冬樹氏の原稿のこと)

この項で、瀬川先生の未発表原稿(書きかけの原稿)の一部を公開した。
続きを読みたい、という要望があれば、全文公開するつもりだったが、
誰一人、そういう人はいなかった。

そういうものか……、と思っている。

Date: 11月 14th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その101)

ステレオサウンド 58号の、927Dst vs Referenceの文章は、
次の書き出しではじまる。
     *
 すでに56号386ページ「話題の新製品」欄で詳細をご報告したトーレンスのプレーヤー「リファレンス」。EMT930と、同一のTSD15型カートリッジをつけかえながらの比較試聴では、明らかに930を引離した素晴らしい音を聴かせてくれた。こうなると、価格的にも同格の927Dstとの一騎打ちだけが、残されることになった。「リファレンス」358万円、「927Dst」350万円。これが、いま日本で、一般の愛好家に入手できる最高のプレーヤーシステムということになる。
     *
別の書き出しも、実はある。
書き出しだけの短い原稿が残っている。
     *
 すでに本誌56号(386ページ「話題の新製品」欄)で、スイス・トーレンス社の驚異的なプレイヤー「リファレンス」システムについて、詳細をお報せした。その折の試聴では、参考比較用に、エクスクルーシヴP3、マイクロ5000(2連)+オーディオクラフトAC3000MC、それにEMT♯930stの三機種を用意したことはすでに書いた。
 そして、これら三機種のどれよりもいっそう、「リファレンス」の音のズバ抜けて凄いこともすでに書いた。
 一式358万円という「リファレンス」に、その1/3ないし1/7と価格に違いはあるにしてもP3のよくこなれた形とDDモーター、マイクロの2連糸ドライブ、EMTのスタジオ仕様のアイドラードライヴ……と、三者三様ながらそれぞれのコンセプトの中でのベストを選んでいるのだから、ここまできてもなお、プレイヤーシステムを変えるだけで、全く同一のカートリッジとレコードの、音質や音のニュアンスないし味わいがびっくりするほど変化するという事実は、非常に考えさせられる。
     *
同じようなところもあるが、そうでないところもある。
この書き出しで始まったとなると、続く内容は58号掲載のもと違ってくるはずだ。

それにしても、なぜ、この書き出しの原稿は残っているのだろうか。

さらに瀬川先生はもう一本、書かれている。
こちらも途中までであるが、けっこう長い。
     *
 すでに本誌56号(386ページ、話題の新製品)で、スイス・トーレンス社の特製プレイヤー「リファレンス」については、詳細をお知らせしたが、その折の試聴では、エクスクルーシヴP3、マイクロ5000(二連)、それにEMTの930stを比較用として用意した。だが、文中でもふれたように、「リファレンス」の桁外れの物凄い音を聴くにつけて、これはどうしても、EMTの927Dstを同一条件での比較試聴をしてみなくてはなるまい、との感を深めた。
     *
この書き出しも同じといっていいが、このあとに続くのは、
927Dstと930stの音の違いが、どこから生じるのかについて書かれている。

58号の文章には、
《 それぐらい、927Dstと930stは違う。そのことが殆ど知られていないし、その違いがどこから生じるのかについても、実は詳しく書きたいのだが、ここでのテーマは「リファレンス」と927Dstの比較であって、与えられた枚数が非常に少なく、残念乍ら927Dstそのものについては、これ以上説明するスペースがない。》
とある。

私の手元にある瀬川先生の原稿は、そこのところを書かれたものだ。
書きたかったけれども、原稿枚数が足りなくて書けなかったのか──、
と58号を読んだ時には思ったが、実際は書かれていたのだ。
書いた上で、枚数が足りなくなってしまい削除されている。

Date: 11月 13th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その100)

瀬川先生が担当されていたのは、一本だけだった。
927Dst vs Referenceである。

「The Match いま気になるライバル製品誌上対決!」は、
タイトルはともかくとして、企画そのものは間違っていない。
事実、瀬川先生の担当分はおもしろかった。

他のものにしても、機種の選定は、いま見ても間違っていない。
にも関わらず、読んでいても、わくわくしてこない。

手抜きされているわけではない。
伝わってくるものが、瀬川先生のにくらべると明らかに少なく感じる。
こちらの読み方が悪いのか、と当時は思って、何度か読み返した。
それでも同じだった。

このライバル対決は、その後のステレオサウンドでも、何度か行われている。
けれど、それほどおもしろいとは感じなかった。

結局、この企画は書き手にとってかなり難しいものだといえる。
瀬川先生のがおもしろいのは、瀬川先生の文章が優れているからではなく、
瀬川先生自身、927Dst、Reference、そのどちらも惚れ込まれたモノだからである。

この点が、他の方の、他のライバル機種とで、決定的に違っている。
瀬川先生以外は、みな冷静に比較されている。
それでいいといえるのかもしれない。

だがこの企画の最初にあるのは、
瀬川先生の927Dst vs Referenceである。
まず最初に、これを読んでいる、ということを忘れてはならない。

いま、同じライバル対決を行うのであれば、
どうやればいいのかは自ずとはっきりしてくる。

そう難しいことではない。
ステレオサウンド編集部が気づいているかどうかは、私は知らない。

Date: 11月 13th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その99)

《STATE OF THE ART》賞だけでは特集としてのボリュウムが少ないため、
58号には特集2がある。
「The Match いま気になるライバル製品誌上対決!」である。

どういったライバル機種が取り上げられているか、というと……。
 EMT:927Dst vs トーレンス:Reference
 スペンドール:BCII vs ハーベス:Monitor HL
 パイオニア:S955 vs ダイヤトーン:DS505
 エスプリ:APM8 vs パイオニア:S-F1
 ビクターA-X7D vs サンスイ:AU-D707F
 ラックス:PD300 vs ビクター:TT801+TS1+CL-P10
 パイオニア:Exclusive P3 vs マイクロ:RX5000+RY5500
 フィデリティ・リサーチ:FR7 vs テクニクス:EPC1000CMK3

これらのライバル機種を、
上杉佳郎、岡俊雄、瀬川冬樹、柳沢功力の四氏が担当されている。

この企画は、それまでのステレオサウンドにはなかった。
新しい試みであり、扉ページをめくると、927DstとReferenceの写真が出てくる。
瀬川先生の担当である。6ページある。

おもしろかった。
927Dstは3,500,000円、Referenceは3,580,000円。
学生にはとても手の届かないアナログプレーヤーではあっても、
それまで瀬川先生の書かれてきたものを熱心に読んできた者にとっては、
このふたつの比較記事は、なによりも読みたかった、といえる。

期待外れではまったくなく、期待以上におもしろかった。
だから、この新企画はおもしろい、とも感じた。

そうなると、続くライバル機種のページへの期待も高まるのだが……。

Date: 11月 13th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その98)

ステレオサウンド 58号の表紙はスレッショルドのSTASIS 1だった。
57号の表紙と同じで天板をはずしての撮影で、アングルも近い。

57号表紙のハーマンカードンのCitation XXもいいアンプのひとつなのだが、
STASIS 1が次号の表紙となると、フロントパネルに色気(のようなもの)が足りないことに気づく。

58号の特集は《STATE OF THE ART》賞である。
三回目の《STATE OF THE ART》賞ということもあって、
一回目の49号とは特集自体のボリュウムも違う。

12機種が選ばれている。
一回目が49機種、二回目が17機種である。
一回目は現役の製品すべてが対象だったため、選ばれた機種が多いのは当然で、
二回目以降はいわゆる年度賞的に変っているのだから、機種数が減って当然である。

何が選ばれたのかについて、ひとつだけ書いておく。
オーディオクラフトのトーンアームAC3000MCのことである。

AC3000MCは1980年に登場した新製品ではない。
二回目の《STATE OF THE ART》賞選定で洩れてしまっている。
     *
 実をいえば、前回(昨年)のSOTAの選定の際にも、私個人は強く推したにもかかわらず選に洩れて、その無念を前書きのところで書いてしまったほどだったが、その後、付属パーツが次第に完備しはじめ、完成度の高いシステムとして、広く認められるに至ったことは、初期の時代からの愛用者のひとりとして欣快に耐えない。
     *
と瀬川先生は書かれている。
これを読んで、なんだか嬉しくなったのを憶えている。

オーディオクラフトのトーンアームは、そのころは触ったこともなかった。
58号の《STATE OF THE ART》賞では、SMEの3012-R Specialも選ばれている。
特集の巻頭にカラーのグラビアページがある。

そこではAC3000MCと3012-R Specialが並んで写っている。
レギュラー長のトーンアームとロングアーム。
違いはそれだけではない。

単体のトーンアームとして見たときに、SMEはなんと美しいのだろう、と思う。
一方AC3000MCは単体で見た時以上に、洗練されていないことを感じてしまった。

ここにメーカーとしての歴史の違いが出てくるというのか、
それ……、いくつかのことを考えながらも、
AC3000MCは、いかにも日本のトーンアームだと思っていた。

オーディオクラフトのトーンアームは、アームパイプ、ウェイト、ヘッドシェルなどのパーツが、
豊富に用意されている。
これらをうまく組み合わせることで、
使用カートリッジに対して最適な調整ができるように配慮されている。

もっともパーツ選びと調整を間違えてしまっては、元も子もないわけで、
そのことについては瀬川先生が58号で、
メーカー側にパンフレットのようなカタチで明示してほしい、と要望を出されている。

SMEとは違うアプローチで、それは日本的ともいえるアプローチで、
ユニヴァーサルアームの実現を、オーディオクラフトは目指していた。

3012-R Specialは、ナイフエッジ採用のトーンアームとしての完成形ともいっていい。
AC3000MCは、その意味では完成形とはいえない。
まだまだ発展することで、完成形へと近づいていくモノである。

SMEとオーディオクラフトは、
受動的といえるトーンアームにおいて、実に対照的でもある。

瀬川先生が、こう書かれている。
やはりこういうキャリアの永い人の作る製品の《音》は信用していいと思う、と。

瀬川先生の文章を、いま読み返すと、
賞に対して、何をおもうか、を考えてしまう。

Date: 11月 12th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その97)

41号から読みはじめて57号。
四年ステレオサウンドを読んできて、気づいたことがあった。

特集に山中先生はあまり登場されないことだった。
《STATE OF THE ART》賞、ベストバイなどは書かれている。
けれど総テストとなると、なぜか登場されない。

プリメインアンプの時も、スピーカーの時も、モニタースピーカーの時も……。
最初のころは気づかなかったが、あれっ、と思うようになっていた。

理由はステレオサウンドで働くようになってわかった。
山中先生は、そのころ、他の筆者の方から、セメントと呼ばれていた。

?だった。なぜにセメント?
最初は聞き間違いとも思ったが、やはりセメントである。
セメントは、あのセメントのことである。
自分なり理由を考えてみたけど、まったくわからなくて訊いたことがある。

山中先生は1982年春ごろには辞められていたけれど、
それまで(57号のころも)日立セメントの社員だったから、ということだった。

会社勤めをしながら、オーディオ評論家もされていたわけだ。

Date: 11月 12th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その96)

ステレオサウンド 57号は、実のところ印象が薄い。
なにか手抜きをしているとか、そういうことではなく、なんとなくそう感じていた。

それでも特集のプリメインアンプの総テストはよく読んだ。
瀬川先生が、JBLの4343以外のスピーカーとしてロジャースのPM510も使われいてるからだった。

57号の試聴記を読んでも、テストの方法を読んでもわかるように、
常時鳴らされたのは4343と620Bで、このふたつのスピーカーを鳴らした結果で、
PM510をうまく(なんとか)鳴らしてくれそうなプリメインアンプだけ、試されている。

瀬川先生の試聴記には「スピーカーへの適応性」という項目がある。
ここにPM510の型番が登場するのは、ビクターのA-X7Dだった。
108,000円の中級機である。

「スピーカーへの適応性」のところにはこう書いてあった。
     *
アルテック620BカスタムやロジャースPM510のように、アンプへの注文の難しいスピーカーも、かなりの満足度で鳴らすことができた。テスト機中、ロジャースを積極的に鳴らすことのできた数少ないアンプだった。
     *
56号で、いつの日かPM510と思うようになっていた。
4343とPM510、両方欲しい、と思うようになっていた。

PM510を買えるようになったとしても、
すぐにこれに見合うだけのアンプを買えるわけでもないから、
当面はプリメインアンプで鳴らすことになるだろう、
なるほどビクターのA-X7Dだったら、そこそこ満足できそうだ……、
そんなことを夢見ながら、A-X7Dの試聴記を何度も読み返していた。

瀬川先生は特選とされている。
しかも試聴記の最後に、
《今回のテストで、もし特選の上の超特選というのがあればそうしたいアンプ》
とまで書かれている。

PM510にA-X7D、カートリッジに何にしようか。
カートリッジだけは少し奢って、EMTのXSD15か。
瀬川先生の試聴記には、
《ハイゲインイクォライザーも、ハイインピーダンスMCに対して十分の性能で、単体のトランスよりもむしろ良いくらいだ》とまで書かれている。

EMTのカートリッジは出力も大きい。
ゲインだけでなく、音質的にも問題なく使えるはずである。

この組合せが、57号のころの目標でもあった。

Date: 11月 11th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その95)

ステレオサウンド57号の表紙は、ハーマンカードンのパワーアンプ、
Citation XXである。

55号のBestBetsに、ハーマンカードンについての情報があった。
「ハーマン・カードン(ジャパン)設立のお知らせ」だった。

新白砂電機がハーマン・カードンを買収し、
同ブランドの国内市場への本格的参入が進められる、とあった。
日本ブランドとなったハーマンカードンのフラッグシップが表紙になっている。

ただし新製品紹介のページにはまだ登場していない。
設計者のマッティ・オタラのインタヴュー記事が、57号には載っていたし、
プリメインアンプA750が、特集で取り上げられている。

このことからわかるように57号の特集は「いまいちばんいいアンプを選ぶ・最新34機種テスト」で、
ようするにプリメインアンプの総テストである。

52号、53号もアンプの総テストだった。
こちらではセパレートアンプ、プリメインアンプ、含めての総テストだったのに対し、
57号はプリメインアンプのみであり、42号以来といえる。

56,800円のモノ(オンキョーIntegra A815)から、
270,000円のモノ(ケンウッドL01A)までの34機種。

42号では53,800円(オンキョーIntegra A5)から195,000円(マランツModel 1250)までの35機種。

上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏で、個別試聴である。
スピーカーは4343は三氏共通で、
上杉先生は五万円台のアンプにはテクニクスSB6、六〜七万円台にはデンオンSC306、
八〜十万円台にはハーベスMonitor HL、十万円以上にはダイヤトーンDS505もあわせて使われている。

菅野先生は4343の他に、参考としてKEFのModel 303を、
瀬川先生はアルテックの320BとロジャースのPM510をあわせて使われている。

Date: 11月 11th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その94)

ステレオサウンド 56号の巻末、BestBetsというページがある。
各メーカー、輸入商社のキャンペーンや、
ショールームでのイベントなどの情報を伝えるページである。
お詫びと訂正もここに載る。

このページにひっそりとあった。
「瀬川冬樹氏によるJBL4343診断のお知らせ」とある。

4343ユーザーで使いこなしに困っている人のところに瀬川先生が出向いて、
診断の上、調整してくれる、とある。

当時の私は夢のような企画だと思った。
高校生の私は、4343は憧れるだけだった。
いつかは4343、と夢見ていた。

この時は、十年くらい早く生れていれば、4343を買っていただろう。
そうすれば瀬川先生に来てもらえるかもしれない──、
そう思ったことを、忘れてはいない。

結局、この企画が誌面に登場することはなかった。
応募はどのくらいあったのだろうか。