ステレオサウンドについて(その98)
ステレオサウンド 58号の表紙はスレッショルドのSTASIS 1だった。
57号の表紙と同じで天板をはずしての撮影で、アングルも近い。
57号表紙のハーマンカードンのCitation XXもいいアンプのひとつなのだが、
STASIS 1が次号の表紙となると、フロントパネルに色気(のようなもの)が足りないことに気づく。
58号の特集は《STATE OF THE ART》賞である。
三回目の《STATE OF THE ART》賞ということもあって、
一回目の49号とは特集自体のボリュウムも違う。
12機種が選ばれている。
一回目が49機種、二回目が17機種である。
一回目は現役の製品すべてが対象だったため、選ばれた機種が多いのは当然で、
二回目以降はいわゆる年度賞的に変っているのだから、機種数が減って当然である。
何が選ばれたのかについて、ひとつだけ書いておく。
オーディオクラフトのトーンアームAC3000MCのことである。
AC3000MCは1980年に登場した新製品ではない。
二回目の《STATE OF THE ART》賞選定で洩れてしまっている。
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実をいえば、前回(昨年)のSOTAの選定の際にも、私個人は強く推したにもかかわらず選に洩れて、その無念を前書きのところで書いてしまったほどだったが、その後、付属パーツが次第に完備しはじめ、完成度の高いシステムとして、広く認められるに至ったことは、初期の時代からの愛用者のひとりとして欣快に耐えない。
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と瀬川先生は書かれている。
これを読んで、なんだか嬉しくなったのを憶えている。
オーディオクラフトのトーンアームは、そのころは触ったこともなかった。
58号の《STATE OF THE ART》賞では、SMEの3012-R Specialも選ばれている。
特集の巻頭にカラーのグラビアページがある。
そこではAC3000MCと3012-R Specialが並んで写っている。
レギュラー長のトーンアームとロングアーム。
違いはそれだけではない。
単体のトーンアームとして見たときに、SMEはなんと美しいのだろう、と思う。
一方AC3000MCは単体で見た時以上に、洗練されていないことを感じてしまった。
ここにメーカーとしての歴史の違いが出てくるというのか、
それ……、いくつかのことを考えながらも、
AC3000MCは、いかにも日本のトーンアームだと思っていた。
オーディオクラフトのトーンアームは、アームパイプ、ウェイト、ヘッドシェルなどのパーツが、
豊富に用意されている。
これらをうまく組み合わせることで、
使用カートリッジに対して最適な調整ができるように配慮されている。
もっともパーツ選びと調整を間違えてしまっては、元も子もないわけで、
そのことについては瀬川先生が58号で、
メーカー側にパンフレットのようなカタチで明示してほしい、と要望を出されている。
SMEとは違うアプローチで、それは日本的ともいえるアプローチで、
ユニヴァーサルアームの実現を、オーディオクラフトは目指していた。
3012-R Specialは、ナイフエッジ採用のトーンアームとしての完成形ともいっていい。
AC3000MCは、その意味では完成形とはいえない。
まだまだ発展することで、完成形へと近づいていくモノである。
SMEとオーディオクラフトは、
受動的といえるトーンアームにおいて、実に対照的でもある。
瀬川先生が、こう書かれている。
やはりこういうキャリアの永い人の作る製品の《音》は信用していいと思う、と。
瀬川先生の文章を、いま読み返すと、
賞に対して、何をおもうか、を考えてしまう。