Archive for category ステレオサウンド

Date: 3月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その34)

41号からステレオサウンドを読みはじめた。
ほぼ二年間、夢中になってステレオサウンドを読んでいた。

私にとっての七冊目にあたる47号。
これが私にとって、はじめて疑問を感じたステレオサウンドである。

47号の特集は、ステレオサウンド三度目のベストバイ・コンポーネントである。
この他の記事として、新連載の「ロングラン・コンポーネントの秘密をさぐる」がはじまり、
連載対談として、菅野沖彦、保柳健、二氏の「体験的に話そう──録音と再生のあいだ」もはじまった。

巻末には「物理特性面から世界のモニタースピーカーの実力をさぐる」もある。
この記事は、三菱電機郡山製作所/三菱電機商品研究所の協力を得て、
46号に登場したモニタースピーカーのいくつかと4343を加えた10機種の測定が載っている。

44、45、46号での測定協力は日本ビクター音響研究所だった。
それが三菱電機にかわり、測定項目も違っている。

音楽関係の記事では、
黒田恭一、坂清也、河合秀朋(キングレコード第二制作室プロデューサー)三氏の座談会、
「イタリア音楽の魅力」もあった。
私はこの記事で、オルネラ・ヴァノーニを知り、聴きはじめた。

一冊のステレオサウンドとして読むと面白かった、といえる。
けれど肝心の特集に、私は疑問を感じたのだった。

読み手の勝手な期待なのだが、
同じ企画ならば前回よりも今回のほうがより面白くなる、
そういうものだと思い込んでいた。

47号のベストバイ・コンポーネントは43号のベストバイ・コンポーネントよりも面白くなっているはず、
より充実して読み応えのある特集となっているはず……、
そう思い込んでいた、というより信じ込んでいた。

その期待が裏切られたから、疑問を感じたということもあるのだが、
もっと違うところでの疑問を感じていたのだが、その疑問がどこに起因してのものなのかがはっきりするのは、
もっと後のことだ。
ステレオサウンドで丸七年働き、辞めて数年経ったころだった。

47号は、現在のステレオサウンドがそうであるし、さらに色濃く(ある意味巧みに)なっているのだが、
誌面の幕の内弁当化のはじまりの号といえる。

Date: 3月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その33)

ステレオサウンド 46号の奥付のところにあるアンケートハガキは、
1978読者の選ぶベストバイ・コンポーネントの投票用紙だった。

46号を買った時点で、47号の特集はベストバイ・コンポーネントだとわかる。
また43号のようなベストバイ・コンポーネントが読めるのか、と思っていた。

投票用紙への記入も、一年前とは少し違う意味でずいぶんと考えた。
一年前には「ベストバイ」の意味を深く考えずに記入したけれど、
高校一年生にとってのベストバイとして記入すべきなのか、
それともそういった年齢的なことを考慮せずにベストバイ・コンポーネントと思うモノを記入すべきか、
そのことについても考えていた。

47号への関心は、46号の特集を読み返すたびに多くなっていった。
間違いなく瀬川先生はスピーカーのベストバイとして、
UREIのModel 813、K+HのOL10を選ばれるはず。

ここに疑問はなかった。
どう書かれるのか、そのことに強い関心があった。

それに45号に登場したKEFのModel 105も同じだ。
間違いなくベストバイ・コンポーネントして選ばれる……。

こんなふうに43号の時点では登場していなかったオーディオ機器のどれを選ばれ、
それらについてどう評価されるのかを、一方的に予測しながら発売をまった三ヵ月だった。

そしてSMEの3009/SeriesIIIにシュアーのV15 TypeIVを組み合わせた表紙の47号が出た。

Date: 3月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その32)

ステレオサウンド 46号の特集は、もうひとつある。
井上先生による「最新MC型カートリッジ 昇圧トランス/ヘッドアンプ総テスト」だ。

スピーカーの特集が三号続いたからこその、音の入口にあたるカートリッジの特集だったのか。
カートリッジの記事はこれだけではない。
「オーディオの名器にみるクラフツマンシップの粋」でも、カートリッジが取り上げられている。

井上卓也、長島達夫、山中敬三の三氏による鼎談で、
製造中止になっているカートリッジが紹介されている。

「フォノカートリッジの名門」と題された、この記事の最初に登場するのは、
ウェストレックスの10Aである。
10Aが紹介されているページの右側のカラー口絵では、ノイマンのDST、DST62、PA2aがある。

ウェストレックスの10A、ノイマンのDST、
どちらもカッターヘッドを開発・製造していたメーカーのカートリッジであり、
ラッカー盤のモニター用として開発されたモノだ。

当時の編集部がどれだけ意図してのものだったのかはわからないが、
音での出口であるスピーカーシステム、
その中でもモニタースピーカーは、プログラムソースをつくるための音の出口であり、
その音の出口によって確認されたモノを、再生側ではカートリッジでトレースする。

つまりモニタースピーカーが、通常のスピーカーとは違うのは、
カートリッジの前段階のスピーカーというところにある。

そして10A、DSTも通常のカートリッジの前段階にあるモノであり、
モニターカートリッジとも呼べるモノでもある。

カートリッジとスピーカーという対照的なモノでありながらも、
プロフェッショナル用として、モニター用としての共通点ももつスピーカーとカートリッジが、
同じ号で取り上げられているいたわけだ。

Date: 3月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その31)

瀬川先生の「モニタースピーカーと私」の終りちかくに、こう書かれている。
     *
 リファレンス・スピーカーとしてJBL♯4343を参考にしたが、それは、このスピーカーがベストという意味ではなく、よく聴き馴れているためにこれと比較することによって試聴スピーカーの音の性格やバランスを容易に掴みやすいからだ。そして興味深いことには、従来のコンシュマー用のスピーカーテストの場合には、大半を通じてシャープ4343の音がつねに最良に聴こえることが多かったのに、今回のように水準以上の製品が数多く並んだ中に混ぜて長時間比較してみると、いままで見落していた♯4343の音の性格のくせや、エネルギーバランス上での凹凸などが、これまでになくはっきりと感じられた。少なくとも部分的には♯4343を凌駕するスピーカーがいくつかあったことはたいへん興味深い。
     *
JBL・4343のもつ《音の性格のくせ》、《エネルギーバランス上の凹凸》が、
これまでになくはっきりと感じられた、つまり感じさせたスピーカーがあったということで、
その筆頭はK+HのOL10のことだと、(はっきりとは書かれていないけれど)そう受け取った。

44号、45号、この46号とスピーカーの特集が三号続いて、
なぜ、こうもスピーカーシステムというモノは、これほどまでにすべて違うのか──、
それを知ることができた、といっていい。

スピーカー特集の三号に登場したスピーカーシステムをすべて聴いたことのある人は、
ステレオサウンド関係者を含めても、そう多くはないはずだ。

これとあれは聴いているけれど……、
聴いていない機種の方が多いという人が大半だと思う。

私もそのひとりであり、聴いたことのあるスピーカーの数は少ないほうだった。
音は活字で、どこまで表現できるのか。
そのことを考えれば、スピーカーシステムというモノを、ほんとうのところはわかっていないともいえるのだが、
そうであっても、違いの多様さは確実に知ることができた。

46号の特集のおわりには、岡先生による「その他の世界のモニタースピーカー紹介」がある。
デンオンのDS103、ガウス・オプトニカのCP3830、KEFのModel 5/1AC、フォノゲンのPhonogen 1、
シーメンスのEurophon、ウェストレークのTM2が紹介されている。

ガウス・オプトニカ、フォノゲン、KEF、シーメンス、ウェストレークが、
特集の本編で取り上げられていないのは少し残念だった。

瀬川先生も《そして試聴できなくて残念だったスピーカーはウェストレーク、ガウス、シーメンスなどであった》
と書かれている。

瀬川先生が、これらのモニタースピーカーをどう評価されたのか、
それが読めなかったのはほんとうに残念である。

Date: 3月 20th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その30)

ステレオサウンド 46号、瀬川先生のK+HのOL10の試聴記を読んでいて、
まず感じたのは、このスピーカーのバランスは、瀬川先生にとってかなり理想に近いものだということ。

OL10の価格は80万円(一本)。
エンクロージュアに三台のパワーアンプ(低域120W、中域60W、高域30W)が内蔵されているとはいえ、
JBLの4343よりも高い。

ユニットはウーファーが25cm口径のメタルコーン型を二発、
スコーカーもメタルコーン使用の13cm口径、トゥイーターがホーン型で、
ユニット単体の写真はないけれど、
おそらくというか、ほぼ間違いなくJBLのユニットと比較すると、
物量の投入のされ方などに、モノとしての凄みは感じられないはずだ。

オーディオマニア心をくすぐるユニット群ではない、といえる。
見た目もそっけない。
同じプロフェッショナル機器(モニタースピーカー)であっても、
JBLの4343に代表される4300シリーズとは洗練のされ方が違う。

写真だけを見ていてはそれほど魅力的なスピーカーとは思えてこなかったのが、
瀬川先生の試聴記を読むにつれて、
これ(OL10)はホンモノのモニタースピーカーだ、ということが伝わってきた。

《ブラームスのベルリン・フィル、ドヴォルザークNo.8のチェロ・フィル、ラヴェルのコンセルヴァトワル、バッハのザルツブルク……これらのオーケストラの固有のハーモニィと音色と特徴を、それぞれにほどよく鳴らし分ける。この意味では今回聴いた17機種中の白眉といえるかしれない。》
《いわばアトモスフィアを大切にしたレコード場合に、OL10では、とても暖い雰囲気がかもし出される。》
《またバッハのヴァイオリン協奏曲の場合にも、独奏ヴァイオリンの音色の良さはもちろんだが、バックの室内オーケストラとの対比もきわめてバランスがよく、オーケストラがとても自然に展開してディテールがよく聴き分けられる。》

このあたりを読みながら、その音を想像していた。
そして試聴記の最後に、もう一度引用するが、
《私がもしいま急に録音をとるはめになったら、このOL10を、信頼のおけるモニターとして選ぶかもしれない。》
が来る。

瀬川先生がオーディオのプロフェッショナルとして、
OL10というモニタースピーカーを信頼されていることが、強く伝わってきた。

Date: 3月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その29)

ステレオサウンド 46号の特集は、
44号、45号から三号続いてのスピーカーであり、
既に書いているようにモニタースピーカーという枠をもうけている。

モニタースピーカーと、簡単に口にしてしまうが、
モニタースピーカーの正確な定義となると、いまも非常に難しいところがある。

46号の特集は、
 モニタースピーカー私観(岡俊雄)
 レコーディング・ミキサー側からみたモニタースピーカー(菅野沖彦)
 モニタースピーカーと私(瀬川冬樹)
という三つの文章からはじまる。

じっくり読んでも、読み返しても、モニタースピーカーの正確な定義を簡潔に述べることは、
いまも難しいと感じる。

46号に登場するモニタースピーカーでもっとも小型なのはロジャースのLS3/5Aであり、
大きいモノではダイヤトーンの4S4002Pがある。
前者は5.3kg、後者は135kgと、カタログには載っている。
価格ではJBLの4301がもっとも安価(65000円)で、ダイヤトーンの4S4002Pがもっとも高価(100万円)だ。

日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツのモニタースピーカー17機種が載っている。
その中でもっとも聴いてみたい、と思ったのはK+HのOL10である。

UREIのModel 813も聴いてみたい、と思った。
キャバスのBrigantinにも興味をもっていた。

それでもOL10の、瀬川先生の試聴記を読むと、聴いてみたい、というよりも、
聴かなければ……、という気持のほうが強くなってくる。

OL10の試聴記の最後にこう書かれている。
《私がもしいま急に録音をとるはめになったら、このOL10を、信頼のおけるモニターとして選ぶかもしれない。》

残念ながら、聴く機会にめぐまれずいまにいたっている。

Date: 3月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その28)

このころのステレオサウンドの表紙は安齊吉三郎氏が撮られていた。
46号の約一年前野別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」の表紙も、
アルテックの同軸型ユニットで、安齊吉三郎氏による撮影だ。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」のアルテックは604-8Gではなく、601-8Eだ。
アルテックのユニットにあまり関心のない人だと、
604-8Gだと勘違いされるように、604シリーズ同様マルチセルラホーンをもつ。
セルの数は同じだが形状、大きさに違いがあり、ユニットの口径も12インチと小さい。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」では、この601-8Eを真正面から撮られている。
背景も46号とは対照的に明るい。

601-8Eの背面は、604シリーズとはずいぶん違う。
口径も含めてスケールダウンしたユニットであり、
46号の604-8Gと同じアングルでは、604のようには映えない。

どういう理由で、「コンポーネントステレオの世界 ’77」と46号のアングルの違いなのか。
正確なところはなんともいえないが、
約一年のあいだに、安齊吉三郎氏によるアルテックの同軸型ユニットの写真を、
この時代のステレオサウンドの読者であった人は見てきているわけだ。

Date: 3月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その27)

ステレオサウンド 46号の表紙はアルテックの同軸型ユニット604-8Gだった。
ユニットの全景をとらえた写真だ。

604-8Gを構成している色は黒だ。
コーン紙も黒、エッジも黒、フレームも黒。
もちろんそれぞれの黒には微妙な違いがあって立体的な陰翳を醸している。

こういうモノは被写体としてどうなんだろう。黒以外の色はない。
46号の表紙では604-8Gの下にはアルミ(と思われる板)が敷かれている。

604-8Gの写真は、これでいくつもみてきた。
46号の表紙は、その中でのベストといえる。
この表紙をみているだけで、アルテック604-8Gがほしくなる。

604-8Gからは、私が求める音は決して出て来そうにないと感じながらも、
それでも手元にあってほしいユニット(カタチ)である。

古くからのアルテックの使い手は、604-8Gを低く評価する傾向がないわけではない。
604Eまでがアルテックの音であり、
604-8Gになり、それまで受け継がれてきた604シリーズに共通する音の美点が消えてしまった……、という。

それにフレームの形状も604-8Gから変更された。
フレームの塗装もそうだ。
604Dのアルテックグリーンでもなく、604Eのグレー(磁気回路)とホワイト(フレーム)でもない。
武骨な黒になってしまった。

そんなバイアスのかかった目には46号の表紙は、どう映るのか。

46号の特集は、表紙の604-8Gが象徴しているように「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質を探る」。
46号を書店で手に取ったとき、確かに表紙は604-8G以外にない、と思った。

でもいまはUREIのModel 813も表紙の候補に挙がっていたのではないか、とも思う。
Model 813は特集でも、新製品紹介でも取り上げられている。
どちらでも高い評価を得ている。

Model 813の中核を成すのは604-8Gであり、オリジナルのマルチセルラホーンが、
UREI独自の青いホーンに換装されている。
この青のホーンは、これはこれで映えた表紙になった、と思う。
それでも46号の表紙は604-8Gであり、それでよかった、と私は思う。

Date: 3月 14th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その26)

ステレオサウンド 45号で田中一光氏は、コントロールアンプについて語られている。
     *
 マークレビンソンにすると音が細くなるね。ジェリー・マリガンの太いバリトンサックスの感じが出てこない。音楽ソースにもオーディオ機器にも、それが生れた時代の世代観みたいなものがあるように思う。その機械がつくられた時代とレコードが録音された時代が近いとうまく鳴る。そのへんのジェネレーションギャップがあるとどうもうまく鳴らない。
 最近の録音が優れているといわれる新しいレコードの音、僕はあまり好きになれない。レンジは広いけれど、音に芯がないように僕には感じられる。僕が好きなのは、モノーラルの後期からステレオの初期、つまり50年代の終りごろの音。コンテンポラリーとかブルーノート、音がしっかりしているでしょ、音に厚みがあって……。
(中略)
 スピーカーに世代があるように、アンプにも世代がある。アンプだけグレイドアップして新しいのを持ってきても合わない。
(マッキントッシュのC22につなぎかえて)
 どうですか、アートペッパー・ミーツ・ザ・リズムセクション(コンテンポラリー)、だんぜん生き生きとして躍動感が出てくる。やはり古いスピーカーにはこういう球のアンプが合うね。昔大阪で通いつめたバードランド、あの頃に僕はマッキントッシュを聴きすぎたかな。マッキンの音が骨の髄まで滲みこんじゃったとか……。
(中略)
 こうしてLNP2とC22を聴いてみたけれど、それぞれに良し悪しがあって、マークレビンソンにすぐ飛びつくということにはならないね。かといって昔なつかしいC22は、高音が少し粗くてがさつになるところがある。しかしね、演奏会に行くとオーケストラでも案外音は粗いものだね。レコードの音はきれいすぎるかもしれない。
     *
45号当時の田中一光氏のシステムは、スピーカーはJBLのハークネス、
001システムだから130Aウーファーと175DLHドライバー/ホーン/レンズ、
N1200ネットワークということになる。

パワーアンプはマランツの510M。
これは当時のステレオサウンドがリファレンスとして使っていた。

コントロールアンプはマークレビンソンのLNP2とマッキントッシュのC22を比較されているところ。
アナログプレーヤーはヤマハのYP800で、カートリッジはピカリングのXSV/3000である。

別冊「SOUND SPACE 音のある住空間をめぐる25の提案」でも、
《プレーヤーのグレイドアップで音の腰をしっかりさせることと、良いプリアンプを見つけることが当面の課題です》
と述べられている。

《良いプリアンプ》は、
ステレオサウンド 59号の黒田先生の「ML7についてのM君への手紙」へとつながっていく。
田中一光氏のハークネスと部屋は、1993年のステレオサウンド別冊「JBLのすべて」へとつづいていく。

Date: 3月 14th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その25)

4341が大きなブックシェルフタイプということになれば、
その後継機の4343もそうなるのか。

ステレオサウンド 45号の「サウンド・スペースへの招待」を読んで、そう心の中で呟いていた。
まだそのころは4341も4343もきちんと聴いたことがなかった。

田中一光氏の発言をきちんと理解するだけのものを、まだ築いていなかった。

数年後、岩崎先生が4350を、やはり「大きなブックシェルフ」的発言をされているのを知った。
4341、4343よりも大型で、ダブルウーファーで、搭載しているユニットもより強力な4350をも、
大きなブックシェルフのようだ、ということは、すんなりとは受け容れられなかった。

同じことをいわれている田中一光氏と岩崎先生、
ふたりともハークネスを使われている、という共通点があることだけは気づいていた。

大きなブックシェルフタイプのような音とは、いったいどういう音なのか。
そのことを理解し、田中一光氏、岩崎先生の発言に納得できるようになるのは、もっとあとのことだ。

ちなみに4350は「テキサス・ブックシェルフ」というニックネームがつけられていた、
とステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」にある。

訳注には次のように書かれている。
     *
アメリカン・ジョークでは、テキサスでは何でも並外れて大きいことになっていて、州外からやってきた人間がそれに驚くというのが定番である。「テキサス・ブックシェルフ」というのは、大型スピーカーを作ることで知られるJBLでも、このプロトタイプは史上屈指の巨大システムだったのだが、「でも、テキサスなら、これくらいじゃあブックシェルフ=小型スピーカーだぜ」というジョークである。
     *
けれど日本には、ジョークではなく《大きなブックシェルフタイプといった音》と感じる人たちがいた。

Date: 3月 13th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その24)

田中一光氏の部屋は、別冊「sound space 音のある住空間をめぐる25の提案」にも登場している。
この別冊は1979年秋に出ているから、ステレオサウンド 45号から約二年。

基本的には45号の記事の再掲ではあるが、まるっきりそのままではない。
田中一光氏の別荘Vハウスの写真(「コンポーネントステレオの世界 ’77」の写真)も併せて載っている。

記事の終りに「私のサウンドスペースを語る JBLとともに」がある。
この文章も基本的には45号と同じではあっても、まったくそのままではない。

(その23)引用した部分の続きといえる部分がある。
     *
 部屋ができてみると、やはり視覚と音の両面からみて、ハークネスでよかったと思っています。おそらく4341ののびた低音は、この部屋では飽和してしまうでしょうし、第一、ルックスが全然合ませんよね。4341は、あの山中湖のスッキリしたデザインにむしろ合います。
     *
田中一光氏の部屋には、ハークネス以外のスピーカーで、これほどしっくり合うモノはないと思う。
ハークネス以外は考えられないほど似合っている。

この部屋のためにハークネスがあり、
ハークネスのために用意された部屋である、と思わせる。

こういう部屋は、他に見たことがない。
だからこそ45号で受けた印象はまったく色褪せることなく、
むしろ最初に見たときよりも輝いて見えてくるところもある。

私にとってステレオサウンド 45号について語るということは、
田中一光氏の部屋を語ることに、どうしてもなってしまう。

でも田中一光氏の《4341は何か大きなブックシェルフタイプといった音にきこえる》には、
ちょっとばかり反論したい気持もあった。

4341は4343の前身ではあっても、そんなことはないだろう……、と読みながら思っていた。
けれど、このことも後に納得していく。

Date: 3月 12th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その23)

ステレオサウンド 45号「サウンド・スペースへの招待」ではっきりしたことがある。
別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」に載っている《V・ハウス「ビルト・インの手法」》、
このモダンな印象の部屋も、田中一光氏の部屋である、というこだ。

45号の「サウンド・インテリアの楽しみ」の中に、田中一光氏の発言としてこう書いてある。
     *
「僕の聴く音楽の傾向との相性もあるのでしょうが、響きのたちが好きになれないのです。4341は、シャープネスはあるし、ダイナミックレンジの幅があって、いかにもハイフィデリティを狙ったという感じですね。どうしてもデモンストレーションという聴き方をしてしまう。ですから深夜に住いに帰ってきて針をおろすにはふさわしくないのです。くつろいで音楽を聴こうとしたら、やはりこちらのハークネスの方がいいということになってしまう。
 はじめは4341を主要システムとして自宅のこの部屋で使おうかと思っていたのですが、結局のところ新しい音がそれほど好きになれない。このシャープで細かい音は、どちらかというと腰の強さや図太さを大切にする僕の音楽の聴き方に向かないということでしょうか。
 JBLは僕は好きだけれど、昔のJBLがいい。ハークネスはホーンロード型ですが、こののびのびとした響きにくらべると、4341は何か大きなブックシェルフタイプといった音にきこえる。ここ20年の技術的進歩というものは、スピーカーに於てはそれほど大きくないね。ハークネスを再評価することになった……」
     *
結果、4341は山中湖の別荘で、
AGIの511、マランツの510Mで鳴らされることになる。

山中湖の別荘、511、510M、4341というキーワードで、
45号の記事中にははっきりと書いてあったわけではないが、
すぐに《V・ハウス「ビルト・インの手法」》の、あの部屋だと気づいた。

《V・ハウス「ビルト・インの手法」》も印象に残っていたからだ。

Date: 3月 1st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その22)

田中一光氏の部屋が登場していたのは、「サウンド・スペースへの招待」という連載記事の第23回だった。
「サウンド・スペースへの招待」は、私にとって最初のステレオサウンドとなった41号にも載っている。
42号、43号、44号と「サウンド・スペースへの招待」を読んできていた。

41号といっしょに買った「コンポーネントステレオの世界 ’77」の巻末にも、
「サウンド・スペースへの招待」の筆者、斉藤義氏による「サウンド・インテリアの楽しみ」というページがあった。

カラー16ページに、八つのリスニングルーム(というよりスピーカーのある部屋)が紹介されていた。
 多摩プラーザの家「ナチュラルな空間・ナチュラルな響き」
 清瀬の家「ホワイト・アブストラクト」
 玉川学園の家「くつろぎの城」
 V・ハウス「ビルト・インの手法」
 梶ヶ谷の家「ヨーロッパ的なセンス」
 矢崎さんの家「……しながらの音」
 船の家「サウンド&ヴィスタ」
 「ウィークエンド・サウンド」

「サウンド・インテリアの楽しみ」、「サウンド・スペースへの招待」は、
スピーカーは部屋に置くモノだ、ということを認識させてくれる。

そして「サウンド・インテリアの楽しみ」、「サウンド・スペースへの招待」は、
オーディオマニア訪問記に登場するリスニングルームとは、どこか違う。

その部屋への憧れが、まずあった。
このことをはっきりと感じたのは、ステレオサウンド 45号の田中一光氏の部屋だった。

Date: 2月 29th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その21)

ステレオサウンド 45号の特集(44号から続くスピーカーの総テスト)には、
気になるモデルがほぼすべて載っていた。

KEFのModel 105、スペンドールのBCII、タンノイのArden、アルテックのModel 19、ヤマハのFX1、
そしてJBLの4343。
44号と45号、比較するようなものではないのだけれど、
オーディオに興味を持って一年ちょっとの私には、45号に登場するスピーカーの方が興味深かった。

「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」のタイトル通りだな、と思いながら読んでいた。
しかも嬉しいことに、フロアー型、ブックシェルフ型だけでなく小型スピーカーも取り上げられていた。
ヤマハのNS10M、JRのJR149、スペンドールSA1、そしてロジャースのLS3/5Aの四機種が載っていた。

何度も読み返した。
記憶するほどに読んでいた。
カバンの中に教科書とともにステレオサウンドをつねに一冊以上入れていた。
すこしでも読む時間があれば、ページをめくっていた。

ステレオサウンドは次号(46号)でもスピーカーを特集している。
モニタースピーカーについて、だ。
三号続けてのスピーカー特集をくり返し読むことで、
スピーカーとはどういうモノなのか、
どういう存在として認識すべきなのかを学ぶきっかけとなった、といえる。

試聴記を、ただ単にどれがいいのか──、
そんな読み方ではないところでのスピーカー独特の面白さを味わえた。
いまのステレオサウンドは、こういう読み方ができるだろうか、とだから思ってしまう。
もしかすると、そういう読み方を拒否しようとしているのだろうか……。

45号の特集の最後に載っていたのはLS3/5Aだった。
LS3/5Aは、42号のアンケートはがき(ベストバイコンポーネントの投票はがき)のスピーカー欄に、
キャバスのBrigantinとどちらを記入しようかと迷いに迷ったスピーカーだ。
これは別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」での井上先生の組合せの影響からだ。

Brigantinは44号にも45号にも載っておらずがっかりしたけれど、46号に登場している。
読み手の勝手な期待を裏切らないところがあった。

そんなLS3/5Aのページを読み終えて数ページの広告をめくる。
すると、そこにはJBLのHarknessがあらわれる。
田中一光氏のリスニングルームに見事におさめられているHarknessは、
特集よりも印象に残っている記事である。

こういう部屋で音楽を聴ける大人になりたいと、ぎりぎり14歳だった私に思わせた。

Date: 2月 28th, 2016
Cate: ステレオサウンド,

賞からの離脱(賞がもたらしたもの)

最初のベストバイの号は35号。1975年6月にでている。
二回目の43号は1977年6月。
つまりベストバイは夏号の企画だった。

49号でState of the Art賞が始まる。
1978年12月に出ている。
State of the Artは途中でComponents of the yearと名称が変更になったが、
冬号掲載の特集ということは変らなかった。

73号(1984年12月発売)で、
ベストバイとComponents of the yearが同じ号にまとめられるようになった。
Components of the yearはいまではStereo Sound Grand Prixと変ったが、
ベストバイといっしょに冬号に掲載されることは30年以上続いている。

そうなったことがステレオサウンドに与えたことのひとつに、
年度の区切りがあると、私は思っている。

一年の締括りとしてComponents of the year賞とベストバイが行われる。
そのことがいいのか悪いのかはあえて語らないが、
ベストバイ、Components of the yearが定着する以前のステレオサウンドには、
一年の締括りというものがなかった、といえる。

それが73号以降、12月発売の冬号で一年を締括る。
そして3月発売の春号から新しい一年が始まる──。

もうじき春号(198号)が発売になる。
ステレオサウンドのウェブサイトに、どういう内容なのか告知されている。

一年前の春号(194号)のときにも気になっていた。
194号の特集は「黄金の組合せ2015 ベストバイスピーカーを鳴らす最良のアンプを選りすぐる」、
198号の特集は「タイプ別徹底比較! ベストバイスピーカー 19モデルの魅力」。
どちらにもベストバイスピーカーの文字がある。

つまりは前号(冬号)の特集であるベストバイの結果を受けての企画である。
198号はまだ発売されていないから内容については触れないが、
ここで冬号が一年の締括りだったことが、崩されようとしていることを感じる。

それが意識的なのか、それともそうでないのかはなんともいえないが、
これから先も春号でベストバイスピーカーを特集にもってくるのであれば、
一年を通じてのステレオサウンドの構成に微妙な変化をもたらすはずだ。

だから、意識的なのかそうでないのかによって、
そこで生じる微妙な変化に対する編集部の対応は違ってくる、ともいえるはずだ。

それから……、この件について書きたいことはまだあるけれど、今回はこのへんにしておく。