妄想組合せの楽しみ(カラヤンの「パルジファル」・その6)
組合せを考えていく場合、とにもかくにもスピーカーを決めるところからすべてははじまる。
特に、このディスク(音楽)を聴きたいための組合せなのだから、
スピーカー以外のものからきめていくことは絶対にあり得ない。
カラヤンの「パルジファル」を聴くためのスピーカーとして、何を選ぶのか。
その前にクナッパーツブッシュの「パルジファル」を聴くためのスピーカーとして、何を選ぶのか。
これに関してはすでに答は出ている。
古今東西数え切れないほどのスピーカーシステムが存在していたわけだが、
クナッパーツブッシュの「パルジファル」ということになれば、
シーメンスのオイロダインしか、私にはない。
オイロダインを2m×2mの平面バッフルに取り付けて、クナッパーツブッシュの「パルジファル」を聴きたい。
オイロダインでクナッパーツブッシュの「パルジファル」というと、
古くからのステレオサウンドの読者の方ならば、
50号の「オーディオ巡礼」に登場された森忠揮氏を思い出されることだろう。
森氏はオイロダインをマランツのModel 7とModel 9で鳴らされていた。
森氏のリスニングルームに響いたクナッパーツブッシュの「パルジファル」について、
五味先生は書かれている。
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森氏は次にもう一枚、クナッパーツブッシュのバイロイト録音の〝パルシファル〟をかけてくれたが、もう私は陶然と聴き惚れるばかりだった。クナッパーツブッシュのワグナーは、フルトヴェングラーとともにワグネリアンには最高のものというのが定説だが、クナッパーツブッシュ最晩年の録音によるこのフィリップス盤はまことに厄介なレコードで、じつのところ拙宅でも余りうまく鳴ってくれない。空前絶後の演奏なのはわかるが、時々、マイクセッティングがわるいとしか思えぬ鳴り方をする個所がある。
しかるに森家の〝オイロダイン〟は、実況録音盤の人の咳払いや衣ずれの音などがバッフルの手前から奥にさざ波のようにひろがり、ひめやかなそんなざわめきの彼方に〝聖餐の動機〟が湧いてくる。好むと否とに関わりなくワグナー畢生の楽劇——バイロイトの舞台が、仄暗い照明で眼前に彷彿する。私は涙がこぼれそうになった。ひとりの青年が、苦心惨憺して、いま本当のワグナーを鳴らしているのだ。おそらく彼は本当に気に入ったワグナーのレコードを、本当の音で聴きたくて〝オイロダイン〟を手に入れ苦労してきたのだろう。敢ていえば苦労はまだ足らぬ点があるかも知れない。それでも、これだけ見事なワグナーを私は他所では聴いたことがない。
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「パルジファル」はいうまでもなくワーグナーの音楽である。
その「パルジファル」をクナッパーツブッシュが、バイロイト祝祭劇場で振っている演奏を聴くのに、
シーメンスのオイロダイン以外のスピーカーは、いったいなにがあるといえるだろうか。