Archive for category 新製品

Date: 9月 13th, 2015
Cate: 新製品

新製品(その15)

新製品の登場には、期待して、わくわくしてしまうのだろうか。

先日、Appleから新しいiPhoneとiPadの発表があった。
毎年、この時季には新しいiPhoneが発表されるのが恒例になっているし、
これまでの変遷から型番がどうなるのかは誰にでもわかることである。
しかも、インターネットでは新しいiPhoneが出てしばらくする来年のiPhoneについての予測記事が出る。
発表間近になると、かなり正確な情報が、どこから漏れてくる。
それでだいたいの予想はつくし、大きく外れることはない。

それでも新しいiPhoneの発表には、わくわくするところがまだある。
いったい新製品に、何を期待しているのだろうか。

1979年のオンキョーの広告がある。
チューナーのIntegra T419の広告である。

そこにはこう書いてあった。
     *
新製品というよりは
〝新性能の登場〟がよりふさわしい。
     *
この広告を見て、感心した。
新製品とはいったい何か、のある一面を見事に言い表している、と思ったからだ。

新製品の登場は、新性能の登場である。
たまには旧性能の登場といえるモノもないわけではないが、
基本的には、新製品は新性能の登場である。

オーディオマニアが新製品にわくわくしてしまうのは、
それが新製品だから、ということと同じくらい、もしくはそれ以上に、
その製品がどれだけの新性能を持っているのかに期待しているから、ともいえよう。

オーディオ機器の場合「新性能」とは、物理的な性能だけではない。
その製品が聴かせてくれる「音」もまた性能である。大事な性能である。

そして新製品の登場は、新性能の登場だけではない。
iPhoneがそうであるように、新機能の登場の場合もある。

それまでの製品にはなかった機能を搭載しての新製品(オーディオ機器)は、これまでにもいくつもあった。
目立つ新機能もあれば地味な新機能もあった。
消えてしまった機能もあれば、生き残り進歩している機能もある。

オンキョーの広告を見て以来、
新性能と新機能の登場ということは、わりとすぐに考えていた。

けれど新製品は、新性能と新機能の登場だけではないことに、
かなり経ってから気づかされた。

川崎先生の「機能性・性能性・効能性」をきいたことによって、気づいた。

Date: 7月 4th, 2015
Cate: 新製品

新製品(その14)

あのころは新製品が出るたびに、かなりわくわくしていた。
まだ学生で自由になるお金はほとんどなかった。
それでも目標だけは大きかった。

社会人になれば、そう遠くないうちに買えると思っていたからだし、
実際に当時憧れていたオーディオ機器は、頑張れば買えない価格ではなかった。

ステレオサウンドの新製品紹介のページを読んでは、
目標が少し変ったり、また元に戻ったりということがあった。

そんなふうに読んできた申請非紹介のページだったが、
いつのころからか、こちらの読み方が変ってきた。

変ってきた理由のひとつには、ステレオサウンドで働いていたことも関係している。
でもそれだけではない。

すべての新製品をそういう視点で見ているわけではないが、
いわゆる話題の新製品、そのブランドのトップクラスの新製品、
それから超高額といえる新製品が出た時には、
これらはいったい何年使えるのだろうか、とふと思ってしまうようになっていた。

スピーカーシステムで、ペアで一千万円前後するモノがある。
そういったスピーカーが、仮にいい音を聴かせてくれたとしよう。
けれど、それはいったい何年使えるのか。

ここで使えるのか、という意味は、
新製品として登場した時点での最先端にあったであろう音は、
数年後には最先端ではなくなっていることが多い。
それは仕方のないことなのだが、毎日、そのスピーカーで音を聴いてきて、
10年、20年、30年……と使っていけるのだろうか、という意味でだ。

この新製品のモノとしての「耐久性」はいったいどの程度なのか。
このことを、高額なオーディオ機器に対しては冷静に判断するようになっていた。

Date: 1月 22nd, 2015
Cate: 新製品

新製品(Nutube・その1)

今年も数多くの新製品が登場することであろう。
驚くような新製品もあってほしい、と期待している。

でも今年の新製品で、これほど昂奮するモノは出ないかもしれない。
Nutube(ニューチューブ)という真空管、
それも音響機器用真空管の新製品が登場する。

ノリタケとコルグの共同開発で、
ノリタケの子会社であるノリタケ伊勢電子が製造する蛍光表示管の技術を応用したもので、
小型化、それにともなう省電力化を実現したもの、とのこと。

どういう特性なのか、詳しい技術資料はまだ発表されていない。
アンペックスのオープンリールデッキMR70に採用されたニュービスタに近いモノなのだろうか。
ニュービスタはRCAがミサイル用に開発した真空管である。

今年中にはコルグからNutube搭載の機器が出るとのこと。
となると他メーカーからも出てくるのであろうか。
今年は無理でも来年あたりには、Nutube採用のアンプが登場してきても不思議ではない。

Nutubeそのものの市販も期待している。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その13)

ステレオサウンド 60号は創刊15周年記念号で、特集はアメリカン・サウンドだった。
瀬川先生が登場された最後のステレオサウンドになった。

4345について、瀬川先生が語られている。
     *
 もちろん、中~高域にかけて、ネットワークやユニットの部分改良があり、全体によくなっているという発表はありますが、それだけではないと思うんです。やはり、あの低音の土台あっての柔らかさだ。自分のうちへ持ち込んでみてびっくりしたんですが、音がすばらしくソフトなんです。実に柔らかくてフワーッとしています。しかしそれは、腰抜けの柔らかさじゃなくて、その中にきちんと芯がある。かなり惚れ込んで聴いています。
 もちろん、まだまだパーフェクトだとは思いません。むしろ、4345まで聴いてみて、改めて、JBLでは鳴らせない音というものが、だんだんぼくの頭の中ではっきりし始めました。
 たとえばイギリスのBBCの流れをくむモニタースピーカーを、いい状態で鳴らしたときに、弦楽四重奏なんかをかけると、鳴った瞬間からウッドの胴体を持った弦の音が突然目の前に出現するけれど、4345では、いきなりそういう感じはなかなか出ないですね。どうしても中に金っ気がまじります。JBL嫌いの人は、昔からそこを非常にオーバーに指摘してきた。それは4345になってずいぶん抑えられたとはいうものの、どうしようもなくちゃんと持っていますね。あそこは越えがたい一線じゃないかという気がする。スピーカーがかなりパーフェクトに近づいてきて初めて、そこのところが見えてきたみたいな……。あるは少しはあばたがえくぼでなくなってきたのかなという気はします。でも、全体としてはやっぱり凄く惚れ込んでいますよ。
     *
ステレオサウンド 58号の記事はもうほとんど記憶していた。
やっぱり4345はいいスピーカーなんだ、PM510はもう目標としなくともいいのかもしれない、と思いながら、
途中まで読んでいた。

けれど、4345まで聴いてみて、改めて、JBLでは鳴らせない音がある、と発言されている。
そしてBBCモニターを引き合いに出されている。
こうも言われている。
「スピーカーがかなりパーフェクトに近づいてきて初めて、そこのところが見えてきたみたいな……。」と。

やはりPM510は必要なのか。
そうなると4345とPM510となるのか。

だが4345は4343ほどカッコよくない。
ステレオサウンド 58号で書かれていたことが浮んでくる。
     *
 ♯4343と並べてみると、ずいぶん大きく、しかもプロポーションのせいもあってか、ややズングリした印象だ。♯4343は、初対面のときからとてもスマートなスピーカーだと感じたが、その印象は今日まで一貫して変らない。その点♯4345は、寸法比(プロポーション)も、またそれよりもいっそう、グリルクロスを外して眺めたときのバッフル面に対するユニットの配置を含めて、♯4343の洗練された優雅さに及ばないと思う。この第一印象が、これから永いあいだに見馴れてゆくことで変ってゆくのかゆかないのか、興味深いところだ。
     *
瀬川先生は4345のプロポーションを見馴れてゆかれたのだろうか。
それについての発言は60号にはなかった。

見馴れてゆくにしろ、4343の「洗練された優雅さ」は4345にはないことは変ってゆかない。
ならば、4343(アルニコ)とPM510ということになるのか。
目標が揺らいでいく……。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その12)

56号から半年後のステレオサウンド 58号。
ここにJBLの4345の記事が載る。
もちろん瀬川先生が書かれている。
試聴記の最後に、こうある。
     *
一応のバランスのとれたところで、プレーヤーを、P3から、別項のマイクロSX8000とSMEの新型3012Rの組合せに代えてみた。これで、アッと驚くような音が得られた。が、そのことはSMEの報告記のほうを併せてご参照頂くことにしよう。
     *
58号の新製品紹介のページには、SMEの3012-Rも登場している。
さっそく読む。
     *
 音が鳴った瞬間の我々一同の顔つきといったらなかった。この欄担当のS君、野次馬として覗きにきていたM君、それに私、三人が、ものをいわずにまず唖然として互いの顔を見合わせた。あまりにも良い音が鳴ってきたからである。
 えもいわれぬ良い雰囲気が漂いはじめる。テストしている、という気分は、あっという間に忘れ去ってゆく。音のひと粒ひと粒が、生きて、聴き手をグンととらえる。といっても、よくある鮮度鮮度したような、いかにも音の粒立ちがいいぞ、とこけおどかすような、あるいは、いかにも音がたくさん、そして前に出てくるぞ、式のきょうび流行りのおしつけがましい下品な音は正反対。キャラキャラと安っぽい音ではなく、しっとり落ちついて、音の支えがしっかりしていて、十分に腰の坐った、案外太い感じの、といって決して図太いのではなく音の実在感の豊かな、混然と溶け合いながら音のひとつひとつの姿が確かに、悠然と姿を現わしてくる、という印象の音がする。しかも、国産のアーム一般のイメージに対して、出てくる音が何となくバタくさいというのは、アンプやスピーカーならわからないでもないが、アームでそういう差が出るのは、どういう理由なのだろうか。むろん、ステンレスまがいの音など少しもしないし、弦楽器の木質の音が確かに聴こえる。ボウイングが手にとるように、ありありと見えてくるようだ。ヴァイオリンの音が、JBLでもこんなに良く鳴るのか、と驚かされる。ということきは、JBLにそういう可能性があったということにもなる。
 S君の提案で、カートリッジを代えてみる。デンオンDL303。あの音が細くなりすぎずほどよい肉付きで鳴ってくる。それならと、こんどはオルトフォンSPUをとりつける。MC30とDL303は、オーディオクラフトのAS4PLヘッドシェルにとりつけてあった。SPUは、オリジナルのGシェルだ。我々一同は、もう十分に楽しくなって、すっかり興に乗っている。次から次と、ほとんど無差別に、誰かがレコードを探し出しては私に渡す。クラシック、ジャズ、フュージョン、録音の新旧にかかわりなく……。
 どのレコードも、実にうまいこと鳴ってくれる。嬉しくなってくる。酒の出てこないのが口惜しいくらい、テストという雰囲気ではなくなっている。ペギー・リーとジョージ・シアリングの1959年のライヴ(ビューティ・アンド・ザ・ビート)が、こんなにたっぷりと、豊かに鳴るのがふしぎに思われてくる。レコードの途中で思わず私が「おい、これがレヴィンソンのアンプの音だと思えるか!」と叫ぶ。レヴィンソンといい、JBLといい、こんなに暖かく豊かでリッチな面を持っていたことを、SMEとマイクロの組合せが教えてくれたことになる。
     *
これを読み、私の目標はまた変更になった。
4345とSMEの3012-R。
このふたつがあれば、スピーカーは一本(1ペア)ですむかもしれない、と。

4343とPM510(スピーカーとスピーカー)が、4345と3012-R(スピーカーとトーンアーム)へと変っていく。
けれど、また半年後のステレオサウンド 60号で迷うことになる。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その11)

そうなると気になってくることがあった。
ステレオサウンド 54号の瀬川先生の4343Bの試聴記の最後にある。
     *
音量を絞り込んだときの音像のクリアネスでは、旧型がわずかによいのではないか。
     *
これが気になってきた。
54号を読んだときにすでに、すこし気になっていたけれど、
それはBタイプの「ふっくら」と引き替えに、ということで納得できていた。

けれどPM510と4343という、一体いつになったら実現できるのかわからないことを夢想しはじめると、
フェライトの4343Bよりもアルニコの4343こそが、私にとって、ということ以上に、
PM510といっしょに使うスピーカーとして、
音量を絞り込んだときの音像のクリアネスのよさは、よりよいのではないか、と。

アマにこの4343はなくなってしまう。買えないわけだ。
だからウーファーの2231Aとミッドバスの2121だけでも、なんとか買っておこうか、と考えたこともある。

4343と4343Bの違いは、ウーファーとミッドバスだけの違いであり、
エンクロージュアもネットワークも同じである。
正確にはレベルコントロールの表示が4343BではdB表示に変更されている。

とにかく数年後に4343Bをなんとか手に入れるとして、
そのときにウーファーとミッドバスをアルニコのユニットに換装する。
そうすれば新品のアルニコの4343を手に入れたのと同じになる。

これも高校生の私には実現できなかったプランである。
こんなことを夢想しながら、あのころはステレオサウンドを読んでいた。

Date: 11月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その10)

4343と4343B。
ステレオサウンド 54号の記事を読みながら、目標は4343Bへと変っていった。
いますぐ買えるのであればどちらにするのかはわからないけれど、
早くても数年後であれば、4343Bということになる。

けれど半年後のステレオサウンド 56号。
ここにロジャースのPM510が登場している。
瀬川先生が書かれている、その記事を読んでいて、
やっぱり4343Bではなく4343かも……、と思いはじめていた。

PM510という新製品は、このスピーカーに惚れたということだけではなかった。

瀬川先生はKEFのLS5/1A、それにJBLの4341の両方を鳴らされていた。
4341は4343になり、最後は4345になっている。

私も……、と当時思っていた。
LS5/1Aは入手できない。
そんなところにPM510が出て来た。

PM510と4343。
実はこれが目標であった。

瀬川先生のPM510の試聴記を読めば、ここにも「ふっくら」とした魅力があることが伝わってくる。

同じ「ふっくら」でもPM510と4343Bのそれとでは同じではないことはわかっている。
わかっていても、PM510も目標となると、
そしてPM510と4343の両方を鳴らすのであれば、4343Bよりも4343のほうが、
両者の個性が際立つのではないか、そんなことを想像していた。

どちらもすぐには買えないのに、だ。

Date: 11月 11th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その9)

JBLのユニットが、まずコーン型ユニットからアルニコからフェライトに変更されはじめたのは1980年。
この時4343BWXは一本610000円。
1976年に登場した時の730000円よりは円高のおかげで安くなっていたとはいえ、
スピーカーは二本買わなければならないから、100万円をこえる金額は、
まだ高校生だった私には、どうこうできる金額ではなかった。

4343を買おうとは決めていた。
決めていたけれど、それはあくまでも数年後。
いまアルニコからフェライトの4343Bになるのはしかたないけれど、
もし4343Bよりもアルニコの4343の方がいい、ということになったら、
数年後にはアルニコの4343が新品では手に入らなくなる。

数年後に買える4343はフェライトの4343Bでしかないわけだから、
4343と4343Bの音の違いは、ほかのどんな新製品よりも気になっていた。

ステレオサウンド 54号での特集では、黒田先生、すかの先生、瀬川先生の試聴記が、
新製品紹介のページでは、井上先生、山中先生の対談が、
つまり五人の評価が読めた。

新製品紹介のページでは、先ず山中先生が、中低域のレベルが聴感上で豊かになっている、と指摘されている。
このことは瀬川先生も指摘されている。
     *
ミッドバスの領域では明らかに改善の効果が聴きとれ、歪が減ってすっきりと滑らかで透明感が増して、音像の輪郭がいっそうクリアーになったと思う。
     *
そのこともあって、4343Bの方が、旧型よりも「音のつながりがなめらかだし、ふっくらしている」とある。
同じことを黒田先生も試聴記に書かれている。
     *
旧タイプの音に多少のつめたさを感じていた人は、このスピーカーの音の、旧タイプのそれに比べればあきらかにふっくらとした音にひかれるにちがいない。旧タイプとの一対一比較で試聴したが、その結果、旧タイプの音にいささかの暗さがあったということを認めざるをえなくなる。
     *
ここにも「ふっくら」という表現が出ている。
これらを何度も読みなおして、少しほっとしたことを憶えている。

Date: 11月 9th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その8)

改良型の新製品として、私にとって最初に気になったのは、AU-D907Fだった。
何度か書いているようにAU-D907 Limitedを買っていた。

AU-D907FはAU-D907の改良型にあたる。
AU-D907 Limitedの直接の改良型とはいえないけれど、
AU-D907 LimitedはAU-D907がベースになっているのだから、どうしても気になる。

どちらが上なのか。
そんなことを思いながらオーディオ雑誌を、高校生のころは読んでいた。
ただ製品のもつ重みということではAU-D907 Limitedてのだが、
最新技術のスーパーフィードフォワードがなんとかAU-D907 Limitedに搭載できないものか、と、
サンスイに手紙(いまならメールだろうが)を書いたこともある。

返事が来るとは思っていなかった。
でもある日、丁寧な文面の手紙が届いた。
この手紙ですっぱりとAU-D907Fのことは気にならなくなった。

改良型の新製品が気になったのは、他にもある。
いちばん気になったのは4343Bであり、4345、4344だった。

4343を使っていたわけではない。
それでも非常に気になっていた。

ミッドバス(2121)とウーファー(2231A)がフェライトマグネットの2121Hと2231Hに変更された4343B。
ステレオサウンドには54号の特集と新製品紹介ページの両方に登場している。

なぜ所有していないオーディオ機器の改良型が気になったのか。
それは買えなかったからであり、目標でもあったからだ。

Date: 6月 20th, 2014
Cate: 新製品

新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その4)

ステレオサウンド 49号に「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」という記事があり、
グレースのF8シリーズとフィデリティ・リサーチのFR1シリーズがとりあげられている。
記事は井上先生と菅野先生の対談による。

グレース(品川無線)の創設者は朝倉昭氏、フィデリティ・リサーチの創設者は池田勇氏、
記事はF8シリーズ、FR1シリーズについて語られているともいえるし、
朝倉氏、池田氏について語られているともいえる内容だ。

この記事を読めば、池田勇氏がどういう人なのか、おぼろげながら掴める。

ボザークについての、井上先生の発言がある。
     *
赤坂の事務所に物すごい箱に入ったボザークがあって、あの重たいボザークが絶妙に鳴っていた。いま考えてみると、スピーカーとカートリッジが相補い合って絶妙な音を出していたんだけれど、それはすばらしい音だった。
     *
このとき井上先生が聴かれたのはFR1EとヘッドアンプのFTR2ということなので、
おそらく1965年ごろのことである。
フィデリティ・リサーチは、最初赤坂にあり、その後東中野に移っている。

菅野先生はFR1の音について、こう語られている。
     *
ぼくがFR1で最初に聴いたレコードはフルートだったんです。フルートの高調波が吹く息と渾然一体となって打ち震えるがごとき音を聴いた時、空白広告で期待したものにさらに輪をかけて強烈な印象を受けましたね。
     *
空白広告とはフィデリティ・リサーチの創立時のオーディオ雑誌への広告のことである。
何を発売するのかはふせたままの広告だった、ときいている。

フィデリティ・リサーチの創業は1964年なので、私は空白広告は見たことはないが、
その後の私が見てきたフィデリティ・リサーチの広告も、空白の多いものであった。

Date: 6月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その3)

ステレオサウンドで働くようになって、まもなくのことだった。
なにかのきっかけでフィデリティ・リサーチが話題になった。

どなたにきいたのかをもう忘れてしまったが、
FR1とFR7の音があれだけ違うのは、発電構造が違うだけではない、と話された。

フィデリティ・リサーチの創立者の池田勇氏のスピーカーが変ったからだ、と教えてくれた。

それまでのスピーカーがボザークだったのは、何かで読んで知っていた。
ボザークのスピーカーは、私がいたころはステレオサウンドの試聴室で鳴らされることは一度もなかった。
ほとんど聴く機会のなかったスピーカーだが、わずかに聴いた印象と、
ボザークに関する記事、それに井上先生のスピーカーだということから、
だいたいのイメージはできあがっていたし、それは大きく外れてはいなかったはずだ。

私のなかでのボザークの音、
これにFR1の音はうまく相補うような気がする。
もしこれから先ボザークのスピーカーを聴く機会が訪れるとしたら、
なんとかしてFR1を探してきて、それで鳴らしてみたい。

ボザークから何に替ったのは、なぜか失念してしまった。
FR1からFR7への音の変りようからすれば、ボザークとは傾向の違うスピーカーであることは確かだ。

もし池田勇氏のスピーカーがボザークのままだったら、
FR7の音も違ってきた可能性はあるのではないか。

Date: 6月 15th, 2014
Cate: 新製品

新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その2)

FR7はなぜシェル一体型なのか。
それまでのフィデリティ・リサーチのカートリッジにシェル一体型はなかった。

FR7の構造図をみれば、すぐに理解できる。
シェル一体型でなければ実現できない構造である。

ステレオサウンド 47号の新製品紹介のページにFR7は登場した。
記事は井上先生が書かれている。
その他に井上先生と山中先生が、このカートリッジについて語られている。
このふたつを読めば、FR7がどういうカートリッジなのかは伝わってくる。

そして構造図が掲載されていた。
通常のMC型カートリッジはマグネットはひとつだけである。
FR7はふたつのマグネットを持つ。
そのためどうしてもカートリッジの横幅が通常の、マグネットがひとつのタイプよりも増すことになる。

井上先生は、FR7の発電方式をプッシュプルと紹介されていた。

FR7の音が、それまでのフィデリティ・リサーチのカートリッジとはずいぶん違ってきていることは、
47号の特集ベストバイでの評価を読んでもわかった。

それにしても、どうしてこうも変ったのだろうか、ともそのとき思っていた。

Date: 6月 14th, 2014
Cate: 新製品

新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その1)

私のフィデリティ・リサーチについてのイメージは、
ステレオサウンド 43号の瀬川先生の文章で、でき上がった。
     *
この独特の音質をなんと形容したらいいのだろうか。たとえばシンフォニーのトゥッティでも、2g以上の針圧をかけるかぎり、粗野な音や荒々しい歪っぽい音を全くといっていいほど出さないで、あくまでもやさしく繊細に鳴らす。油絵よりも淡彩のさらりとした味わいだが、この音は一度耳にしたら好き嫌いを別として忘れられない。出力がきわめて低いので、良質なトランスかヘッドアンプを組み合わせることが必要条件。
     *
オルトフォンのSPU、EMTのTSD15、それにデンオンのDL103といったMC型カートリッジが、
発電コイルの巻き枠に磁性体を使用したタイプに対し、
フィデリティ・リサーチのFR1は空芯コイルのMC型だった。

鉄芯と空芯。
このふたつの言葉がイメージする音が、そのままフィデリティ・リサーチのFR1と重なっていた。
といってもFR1の音を、このとき聴いたことがあったわけではない。

フィデリティ・リサーチはおもしろい会社で、
FR1のあとに、FR1E、FR1MK2、FR1MK3と出しているけれど、
1978年ごろはすべて現行機種てあった。

型番末尾にMK2、MK3とついているわけだから、改良型であることに違いない。
ふつう改良型が出るときに以前のモデルは製造中止になるのに、フィデリティ・リサーチは違っていた。

オーディオに興味をもちはじめたばかりのころは、これが不思議でならなかった。
そのフィデリティ・リサーチが、1978年に新製品を出した。
FR1MK4ではなく、FR7という、シェル一体型の、
それまでのフィデリティ・リサーチの製品とは趣の異るカートリッジだった。

Date: 6月 13th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その7)

改良型としての新製品でもっとも気になるのは、
いま自分が使っているモデルの改良型が新製品として登場してくることである。

最初はベタボレして買ったオーディオ機器でも、何年か使っていると、
いいところもそうでないところもはっきりとしてくる。
そのオーディオ機器を使っている何年かの間に、自分の部屋以外では音を聴かないということはまずない。
オーディオショウ、オーディオ販売店にでかけたり、
オーディオ仲間のリスニングルームを訪問をしたりして、いくつもの音を聴いていく。

そうやって聴いた音の中には、自分のシステムが不得手とするところをうまく鳴らしていることもある。
そういう音を一度でも耳にすれば、よけいに自分のシステムの不得手なところがはっきりとしてくる。

そんなときに、タイミングよく、いま使っているスピーカーもしくはアンプの改良型の新製品が出た。
これは気になる。
気に入っているところはそのまま残していて、
気になっているところがなくなってくれれば、それがいちばんありがたい。

改良型の新製品が、いまは懐の事情で買えないとしても、
改良型の新製品が、元のモデルとどこがどう違っているのか。
細部をよく観察していくことで、得られるものはきっとある。

Date: 3月 6th, 2014
Cate: 新製品

新製品(その6)

新製品といっても、大きく分ければふたつある。
ひとつは、いわゆる新製品である。
それまでなかった製品が、あるメーカーから発売になる。
もしくは新顔のメーカーのデビュー作も、この新製品である。

もうひとつは評判の高いオーディオ機器の改良モデルといえる新製品である。
こういう新製品は、型番の末尾にMK2とついたり、アルファベットがつけられたりして、
基本となった製品との区別がつくようになっている。

同じ新製品であっても、まったくの新製品に対して、いったいどういうモノだろうという期待がある。
既存のメーカーのそういった新製品であれば、ある程度の予測ができないわけではないが、
まったくの新ブランドの新製品となると、そういう期待はふくらむ。

改良型としての新製品に対しては、
以前の製品とどう変ったのかについての興味の方が強くなる。
それはこういった製品の記事を読む側にとっても、そのはずだ。

以前のモデルと技術的にどう違って(進歩して)いるのか、
デザインの変更はあるのか、
そしていちばん肝心なことは音がどう変ったのか、である。

改良型が出るモデルは、少なくとも一定の評価を得ているモデルである。
まったく不評だったモデルの改良型を出すようなことは、メーカーはまずやらない。