新製品(TANNOY Legacy Series・その1)
私がオーディオの世界に入った1976年は、
タンノイからArden、Berkeley、Cheviot、Devon、Eatonが登場した。
いわゆるABCシリーズ、アルファベットシリーズと呼ばれるスピーカー五機種である。
すべてイギリスの地名からとられている。
Arden、Berkeleyが15インチのHPD385A、
Cheviot、Devonが12インチのHPD315A、
Eatonが10インチのHPD295Aを搭載していた。
当時の価格はArdenが220,000円、Berkeleyが180,000円、Cheviotが140,000円、
Devonが120,000円、Eatonが80,000円(いずれも一本の価格)。
タンノイのスピーカーとしては求めやすくなっていたこともあり、
けっこう数が売れたときいている。
売れたからこそ、中古市場にもモノがあるわけだ。
この時代のタンノイはハーマンインターナショナル傘下だった。
口の悪い人は、タンノイの暗黒時代ともいう。
けれど、ハーマンインターナショナル傘下に入っていなければ、
1974年に工場の火災という危機を迎えていたのだから、どうなっていたのかはわからない。
瀬川先生は、このシリーズはよく出来ている、といわれていた。
ステレオサウンド 41号では、次のように書かれている。
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新シリーズはニックネームの頭文字をAからEまで揃えたことに現れるように、明確なひとつの個性で統一されて、旧作のような出来不出来が少ない。そのことは結局、このシリーズを企画しプロデュースした人間の耳と腕の確かさを思わせる。媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている。
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私が聴いたのはArdenとEatonだけである。
あとの三機種も揃えて聴いてみたかった、と思うけれど、その機会はなかった。
瀬川先生は、このシリーズのネーミングもうまい、といわれていた。
アーデン、バークレイ、チェビオット、デボン、イートン、
それぞれの語感から受ける印象と音の印象は近い、そうだ。
確かにアーデンは、悠揚たる味わいがあった。
このABCシリーズを、タンノイがもう一度やる。
五機種ではなく、Arden、Cheviot、Eatonの三機種で、Legacy Seriesと名づけられている。
すでにタンノイはハーマンインターナショナル傘下から離れているけれど、
その時代を代表するスピーカーを、Legacyと呼ぶのか、と感慨深いものがないわけではない。