Archive for category スピーカーとのつきあい

Date: 7月 24th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スピーカーとのつきあい(その2)

その1)で、スピーカーを友と書いた。
別項で「スピーカーシステムという組合せ」を書いている。

このことと、スピーカーを友とするのは関係している。
少なくとも私のなかでは。

オーディオというシステムは、
単体のオーディオ機器だけでは音を出せない。

これまでくり返し書いているように、
それにオーディオ雑誌にも昔から書かれているように、
プレーヤー(アナログもしくはデジタル)、
アンプ、スピーカーシステム、
最低でもこれだけのモノが揃わなければ、音は出せない。

どんなに優れた性能のアンプであっても、
それ一台だけでは、音は聴けない。

スピーカーを接ぎ、
入力になんらかの信号が加わらなければ、スピーカーから音は鳴ってこない。

つまりオーディオはコンポーネント(組合せ)の世界である。
このことが、私に、オーディオは道具でなく、意識である、と考えさせている。

オーディオ機器を道具として捉えるよりも、
意識として捉えている。
このことは、以前「続・ちいさな結論(その1)」、「使いこなしのこと(その33)」でも書いている。

オーディオ機器は確かに道具である側面をもつ。
けれど、それだけにとどまらず、組合せにおいて、
というよりも組合せそのものが、鳴らし手の意識である、と認識をもつようになった。

Date: 7月 15th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その14)

ST350トゥイーターを搭載したInterface:Dは、
ティール&スモール理論によって設計された、
少なくともコンシューマー用スピーカーシステムとしては最初のモデルのひとつである。

いつのころからかスピーカーのカタログにはTSパラメーターが記載されるようになった。

ティール&スモール(Thiele & Small)理論なるものを、
私が初めて目にしたのは、ステレオサウンド 49号(1978年12月発売)でだった。

巻末近くに、特別インタビューとして、
チャートウェルのデビッド・ステビング、エレクトロボイスのジム・ロング、
タンノイのリビングストンが登場している。

エレクトロボイスのジム・ロングが語っている。
     *
 そこて、インターフェースシリーズのことについてですが、このシリーズはオーストラリアのティール博士の理論に基づいてウーファーを作ったことがセールスポイントになっています。ティール理論というのは、一九六二年にオーストラリアで発表されたもので、雑誌に発表されました。アメリカで出版物に紹介されたのは一九七一年のことです。その時に技術部長のニューマンのところへ出版物が送付されてきたのです。彼はその記事を読み、大いに引きつけられて、あくる日に私のところにこの本を持ってきたわけです。しかし、そのときは私は今までのバスレフ理論とそれほど違うようには思えなかったので、たいして気にもとめなかったのですが、ニューマンと話し合っているうちにその素晴らしさがわかってきたのです。しかも、エンクロージュアの小型化と低音再生能力、能率の向上という相反する条件が満たされるというので、これは素晴らしいセールスポイントになると思い、採用すべきだと主張したわけです。しかし、JBLやアルテック、ARはこの記事に関して興味を示しませんでした。それはおそらく、他のメーカーはすでに成功していたからだと思います。EV社は新しいモデルについて思案している時でしたので、条件的にも受け入れやすかったこともあり、タイムリーだったと思いますね。ですから、それまで考えていたプロトタイプを中止してまで、このティール理論のバスレフ型を採用することにしたわけです。
     *
Interface:Dは3ウェイバスレフ型である。
バスレフ型なのはウーファー(底板に取り付けられている)だけでなく、
350Hz以上を受け持つスコーカー(13cmコーン型)もバスレフ型であり、
もちろんティール&スモール理論によって設計されている。

Date: 7月 8th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その13)

定指向性ホーン(Constant-Directivity Horn)は、
エレクトロボイスに在籍していたドン・キール(Don Broadus Keele, Jr)によって開発されたことを知ったのは、
いつだったかは正確に憶えていないが1980年代に入ってからだった。

1974年に開発していた、とのこと。
1975年に特許申請して、1978年に特許取得している。
公告番号US4071112 Aである。

どうしても輸入元を通じて日本市場に紹介される製品のみを見がちになる。
そのころのエレクトロボイスのホーンで、
定指向性を謳ったモノは、日本のコンシューマー市場にはなかった。
だからアルテックのマンタレーホーンが、定指向性ホーンの走りだと認識してしまった。

定指向性ホーンは1974年には開発されていた。
そのころ、すでにSentry IVAはあった。
トゥイーターはST350がついている。

このころST350はラジアルホーンということになっていた。
ST350の開発者が誰なのかはわからない。
ドン・キールなのだろうか。
ドン・キールは1972年から’76年までエレクトロボイスに在籍していた。

ドン・キールは、その後(1977年)にJBLに移っている。
JBLのバイラジアルホーンはドン・キールによる開発で、
1980年に特許申請され、1982年に特許取得している。
公告番号US4308932 Aである。
検索すればPDFがダウンロードできる。

ドン・キールは1984年までJBLに在籍していた。
ということは4430、4435に搭載されているバイラジアルホーン2344は、
彼の設計によるものなのだろうか。

4430、4435の設計責任者は、デヴィッド・スミスというエンジニアだが、
彼が2344まで設計しているとは限らない。

エレクトロボイスのトゥイーターST350の形状と2344の形状、
アルテックのマンタレーホーンからJBLのバイラジアルホーンへの形状の変化、
それらを考え合わせると、2344はドン・キールの手によるモノと思えてくる。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その9・補足)

(その9)でA4の上にマンタレーホーンを……、と書いた。
別項を書くためにステレオサウンド 60号を開いていたら、エレクトリの広告に気づいた。

そこにマンタレーホーンをのせたA4の写真があった。
これは見ていた。
にも関わらず、すっかり忘れてしまっていた。

今回改めて見て気づいたのは、
マンタレーホーンの開口部の大きさは、
210エンクロージュアに合せたのかもしれない、ということだ。

A4は210エンクロージュアの両サイドにウイング(サブバッフル)を取り付けたかっこうのモノだ。
A2は210二基にウイングをつけた、さらに大がかりなシステム。

210エンクロージュアはフロントショートホーン付きで、
210の横幅とマンタレーホーンの横幅が、
エレクトリの広告を見るかぎりではぴったり一致している。

ということは、マンタレーホーンはもともと210クラスのエンクロージュアとの組合せを前提していたのか。
ますますマンタレーホーン搭載のA4の音に関心が涌いてきた。

Date: 6月 28th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スピーカーとのつきあい(その1)

10代から20代のころまでは、よくスピーカーを擬人化して捉えていた。
この捉え方がいいのか悪いかは別にして、スピーカーにはそういう捉え方ができる面をもつ。

オーディオ機器は、家庭で音楽を聴くための道具だ、という捉え方をすれば、
スピーカーシステムも、家庭で音楽を聴くための道具だ、ということになる。

道具であれば、優れたモノがいい。

スピーカーは、果して道具なのだろうか。
完全にそのことを否定はしないけれども、
オーディオ機器、その中でもスピーカーシステムは、
家庭で音楽を聴くうえで欠かせない友、という捉え方もできる。

スピーカーを友として捉えれば、
他と比較することの無意味さ、愚かさに気づく。

オレの友だちは、アイツの友人よりも優れている(劣っている)──、
そんなことをいう人はいるだろうか。

友だちの顔を、ひとり思い浮べてほしい。
その友だちよりも、もっといい友だちがいるんじゃないか、とか、
その友だちを、家柄、学歴、職業、収入などで判断してつきあっているのかどうか──、
そんなことはないはずだ。

友だちは友だちである。
いつしかそういう仲になっていた。
そこには学歴とか職業とか、そんなことは関係なかった。

スピーカーもそうだろう。

Date: 6月 26th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その12)

2344は発売になったけれど、
2344と同形状のホーン型トゥイーターはすぐには登場しなかった。

JBL PROFESSIONALには、4300シリーズ、4400シリーズの他に4600シリーズもあった。
SR用としてキャバレーシリーズとも呼ばれていた。

1983年に4612というモデルが登場した。
20cm口径ウーファー二発に、ホーン型トゥイーターを搭載した可搬型モニターで、
この4612のトゥイーターが、2404Hである。

2344を小型にしたトゥイーターで型番も与えられていたにも関わらず、
1983年の時点では2404Hは、すぐには販売されなかったようだ。

STEREO GUIDEの1983年度版に4612は掲載されているが、
2404Hは載っていない。
2402H、2405H、2403Hしか掲載されていない。

4435、4430の登場からやや遅れて、より小型のバイラジアルホーン型トゥイーターの登場である。
2404Hの外形寸法は一辺が13cmである。

CDのプラスチックケースとほぼ同じ寸法で出てきた。
これも単なる偶然なのだろうが、バイラジアルホーンはCDホーンなだけに、
2344と2404をならべると、LPのジャケット、 CDのケースの比較になる。

2404Hが登場して、あることに気づいた。
4435が登場した時に気づくべきだったことだが、
2404Hまでサイズが小さくなったことで気づいたのは、
エレクトロボイスのスピーカーシステムに搭載されていたホーン型トゥイーターに近い、ということだ。

1970年代後半から80年ごろにかけてのエレクトロボイスのスピーカーシステム、
Interface:D、Sentry IVB、Sentry Vのトゥイーター(ST350)と2404、
横向きか縦向きの違いはあるが、実によく似ている。

Date: 6月 25th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その11)

4435、4430搭載のバイラジアルホーンには、登場したばかりのころは、
ホーン単体の型番はなかった。

通常JBLのスピーカーシステムのカタログには使用ユニットの型番が明記されている。
けれど4435、4430にはウーファーとドライバーに関してはあっても、ホーンはなかった。

4435搭載のバイラジアルホーンは、単体で発売されないのか、と思いつつも、
JBLの新型ホーンをみて、私は4343のこのホーンで置き換えたら……、
そんなことを考えてはヘタなスケッチを何枚か描いていた。

2405もそのままではなくは、バイラジアルホーンのより小型なモノを勝手に想像して、
上二つのユニットをバイラジアルホーンにした4343は、
どんな音がするのだろうか、と、4435、4430の音を聴いてもいないのに想像していた。

4343は、その後4344になり、4344MKIIになる。
中高域のホーンはスラントプレート型音響レンズつきは継承したまま、
2405の採用も変更はなかった。

4435搭載のホーンは、一、二年後に型番がついて単体で買えるようになった。
2344という型番は、4400シリーズに搭載されていたからだろう。

4435、4430を見た時から気になっていることがあった。
ホーンの開口部のサイズである。
ウーファーは15インチだから、そこから推測するに一辺が12インチくらいに見える。

2344が登場して、やっと外形寸法もわかった。
一辺は31.8cmだった。

レコードジャケットとほぼ同じ大きさである。

ホーンの大きさはカットオフ周波数などで決ってくるわけで、
レコードジャケットと同じサイズを目差して設計されたものではないのはわかっていても、
CD登場の前年に、別の意味をもつCDホーン(Constant-Directivity Horn)の2344が、
LPのジャケットと同寸法といえるサイズなのは、どこか意図的な感じがしてならない。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その10)

ステレオサウンド 61号「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」に、
JBLのスタジオモニターの新製品が登場した。

スタジオモニターといっても、4300シリーズではなく、4400シリーズ。
4320の2ウェイから4343、4350の4ウェイへと発展してきた4300シリーズから一転して、
2ウェイのスタジオモニターが4400シリーズである。

2ウェイであることが4400シリーズの特徴ではなく、
だれもが初めて目にする特異な形状の新型ホーンこそが、
4400シリーズの特徴である。

最初4435の写真をみて、また新しいホーンの登場なのか、と早とちりした。
菅野先生による4430、4350の記事の冒頭には、バイラジアルホーンとある。

58号の「ユニット研究」に登場した2360と同じバイラジアルホーンなのである。
そのことに気づいてみても、すぐには同じ理論のホーンとはすぐには理解できなかった。

まずあまりにも大きさが違いすぎる。
4435のクロスオーバー周波数は1kHz。
2360の推奨クロスオーバー周波数は500Hzとはいえ、あまりにも開口部の大きさも、
いちばん気になる奥行きの長さも違う。

4435に搭載されているバイラジアルホーンは、ショートホーンである。
そのかわりというか、半球状の凸部を縦に二分割して左右に振り分け──、
といっても分割面が近接しているのではなく、分割面がホーンの両サイドにくる。

臀部のように見えなくもない、このホーンをよく見ると、
縦に長いスリットがあり、そこから急に開口部がひろがっていることに気づく。

確かにアルテックのマンタレーホーン、JBLの2360に共通するかたちである。

マンタレーホーンは1978年に、2360は1980年のオーディオフェアに登場している。
登場したばかりの定指向性ホーンが、1981年には4400シリーズに搭載されるまでになっている。

定指向性ホーンの理論はそのままであるはずなのに、
そこから導き出されたかたちは、わずかのあいだに変化した。

そしてJBLが、本気でバイラジアルホーンに取り組んでいることを感じていた。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その9)

ステレオサウンド 60号を読んでいて、ふと思ったのは、
A4のホーン(マルチセルラホーンの1005Bをマンタレーホーンに換えてみたら……、だ。

マンタレーホーンMR94の大きさを見ていると、
817Aでもバランス的に不釣合いのように感じることがある。

MR94ホーンをA4のホーンにしたら……。
A4のエンクロージュア210は高さ213cmある。
この上にMR94がくると3m近くなる。

通常の部屋ではなんとか収まったとしても、いい結果は期待し難い。
でも60高ではステレオサウンド創刊15周年ということで、
いつものステレオサウンド試聴室から外に飛び出して、
1920年代に建てられた旧宮家邸(90㎡)を試聴室としている。

天井高も210エンクロージュアの上にMR94を置いても、まだ余裕がある。
こういうところでないと試せない組合せである。

アルテックのMR94もJBLの2360も、聴いたことはないけれど、
どちらもダブルウーファーでも、817Aは縦に二発、210は横に二発、
フロントショートホーンの大きさも210の方が大きい。
なんとなくだが、横二発の方がMR94には合うのではないだろうか。

210の奥行きは100cmあるから、MR94+288-16Kの設置も817Aよりも楽であり、
ウーファーとドライバーの音源位置合せも210のほうが容易に行える。

MR94搭載のA4の音を聴く機会は、まずないだろうが、
817Aよりも、いい結果は期待できる、と信じている。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その8)

ステレオサウンド 60号では、アルテックのスピーカーシステムは、
A4、A5F、それにMANTARAY Systemの三機種が取り上げられている。

49号の新製品紹介のMANTARAY Systemと60号のMANTARAY Systemは基本的には同じである。
マンタレーホーンはMR94、エンクロージュアは817Aなのだが、
ユニットが49号時点ではアルニコマグネットの515B、288-16Gだったのが、
フェライトマグネットの515E、288-16Kに変更になっている。

ユニット構成に関しては、A4、A5Fも同じである。
A4とMANTARAY Systemは、515Eをダブルで使用している点でも同じで、
A4とMANTARAY Systemの違いはホーンとエンクロージュアということになる。
ネットワークはA4もMANTARAY Systemも、N500FAで同じ。

60号の特集は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹の四氏による試聴と座談会で構成されている。
MANTARAY Systemに関しては、四氏とも、高評価とはいえないところがある。

ここでは菅野先生の発言を引用しておく。
     *
菅野 理屈をこねると、これはやっぱり、トラディショナルなテクノロジーとニューテクノロジーの葛藤から生れた産物だという感じがしますね。
 まずセクトラル・ホーンというのは歪が多い、ということを、このマンタレー・ホーンの設計者が言っています。それから指向性はぜったいにもっとよくしなきゃいけないとも言っています。
 これは、まったくアルテックの伝統を知らない技術者ですね。だから、あたらしいヤング・ジェネレーションの技術者としての立場があって、古いものはひとつの勉強として学んで、それでその上に立って、自分たちで改良しようと、こういうかたちでつくったものだ、と思うんです。事実、そうなんですが……。
 だから、そこにどうしても、新しい技術と、古い伝統的な技術と──古いものをぜんぶ捨てちゃって新しくつくってるなら、まだいいのですが──その二つのあいだに、いろんな葛藤がある。
 それがぜんたいの音として、すくなくとも、まとまりとか完成度とか、さっきから言っているようなアルテック独特の、あの充実した音のまとまりという点ではたしかにくずれているかもしれませんね。
 ただ、これは、これからのアルテックの次のジェネレーションの発展へのひとつの転機になるものだと思うんです。技術的にも非常に興味があります。
 ただ、ここで聴いたかぎりの音では、やっぱり、瀬川さんが言われたように抑制がききすぎています。ほかの二つとくらべてみると、音がとにかく生き生きとしていません、朗々としていませんね。どこか、もうひとつ欲求不満が起きるような鳴り方ですね。その意味で、これは未完成なんだと思います。
 それから、このエンクロージュアは817ですね。A5なんかの828のうえにマンタレー・ホーンをのせて、すごくせまい部屋で、いい音を聴いたことがあるんですよ。8畳ぐらいだったかな。だから、その組合せでも聴いてみたかったな、という気がします。要するに、上と下のつながりがもうひとつしっくりこないんです。
     *
MANTARAY Systemの、上と下のつながりに関しては、
岡先生も《上下の音がバラバラなように》聴こえると指摘されている。

抑制に関しては、瀬川先生はアンプに喩えられている。
《アンプでいえば、特性を一生懸命によくしようとして、NFBをたっぷりかけちゃったみたいな、そういう音みたいな感じがする。ですからおとなしいですね。》
と発言されている。

上杉先生は、抑制がきいた音のため、
《〝聴いた〟という感じのあんまりしない音》と表現されている。

A5の上をマンタレーホーンに換えたオーディオマニアのことは、瀬川先生も話されている。
はっきりとしないが、たぶん同じであろう。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その7)

アルテックのマンタレーホーンMR94、MR64、
JBLのバイラジアルホーン2360、2365、2366は分割構造になっている。

これだけ奥行きの長いホーンだから分割構造にするのも当然とまず考えるが、
両社の定指向性ホーンに共通する形状からいえるのは、
スロートアダプターとホーンとが分割できる、とみたほうがいい。

JBLのバイラジアルホーンも縦に細長いスリットで音を絞り込んで、
急に広がる開口部のホーンという形状は、マンタレーホーンと共通だ。

ホーン部がアルテックは金属製で直線で構成されているのに対し、
バイラジアルホーンはFRP製で曲線で構成されているために、
マンタレーホーンに感じる、やや平面的な印象はなく、
むしろ光沢のある黒ということもあって、肉感的ともいえる。
スロートアダプターは、アルテック、JBLともに鋳鉄。

2360の音は、どうだったのか。
ステレオサウンド 58号の「ユニット研究」は園田隆史氏が書かれている。
最近のステレオサウンドにも園田隆史氏の名前をときどきみかけるが、
この「ユニット研究」の園田隆史氏とは別人である。
     *
 音の印象は、2350ラジアルホーンのシステムと比べると、構造、材質の差がそのまま音に出たのか、かなりソフトな聴きやすいウォームトーンだった。しかし、柔らかい中にも微妙なニュアンスを十分再現してくれる音で、同じ075を使っていても、他のホーンよりいっそう繊細な高音が聴けた。いままで聴いてきたシステムの音がハード肌とすれば、これはとてもソフトな音で、E145の中低域の張りと2360の厚みがマッチして、ボリュウムたっぷりの中低域だ。
     *
園田隆史氏の2360の試聴は、別のシステムでも試されている。
ウーファーは同じE145だが、エンクロージュアがこのころ登場したばかりの4508になっている。

バスレフ型で15インチ・ウーファーを二発搭載できる4508エンクロージュアの上に、
2360ホーンの2ウェイシステムは、
4560エンクロージュアとの組合せよりも、視覚的に2360とよくマッチしている。
     *
 4560BKAのシステムの時同様、この組合せでも2360は、高域のレンジこそ広くないものの、ナチュラルな、透明で応答性の高い中高音を聴かせてくれた。ソフトで厚みのある中低域も魅力的だ。ホーンの開口部が大きいので、クロスオーバー(2441との組合せでは500Hzが指定)付近のレスポンスが安定していて、歪が少ないためだろう。また、音像がホーンに集中する傾向があり、ウーファーの帯域の音までが、あたかもホーンから出てくるように聴きとれた。ただし、よく聴き込んでいくと、ホーンの材質(FRP)による固有の振動が音に影響しているようだ。高域が多少不足気味なので、トゥイーターを追加してみたい気もする。
     *
「ユニット研究」は56号から始まっていて、
前号、前々号だけでなく、58号以降もあわせて読むことで、
2360という新しいホーンの性格は多少なりとも浮び上ってくる。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その6)

マンタレーホーンを使用したアルテックのシステム、
MANTARAY HORN + 817A Systemは、ステレオサウンド 49号の新製品紹介に登場している。
ただ音に関しては、あまり語られていなかった。
     *
以上の新機種にA5のユニットを、ネットワークを組み合わせた新システムは、A5に比べfレンジはやや狭い感じがあるが、より強力なサウンドサプライが可能だ。
     *
山中先生による記事の最後に、数行あるだけだった。
これだけではものたりないし、マンタレーホーンという、
いままでになかった形状のホーンについての真価も伝わってこなかった。

49号は1978年12月発売、58号は1981年3月発売だから、
定指向性ホーンの試聴記事がステレオサウンドに載るのに、二年以上経っていた。

58号の「ユニット研究」はカラーページだった。
そこに登場したJBLの定指向性ホーン(バイラジアルホーン)2360は、
やはりマンタレーホーンと同じくらいに大きなモノだった。
開口部が大きいだけでなく、奥に長いホーンである。

「ユニット研究」にも、
《この2360、とにかく大きくて長いホーンだ。エンクロージュアの上にセットするのに苦労した》
とある。

ここで使われているエンクロージュアはJBLのフロントショートホーン付きの4560である。
奥行き60.6cmの4560であっても、それ以上に長い2360なのだから、大変だったはずだ。

JBLのバイラジアルホーンは三機種出ていた。
2360、2365、2366である。
2360が、この中では指向特性が広い。
それに小型でもある(あくまでも2366と比較してのことだ)。

2360は水平93°、垂直46°、2365は水平66°、垂直46°、2366は水平47°、垂直27°。
気になるホーンのサイズだが、開口部は三機種とも79.5cmの正方形。
奥行きは2360と2365が81.5cm、2366が139.0cmとなっている。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その5)

コンプレッションドライバーの開口部の形状は、円。
一方ホーンの開口部は円もあれば四角もある。

円にも楕円があるし、四角にも縦横の寸法比はいろいろある。
つまりホーンの形状は、円から円、円から楕円、円から四角へと変化していく過程である。

アルテックのマンタレーホーンは、少し違う。
ドライバーは従来のものを使うから、その開口部は円。
マンタレーホーンの開口部は、正方形に近い四角形。
ドライバーからホーン奥行きの約半分までは、縦に細長いスリット状になっている。
スリットのあとは急に広がる。

従来のホーンしか見てこなかった目には、理解に苦しむ形状である。
それに当時はマンタレーホーンについての技術的な解説はなかった、といえる。
いまならば”Constant-Directivity Horn”で検索すれば、
英文ではあっても技術資料がすぐに読めるが、当時はそんな時代ではなかった。

ただただ従来のホーンとの形状の違いから想像・判断していた。

ドライバーから出た音を、縦に細長いスリットで絞り込むわけである。
これが、定指向性ホーンの大きな特徴なのであろうが、
当時の私は、ここまで絞り込む必要があるのだろうか、
ここまで絞り込んでいいものだろうか、という疑問もあったけれど、
マンタレーホーンが、従来のホーンでは無理だった音を聴かせてくれたら……、
という心配もしていた。

マンタレーホーンの音が素晴らしかった、としても、
奥行きが90cm近いものは、たとえ購入できたとしても、どうやって設置するのだろうか、
そんな心配もしていた。

マンタレーホーンがステレオサウンドの誌面に登場したのは、
60号特集「サウンド・オブ・アメリカ」だった。

その前に、JBLの定指向性ホーン(バイラジアルホーン)2360が、
58号「スピーカーユニット研究 JBL篇(その3)」に登場している。

Date: 6月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その4)

アルテックの単体のマンタレーホーンMR64とMR94は、1978年に登場している。
開口部は604-8Hのホーンよりも、さらに正方形に近くなっている。

MR94はカットオフ周波数500Hzで、外形寸法W86.4×H61.0×D71.1cm、
MR64g カットオフ周波数は500Hzだが、MR94が水平90°、垂直40°の指向性に対し、
水平60°、垂直40°ということで、横幅が71.1cmと、開口部はほぼ正方形といえる。

MR94とMR64を見て、最初に感じたのは従来のホーンよりもかなり大きく、
しかも奥行きが長い、ということだった。

どちらもマンタレーホーンもスロート径は1.5インチだから、ドライバーは288となる。
288は、アルニコの288-16Gもフェライトの288-16Kも奥行きは14.8cm。
つまりマンタレーホーンと288ドライバーの組合せは、奥行き85.9cmになる。

マンタレーホーンが登場したあとも、アルテックの従来のホーンは残っていた。
811B、511B、311-60、311-90、1501Bなどが現行製品だった。

マンタレーホーンはカットオフ周波数は500Hzで、推奨クロスオーバーは800Hzだった。
811Bが推奨クロスオーバーは800Hzの従来ホーン(セクトラルホーン)で、
こちらの外形寸法はW47.0×H22.0×D34.0cmで、スロート径は1インチだから806、802ドライバーを使う。

806の奥行きは8.4cm、802は9.7cm。
811Bとの組合せで、802を使っても奥行きは43.7cmと、
マンタレーホーンと288ドライバーの組合せのほぼ半分である。

ドライバーが違うのだから、音が同じなわけではないが、
単に800Hzから使えるホーン・ドライバーシステムとしての奥行きの長さをを比較すると、
定指向性ホーンは、従来ホーンとは大きく異る理論で設計されていることは、
当時高校生だった私にも容易に想像できた。

Date: 6月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その3)

アルテックの定指向性ホーン(マンタレーホーン)のことを知ったのは、
604-8Hを搭載した620B Monitorの登場によって、だった。

アルテックの同軸型ユニット604は、一貫してマルチセルラホーンを中高域に採用していた。
604-8Gになってウーファーのフレーム形状が変更になっても、
ホーンに関しては同じままだったのが、604-8Hで大きく変化した。

マルチセルラホーンでは、ひとつひとつのホーンの開口部は大きくない。
小さなホーンの集合体といえるマルチセルラホーンだから、
ホーンが大口を開けているという印象はない。

604-8H以降採用のマンタレーホーンは、ひとつのホーンである。
仕切り板も何もないから、開口部がそのまま大口を開けているようにも見える。

しかもホーンの開口部が、
それまでのマルチセルラホーンよりも大きくなっているから、なおさらだ。
それにマンタレーホーンの開口部はフラットである。
マルチセルラホーンでは両サイドの開口部は角度がついているから、
ユニット全体を斜めからみたとき、
マルチセルラホーンは立体的であり、マンタレーホーンは平面的でもある。

どちらが音がいいのか、ということではなく、
ユニットを眺めた時の印象がずいぶん違ってきたことに、
ホーンに新しい時代が訪れつつある気配を、多くの人が感じとっていただろう。

それに604-8Hはネットワークも、大きな変更が加えられている。
定指向性ホーンは、従来のホーンそのままのネットワークでは良さを活かせない面がある。
それに加えて、604-8Hでは2ウェイにも関わらず、3ウェイ的なレベルコントロールを可能にしている。

604-8Hから少し遅れて、単体のホーンとしてもマンタレー型が登場したことを知った。