スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その10)
「コンポーネントの世界」の座談会での試聴には、下記のスピーカーが登場している。
ボザーク B410 Moorish
アルテック A7-500
タンノイ Rectangular GRF
JBL 4320
ダイヤトーン 2S305
QUAD ESL
タンノイ IIILZ
アコースティックリサーチ AR3a
ビクター SX7
ヤマハ NS690
ダイヤトーン DS303
KEF Model 104
ブラウン L810
JBL L26
フェログラフ S1
「コンポーネントの世界」から引用したいところはいくつもあるが、
すべてを引用していると、脱線しかねないし、
瀬川先生の著作集「良い音とは、良いスピーカーとは?」といまも入手可能だし、
そこで全文読めるので、最少限にしておきたい。
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瀬川 ぼくのさっきの居直りといういいかたを、岡さんにそう受けとられたのだったら、こんどはほんとうに居直っちゃう。つまりぼくは、こまかく分析してみると岡さんと同じなのですよ。岡さんがぼくと何年も付き合ってくださっているのに、ぼくをいちばん誤解している面だと思うのは、たとえばスピーカーで意見が対立したときに、岡さんはいつも、いちばんこれが自然に再生できる、というような言葉で反論なさるでしょう。ぼくだって、ぼくの好きなスピーカーがいちばん自然だと思っているんです。すごく挑発的ないいかたをすると、ARの音なんて、レコード制作者の意図した音とまったく違うとさえ思っているわけ。
岡 そこの違いを、ぼくのほうからいいますと、ぼくはまったく瀬川さんと反対のことを考えているわけなのですね。つまりあなたがKEFで鳴っている音をいい音だという、KEFで鳴っている音をいい音だという、ぼくはそれは間違いだと思っている。
瀬川 そうでしょう。ぼくだってやはり同じことを思っているわけ。だからそこうずっとつきつめてゆくと、さっきの頭の中のイコライザー論になってしまう……。
(中略)
瀬川 そこでいまいい議論になったと思うのですが、じつはぼくも岡さんが思っていらっしゃるほど、そういう聴き方をしているのではないのです。いろいろなスピーカーで、チェンバロの音やファゴットの音の出方を聴いていて、ぼくはARのときにすごくいらいらしました。もちろんフェログラフはよくなかったけれど、他のわるいスピーカーはもちろん、ARのときになにかいらいらしたんです。それがKEFにかえたときに、ああ、ぼくにはこれがちょうどいいバランスで出ているなと思ったんですね。だからぼくだって、けっしてうわずみだけを聴いているわけではない。ぼくにとっては、ARのバランスだとどうもだめなのです。
岡 ぼくはARの場合、同じピッチで鳴っているファゴットとチェロとコントラバスのセパレーションが、とにかくわかるのですね。
瀬川 だから、岡さんの耳のイコライザーAR向きにできているのですよ。ところがぼくのイコライザーはARではぜんぜん動かなくなるのです。ARだと、もやもやもやっと聴こえてしまうわけ。
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これはほんの一例であって、
岡先生と瀬川先生のオーディオ機器の評価、
特にスピーカーシステムにおいては、こうなることは珍しいわけではない。