Archive for category アナログディスク再生

Date: 8月 18th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その30・余談)

リードインのノイズ音の話から、レコードの偏芯の話になりナカミチのTX1000について書いていって、
やっとAnna Logの話に戻ってきて、
TX1000とAnna Log、このふたつの写真をiMacのディスプレイに表示して見較べると、
どちらもアナログプレーヤーであり、30cmのレコードをかけるモノなのに、
どうしてこうも醸し出す雰囲気が違うのか、と思い、
アナログプレーヤーのデザインの面白さに、わくわくするものを感じとれる。

オーディオ・コンポーネントのなかでは、スピーカーシステムが、
デザインとしてはもっとも多彩と思われるかもしれない。
使用されるユニットの数・種類、口径はじつにさまざまで、エンクロージュアのサイズも形もさまざま。
そういうスピーカーシステムからすると、
アナログプレーヤーはレコードのサイズが決まっているからターンテーブル・プラッターの径も自動的に決まる。
ターンテーブルプラッターの他に必要とするものはトーンアーム。
中には複数トーンアームを搭載できるモノもあるが、多くは1本だけ。
このトーンアームのサイズも、スピーカーのユニットのサイズのバラバラさ加減と比較すると、
これもターンテーブル・プラッター同様、レギュラータイプとロングタイプがあるくらいだ。

にもかかわらず私はアナログプレーヤーのほうが、スピーカーシステム以上に作り手の考え方や、
それにレコードに対する想い加わってはっきりとした「かたち」となって顕れてくるものは、
他のジャンルの器械を見渡しても、そうはないのではないだろうか。

もっともっと、ほんとうにさらにさらに、アナログプレーヤーのデザインについては語られるべきだ。
きっと語り尽くせぬほどの何かがあり、その先にたどりつけるのであれば、
オーディオに関係したこと、という枠をこえた大事なものを見つけ出せそうな、そんな気がしてならない。

Date: 8月 18th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その30)

ノッティンガムアナログスタジオのAnna LogにオルトフォンSPU Classicを組み合わせたときの、
リードインのノイズ音は、いったいどういう感じになるのだろうか。

参考になるのは、やはり井上先生がステレオサウンド 133号に書かれた記事だ。
133号の試聴ではカートリッジは同じオルトフォンだが、SPUではなくMC Jubileeだ。
Anna Logの音についてはこう書かれている。
     *
カートリッジが現在の最先端技術を組み合わせたモデルであるだけに、スクラッチノイズの質はよく、量も低く抑えられ、伸びやかに広帯域型の音を聴かせる。しっとりした、ほどよくしなやかで潤いのある音は非常にナチュラルで、SN比の高さは格別の印象である。確実に音溝を拾いながらも、エッジの張った音とならず、情報量豊かに静かに内容の濃い音を聴かせるパフォーマンスは見事である。
簡単に書くと、穏やかな音と感じられるが、他の100万円級のADプレーヤーと比較試聴すると、予想以上の格差があり、あらためて『アンナ・ログ』の実力の高さに感銘を受ける。従来の針先が音溝を拾う感じのあるリアリティの高さもアナログの楽しさだが、この静かなストレスフリーの音も新世代のアナログの音である。
     *
ステレオサウンド 133号の特集はコンポーネンツ・オブ・ザイヤー賞で、Anna Logは選ばれている。
そこでの座談会では、こう語られている。
     *
何気ない音の出方をするんです。他のプレーヤーと較べるとはじめて凄さがわかる。これ見よがしな音がいっさいしないプレーヤーなんです。
     *
これらの文章から、まずはっきりと伝わってきたのは、
EMTの927Dstとは正反対の性格と能力をもつプレーヤーであるということだ。
だから、927Dstとともに、
このAnna Logが、死ぬまでにいちどは自分のものとしてとことん使ってみたいプレーヤーなのだ。

Date: 8月 18th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その29)

TX1000の実物を見たとき、おそらく他の方もそうだと思うが、「でかい」と口走りそうになった。
しかも横に長いプロポーションで、四隅に脚がはみ出すようにはえている。
操作ボタンを集中させてコントロールボックス(パネル)がやはり本体から飛び出している。
しかもそのスイッチは、ナカミチのカセットデッキ的なものだった。

レコードの芯出し機能を何度か試して、その効果を楽しんだ後は、
もう一度しげしげとTX1000をながめると、これをレコードを鳴らすモノといっていいのだろうか、と思えてくる。
ナカミチは、レコードをカセットテープのように捉えていたのではないか、とさえ思う。

カセットテープは、音が記録されているテープそのものには手がふれない。
手がふれるのは、あくまでもケースの部分だけ。
この点で、同じテープデッキでも、オープンリールデッキと異る。
オープンリールデッキでは、直接テープを指でつまみ、キャプスタン、テープヘッドのあいだを通していく。
レコードも、レコードそのものを手でふれる。

ナカミチがオープンリールデッキをつくっていたのは知っている。
けれどカセットデッキに集中しすぎて、この感覚をどこかに忘れてしまっているように思えてならない。
有機的な質感のレコードとは正反対の無機的な質感のTX1000を、カッコイイと感じる人はいるだろうが、
私は、TX1000の外観は拒否したい、と感じる人間だ。

ナカミチはTX1000の普及モデルとしてDragon-CTを出した。
TX1000とは大きさも見た目もかなり変ったが、
それでも、愛聴盤を、このプレーヤーで鳴らしたいという雰囲気はやっぱりなかった。

TX1000は試みとしてはユニークなものがあったが、決して成功したとはいえない。
TX1000をお使いになっている方には申し訳ないが、TX1000は試みだけで終ってしまっている。

なぜか。
それは10秒間という芯出し作業にかかる時間、無機的で大きすぎる外観、
芯出しの効果は音としてはっきりと聴きとれるものの、
それ以前のアナログプレーヤーとしての基本的な素性、音を含めての性能にも不足を感じるものだった。
それにレコードの芯出しは、短期間に集中してくり返しやって鍛えていくことで、
ある範囲内におさめることはできるようになる、ということも理由としてある。
あともうひとつあった、レコードがかけにくいのだ。

ナカミチに、オーディオのことを感覚的な面でもしっかりと理解しているデザイナーがいてくれてたら、
TX1000は、まるで違う形になっていたであろうし、評価も大きく変っていた……、とつい思ってしまう。

Date: 8月 18th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その28)

ナカミチのTX1000がステレオサウンド試聴室に持ち込まれたとき、
この芯出し機能は、たしかに面白かった。
試聴室という性格上、アナログプレーヤー、アンプ、CDプレーヤーなど操作をするものは目の前に置く。
手を伸ばすだけですぐに操作できる距離に置いておく。

TX1000の芯出し作業の10秒間を数人の男がじっと見つめている。
芯出しが完了して音を聴く。効果が音で確認できる。
試聴だから、他のレコードも聴く。また芯出し作業の10秒間をじっと待つ。
そしてまた別のレコード……。同じことのくり返し……。

1日に1枚のレコードしか聴かない人ならば、この10秒間もたえられないものにはならないかもしれない。
でも休日など、まとまった時間がとれたとき、気のむくまま、好きなレコードをあれこれ聴いていこうとしたとき、
TX1000の10秒は、次第に、というよりも、すぐにたえられないものになってくる。
LPは片面すべて頭から終りまで聴くこともあれば、
好きな曲だけを1曲だけ選んで聴くこともある。
数分の1曲を聴くためにも、20数分の曲を聴くときも、10秒は聴く前に待たなければならない。

TX1000の芯出し機能は、ナカミチらしい機能だといえるが、
これではレコードファンの心情をまったく理解していないものである。

TX1000がオートプレーヤーだったら、
この10秒間は、デュアルの1219のように「黄金の10秒間」といわれたかもしれない。
芯出し作業を終えたら自動的にカートリッジをレコードの盤面に降ろしてくれる、という機能があれば、
TX1000に対する評価は大きく変ったはずだが、TX1000はくり返しになるが、トーンアーム・レス型なのだ。

Date: 8月 18th, 2011
Cate: アナログディスク再生
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私にとってアナログディスク再生とは(その27)

「続コンポーネントステレオのすすめ」の中の「オートかマニュアルか?」に、
瀬川先生は、デュアルのプレーヤーのことを次のように書かれている。
     *
音楽評論家の黒田恭一氏は、かつて西独デュアルのオートマチックのプレーヤーを愛用しておられた。このプレーヤーは、レコードを載せてスタートのボタンを押すだけで、あとは一切を自動的に演奏し終了するが、ボタンを押してから最初の音が出るまでに、約14秒の時間がかかる。この14秒のあいだに、黒田氏は、ゆっくりと自分の椅子に身を沈めて、音楽の始まるのを待つ。黒田氏がそれを「黄金の14秒」と名づけたことからもわかるように、レコードを載せてから音が聴こえはじめるまでの、黒田氏にとっては「快適」なタイムラグ(時間ズレ)なのである。
ところが私(瀬川)はこれと反対だ。ボタンを押してから14秒はおろか、5秒でももう長すぎてイライラする。というよりも、自分には自分の感覚のリズムがあって、オートプレーヤーはその感覚のリズムに全く乗ってくれない。それよりは、自動(オート)でない手がけ(マニュアル)のプレーヤーで、トーンアームを自分の手でレコードに載せたい。針をレコードの好きな部分にたちどころに下ろし、その瞬間に、空いているほうの手でサッとボリュウムを上げる。岡俊雄氏はそれを「この間約1/2秒かそれ以下……」といささか過大に書いてくださったが、レコードプレーヤーの操作にいくぶんの自信のある私でも、常に1/2秒以下というわけにはゆかない。であるにしても、ともかく私は、オートプレーヤーの「勝手なタイムラグ」が我慢できないほどせっかちだ。
こういう、音とは別のいわば人間ひとりひとりの「性分」や、生態のリズムのような部分が、プレーヤーを選ぶときにオートかマニュアルかを分ける意外に大切な部分ではないかと、私は思っている。
     *
ここでは20秒が14秒になっているが、
とにかくデュアルの1219はスタートスイッチを押してから音が出るまでの時間が存在している。
自らせっかちな性分といわれる瀬川先生には、黒田先生にとっての「黄金の20秒」はたえられない20秒となる。

TX1000はレコードの芯出し作業に、約10秒ほどかける。
だが、この10秒は、デュアル1219の20秒とは、異る時間だ。

1219では椅子に坐ってまっていれば、音楽が鳴り出してくれる。
ところがTX1000は、トーンアーム・レスのプレーヤーだから、
10秒たったあとに自動的にレコードを再生してくれるわけではない。
10秒待ち、TX1000がレコード芯出し作業を終えた後、
自分の手でカートリッジをレコードの盤面に降ろさなくてはならない。

Date: 8月 17th, 2011
Cate: アナログディスク再生
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私にとってアナログディスク再生とは(その26)

レコードの偏芯による音質の劣化に注目したアナログプレーヤーが、いまから30年前に存在していた。
ナカミチのTX1000というトーンアーム・レスのアナログプレーヤーである。

TX1000の最大の特徴は、アブソリュート・センター・サーチ・システムと名づけられた独自の機構で、
アナログディスクの最終溝(音が刻まれている溝とレーベルの間にある無音溝)を、
トーンアームの対面にもうけられたセンサーアームがトレースして偏芯の具合の検出、補整するもの。
この機構・機能の大前提は、最終溝が真円であるということ。
最終溝が真円でなかったら……、という疑問はあるけれど、
実際にTX1000で芯出しを行う前と行った後の音を比較すると、はっきりとした効果がある。
もちろんレコードがうまくぴたっと芯が合って収まっているときは効果はないわけだが、
ズレが大きいほど当然だが音の変化も大きい。

TX1000がこの芯出し作業を行い終えるまで、たしか10秒近くかかっていたと思う。
この10秒間を、どう受けとるのか、人によってさまざまのはず。

思い出すのはデュアルのアナログプレーヤーの1219のことだ。
この1219はいわゆるオートプレーヤーで、
スタートスイッチをおしてカートリッジがレコード盤面に降りて音が出るまでに約20秒の時間がある。
この20秒を、黒田先生は「黄金の20秒」といわれていた。

聴きたいレコードを1219にセットしてスタートスイッチを押す。
そして椅子にかけて音が出るのを待つ。20秒の時間があれば、多少プレーヤーと椅子のあいだが離れていて、
あわてることなくゆっくりと椅子にかけて、ゆっくりと音楽が始まるのを待てる。
これについては、「聴こえるものの彼方へ」所収の “My Funny Equipments, My Late Friends” に書かれている。

黒田先生は、この20秒を、短すぎず長すぎず、黒田先生にとってはグッドタイミングであったのだが、
まったく違う受けとめかたをされていたのが、瀬川先生である。

Date: 8月 17th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(補足)

(その26)を書く前に、ひとつ書いておきたいことがある。
アナログディスクの取扱い、カートリッジの取扱いに長けていらっしゃる方は読み飛ばしてくださってほしいが、
ときどきアナログプレーヤーの操作に慣れていないのか、カートリッジを大切にしすぎてのことだろうと思うが、
カートリッジをレコードの盤面に降ろす、ということを少し誤解されているのではないか、と思うこともある。

カートリッジをレコードの盤面に降ろす、ということは、文字通り、降ろす、である。
つまりカートリッジをレコードの盤面近くに近づけたら、ヘッドシェルの指かけから指を離して、
カートリッジを自然落下させる、ということだ。
もちろんレコードの盤面とカートリッジのあいだが離れすぎていては、どちらも傷めてしまうことになるが、
大事に思う気持がいきすぎてしまい、
カートリッジの針先がレコードの溝にふれるまでヘッドシェルをつかんでしまうことは、
逆にレコードもカートリッジも傷めてしまうことにつながる。

トーンアームの調整──、ゼロバランスをとり針圧をかけた状態では、
針圧が重めであってもヘッドシェルから指を話した瞬間に勢いよくレコードの上に降りることはない。
すーっと降りていくものだ。
だから、ぎりぎりのところで指を離して、
あとはカートリッジの自然落下(といっても、それはほんのわずかだ)にまかせるのが、
カートリッジにとっても、レコードにとっても大切なことである。

そのためにはヘッドシェルの指かけの形状が重要になってくる。
ヘッドシェルの指かけを親指と人さし指ではさむようにもつ人もいるが、このことも気をつけたい。
いい指かけならば、人さし指を軽くあてるだけで、指からすり落ちてしまうことはない。

指かけが弓なりになっているものがあるため、指かけの下に人さし指を入れたくなるけれど、
指かけで大事なのは、指かけの端に人さし指の腹をちょっと押しあてるための小さな突起である。
この突起に人さし指を押しあてて、針を降ろしたい位置までもっていったら、すっと指を後方に逃がすだけでいい。

Date: 8月 16th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その25)

経験をつむことで、なるほど、レコードの偏芯の具合がリードインのノイズ音でわかるのか、
でもだからといって、偏芯をコントロールすることはできないんだろう……と思われる方もおられるだろう。

ステレオサウンドの試聴室でカートリッジの比較試聴があると、
20機種のカートリッジを1日で取材することになる。
カートリッジをひとつ聴くのに3枚の試聴レコードを使うとしたら、最低でも60回レコードのかけ替えを行う。
カートリッジの試聴はそれだけでは終らない。
針圧を調整して、インサイドフォースキャンセラーの量も変化させて、といった細かい調整をおこない、
限られた時間内で最適の状態で鳴らすようにする。
これがあるためにレコードのかけ替えの回数はさらに増える。
これらの作業は、すべて編集部(私)がやっていた。

ここで大事なのはカートリッジの調整の確かさだけではなく、
レコードの偏芯をどれだけある範囲内におさめることができるかである。
偏芯が大きすぎると、リードインのノイズ音が鳴った瞬間に、鬼の耳の持主といわれた井上先生から、
「ズレが大きいぞ」と指摘される。

これは指摘だけでなく、やり直せ、という意味も含まれている。
カートリッジの試聴には、そのぐらいを気を使う。

やり直す、これも一度で決めないといけない。
こういうことをくり返していると、
少なくともステレオサウンド試聴室にリファレンス・プレーヤーのマイクロのSX8000IIに関しては、
扱い馴れているから、ある範囲内で偏芯を収めることは、じつはそう難しいことではない。

このことはプレーヤーの使いやすさとはなにかとも関係してくることだ。
ターンテーブルプラッターの形状、その周辺のつくりによっては、
このコントロールがやりにくいものがある。かと思うと、
はじめて使うのに、すっと馴染んできて勘どころが掴めるプレーヤーもある。

Date: 8月 16th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その24)

ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logで、とにかくまず確認したいことは、
オルトフォンのSPUを取りつけて、そのときのリードインの、あのボッ、とか、ポッとかいうノイズの音だ。
おそらくリードインの音が、これまでSPUをとりつけて聴いてきたいかなるプレーヤーとも異る音がしそうなのだ。

このリードインの音は、アナログディスク再生の経験をじっくりと積んできた人ならば、
このわずかな、短い音だけで、音楽が鳴ってくる前に、ある程度のことを掴むことができる。
しかも、リードインのノイズ音には、ごまかしがない。
たとえこちらの体調が悪くて鼻が詰まっていて、耳の調子もいまひとつ、というようなときでも、
このリードインのノイズ音を注意深く聴き、永年の経験から判断すれば、これだけでも判断を間違えることはない。

たとえばこのリードインのノイズ音でわかることのひとつに、レコードの偏芯がある。
レコードには、スピンドルを通すための孔がある。
この孔の寸法は規格で決っていても、多少の誤差は認められているし、
スピンドルも同じようにメーカーや製品によって多少の寸法の違いがある。

私の経験ではわりとアメリカのLPに多かったのが、
レコード側の孔が小さくてぐっと力をこめないとターンテーブルに接しないものもあったが、
一般的にはレコード側の孔のほうがスピンドルの径よりもやや大きい。
だからスムーズにレコードがおさまるわけだが、レコード側の孔が大きいということは、
スピンドルの中心軸ととレコードの中心が完全に一致するわけではない、ということが起る。
というよりも、なかなか完全に一致することの方が少ない。

完全一致は少ないけれど、それよりも大きく、つまり誤差の範囲で最大限に芯がズレてしまうことがある。
といっても、そのズレ(偏芯)は目で見てわかるレベルではない。
けれど、リードインのノイズ音を聴けば、
どの程度芯があっているのかは、馴れていれば瞬時に判断できるようになる。

Date: 8月 15th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その23)

ウィルソン・ベネッシュのCircleは、実は手もとにある。
いまは別のカートリッジがついているが、エンパイアの4000D/IIIはいちど試してみたいし、
それ以上にこのCircleにとりつけてみたいのは、実のところオルトフォンのSPUである。

いまSPUにはいくつかのグレードがあるが、私が鳴らしたいののはもっともスタンダードなClassic。
当然シェルから取り出してなんらかのスペーサーを介して取りつけることになる。
CircleにSPU? オルトフォンなら、ほかのカートリッジの方がCircleの方向性と添うのではないか。

私もそう思わないわけではないが、いままでEMTがメインだったこともあり、
SPUを自分のシステムで鳴らしたことがない。
ステレオサウンドの試聴室では、SMEの3012Rでの音、SeriesVでの音は、じっくり聴いている。
これらの鳴らし方をSPUらしい鳴らし方とすれば、あえてやや異色な鳴らし方をしてみたい。
だからといって、踏みはずしたような鳴らし方を望んでいるわけではない。
SPUに、SMEのトーンアームと組み合わせた時とは異なるところから、異なる照明をあてることで、
いままで聴き落していたかもしれないSPUの音というのがあれば、それを聴いてみたい、と思っている。
だからSPU Classicを選ぶ次第だ。

そしてこのSPU Classicは、またAnna Logでもじっくり聴いてみたいカートリッジでもある。

Date: 8月 9th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その22)

エンパイアの4000D/IIIは、いまのカートリッジの値づけからすると10万円くらいということになるのか……、
そう思うと、Anna Logで4000D/IIIが、どういう表情をみせ、
どこまで性能を発揮してくれるのはぜひ一度聴いてみたいけれど、
でももし4000D/IIIをいま自分のモノとして鳴らすとなったら、
Anna Logが4000D/IIIにとって最良のプレーヤーかと思えないところもある。

Anna Logで鳴らすことで、30数年前、4000D/IIIを聴いたときに、
その音に惹かれながらも欲しい、とは思わせなかった面がうまく補うように鳴ってくれるかも、という期待はあっても、
このカートリッジの音の性格からしても、もうすこし鮮明さの方向のプレーヤーでまとめたい、という気もある。

このあたりがアナログプレーヤーの面白いところで、
あるカートリッジをうまく鳴らすシステムが、別の個性のカートリッジを必ずしもうまく鳴らすとはかぎらない。
それに高価なモノが、それだけ優れているかというと、決してそうではない面もある。

4000D/IIIには、現行製品のなかから選ぶとしたら、Anna Logよりも、
同じイギリス製のウィルソン・ベネッシュのCircleを選びたい。
アクリル系のターンテーブル・プラッターの、石臼のような形をしたプレーヤーシステムだ。
残念なことに、いま日本にウィルソン・ベネッシュの輸入代理店は存在しない。
でもCircleはいまもつくられている。
輸入されたとしたら、いくらになるのかはわからないが、10年前に40万円を切っていたはず。

サイズはLPレコードとほぼ同じで、トーンアームのベースがせり出しているだけ。
外部電源もない。
Circleはもっと注目されてもいいはずだ。

Anna Logのノッティンガムアナログスタジオといい、ウィルソン・ベネッシュといい、
それにGyrodecのJ.A.ミッチェルといい、古くはゲイルやシネコのプレーヤーがある。
これらイギリスから登場してくるアナログプレーヤーには造形的に、
ほかの国からは出てこない魅力が共通してあるように受け取っている。

Date: 8月 7th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その21)

そんなふうにみていくと、現在の50万円以上のカートリッジは30年前ならば、
20数万円から30数万円ということになる。

ステレオサウンドのベストバイの号を振り返ってみると、
43号で選ばれたカートリッジでもっとも高価なのはEMTのXSD15で、69000円。
47号では、ここでもXSD15が……と書きたいところだが、ひとつ例外的に高価なモデルがあった。
グラドがシグネチャー・シリーズと名づけたもので、Signature IIは199000円と、とびぬけて高価だった。
実は、このSignature IIは、瀬川先生が持参されたカートリッジの中に含まれていて、
このときだけではあったが聴くことができた。
これもいま聴いてみたら、どういう感想を抱くのだろうか、という興味がある。

55号ではオルトフォンのMC30が登場して、これが99000円。
そのあとのステレオサウンドをみていっても、カートリッジの最高価格として10万円という線があり、
これを越えたら、高価なカートリッジから、非常に高価なカートリッジ、と受けとめられていたように思う。

10万円の1.65倍〜2倍となると、165000円〜200000円となる。
もういちどステレオサウンド 177号を見直すと、
オルトフォンのSPU Synergyが170000円となっていて、
このモデルが以前のSPU Gold(当時95000円)的な位置づけにあたるカートリッジだとすれば、
1.65倍〜2倍という数字も、目安として使えそうだ。

Date: 8月 7th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その20)

ノイマンのDSTに、エンパイアの4000D/III……、
どちらも旧製品ではないか、現行製品にはないのか、と思われる人もいるだろうな、と思いながらも、
それでも思い浮んできたのは、このふたつの旧製品のカートリッジだった。

現行製品で使ってみたいカートリッジがないわけではない。
数は少ないけれどある。
けれど、ステレオサウンドのベストバリュー(以前のベストバイ)に選ばれているカートリッジの中にはない。
177号に載っているカートリッジは写真付きコメント付きで紹介されているのが12機種。
ブランドと型番、価格、それに点数だけが載っているのが17機種。
これらの価格を眺めていると、わかっていることとはいえ、
改めて50万円超えのカートリッジが複数機種あるのには、なんともいえない感情を抱いてしまう。
そうかと思えば、デンオン(いまはデノンなのはわかっいても、やっぱりデンオン)のDL103R、DL-A100、
オーディオテクニカのAT-OC9/III、AT33PTG/IIに対する感情は、以前とは違ったものになってくる。

カートリッジの市場規模を考えれば、以前と較べて価格が上昇してしまうことは理解できる。
理解はできる、と書いたものの、それにはやはり限度というものが、それぞれ受け取る側にある。
限度は人によって違う。だから50万円のカートリッジをあたりまえのこととして受けとめる人がいるし、
疑問に思う人もいて、当然のことだ。

物価も変動している。だから以前と較べて、どのくらいがカートリッジの適正価格なのかを決めるのは困難だし、
無理なことなのかもしれない。
それでもひとつの目安として、デンオンのDL103Rの価格は33,000円(税込み)。
このDL103RはDL103をベースにしていて、変更点は発電コイルの線材を6N銅線にしただけである。
つまり以前のDL103とほぼ同じモノといえる。

1977年当時、DL103は19,000円していた。
33年経ち、約1.73倍の価格になっている。以前は消費税はなかったから税抜きの価格では約1.65倍。
大ざっぱに言って、30数年前のカートリッジの価格は、
いま1.6倍から2倍程度には上昇しているとみていいように思うし、それが目安となるだろう。

Date: 8月 6th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その19)

ここまで書いてやっと、この項の(その1)で紹介した高橋氏の問いかけに答えられる。

「死ぬまでに一度、聞いてみたいアナログ・カートリッジか、プリアンプはありますか?」

これを見たときに真先に浮んだモノは、実はふたつあった。
ひとつはすでに書いているように927DstとDSTの組合せ。
もうひとつは、これもすでに製造中止になってしまっているカートリッジではあるが、
エンパイアの4000D/IIIである。

DSTはいま中古の状態のいいものを買おうとすれば、数十万必要となるようだが、
4000D/IIIはDSTのような存在ではない。
当時の価格は58000円(1977年)。
同じころ、オルトフォンのSPU-G/Eが34000円、MC20が33000円。
EMTのTSD15が65000円で、XSD15が69000円だったから、1970年代の高級カートリッジのひとつではあったが、
特別高価というわけでもない。

4000D/IIIの音を聴いたのは、当時住んでいた熊本の販売店に瀬川先生が来られたときだった。
4000D/III以外にオルトフォン、ピカリングのXSV/3000、XUV/4500Q、
エレクトロ・アクースティック(エラック)STS455E、EMTのXSD15など10機種ほどの、
ご自身でお使いのカートリッジを持参されての試聴会だった。

とにかく、このときの4000D/IIIの音は、いまでも耳に残っている。
クラシックやヴォーカルをかけたときにはまったく魅力を感じなかった4000D/IIIだったのに、
ジャズ(記憶に間違いがなければ、菅野先生録音の「ザ・ダイアログ」)で一変した、その音は、
ヨーロッパ系のカートリッジでは絶対に鳴らせない領域ようにも感じていた。

レコードで、スピーカーから鳴ってくるドラムスの音が、こんなに気持ちいいのか、
湿り気のまったくない乾いた、というよりも乾ききった明るい音は、音を決めていく。
そう、音が決る、という感じで、目の前にストッストッストーン、と音が展開していった。

日常的に聴きたい音ではなかったけれど、「ザ・ダイアログ」のためだけに欲しい、と思ったことは、
いつまでたっても忘れようがないほど、刻みつけられている。

Date: 8月 4th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その18)

トーレンス・リファレンスとEMT・927Dstを例にあげたが、
理想は、トーレンスの良さも927Dstの良さも、ふたつとも兼ね備えているアナログプレーヤーではあるけれど、
いままでそういうモノには出合えていない。これから先も出合えるとは思えない。

だから私の中には、アナログディスク再生に対しては、
927Dstによる「20世紀の恐竜」といえる求め方と、
ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logということになる。
なぜトーレンスのリファレンスではないのか──。

リファレンスは確かにいいプレーヤーである。
Anna Logが存在していなければ、リファレンスは、私のなかでは927Dstの対極に位置することになるわけだが、
Anna Logという、リファレンスよりも、もっと927Dstよりも、より明確に対極に位置するプレーヤーがある。
となると、どうしても興味はAnna Logへと傾く。

927DstにはノイマンのDSTと組み合わせて使いたい、と書いた。
927DstにDSTは、ノスタルジー的な意味あいでない。
どちらもヴィンテージと呼ばれるモノだが、
この組合せは、私にとっては、この項の(その1)に書いた意味と位置をもつものであり、
ノスタルジーとはまったく無縁のところのモノである。

Anna Logは、そういう927DstとDSTでは再生できない世界を、このプレーヤーで聴いてみたい、と思う。
Anna Logにはカートリッジは、これひとつ、というふうに固定はしたくない。
Anna Logのトーンアームはシェル一体型なので、カートリッジの交換はすこし面倒とはいえるけれど、
交換が億劫になるほどのものではない(少なくとも私にとっては)。

だからAnna Logでは、現行製品のカートリッジだけではなく、
過去に聴いて印象に残っているカートリッジのいくつかを、このAnna Logで鳴らすことによって、
最初に聴いたときの印象をより鮮明にすることもあるだろうし、新たな魅力を発見することできるように思う。

こういう感じは、927Dstには──このプレーヤーの性格上──まったくない。