私にとってアナログディスク再生とは(その28)
ナカミチのTX1000がステレオサウンド試聴室に持ち込まれたとき、
この芯出し機能は、たしかに面白かった。
試聴室という性格上、アナログプレーヤー、アンプ、CDプレーヤーなど操作をするものは目の前に置く。
手を伸ばすだけですぐに操作できる距離に置いておく。
TX1000の芯出し作業の10秒間を数人の男がじっと見つめている。
芯出しが完了して音を聴く。効果が音で確認できる。
試聴だから、他のレコードも聴く。また芯出し作業の10秒間をじっと待つ。
そしてまた別のレコード……。同じことのくり返し……。
1日に1枚のレコードしか聴かない人ならば、この10秒間もたえられないものにはならないかもしれない。
でも休日など、まとまった時間がとれたとき、気のむくまま、好きなレコードをあれこれ聴いていこうとしたとき、
TX1000の10秒は、次第に、というよりも、すぐにたえられないものになってくる。
LPは片面すべて頭から終りまで聴くこともあれば、
好きな曲だけを1曲だけ選んで聴くこともある。
数分の1曲を聴くためにも、20数分の曲を聴くときも、10秒は聴く前に待たなければならない。
TX1000の芯出し機能は、ナカミチらしい機能だといえるが、
これではレコードファンの心情をまったく理解していないものである。
TX1000がオートプレーヤーだったら、
この10秒間は、デュアルの1219のように「黄金の10秒間」といわれたかもしれない。
芯出し作業を終えたら自動的にカートリッジをレコードの盤面に降ろしてくれる、という機能があれば、
TX1000に対する評価は大きく変ったはずだが、TX1000はくり返しになるが、トーンアーム・レス型なのだ。