私にとってアナログディスク再生とは(その31)
ノッティンガムアナログスタジオのAnna LogにとりつけたオルトフォンSPU Classicのリードインの音は、
おそらくボッとかブッといった濁音がイメージされる音ではなく、かといってポッやプッでもないような気がする。
もっと静かな感じで、尾をひかない。だからポッではなくてポ、だったり、プッではなくプ、かもしれないし、
ほんとうに調整を追い込めば、半濁音も消え去ってしまうかもしれない。
もしくはフッと吹いたその息で、火をふき消すようにノイズを消し去ってしまうかのような感じかもしれない。
実際に音を聴かないと確実なことはいえないのがオーディオであることは重々承知のうえで、
それでもAnna Logでのリードインの音は、尾をひかないことだけはいえるはずだ。
このことが、消極的な音の表現になってしまっていては、Anna Logに魅力は感じない。
けれど井上先生の評価を読むと、そうでないことははっきりとわかる。
「SN比の高さは格段の印象」と書かれ、さらに「静か」という表現をくり返されている。
それでいて「確実に音溝を拾い」ながら「内容の濃い音を聴かせる」とある。
アナログディスクらしい、手応えの感じられる音が、Anna Logからは得られるはずだ。
Anna Logは静かだが、けっして薄っぺらな音につながる静けさではなく、
ストレスフリーへとつながっていく静けさをもつ。
こういう音を聴かせてくれるアナログプレーヤーが、Anna Log以前にあっただろうか。
暗く沈んだ印象の音を聴かせるプレイヤーはいくつもあった。
私がアナログディスク再生に求めたいヴィヴィッドな感じが見事にスポイルしてくれるプレーヤーは、
いくつかも聴いてきた。その中には非常に高価なプレーヤーもあった。
そんなアナログプレーヤーを、新世代のアナログプレーヤーともて囃す人たちもいるのは知っているが、
アナログディスク再生における「静けさ」と「暗い音」「沈んだ音」は同じではない。
音の傾向としては動と静という対極の性格をもちながらも、
EMTの927Dst(930st)同様、音楽をヴィヴィッドに甦らせることに関しては共通するものがある、というよりも、
まったく同じなのかもしれない、と井上先生の書かれたAnna Logの記事を読みながら、そう思った。
生れた国(ドイツとイギリス)の違い、開発年代の違い(半世紀ほど離れている)、
使用目的の違い(プロ用とコンシューマー用)などから、
見た目も構造も使い勝手も大きく異る927DstとAnna Logではあるが、
アナログディスク再生のもっとも大事なことは、どちらもしっかりとおさえている。