Archive for category アナログディスク再生

Date: 3月 4th, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その12)

国産のダイレクトドライヴ型プレーヤーで、
930stまでいかなくともガラードの301に匹敵する、
ターンテーブルと軸受けの強度、それにターンテーブルの偏芯と上下ブレの少なさをもつものはある。

ステレオサウンド 48号が出た1978年の時点ではそう数は多くないものの、いくつか存在する。
その中でもヤマハのPX1は、200gのオモリをのせた場合のたわみは0.02mm。
ガラードの301と同じ値である。

上下ブレは0.07mm、偏芯は0.04mmとガラードの301と、ほぼ同等である。
PX1のターンテーブルプラッターはジュラルミンの削り出しによるもので、重量は5.2kg。
速度偏差も無負荷時でも、レコードトレーシング時でもひじょうに優秀である。

だからダイレクトドライヴ型でも、ここまでのモノができる、ということでもあるわけだが、
構造的に見た場合、ダイレクトドライヴ型はPX1ほどの精度を出すのは、かなり大変なことでもある。

ターンテーブルプラッターとシャフトを、コマと重ね合わせた場合、
当然ターンテーブルとシャフトがしっかりと嵌合していたほうがいい。
この箇所に、わずかでもガタツキが生じていたら、
ターンテーブルプラッターをどれだけ精密に仕上げたとしても、偏芯は生じてしまう。

EMTは930st、927Dstなどもターンテーブルプラッターとシャフトがしっかりと嵌合した、
いわば一体型となっている。
トーレンスのベルトドライヴも、インターとアウターにわかれる二重ターンテーブル構造ではあるが、
インターターンテーブルはシャフトと嵌合されており、そのシルエットはコマである。

Date: 3月 4th, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その11)

ステレオサウンド 48号の測定結果によれば、
ガラードの301のターンテーブル回転時の上下ブレが0.06mm、偏芯が0.05mm。
これは優秀な値である。
いまもガラードのターンテーブルが、301も含め401も、
古めかしいメカニズムという印象にも関わらず、いまも高い評価を保持しているのは、
ターンテーブル及び軸受けの強度、ターンテーブルの偏芯と上下ブレの測定結果と無関係ではないはず。

そしてEMTの930st。
上下ブレが0.03mm、偏芯が0.01mm。
ガラード・301よりもさらに優秀な値となっている。

国産のダイレクトドライヴのプレーヤーはどうなのかというと、
高価な機種が必ずしも強度があり、偏芯が少ないとは限らない。
上下ブレがいちばん大きいのは0.21mmというのがある。この機種の偏芯は0.1mm。
偏芯がいちばん大きいのは0.15mm、この機種の上下ブレは0.11mmと、
偏芯が大きいから上下ブレが大きい(上下ブレが大きいから偏芯が大きい)とは必ずしもいえない。

もちろんどちらも大きな機種もある。
上下ブレ0.2mm、偏芯0.14mmで、
この機種のターンテーブルのしなり・たわみは200g負荷時で0.26mmをすこしこえている。
この機種はローコストなプレーヤーではなく、単体のターンテーブルとして発売されている、
この当時としては高価な部類にはいる。

Date: 3月 3rd, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その10)

ターンテーブルの回転を、コマの回転と重ね合わせると、
長島先生がステレオサウンド 48号において、
ターンテーブル及び軸受けの強度とターンテーブルの偏芯と上下ブレを測定された理由がみえてくる。

ターンテーブルがどんなに正確に規定の回転数、
LPであれば33 1/3回転で、ワウ・フラッターが測定の限界値に近くなろうと、
実のところ、音のゆれが完全になくなる、無視できるほどなくなるとはかぎらない。

アナログディスク再生で、回転ムラがあれば、そのは即座に音のゆれとなってあらわれる。
いうまでもなく33 1/3回転よりも速くなれば、音のピッチが高くなるし、
33 1/3回転よりも遅くなれば、音のピッチは低くなる。

回転数のズレが、つねに速い(もしくは遅い)であれば、
まだその補正はそう難しくはないだろうし、音への影響も限定的となる。

けれど速くなったり遅くなったり、つねに両方への変動があれば、音がゆれて鳴ることになる。

ダイレクトドライヴになり、サーボがかけられ、さらにクォーツロックも採用され、
測定上、もう充分ではないか、と思ってしまうほど、優秀な値を実現している。

けれどいくら優秀な値をほこる回転精度であっても、
ターンテーブルが偏芯していたり、上下のブレがあったり、
強度が不足していてしなり・たわみが生じたら、
これらは、回転ムラに起因する音のゆれとは、
性格の異なる音の「ゆれ」を生じさせている──、
そういえるのではないだろうか。

この音の「ゆれ」こそが、音への影響がもっとも大きい、
と私は考えている。

Date: 3月 1st, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その9)

音のいいプレーヤーの代表ともいえるEMTの930stの回転部、
つまりターンテーブルプラッターとシャフトから成るシルエットは、
いわばコマと重なる。

理想のコマの回転が、遠くから見たときに静止しているかのように、
まったくブレることなくきれいに廻り続けることである以上、
ターンテーブルプラッターとシャフトから成る回転体も、
理想のコマと同じくいっさいブレることなく、静かに廻り続けることが重要であり、
その実現のためにまず求められるのは、
ダイレクトドライヴ、ベルトドライヴ、リムドライヴ、
どの方式が優れているかと論ずる前に、
ターンテーブルプラッターとシャフトから成る回転体が、
どれだけ「理想のコマ」であるのか、ということであるはず。

Date: 2月 28th, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その8)

ステレオサウンド 48号に掲載されているターンテーブル及び軸受けの強度を現わすグラフの縦軸は、
ターンテーブル、軸受けのたわみを0から0.3mmまで表示してあり、
横軸はオモリの重さとなっている。

ターンテーブルの最外周に200gものオモリをのせてたわみを測ることに意味があるのか、
と疑問に思われる方もおられるだろう。
針圧は重いといわれるものでも3gから4g程度であり、
軽い針圧となると1gを切るカートリッジもある。

その程度の針圧しかかけないのだから、
10g程度のオモリならまだしも、200gものオモリを置いて測定する必要性があるのか。

実は私もステレオサウンド 48号の測定をパッと見た時は、
そんなふうに思わないでもなかった。
けれど、音がいいプレーヤーといわれているモノ、
私が音がいいと思っていたプレーヤーは、200gのオモリをのせてもたわみが極端に小さい。

48号で取り上げられているプレーヤーのなかには、200gのオモリをのせた場合、
グラフの縦軸の最大値である0.3mm近くまでたわんでいるものもある。

ちなみにガラードの301は、
48号の時点ではすでに製造中止になっていたため、あくまでも参考データとして載っている。
それも16年ほど使われていた301にもかかわらず、200gの荷重でのたわみは0.02mmしかない。

そしてEMTの930st。
これもステレオサウンド編集部で使われていたものにも関わらず、
200g荷重で0.01mm程度のたわみにおさえられていて、
どのプレーヤーよりも優秀な値である。

Date: 2月 27th, 2013
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その7)

ステレオサウンド 48号には、長島先生による測定データも載っている。
測定項目は次の通り。
 無負荷状態での速度偏差
 レコードトレーシング時の速度偏差(ダイナミック・ワウ)
 ターンテーブル及び軸受けの強度測定
 ターンテーブルの偏芯と上下ブレ

無負荷状態での速度偏差以外は、アナログプレーヤーのカタログには載ることのない項目である。

レコードトレーシング時の速度偏差と無負荷状態での速度偏差のグラフを見比べると、
ほとんど変化のないプレーヤーもあれば、無負荷状態では優秀な性能でも、
実際の使用状態、つまりレコードをのせ、カートリッジでレコードの音溝をトレースしている状態では、
音楽信号の強弱によりターンテーブルにかかる負荷が変動する。

この変動に対して、ターンテーブルは我関せずと安定した回転を保っていればなんら問題はないのだが、
実際にはカートリッジのトレース時の負荷は、意外にも大きいのか、
レコードトレーシング時の速度偏差が大きく(変動幅はすくなくとも不規則に)変動するものがあるのがわかる。

そして、私が驚いたのは、ターンテーブル及び軸受けの強度測定とターンテーブルの偏芯と上下ブレである。

ターンテーブル及び軸受けの強度測定は、ターンテーブルプラッターの縁にオモリをのせ、
最小目盛り1μ(1000分の1mm)のダイヤルゲージをあて、たわみ・しなりを計測したもの。
オモリは50g、100g、200gの3種。

ターンテーブルの偏芯と上下ブレは回転状態のターンテーブルプラッターの偏芯と上下ブレを、
やはりダイヤルゲージで読んだものである。

これらの測定には、定盤のうえにプレーヤーをのせて行われている。

Date: 12月 21st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その30)

このころはB&Oの美しいプレーヤーがリニアトラッキングだった、
それからすこし遅れて登場したルボックスのプレーヤーもそうだった。
日本ではマカラ(エアーフローティングを採用した最初のプレーヤー)とヤマハからも出ていた。

B&OのBeogramは、オーディオのことは何もまだ知らない少年の目にも、美しい、と映った。
こういうプレーヤーが採用しているのだから、それだけでもリニアトラッキング型のトーンアームは理想と思えた。
ルボックスB790とB&Oとでは、同じリニアトラッキング型でも実現のための方式は違っていた。

ヤマハのリニアトラッキング型を採用したPX1のデザインは、
B&Oとは大きく違っていて、
PX1がプリメインアンプのCA2000、CA1000と同系統のデザインだったら……、とそんなことを思ってしまうほど、
路線が変ってしまっていたプレーヤーの姿だった。

マカラのプレーヤー4842Aは、メカニズムというつくりで、B&Oとは正反対のプレーヤーであった。
ある部分EMT的でもあったし、とにかくそれまで日本のプレーヤーではあり得なかった造形であった。
4842Aはなかなか実物を見る機会もなかった。
製造中止になってかなり経って、やっと見ることができた。
でも、音は聴けなかった。
完動品があれば、一度は音を聴いてみたい機械である。

1970年代も終り近くになると、
リニアトラッキングは高級プレーヤーだけのものではなくなっていた。
ダイヤトーンからは縦置きの普及クラスのプレーヤーに、
テクニクスではLPジャケットサイズのプレーヤーSL10に、リニアトラッキングを採用していた。

リニアトラッキングは、もう特殊なトーンアームではなくなりつつあった。
これは、スピーカーにおいて平面型振動板が一時期流行したことと、
すくなくとも日本では同じ現象でもあったと思う。

そして1980年代のなかごろに、海外の小さなメーカーから、
リニアトラッキング型のトーンアームがいくつか登場してきた。
ゴールドムンド、エミネント、サウザーなど、である。

Date: 12月 21st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その29)

物量を投入したプレーヤーでなければ聴けない音があることは、何度か書いてきている。

私が小さいころには、テレビから「大きいことはいいことだぁ」というコマーシャルが頻繁に流れていたし、
EMTの930st、927Dst、トーレンスのリファレンス、
マイクロのRX5000 + RY5500、SX8000IIといったプレーヤーの音に惹かれてきたからこそ、
いまでもそう思ってしまうのだろうが、
そう思う理由は、カッティングマシーンという存在にあるのではなかろうか。

カッティングマシーンといえば、1990年頃だったと記憶しているが、
ある人から、「カッティングマシーンの出物があるけど、買わない?」という話が来た。
価格は驚くほど安かった。
無理すれば買えない金額ではなかった。
けれど、設置場所のことを考えると、購入したところで結局は手離すことになってしまう。
それに、カッティングマシーンが再生用のレコードプレーヤーとして理想的なものかというと、
決してそうでないことを知っていたので、買わなかった。

そのころは、カッティングマシーンへの憧れは持っていなかった私も、
オーディオに関心をもちはじめたころは、そうではなかった。
カッティングマシーンこそが、再生においても理想的なマシーンである、と盲目的に信じていた。
だからトーンアームは一般的な弧を描くタイプではなく、
リニアトラッキング型こそが理想である、と信じていた。

まだリニアトラッキング型のトーンアームを備えたプレーヤーの音を、
なにひとつ聴いたことがなかったにもかかわらず、である。

Date: 12月 11th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その28)

アナログプレーヤーのデザインについて書いている。
Air Force Oneのデザインがよくないことを書いている。

これを読まれる方の中には、音がいいのだから、
しかもこれだけのアナログプレーヤーの開発は今後望めないともいえる状況で、
Air Force Oneは登場してきたのだから、音に関係のないデザインのことなど、
どうでもいい、些細なことではないか。
欲しいのは音のいいプレーヤーであり、デザインのいいプレーヤーではない、
と思っている人もいても不思議ではない。

でもそうだろうか、ほんとうにプレーヤーのデザインは音に関係ないのか。
そうでないことは、オーディオ機器のサイズが音に与える影響のことを書いている。

スピーカーからの音が金属のかたまりであるAir Force Oneにあたる。
音の波紋のひろがっていくのを、Air Force Oneの大きなサイズが少なからず乱す。
それだけでなく金属のかたまりだから、Air Force Oneにあたった音は、
ほとんど吸音されることなく反射して、
その反射音を含めて聴き手は聴くことになる。

聴感上のS/N比の劣化が起ってしまう。
つまりこれはAir Force Oneの開発の主眼にある「限りない静粛性を求めること」を阻害している。

ただAir Force Oneの、この部分に関しては、
「無限大に近い回転精度と限りない静粛性を求めること」とあるから、
ターンテーブルのプラッターの回転精度と静粛性のことであり、
Air Force Oneの聴感上のS/N比の追求のことではないとも読める。

そうであっても、回転の静粛性は聴感上のS/N比に直接関係していることであり、
Air Force Oneは聴感上のS/N比の高さをも求めているはず。

Air Force Oneの聴感上のS/N比は、おそらく高い、と思われる。
それで充分じゃないか、と思われる人もいるだろうが、
私はAir Force Oneが、本当の意味でのデザインを追求していたら、
さらに聴感上のS/N比を増すことになっていたと考える。

Air Force Oneはこれから先10年、20年と使っていけるプレーヤーであるだろうし、
音に関しては色褪せないことだと思う。
そういうプレーヤーだけに、デザインはより大切なことなのだ。
10年後、20年後、Air Force Oneのデザインはどう思われているか、どう受けとめられているか、
それをAir Force Oneの開発スタッフは一度でも想像したのだろうか。

Air Force Oneが美しいプレーヤーシステムに変貌を遂げたとき、
Air Force Oneは完成する、と思う。

Date: 12月 11th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その27)

1979年のマイクロのRX5000 + RY5500から始まった、
重量級のターンテーブルプラッターを糸ドライヴで回転させる、という、
もっともプリミティヴな方式は、1981年にエアーベアリング方式を採用したSX8000の登場で、
重量級のターンテーブルプラッターで避け難い欠点で軸受けから発生する機械的ノイズを抑え、
1984年にSX8000IIになり、プレーヤーとしてのまとまりを身につけ、
2012年、この方式としては考えられる最高の性能をAir Force Oneは実現している。
そういえると思う。

この点ではAir Force Oneを高く評価したい。
だから「いまどき、よくぞこういうモノをつくった!」と思ったのだ。

それでもAir Force Oneはマイクロ時代のSX8000IIを凌駕しているといえるだろうか。
Air Force Oneの音は聴いていない。
この時代に、こういう性格の製品だから、じっくり聴く機会はほとんどないかもしれない。
SX8000IIと直接比較試聴できる機会は、さらにないだろう。

それでもAir Force Oneは、すべての点でSX8000IIを凌駕しているとは思えないのだ。

SX8000IIも物量を投入した金属のかたまり的なプレーヤーではあるが、
トーレンスのリファレンスやゴールドムンドのリファレンス、それにAir Force Oneと比較すると、
コンパクトに仕上げられている。

このことが音に与える影響について、Air Force Oneは充分な配慮が為されているとは思えないからだ。
トーレンスのリファレンスが同一空間に、
聴いている時に視覚内にあるだけで音に大きな影響を与えることは、すでに書いているとおりである。
金属のかたまり、それもある程度以上の大きさをもつ機器が、
スピーカーと聴き手の間に存在していれば、音への影響は無視できなくなる。

記憶のなかでの比較になってしまうが、
Air Force OneはSX8000IIよりも大きい。かなり大きく感じる。
このAir Force Oneを部屋のどこに設置するのか、
部屋が狭くなるほどに、この問題は反比例に大きくなっていく。

この点への配慮は、Air Force Oneにはほとんどない、といえる。

オーディオ機器のサイズは、絶対的でもあり相対的でもある。
部屋が充分な広さがあれば、
ただしAir Force Oneクラスの大きさにとって充分な広さは相当なものであるけれど、
それだけのスペースが確保できる層の人たちに対してだけのアナログプレーヤーなのかもしれない。

オーディオ機器のサイズは、デザインの領域である。

Date: 12月 10th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その26)

一年ほど前、別項で「オーディオのデザイン論」が、
ステレオサウンドの45年をこえる歴史の中で、ほとんどなかった、ということを書いている。

そこでも書いていることをまたくり返すが、
2008年のステレオサウンド 166号の特集「オーディオコンポーネントの美」も、
「オーディオのデザイン論」ではなかった。

こういうことを書いている私も、ステレオサウンド編集部にいたときに、
「オーディオのデザイン論」といえる記事をつくっていたわけではない。
あの頃の私は、「オーディオのデザイン論」の記事をつくろうとしても、
つくることはできなかった、と思う。
反省もある。

ステレオサウンドに対して、
ときどき否定的、批判的なことを書いている、と受けとめられている人もいる、と思う。
でも、私はステレオサウンドというオーディオ雑誌に人一倍思い入れがある。
ステレオサウンドが、ほんとうに面白いオーディオ雑誌になってほしい、といまでも思っている。
だから書いている。

いまのステレオサウンドに欠けているいくつものことのなかで、
もっとも大きいのが、この「オーディオのデザイン論」だと私は思っている。
またくり返すが「オーディオのデザイン論」は、いまのステレオサウンドだけではなく、
これまでのステレオサウンドについてもいえることなのだが。

国内メーカーから、Air Force Oneのデザイン、マイクロのSZ1のデザインが出てしまうのは、
「オーディオのデザイン論」がステレオサウンドになかったことが遠因になっている──、
とすら私は思っている。

いまの私は「オーディオのデザイン論」といえる記事をつくれる。
けれど私は、ステレオサウンドとは無関係の人間であり、
すでにAir Force Oneは、あのデザインで世に出てしまっている……。

Date: 12月 10th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その25)

2011年のインターナショナルオーディオショウのステラヴォックスジャパンのブースで、
Air Force Oneを見た時の「なぜ、こんなふうにしてしまった……」は、
Air Force Oneのデザインについて思ったことである。

おそらくAir Force Oneの開発スタッフは、
Air Force Oneの性能、音だけでなく、デザインに関しても誇っていることだろう。
でもAir Force Oneのデザインは、どう贔屓目にみても、これを美しいとは思えない。

私がAir Force Oneを見た瞬間にどう思ったかについては、
それはあまりにもひどいことを書くことになってしまうから、
具体的に書くことはやめておく。
ひとつでも書いてしまうと、次々と書きたくなってしまうから……。

これだけの製品の開発においては、信頼できる外部の人にも試作品を見せて聴いてもらい、
意見をもらっていることだろう。
だとしたら、そこでAir Force Oneのデザインについて、誰も苦言を呈さなかったのか。
それともAir Force Oneのデザインを素晴らしい、とでもいったのだろうか……。

オーディオ評論家を名乗っている人には、書き難いことがあるのはわかる。
だからAir Force Oneについてオーディオ雑誌に書くときに、
あえてAir Force Oneのデザインについて触れない、という書き方もするかもしれない。

並のプレーヤーとはあきらかに異質の、
このAir Force Oneのデザインについて何も書かない、ということは、
つまりはそういうことである。

でも、中にはAir Force Oneのデザインを優れている、とか、美しい、とかいう人も出てくるかもしれない。
たぶん、いると思う。
そういう人が、どうして音の美を判断できようか。

それにしても、
Air Force Oneの開発の主眼に書いてある「使い易さと美しさに最大限にこだわる」ということは、
こういうことなのだろうか。

Date: 12月 9th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その24)

2011年、インターナショナルオーディオショウのステラヴォックスジャパンのブースに、
一台のアナログプレーヤーがあった。
見た瞬間に、それがマイクロのSX8000IIの流れを汲み、さらに徹底させたモノであることはわかった。
このプレーヤーの名称は”Air Force One”。

Air Force Oneではあるけれど、私は勝手に心の中でSX8000IIIと名付けていた。

SX8000は1981年、SX8000IIは1984年に登場している。
SX8000IIがいつ製造中止になったのか、正確には記憶していないけれど、
2000年、2001年までは現役のプレーヤーであったはずだ。

SX8000IIが約10年ぶりに復活した、と素直にそう喜びたかった。
けれど目の前にあるAir Force Oneは、
いまどき、よくぞこれだけのモノをつくった! と素直にそういえるところをもつとともに、
なぜ、こんなふうにしてしまった……、と思わないでいられなかった。

Air Force Oneは650万円(税別)という価格がつけられている。
650万円という価格は安いとはいえない。
Air Force Oneは高価なターンテーブルである。

けれど、Air Force Oneに注がれている技術を丹念に見ていくと、
決して法外な価格設定とはいえないし、
生産台数を考えると、むしろ(安いとはいいたくないので)お買得かも……、
そう思えるくらいの内容をもつ製品だとは思う。

なので、このAir Force Oneも、
SX8000IIと同じくらいロングセラーを続けてほしい、という気持はある。
けれどAir Force Oneのデザインのことについて黙っていられない。

しかもAir Force Oneのカタログ(販売元のステラのサイトからダウンロードできる)には、
Air Force One開発の主眼に置いたのは次の内容です、という記述があり、
そこには、次の項目が掲げられている。

全ての高級オーディオ製品の目標である不要振動を完全に除去すること
無限大に近い回転精度と限りない静粛性を追求すること
外来振動を完全にシャットアウトすること(カタログには「外来振動の」となっているが「を」の間違いだろう)
全てのトーンアームの取り付けを可能とすること
使い易さと外観の美しさに最大限こだわること
プラッター(ターンテーブル)に選択可能な多様性を持たせること
静粛性に優れリップルの全く無いエアーポンプシステムを開発すること

五番目の項目に「使い易さと外観の美しさに最大限こだわる」とある。
使い易さと外観の美しさ──、
これはいいかかれば、プレーヤーシステムとしてのデザインのことである。

Date: 12月 8th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その23)

こんなことは書く必要はないと思うが、
音に影響を与えるのは、なにもトーレンスのリファレンスだけではない。
このクラスの、金属のかたまり的なオーディオ機器であれば、
トーレンスのリファレンスと同じようにスピーカーから出てくる音に影響を与える。

トーレンスのリファレンスは大型のプレーヤーではあるが、
リファレンスと同等、それ以上の大型のプレーヤーはいくつか出ているし、
この話はアナログプレーヤーだけに限らず、他のオーディオ機器(おもにパワーアンプ)にもいえる。

今月のaudio sharing例会で、ジェフ・ロゥランドDGのパワーアンプの話が出た。
Model 8Tは、いいアンプだと思う、と話した。
これに対して「Model 9Tよりも、ですか」と訊かれたので、「そう思っている」と答えたのには、
理由がある。

それは、いまここで書いている大きさに関係することである。

Model 9TとModel 8Tとでは、アンプとしての規模が大きく異る。
Model 8Tは1シャーシーなのに対し、Model 9Tは4シャーシーである。

ステレオ仕様で電源部内蔵のModel 8T、
モノーラル仕様で、外部電源構成をとるModel 9Tとでは、
リスニングルーム内で占める空間は1:4である。

Model 8TもModel 9Tもトーレンスのリファレンスと同じで、
アルミのかたまりである。

パワーアンプとしてのリファレンスを追求した結果であるModel 9Tは、
設置が非常に難しい、ともいえる。
部屋の広さが、40畳、60畳くらいあれば、それほど神経質に考えることも求められないが、
20畳程度であれば、Model 9Tの設置にはそうとうに神経を使うことになるし、
理想的な設置条件を20畳程度の空間で実現するのは、想像以上に困難としかいいようがない。

恵まれた空間であればModel 9Tがよくても、
現実の、それほど広くない部屋においては、現実的なModel 8Tのほうが、いいアンプといえる。

アンプとしての性能、実力はModel 9Tのほうがまちがいなく高いであろう。
けれど20畳程度の部屋ではModel 9Tが同じ空間に設置されることによる影響と、
Model 9Tの性能・実力を天秤にかけることになる。

だから私は、日本人として、かなしいけれど、それほど広い空間をもてない者として、
Model 9TよりもModel 8Tのほうを高く評価するわけである。

Date: 12月 8th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その22)

私が勤めていたときのステレオサウンドの試聴室の広さは、約20畳ほど。
決して狭い空間ではない。
20畳より広い、もっと広い空間、40畳とか60畳といった広さの空間をリスニングルームとされている人もいる。
けれど20畳は、いまでも日本人の多くにとっては広い空間になるのではないだろうか。

そんな20畳の空間においてもトーレンスのリファレンスは、
音に影響を与えるほどに大きい金属のかたまりということになる。
20畳よりもずっと広い空間であれば、
トーレンスのリファレンスの設置による音への影響は比率として小さくなっていく。

ステレオサウンドの試聴室では椅子の前にヤマハのGTR1Bを4台並べていた。
GTR1Bの左端には専用のプレーヤー台があり、そこにリファレンスとして使うアナログプレーヤーが置かれる。
ステレオサウンド 77号の試聴ではトーレンスのリファレンスは、GTR1Bの右端に置かれていた。

椅子の後にリファレンスを置いていれば、
音の影響はもう少しどころか、そうとうに減ったと思われるが、
だからといって部屋の隅に設置してはまずい。

アナログプレーヤーは、いうまでもなく設置場所によって音は変化するし、
ハウリングの出方も変化していく。
なにごともやってみなければわからないところがあるというものの、
原則として部屋の隅にアナログプレーヤーを置くことはしない。

なぜなのかは、実際にやってみればすぐに理解できるはず。

トーレンスのリファレンスといえば、菅野先生のリファレンスプレーヤーである。
菅野先生がご自身のリスニングルームのどこにリファレンスを設置されているか──、
それは、ここしかない、という場所である。