Archive for category アナログディスク再生

Date: 6月 24th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その10)

ビクターの吸着力が、ラックス、マイクロよりも低く設定されているのは、
ビクターの考え方として、あくまでもレコード盤の制動のためであり、
これ以上吸着力を高めても制動という点ではあまり変りがないため、らしい。

つまりはビクターは吸着によってレコードの反りを矯正しようという考えはなかった、とみるべきかもしれない。
その点、ラックス、マイクロ、それからオーディオテクニカは反りの矯正ということも考えている、とみえる。

ステレオサウンドの試聴室でマイクロのSX8000IIを数年間使ってきて、
吸着機構に不満を感じたことはなかった。
ボタン操作ひとつで吸着とその解除が確実に行える。

ステレオサウンドの試聴で、特に指定がないかぎり、つねに吸着しての使用だった。

SX8000IIがあれば、レコードの反りに神経質になることはない。
だがSX8000IIはそうそう誰にでも買える価格ではなかった。

SX8000IIはターンテーブルユニットの型番で、モーターユニットはRX5500II。
このふたつにアームベースAX10Gと空気バネ式のベースBA600を組み合わせると1518000円、
2000年には1970000円になっていた。

これだけのシステムが買える人でも、吸着に抵抗感をもっている人もいたはず。

吸着に頼らずにレコードの反りに対応するための工夫は、1970年の終りからいくつか登場しはじめていた。

Date: 6月 23rd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その9)

マイクロからSX8000IIが発表された。
前作SX8000がエアーフロートによるベアリングを採用、
II型になりレコードの吸着機構も搭載されるようになった。
外観もずいぶん変った。

SX8000はステレオサウンド試聴室のリファレンスプレーヤーとなることはなかったが、
SX8000IIはすぐさまリファレンスプレーヤーとして常備されることになった。

SX8000IIが、私にとって初めて実際に触るレコード吸着のプレーヤーシステムだった。

SX8000IIは外部に専用ポンプもつ。
けっこうな大きさで、このポンプ一台でターンテーブルプラッターを浮かし、レコードの吸着も行う。
もちろん電動ポンプである。

電動ポンプという点ではビクターのTT801+TS1と共通するが、
ビクターが常時レコードを吸着しつづけているのに対し、
マイクロは吸着が完了したら、そのためにポンプは動作しない。
ターンテーブルプラッター浮上のためのみに働く。

ビクターでは吸着力はレコード盤は重量換算で4kgぐらい(レコード盤全体で4kgくらいの荷重)、という。
それほど強い吸着力ではないため、吸着を解除しなくともレコードを難なく取り外せるらしい。
ラックスは50kgぐらい、で、吸着を解除しないとレコードは取り外せない。

マイクロはどのくらいの吸着力なのかはわからないが、かなりのものである。
一度吸着してしまえば、レコードを取り外すためには吸着を解除しなければならない。
これだけの吸着力のおかげで、多少の反りがあってもぴたりとターンテーブルプラッターと一体化する。

Date: 6月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その8)

レコードの吸着システムは、個人的には使ったことがなかった。
ラックスのPD300が登場した時も、吸着そのものには興味を持ったけれど、
PD300というプレーヤーそのものに興味を持てなかった。

なにもPD300はダメなプレーヤーだということではなくて、
PD300がラックスでなく他のメーカーの製品であったなら、興味の持ち方も変っていたかもしれない。

ラックスだったから、興味をもつことはなかった、のは、
どうしてもラックスのプレーヤーといえばPD121の印象が私にとっては強すぎるからだけで、
PD121のラックスが、こんな格好のプレーヤーをつくるのか、
という、こちら側の勝手な思い込みのようなものが裏切られた感じがしただけのことである。

プレーヤーキャビネットの前面右側に吸着機構のレバーがついているのも、気にくわなかった。

PD300はステレオサウンド 58号の第二特集The Matchの中で取り上げられている。
PD300の比較対象として選ばれていたのは、やはり吸着機構をもつビクターのTT801+TS1。

PD300が手動ポンプ、TT801+TS1は電動ポンプ、
それからベルトドライブとダイレクトドライブという違いがある。

それ以外にも吸着そのものに対する考え方、その機構・動作にも違いがあるが、
ここでは関係ないので省略する。

オーディオテクニカのAT666はPD300よりも関心をもっていた。
ターンテーブルシートだから、手持ちのプレーヤーに使えることも、
ターンテーブルシートの価格としては高価に感じても、吸着機構付きだからと思えば、そうでもなかったからである。

でもこれも結局は試すこともなかった。
前述したようにチューブの装着・脱着が、
アナログディスクを聴く時には、ターンテーブルを停止させることがない私には、
ことさら面倒に感じからである。

ステレオサウンドの記事を読んでも、まだまだ吸着技術そのものが未熟なようにも思えていた。

Date: 6月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その7)

カートリッジの針先がトレースするのは、
塩化ビニールを主材料とした円盤に刻まれた溝である。
ラッカー盤とは異り、平面性においては理想的にはほど遠い。

保管の仕方が悪ければ反ってくるし、
新品のレコードであっても反っているモノもあったし、
見た感じでは反っていないようであっても、
カートリッジの針先から見れば反りが完全にないディスクはないのではなかろうか。

反りがあれば、その部分ではトレースが阻害される。
まったく反りがない、どんな保管の仕方をしても反りが生じないレコードばかりであれば、
トーンアームは、いまの形態とはまたく異っていたかもしれない。

トーンアームはレコードには反りが多少なりともあるものとしての設計である。

反ったレコードはターンテーブルプラッターに吸着してしまえばいい、という考え方は以前からある。
現実の製品もいくつか存在していた。
ラックスは1980年にPD300というアームレスターンテーブルを発表した。
手動ポンプによるレコード吸着だった。

1982年ごろにはオーディオテクニカから、手動ポンプによる吸着機構をもつターンテーブルシートAT666が出た。
上級機のAT666EXは乾電池を使った電動ポンプ。
AT666はどんなプレーヤーでも吸着機構が使える反面、
吸着時にはポンプとシートをチュープでつないでレコードの吸着後チュープをはずして、という、
やや使い勝手の悪さがあるのは止むを得ないといえよう。

Date: 6月 21st, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その6)

アナログプレーヤーはメカニズム主体のオーディオ機器であり、
メカニズム主体であることがアナログプレーヤーの魅力ともなっている。

手抜きの感じられない精緻でしっかりしたメカニズムは、それだけで頼りになる印象を使い手に与える。
このプレーヤーなら信じられる──、
そういうおもいを抱かせてくれるプレーヤーを欲してきたし、使ってもきた。

そんな私だから、トーンアームに関しても電子制御という方式に対しては、
これまではそっけない態度をとってきた。
触ったこと・聴いたことがない、ということも関係しているが、それだけではない。
やはりメカニズムだけで、そこに電子制御ということを介入させないでほしい──、
そういう気持が強かった。

だがアナログプレーヤーを構成するターンテーブルとトーンアームを、
まったく同じに考え捉えるわけにはいかない。

ターンテーブルは静止しているが如く静かにブレずに回転してくれればいい。
いかなる変動に対しても影響を受けることなく、毎分33 1/3回転、45回転を維持してくれればいい。
ターンテーブルは、いわば回転する土台である。

それに対してトーンアームはどうか。
トーンアームはカートリッジの支持体であり、
カートリッジレコードの外周から内周への移動を支える。

Date: 6月 20th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その5)

ソニーのPS-B80のステレオサウンドでの評価はどうだったかというと、あまり芳しいとはいえなかった。
51号のベストバイには選ばれているものの、柳沢功力氏のコメントを読んでもそうだし、
55号のベストバイには選ばれていなかった。
59号では岡先生と菅野先生が一点ずつ入れられていたものの、写真だけの掲載だった。

PS-B80より一年ほど前に登場していたPS-X9の方が、59号においても評価は高かった。

そういうわけでステレオサウンドだけを読んでいても、PS-B80の音については知ることが出来なかった。

PS-B80のプレーヤーシステムとしての評価はあまりいいものではないことはわかるのだが、
それを電子制御トーンアームのもつ可能性に重ねてみてはいけない。

電子制御トーンアームの可能性はどうだったのか。
読者としてもいちばん知りたかったのは、このことである。

1980年の11月ごろに、ステレオサウンド別冊としてAUDIO FAIR EXPRESSが出た。
当時晴海で行われていたオーディオフェアを取材した一冊である。

このムックの中に、「海外からのゲスト12氏 オーディオフェアについてこう語る」という記事がある。
ここに登場しているのは、オルトフォンの技術担当副社長イブ・ピーターセン、
SME社長A・ロバートソン・アイクマン、ロジャース社長ブライアン・P・プーク、
QUAD社長ロス・ウォーカー、コス取締役副社長グレゴリー・コーネルス、
スレッショルド社長ネルソン・パス、タンノイ社長ノーマン・クロッカー、
タンノイ広報担当取締役T・B・リビングストン、アルテック プロ機器担当副社長ロバート・T・デイビス、
JBL開発担当副社長ジョン・M・アーグル、KEF社長レイモンド・E・クック、
リン セールスマネージャ チャールス・J・ブレナン。

SMEのアイクマンはこう語っている。
     *
会場ではどうしてもアームやプレーヤーが気になるんですが、中でもリニアモーターを使ったパイオニアのアームですね。技術的な説明もひじょうによくされていたし、製品としてもたいへんに興味を感じました。技術的なチャレンジとしても意味のあるものですね。それから、ソニーの電子制御アーム、これも私にとって興味をいだかずにはいられないもののひとつでした。
     *
アイクマンが、電子制御トーンアームの、どういうところに興味をもったのかは、
この記事からはこれ以上のことはわからないが、
トーンアーム専門メーカーをひきいてきたアイクマンが興味をもつということは、
実際の製品の出来はともかくとして、可能性としては注目してもいい、
(私は実物も見ていないけれど)注目すべきものだった、ともいえよう。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その4)

ソニーは電子制御のトーンアーム技術にバイオ・トレーサーと名称をつけていた。
ステレオサウンド 49号に掲載されたPS-B80の広告のキャッチコピーは、こう書いてあった。
     *
スタティックバランスアームの黄金時代は、もう10数年も続いてきました。
しかし──
5つの、「電子の眼」を持ち、128ワード×4ビットの「電子頭脳」を持ち、
垂直・水平ふたつのリニアモーターで駆動する電子制御アームの出現は、
ひょっとしたら、流れを変えてしまうかも知れません。
     *
トーンアームの透視図も載っていた。
とはいっても、この透視図を見ても、具体的にどういう仕組みになっているのかを完全に理解するのは無理だったし、
これだけでは、ソニーのバイオ・トレーサーがどの程度の可能性をもつ技術なのかも判断もできなかった。

それでも、とにかく新しい技術が登場してきたことはわかるし、
少しでも理解したい、とは思っていた。

ただPS-B80に搭載されていた電子制御トーンアームは、新しい形とはいえなかった。
試作品がそのまま登場してきたような仕上りだった。

パイプ部とヘッドシェルに関しては通常のトーンアームと同じ。
軸受けまわりがずいぶんと違う。
PS-B80は超軽の金属ケースからアームパイプが出ている。

この長方形の金属ケース内にセンサーや垂直・水平のリニアモーターが内蔵されているわけだが、
それにしても大きい、と感じさせる。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その3)

ソニーのPS-B80について、新製品のページを担当されていた井上先生は、
未来指向のアイデア豊かな製品ということで興味深いと思います、と、
山中先生は、
実際に使ってみると大変ユニークで、
ある面ではこれからのトーンアーム、フルオートプレーヤーとしての一つのあり方を示していると思います、
とそれぞれ語られている。

ここだけ読めば評価されているのかと思えるのだが、
この発言に続いて同時期の新製品、パイオニアのExclusive P3について語られているのを読むと、
そうも思えないところもあった。

井上先生は、
エレクトロニクス・コントロールでいくら努力しても、やはり基本的なメカニズムがしっかりしていないと、
どっしりと腰のすわった音を出すことが難しいということをはっきりと示しています、と、
山中先生はメカニズムが基本であり、全てであるということを改めて考えさせられる製品です、と発言されている。

ここでのメカニズムは主に回転系のことを指しているわけだが、
トーンアームも含めて、というふうにも読める。

PS-B80については井上先生が紹介記事を書かれているけれど、
音については触れられず、機能解説であった。

そうでなくともアナログプレーヤーはメカニズムが肝心と思っていた私は、
PS-B80を聴いてみたいとは思わなかった。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その2)

電子制御トーンアームはあった。
B&Oのリニアトラッキングアーム搭載のアナログプレーヤー、Beogram4002、6000などがそうである。
電子制御によってリニアトラッキングアームを実現している。

ここで書きたいのは1980年前後から国産のアナログプレーヤーに採用されはじめた電子制御である。
ソニーのPS-B80(200000円)、ビクターのQL-Y5(69800円)、QL-Y7(96000円)、
これらが早くに電子制御のトーンアームを搭載している。

記憶違いでなければソニーのほうが早かった。

その後、デンオンからDP-57M(69800円)、DP57L(79800円)、DP67L(95000円)、
DP100M(960000円)らが登場、
ソニーはローコストモデルにも電子制御トーンアームを搭載するようになり、
ビクターも新製品をいくつか出していた。

これらはすべてリニアトラッキングアームではなく、一般的な弧を描くタイプのトーンアームである。

トーンアームの電子制御に当時最も積極的だったイメージがあるのはソニーである。
少なくともステレオサウンドに載っていた広告を見ていて、私はそう感じていた。

そのソニーのPS-B80がステレオサウンドに載ったのは49号、新製品紹介のページであり、
広告も49号がはじめてである。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その1)

アナログプレーヤーの魅力はメカニズムの魅力ともいえる。
電子制御に頼らずに、モーターという駆動源があれば、他に電気を必要としない。
それだけに正確で静粛な回転を得るには、
精度が高くも強度も高いメカニズムが必要になり、そういうものはどうしても高価になってしまう。

ここに電子制御が加われば、メカニズムの精度、強度を落としてもカタログ上のスペックでは、
昔ながらのアナログプレーヤーよりも優れた数値となる。

電子制御によってアナログプレーヤーは大量生産ができるようになった、ともいえる。
そのせいもあって、音のいいプレーヤーとなると、メカニズムのしっかりしたモノということになっている。
私自身も、マイクロの糸ドライヴも使ってきたし、EMTのリムドライヴを愛用してきた。

どちらも回転系に電子制御のかかっていないプレーヤーである。

アレルギーとまではいかないまでも、アナログプレーヤーに電子制御は必要なのか、とずっと思ってきていた。
そういえば、瀬川先生は、ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
DDモーターでもクォーツロックをかけたプレーヤーは、
音がハードになるとか、味もそっけもなくなるという批判が聞かれるようになってきたし、
確かな裏づけはないものの、クォーツロックでないプレーヤーのほうが、
ひと味ちがった音をもっているように思える、と発言されている。

いまでも回転系に電子制御は必要なのか、と思っている。
けれど、アナログプレーヤーで電子制御を取り入れてみたら、どうなるのか、と期待しているのが、トーンアームだ。

Date: 6月 12th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その22)

どういう人ならば、アナログプレーヤーを使いこなしているのか。

キャリアが長い人なのか、
名器といわれるアナログプレーヤーを使っている人なのか、
これまで多くのアナログプレーヤーを使ってきた人なのか、
いくつものカートリッジを持っている人なのか──。

どれもあてにはならない。

キャリアの長い人でも実にいい加減な使い方をしている人はいる。
キャリアが短くともきちんと使っている人もいる。

音がいいといわれているプレーヤーを使っていても、
世評の高いカートリッジをいくつも持っていても、使いこなしのできていない人はいる。
それほど高価なプレーヤーでなくとも、きちんと使いこなしている人だっている。

人さまざまであり、こういう人ならば、アナログプレーヤーを使いこなしているということは、
確実なことは何も言えない。

数年前のインターナショナルオーディオショウでも、
あるオーディオ評論家の人(私よりもひとまわりくらい上)が、あるブースでLPをかけていた。
アナログプレーヤーの操作はそのブースのスタッフにまかせずにやられていたのだが、
そのおぼつかないことといったら──、自覚がないのだろうか。

私は瀬川先生がレコードをかけかえられるところを何度も何度も見詰めてきた。
レコードはこうかけるもの、ということをそこで学んできた。

いま、こういう人がほとんどいないように見受けられる。

Date: 6月 11th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その21)

ゴードン・ガウの言葉を借りるまでもなく、
音の入口にあたるアナログプレーヤーがきちんと設置・調整されていなければ、
システムの調整をやってもうまくいかないことは明白である。

井上先生も何度も、このことは強調されていた。
音をつめていく作業は、音の入口から順にやっていくこと。
つまりアナログプレーヤーをきちんと調整する。
それからアンプ、そしてスピーカーという順にやっていく。

うまく調整がいけば、調整前よりも細かな音の違いがより明瞭に聴こえるようになる。
だからまた音の入口のアナログプレーヤーの調整を、さらにつめていく。
そしてアンプ、スピーカーへの順で行う。

これを何度も何度もくり返しシステムをつめていくのが基本。
気が向いたところから手をつけていっても、音の入口であるアナログプレーヤーがいいかげんな状態であれば、
アナログプレーヤーで発生している不具合を、
アンプやスピーカーのところでなんとかしようと悪戦苦闘しても、実際はなんともならない。

アナログプレーヤーの不具合は、アナログプレーヤーの設置・調整をきちんとやる以外にやりようはない。

そのアナログプレーヤーの調整をきちんと行うためには、
アナログプレーヤーをきちんと設置する必要がある。
設置がいいかげんなままでは、それこそ何を調整しているのかわからなくなる。

アナログプレーヤーの調整に限らず、オーディオで大事なことは、
いま自分がやっていることは、何をどうしているか、ということをはっきりとさせることである。

そんなことわかっているよ、というだろう。
自分はカートリッジの調整をやっている、と。

だがプレーヤーの置き台(ラック)がガタついて、水平も出ていない状態。
プレーヤーの水平もあやしい状態で、何を調整しているといえるのか。

そして意外にもトーンアームのゼロバランスがきちんととれていない例も少なくない。

Date: 6月 11th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その20)

花村圭晟氏がいわれる「単純な取り扱い上のミス」は、日本のオーディオマニアに限ったことではない。
アメリカのオーディオマニアもそうだ、ということが、ステレオサウンド 64号掲載の記事を読めばわかる。

Spirit of Audio-scienceとつけられた記事は、
マッキントッシュのゴードン・ガウのインタヴューをまとめたもの。
副題は「私は音の仕立屋(サウンドテイラー)になりたい ヴォイシング(音場補正)をめぐるインタビュー」。

「オーディオ製品は、ディズニーのミッキーマウスのようなキャラクター商品ではないのです」
ゴードン・ガウのこの言葉のあとに、アナログプレーヤーに関する発言が続く。
     *
実は、ヴォイシングにうかがうと、まず最初にカートリッジが正しくプレーヤーに取りつけられているかどうかチェックすることから始めるのです(笑)。ディーラーと協力して調査した結果、実に6割のユーザーが、オーバーハング、トラッキングアングル、インサイドフォース・キャンセラー、針圧の調整の不備によって、正しくカートリッジを使いこなしてません。超楕円針がこれほど普及してきた今日、レコードの音溝に対して5度傾いていても、多量のIM歪の発生につながります。XRT20は、とりわけIM歪を減らすことを重要な課題として設計されていますから、カートリッジ出力からIM歪だらけの信号を再生していたのでは、お話になりません。
いくら、ヴォイシングで調整しても左右の拡がりのバランスがとれないと思って調べてみると、シェルに正しくカートリッジが取りつけられていなかったりする。音溝の左右に均等に針圧がかかっていないケースが非常に多いのです。
いくら高価な装置を買いそろえても、音の入口がその状態では、ヴォイシングの意味はなくなってしまいます。
     *
ステレオサウンド 64号は1982年9月発売だから、まだCDは登場していない。
この時代のアメリカでも、マッキントッシュのアンプ、スピーカーを購入する人たちでも、
六割の人がカートリッジを正しく使いこなしていない、という事実。

いまはどうなっているのだろうか。

Date: 6月 10th, 2014
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その19)

ステレオサウンド 63号には、オーディオクラフト・ニュース No.5が掲載されている。
そこにこう書いてある。
     *
 このような問題点も、カートリッジのものに起因するもともと偏差の大きいカートリッジでない限り、意外と単純な取り扱い上のミスによるものが少なくありません。
 その何点かを列記すると
 ①ヘッドシェルの水平度、またはカートリッジの取り付けが不備である場合。
 ②レコード面の水平度が不十分である場合。
 ③レコードプレーヤーそのものの水平度が出ていない場合。
 レコード再生時のトラブルはこのような要因が圧倒的に多く、水平度のくるいから生ずるカートリッジの誤動作、とりわけクロストークバランスに影響してくる誤動作は、高域の不快な歪感をつきまとわせる結果となります。
(中略)
 一般的に、レコードプレーヤーキャビネットの水平チェックはするが、レコード面の水平度はチェックしにくいことも手伝って、確認されていないケースが多いように思われます。弊社のようにワンポイント方式のトーンアームを作っていると、ユーザーの方から〝どうしてもラテラルがとれない〟といった苦情をいただくケースが多いのですが、実際に調べてみると反ったレコードをターンテーブルを止めたまま調整していることが良くあります。ターンテーブルが回転していれば、反ったレコードですとカートリッジが上下にゆれますから気付くのですが、調整確認のためターンテーブルが止まっている場合が意外に多いのです。
     *
ステレオサウンド 63号は1982年6月に出ている。
CDはまだ登場していなかった。
このころでさえ、こういう状況だったことがわかる。

Date: 6月 10th, 2014
Cate: アナログディスク再生, 広告

アナログプレーヤーの設置・調整(その18)

ステレオサウンド 59号から、オーディオクラフトの広告はがらっと変った。
確かに広告ではある。オーディオクラフトの製品を紹介はしている。
けれど、全体的な印象は、花村圭晟氏による記事でもあった。

オーディオクラフト・ニュースと扉のページにある。
いまステレオサウンドに掲載されている、いかなる広告ともはっきりと異る。
すへての広告がこうなるべきだ、とはいわないが、
この時代、こういう広告をしかるべきお金を払ってステレオサウンドに払って、
いわぱページを買い取っての掲載で、そこでの内容は広告であっても広告ではない内容でもあった。

ジョン・カルショーについて書かれたこともある。
オーディオメーカーの広告に、デッカのプロデューサーだったジョン・カルショーの名前が出てくる。
それは、ジョン・カルショーの本「ニーベルングの指環・プロデューサーの手記」の再版要望だった。

これはステレオサウンド 62号に載っている。
そして63号で、この本を訳された黒田先生が、「さらに聴きとるものとの対話を」で、
オーディオクラフトの広告についての書き出しで、取り上げられている。

このころのオーディオクラフト・ニュースは抜き刷りにして出してほしいくらいである。
このころのステレオサウンドを持っている人には不要であっても、
30年以上前のステレオサウンドだから、いまでは持っていない人の多いかもしれない。
そういう人のためにも出してほしい、と思うけれど、すでにオーディオクラフトもなくなっている。

花村圭晟氏も行方知らず、ときいている。