Archive for category 岩崎千明

Date: 12月 28th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(ジャズの再生の決め手)

またか、と思われようと、また引用するのが、
岩崎先生のジャズについて文章の一節である。
     *
アドリブを重視するジャズにおいて、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
そろそろ暗誦できるほど読み返しているし、何度かここで引用もしている。

これも何度か書いていることだが、私が主に聴くのはクラシックであり、
ジャズを聴く、といっても、ジャズ好きの人からすれば、お前のジャズを聴く、なんてのは
ジャズを聴いているうちに入らない、といわれてもしかたないくらいの、
ジャズのディスクの枚数だし、聴いてきた時間もクラシックを聴いてきた時間と比較すれば、本当に短い。

そんな私でも、引用した岩崎先生の文章が、オーディオとジャズの本質をついていることは直感としてわかる。
だからこそ何度も読み返し、何度か引用してきた。
その都度、意味を考えてきた。

「その一瞬をくまなく再現することが、ジャズの再生の決め手となってくる」とある。
「その一瞬をくまなく再現すること」とは、いったいどういうことなのだろうか。
そのことを考えていたわけである。

「その一瞬をくまなく再現すること」とは、その一瞬を結晶化させることだ、と思えるようになってきた。
だから別項「ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって)」の(その1)、(その3)で、
ジャズを「いろ」、クラシックを「かたち」とした、
「いろ(ジャズ)」とは、この一瞬の結晶化による「いろ」なのかもしれないし、
その2)で岩崎先生の音を聴かれた菅野先生の表現、
「火花」も、また、この一瞬の結晶化なのではなかろうか。

一瞬の結晶化こそが、ジャズの再生の決め手だ、と、
クラシックばかりを聴いてきた私は、そうおもう。

Date: 12月 24th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(続々・Electro-Voice Ariesのこと)

エアリーズに対しては、さほど関心をもつことはなかった。
私が読みはじめてからのステレオサウンドにはエアリーズは登場していないし、
ステレオサウンドにエアリーズが登場したのは22号だけのはず。

22号の特集は「中・小型フロアー・スピーカー・システム総まくり」で、
1972年3月発行の号だから、エアリーズが登場して約1年後だから、
エアリーズが22号で、どういう評価を得ているのか、いまごろになって関心をもっているのだけれど、
22号は手もとにない。

22号では岡先生、菅野先生、瀬川先生が試聴メンバーで岩崎先生の名前は、そこにはない。
エアリーズは高い評価を得たのか、それともほどほどの評価だったのか。
22号を大きな図書館に行って読めばわかることだが、
なんとなくではあるけれど、絶賛という評価ではなかったように思える。

22号で非常に高い評価を得ていたのであれば、
その後のステレオサウンドに、もう少し登場していてもおかしくないからだ。

私がエアリーズに対して関心が薄かったのは、ステレオサウンドでの扱われ方も大きく影響している。
私のなかではエアリーズの存在は小さかった。
それがここにきて、急に大きくなってきている。

ステレオサウンド 38号をみれば、岩崎先生はエアリーズを鳴らすために、
デュアルのプレーヤー1009にオルトフォンのM15E Superをとりつけて、
アンプはというとマランツの#7と#16のペアがあてがわれている。

エアリーズの価格からすれば、贅沢な組合せといえよう。
それに38号の写真をみればみるほど、
暖炉の両脇に置かれたエアリーズはスピーカーには見えない、家具の一種としてそこに存在している。

パラゴンの置かれていた部屋にはハークネスも620Aも、ヴェローナもあり、
アンプも幾段にも積み重ねられている。
エアリーズの部屋はスピーカーはエアリーズだけである。

だから、またあれこれ考えてしまう。

Date: 12月 23rd, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(続・Electro-Voice Ariesのこと)

エレクトロボイスのエアリーズは、
外形寸法W69.9×H56.5×D41.3cm、重量29.5kgと、サイズ的にはブックシェルフ型に分類されるだろうが、
仕上げを見てもわかるようにエアリーズは床置きを前提としている。
その意味では、小型のフロアー型ともいえる。

エレクトロボイスは、エアリーズを”Console Speaker System”と呼んでいるし、
また”fine furniture design”とも謳っている。

オリジナルのカタログをみると、仕上げは3種類用意されている。
トラディショナル/チェリー、スパニッシュ/オーク、コンテンポラリー/ペカンであり、
岩崎先生が購入されたのはトラディショナル/チェリーである。

ユニット構成は、30cm(12インチ)のウーファー、約15cm(6インチ)のスコーカー、
約6cm(2.5インチ)のトゥイーターからなる3ウェイで、
岩崎先生はスイングジャーナルでの最初の紹介文に「ドーム型の中音、高音」と書かれているが、
写真を見るかぎりでは、コーン型と思われる。

価格は1971年当時で169000円(アメリカでは275ドル)。
安い、とはいえないものの、非常に高価なスピーカーシステムでもない。
エレクトロボイスには、もっと大型で、もっともっと高価なパトリシアン800があった。

パトリシアン・シリーズと比較すれば、エアリーズの影は薄い。
エアリーズは、日本にどれだけ入ってきたのだろうか。
エレクトロボイスのコンシューマー用スピーカーシステムをみかけることは、
JBLやアルテックと較べると、そうとうに少ない。
エアリーズを見かけたことはない。

日本ではそういうスピーカーという見方ができないわけではない。
しかも岩崎先生といえば、
JBLのD130、パラゴン、ハークネス、アルテックの620A、
エレクトロボイスにしてもパトリシアン、と大型スピーカーのイメージが強い。
エアリーズは、どこかサブ的な存在だったように、
ステレオサウンド 38号で岩崎先生のリスニングルームに置かれたエアリーズを見た時、
なんとなくそんなふうにとらえていた。

けれど暖炉のある部屋(パラゴンの置かれた部屋とは別の部屋)に置かれたエアリーズは、
部屋の雰囲気と見事に調和していた。
だから、よけいにサブ的な存在とも思ってしまったわけなのだが。

Date: 12月 23rd, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(Electro-Voice Ariesのこと)

スイングジャーナルのオーディオのページには、新製品紹介のコーナーがいくつかあった。
「SJ選定新製品試聴記」、「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ紹介」、「今月の新製品紹介」で、
「SJ選定新製品試聴記」が2ページ見開き、「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ紹介」が1ページ、
「今月の新製品紹介」が1ページに数機種、コマ割りとなっていた。

岩崎先生は「SJ選定新製品試聴記」と「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ紹介」を担当されていた。
「今月の新製品紹介」は上杉先生と大塚晋二氏だった。
「今月の新製品紹介」を岩崎先生が書かれることはない、とずっと思ってきていた。

ところがスイングジャーナルのバックナンバー(1971年4月号)を手にとってみたら、
「今月の新製品紹介」のページは紹介文の最後に括弧で、筆者名が括られているのだが、
そこになぜか、(岩崎)とあった。

「今月の新製品紹介」の扉には、上杉佳郎・大塚晋二とあるだけだ。
岩崎千明の文字はない。
けれどイレギュラーで、岩崎先生が1コマ(1機種)だけ書かれている。
それが、エレクトロボイスのスピーカーシステム、Aries(エアリーズ)である。

勝手に想像するに、エアリーズに惚れ込まれた岩崎先生が自ら編集部に申し出て、紹介文を書かれたのだろう。
きっとそうだと思う。

その後、エアーズのことは「SJ選定新製品試聴記」(1971年7月号)に書かれていて、
最後に、(本誌4月号新製品紹介も参考ください。岩崎)とわざわざつけ加えられている。

Date: 12月 2nd, 2012
Cate: 岩崎千明

「オーディオ彷徨」(ジャズ・アルバム一覧)

岩崎先生の遺稿集「オーディオ彷徨」に登場するジャズ・アルバムをまとめたもの。
私もつくろうかな、と思っていたところに、ある方が先に作られて提供してくださった。
Amazonへのリンク、コメントも、その方によるもの。

~仄かに輝く思い出の一瞬 -我が内なるレディ・ディに捧ぐ~
ビリー・ホリディ「レディ・ディ・ザ・コンプリート・オン・コロムビア 1933-1944」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0029XIWCY

~あの時、ロリンズは神だったのかもしれない~
ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000YG5

~変貌しつつあるジャズ~
※変貌以前として
アート・ブレーキー「カフェ・ボヘミアVol.1」&「同Vol.2」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005MIZA
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005MIZB

※変貌しつつあるものとして
マイルス・デイヴィス「アット・フィルモア」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000AO8CDS

ドン・エリス「アット・フィルモア」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0009RQRLU

ウェイン・ショーター「スーパー・ノヴァ」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B001J231FE

ハービー・ハンコック「プリズナー」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00004YTWJ

トニー・ウィリアムズ・ライフタイム「エマージェンシー!」
※文中に具体的なアルバム名は書かれていないが、書かれている内容から本作と思われる。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000047GA

※変貌以前に少し戻って
チャーリー・ミンガス「クインテット」
※文中に具体的なアルバム名が無いが書かれている内容から
「My Favourite Quintet」の可能性が一番高いと思われる。
当該作は未CD化だがLP盤で輸入・日本盤ともに安価で中古購入可能。
http://t2.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcRwUYSBxUW3t0RsmZKxoqFqER3uC_6w2brzf5gI_JKRxBJMH9g1
http://t0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcROy11xsJ1N4KiIzM48etR3jwfCFvsVBqQi-168orVQPdIDMvXX
(上記のどちらのジャケットのLPでも同じ内容。)

オクテット編成になっているが下記のCDはほぼ同時期の録音。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000HIVQI0/

~カーラ・ブレイの虚栄 マントラー~
マイケル・マントラー他「コミュニケーションズ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000024D19
※前項の~変貌しつつあるジャズ~に出てきたセシル・テイラー「ジャズ・コンポーザース・オーケストラ」とはこのアルバムの事。

~新たなるジャズ・サウンドの誕生~
ケニー・ドリュー・トリオ「ダーク・ビューティ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000027UP5

デューク・ジョーダン「フライト・トゥ・デンマーク」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000027UPE
※上記2点はデンマーク・スティープル・チェイスの作品。

カウント・ベイシー「ベイシー・ジャム」
※パブロレーベルからはベイシーのジャムセッションが多く出されているが
具体的なアルバム名が示されていないが、文章の書かれた時期、作品の出来や知名度などから推察して下記アルバム。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000XIW

ジョー・パス「ヴァーチュオーゾ」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0038M61JQ
※パブロのカウントベイシーと同じ理由で本アルバム。

~私のオーディオ考~
ビリー・ホリディ「二組の三枚揃」は冒頭の「レディ・デイ」のCDセットと重複するので割愛。

チャーリー・クリスチャン「ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター」
「CBSのダブル・ジャケット」のCD化は、おそらくこれのはず。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000026C8

ビックス・バイダーベック「(コロムビアの)三枚組」はこれ。LPでは分売もされていた。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000056EV0

フレッチャー・ヘンダーソン(のコロムビアのLPをまとめた三枚組)をCD化したもの。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0056BMV6E

ルイ・アームストロング「ホット5」&「ホット7」文中では「ルイの Vol. 1~4」とも書かれてもいる。
コンプリートボックス盤
http://www.amazon.co.jp/dp/B00004WK37

上記からの抜粋ベスト盤
http://www.amazon.co.jp/dp/B000068ZR2
ベニー・グッドマン「CL-501」は
現在、一部の曲を除いて下記の2枚のCDで下記2枚で8割方は聴ける(はず)。

ベニー・グッドマン「プレイス・エディ・ソウター」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000001MDH

ベニー・グッドマン「プレイズ・メル・パウエル」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000001MDJ
※ベニーグッドマンは他にも複数のCDに散らばって収録されている様子。

~私とJBLの物語~
ボブ・スコービーとフリスコ・ジャズ・バンド
グッドタイム・ジャズ・レーベルから出ていた2枚のLPは共にCD化されている。

ボブ・スコービー「ボブ・スコービーズ・フリスコ・バンド」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000XOW

ボブ・スコービー「スコービー&クランシー」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000XP0

ファイアハウス・プラス・ツー「ディキシー・ランド・フェイバリッツ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000XGY

~オーディオ歴の根底をなす二十六年前のアルテックとの出会い~
キッド・オリー「アルバム不明」
ヴィック・ディッケンソン「ショーケース」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000ECF

~タイムマシンに乗ってコルトレーンのラブ・シュープリームを聴いたら複葉機が飛んでいた~
ジョン・コルトレーン「至上の愛」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000A118M

~暗闇の中で蒼白く輝くガラス球~
レッド・ガーランド「グルーヴィー」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000000Y3T

~ぶつけられたルージュの傷~
※具体的なアルバム名は無いが、この文章が書かれた時期や、当時ジャズ喫茶でよくかかっていたらしいという点、緻密なー、という表現からの推測。
キース・ジャレット「ケルン・コンサート」(他に二枚ほど迷った。)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000262WI

~雪幻話~
オーネット・コールマン「アット・ゴールデン・サークル」
※朝沼予史宏氏のフェイバリット・アルバムでもあった一枚。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005UMTT

キース・ジャケット「フェイシング・ユー」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00008KKV0

~のろのろと伸ばした指先がアンプのスイッチに触れたとき~
エリック・ドルフィー「アット・ザ・ファイヴ・スポットVOL.1」
「ファイアー・ワルツ」収録はこのVOL.1。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000NO28N0

~二十年前僕はやたらゆっくり廻るレコードを見つめていた~
エルモ・ホープ・トリオ「イントロデューシング」
http://www.amazon.co.jp/dp/B002SVPN24
※ジャケットの色がすり減って色褪せていた~とあるので、色付きのジャケットだったファーストアルバムではないかと思う。
(セカンドアルバムはモノクロのジャケット)

~不意に彼女は唄をやめてじっと僕を見つめていた~
ヘレン・メリル「ウィズ・クリフォード・ブラウン」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000046ND

~トニー・ベネットが大好きなあいつは重たい真空管アンプを古机の上に置いた~
レフト・アローン「マル・ウォルドロン」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005EQB9

ナット・キング・コール「アフター・ミッドナイト」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00000K45T

http://www.amazon.co.jp/dp/B000M2E8SG

トニー・ベネット&カウント・ベイシー「イン・パーソン」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000024HGK
※何枚か共演盤があるが岩崎さんはきっとCBSコロムビアのこれではないかと。
http://www.amazon.co.jp/dp/B006YTLP1Y (対となるもう一枚の共演盤とのカップリング盤)

~音楽に対峙する一瞬 その四次元的感覚~
ジョン・コルトレーン「クル・セ・ママ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B001NHZ2QQ

Date: 12月 2nd, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏とスピーカーのこと

瀬川先生がいまも生きておられたら、スピーカーは何を使われていたのかについて、
別項「瀬川冬樹氏とスピーカーのこと」で書いているところである。

このことを考えていく上で、実はとても重要なことが、
岩崎先生がいまも生きておられたら──、ということである。

岩崎先生は1977年に亡くなられる数年前から、
JBLのパラゴンをはじめ、エレクトロボイスのパトリシアン、JBLのハーツフィールドなど、
モノーラル時代のアメリカの大型スピーカーシステムを導入されている。

そういう岩崎先生は、いま何を鳴らされているのだろうか。
このことを考えてみることも、瀬川先生が何を鳴らされたであろうかに大きく関係してくる気がする。

すこし前にも瀬川先生と岩崎先生はライバル同士だった、と書いた。
岩崎先生自身、瀬川先生をもっとも手強いライバルであり、オーディオの良き仲間として意識されていた。

岩崎千明と瀬川冬樹──、
このふたりは鳴らされる音量、聴かれる音楽、鳴らされていたスピーカーは対照的でありながら、
実に多くの共通点も見出せる。

ふたりの残された文章を丹念に読んでいくと、
多くのことが共通していることに気づき、驚く。

だから1977年3月24日以降も、1981年11月7日以降も、
岩崎先生と瀬川先生が生きておられたなら、どこかでクロスオーバーするポイントがきっとある、と思う。

それを見落していては、瀬川先生のスピーカーがどう変遷していったのか、について書くことはできない。

今日12月2日は、岩崎先生の84回目の誕生日である。

Date: 6月 18th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・続余談)

RiceとKelloggによるコーン型スピーカーユニットがどういうものであったのか、
少しでも、その詳細を知りたいと思っていたら、
ステレオサウンド別冊[窮極の愉しみ]スピーカーユニットにこだわる-1に、高津修氏が書かれているのを見つけた。

高津氏の文章を読みまず驚くのは、アンプの凄さである。
1920年代に出力250Wのハイパワーアンプを実現させている。
この時代であれば25Wでもけっこうな大出力であったはずなのに、一桁多い250Wである。
高津氏も書かれているように、おそらく送信管を使った回路構成だろう。

このアンプでライスとケロッグのふたりは、当時入手できるあらゆるスピーカーを試した、とある。
3ウェイのオール・ホーン型、コンデンサー型、アルミ平面ダイアフラムのインダクション型、
振動板のないトーキング・アーク(一種のイオン型とのこと)などである。

これらのスピーカーを250Wのハイパワーアンプで駆動しての実験で、
ライスとケロッグが解決すべき問題としてはっきりしてきたことは、
どの発音原理によるスピーカーでも低音が不足していることであり、
その不足を解決するにはそうとうに大規模になってしまうということ。

どういう実験が行われたのか、その詳細については省かれているが、
ライスとケロッグが到達した結論として、こう書かれている。
「振動系の共振を動作帯域の下限に設定し、音を直接放射するホーンレス・ムーヴィングコイル型スピーカー」
 
ライスとケロッグによるコーン型スピーカーの口径(6インチ)は、
高域特性から決定された値、とある。エッジにはゴムが使われている。
しかも実験の早い段階でバッフルに取り付けることが低音再生に関して有効なことをライスが発見していた、らしい。
磁気回路は励磁型。
再生周波数帯域は100Hzから5kHzほどであったらしい。

実用化された世界初の、このコーン型スピーカーはよく知られるように、
GE社から発売されるだけでなく、ブラウンズウィックの世界初の電気蓄音器パナトロープに搭載されている。

以上のことを高津氏の文章によって知ることができた。
高津氏はもっと細かいところまで調べられていると思うけれど、これだけの情報が得られれば充分である。
Rice & Kelloggの6インチのスピーカーの周波数特性が、やはり40万の法則に近いことがわかったのだから。

Date: 5月 9th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(1977年3月24日)

その日のことを、岩崎綾さんがご自身のブログに書かれている。
タイトルは「昭和52年3月24日」。

Date: 5月 8th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その8)

この項の終りとして、多くの人が気になっていることについて少しだけ書いておこう。
岩崎先生のオーディオ機器について、である。

現在岩崎先生のお宅にあるのはJBLのハークネスとエレクトロボイスのエアリーズである。
ハークネスの上に、2440と2397の組合せはのっていない。
このことは1987年発行のスイングジャーナルの掲載の岩崎千明・没後10年の記事にも出ている。

アメリカ建国200周年のときに手に入れられたエレクトロボイスのパトリシアンは、
小学館のレコパル編集部が引き取られた、ときいた。
しばらくはレコパルの試聴室に置いてあった、とのこと。
岩崎先生は、このパトリシアンでトスカニーニ指揮のドヴォルザークの「新世界より」を聴かれたのだろうか。
アメリカの星条旗とチェロの国旗が描かれたジャケットのトスカニーニの「新世界より」を見つけ出されたのか。
レコパルの編集部は、試聴室に運びこまれたパトリシアンで「新世界より」を鳴らされたのではないか、と思う。

そう思うのは、The Music誌1976年11月号の「パトリシアンIVがないている」を読めばわかる。

5月2日に知り得たこと、そこから感じたこと、考えていることは、
これから先、このブログの複数の別項にて書いていくことになろう。

──5月2日、もう午前0時近い電車の中でひとりおもっていたのは、
ステレオサウンドを離れて、ほんとうに良かった、ということである。

ステレオサウンドにずっといたら、audio sharingはやっていない。
このブログも始めていない──。
岩崎綾さん、岩崎宰守さんと会うことも話をすることもなかった。
岩崎先生の万年筆が、いま目の前にあるということも、ない。

離れたことによって大変なことがけっこうあった。
いまも大変ではあるけれど、それでも離れたからこそ、といえることがいくつもある。
ここで、そのひとつひとつをあげていくことはしないけれど、
それらのこともあわせて思い出して、
「ステレオサウンドを離れて、ほんとうに良かった」というのが実感があり、本音である。

Date: 5月 8th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その7)

スイングジャーナルの1972年11月号の録音評のところに、こんなことを書かれている。
     *
オレ自身では44年から49年にわたって録音された「バード・オン・サヴォイ」をベストにと思うのだが読者の誤解、あいつかぶれてるなとか、演奏評にまで口を出すな、とかいわれそうなので、一応ロルフ&ヨアヒムの「変容」にすべきか結論は編集者まかせにした。
     *
スイングジャーナルの古いバックナンバーを提供してくださった方のおかげで、
昨年から岩崎先生の文章の入力を頻繁に行っている。
作業しながらいつも思っていることは、なぜ、当時のスイングジャーナルの編集者はジャズのレコードについて、
岩崎先生に書かせなかったのか、ということ。
スイングジャーナル後半のオーディオのページでは活躍されていても、
レコードについては毎月の短い録音評と、ときどき(ほんとうにときどき)単発で書かれているぐらい。

当時のスイングジャーナルには書き手が揃っていた、ということも関係しているとは思っていたが、
もしかすると上で引用した文章からうかがえることも関係していたのかもしれないと思う。

岩崎先生がジャズについて語られているものを読みたい、と思っている。
スイングジャーナルでは無理でも、他の雑誌、ジャズやジャズランドにもこれから先、目を通していきたい。

岩崎先生が亡くなられたとき所有されていたレコードの枚数は1万枚ほどあった、と今回きいた。
いまでこそこのくらいの枚数を所有されている方は多いとはいわないまでも、珍しくはない。
でも、1977年当時にこの枚数は、やはりすごいと思う。
それだけレコードで音楽を聴いてこられた岩崎千明の音楽についての文章を読んでいきたい。
なにもジャズだけに限らない、音楽について書かれているものを読みたい。

どのくらいあるのかはまだわからない。
とにかく岩崎先生の文章を、これからも探していくつもりである。

Date: 5月 8th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明のこと(2012年5月2日・その6)

五味先生、岩崎先生、ベートーヴェンについて書いていこうと思ったとき、
ひとつ、どうしてやってくれなかったんだろう……と思っていることがある。
五味先生のオーディオ巡礼に関することだ。

ステレオサウンド 16号で五味先生は山中先生、菅野先生、瀬川先生のリスニングルームを訪問されている。
その後に上杉先生のところにも行かれている。
岩崎先生のところには行かれていない。

16号は1970年発行の号だから、私が実際に読んだのはステレオサウンドで働くようになってからだ。
そのときは、この人選について不満はなかった。
でも、いまは違う。

五味先生はクラシック、岩崎先生はジャズ……だからというのは理由にはならない、と思う。
なにか別の理由があったのだろうか。

元編集者として言わせてもらうと、岩崎先生のところに行かれていたら、
どちらにどうころぶか予想はできないけれど、どちらに行ったとしても非常に面白いことになったはずだ。

このことを5月2日に話したところ、当日来てくださった方から、
スイングジャーナルの別冊で五味先生がジャズ喫茶めぐりをされている記事がある、という情報をいただいた。
そこで岩崎先生のジャズオーディオにも行かれた、らしい。
近々図書館に行って、調べるつもりである。
どういう内容の記事なのか、まったく想像できない。それにしても、すごい企画だな、と思う。

Date: 5月 7th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その5)

岩崎先生の息子さんの宰守さんは、
音楽を聴いている時、気がつくと椅子の上であぐらをかいていることがあるそうだ。

岩崎先生の写真で、私がつねにまっ先に思い浮べるのも椅子の上であぐらをかかれているものだ。
「オーディオ彷徨」でも、ステレオサウンド 38号でもパラゴンを背にした岩崎先生は椅子の上であぐら、である。
しかも素足。

椅子の上であぐらで思い出す人物がいる。五味先生だ。
ステレオサウンド 47号のオーディオ巡礼の扉の使われている写真。
煙草を手に持ち椅子の上であぐら。

私も椅子の上であぐら、ということが多い。
だから五味先生の、岩崎先生のあぐらは、うんうん、と勝手に思っていた。
私のことはどうでもいいのだが、五味先生と岩崎先生にはあぐら以外に共通するところがある。

岩崎先生は12月4日、五味先生は12月20日うまれ。
ふたりとも射手座である。
そして岩崎先生は1977年3月24日、五味先生は1980年4月1日に亡くなられている。
3月24日、4月1日はどちらも牡羊座にあたる。

射手座の季節に生を受け、牡羊座の季節に亡くなられている。
単なる偶然と片づけることもできる。
でも、ここには単なる偶然とは片づけられない不思議な一致があるような気がする。

そして、もうひとり、ベートーヴェンがいる。
ベートーヴェンもまた1770年12月16日ごろ、射手座に生れ、1827年3月26日、牡羊座の季節に亡くなっている。

ずいぶん前からこのことには気がついていて、
この共通することから何か書いていける気もしているのだが、
まだ書き始めていないし書き続けられるのか……、ということろで止っていたけれど、
5月2日、岩崎綾さん、宰守さんによる岩崎先生の話をきいていて、書ける気がしている。

Date: 5月 6th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その4)

岩崎先生の文章は、ジャズを聴いてきた人の文章だ。

だからといって、ジャズを聴いていれば、岩崎先生のような文章が書けるようになるとはいえないけれど、
ジャズを真剣に聴いてこなければ書けない文章、そう以前から思っている。

ジャズをあまり聴いてこなかった私でさえつき動かされるわけだから、
ジャズを熱心に聴いてきた人は、私なんかよりももっと早い時期から、もっと強くつき動かされてきたはず。
そういう人は少なくないと思う。

オーディオ業界の中では、細谷信二さんと朝沼予史宏さんがそうだ。
きっとメーカーや輸入商社に勤めている人の中にもつき動かされた人はいるはずだが、
オーディオ雑誌に名前が出てくる人では、細谷さんと朝沼さんのふたりが、いる。

ステレオサウンドから出た遺稿集「オーディオ彷徨」は、
当時ステレオサウンド編集部にいた細谷さんがまとめられた、ときいている。
それだけでなく岩崎先生が亡くなられた後も、
たびたび岩崎先生のお宅を訪ねてはオーディオ機器の手入れをされていた、ともきいている。

岩崎先生が愛用されていたエレクトロボイスのエアリーズ。
ウーファーのエッジがダメになってしまったのを元通りにされたのも細谷さん。
ジャズオーディオで使われていたトーレンスのTD224のチェンジャー機構は壊れてしまってそのままだったのを、
レコパルでの撮影のため借り受けたときにきちんと動作するように手配したのも細谷さんである。

朝沼さんは、まだ編集者だったころ(つまり本名の沼田さんとして仕事をされていたころ)、
なかば居候といえるくらい、岩崎先生のお宅で夜を明かされていた、そうだ。

そういえば朝沼さんはダルキストのスピーカーシステムDQ10を使われていたことがある。

DQ10はQUADのESLによく似た外観の、しかしダイナミック型スピーカーユニットによる5ウェイ。
DQ10は、岩崎先生も新しいタイプのスピーカーシステムとして注目され、評価も高かった。
DQ10はESLを意識したスピーカーシステムで、そのESLを岩崎先生も朝沼さんも使われていた。

岩崎先生も、朝沼さんも細谷さんも小学館が発行していたFMレコパル、サウンドレコパルで仕事をされている。

朝沼さんは2002年12月に、細谷さんは2011年2月に亡くなられた。
細谷さんと朝沼さんとはステレオサウンドで何度も会っていた。
岩崎先生のことを訊いておけば……、と思っている。

Date: 5月 5th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その3)

岩崎先生の万年筆を手にしたからといって、ああいう文章が書けるようになるわけではない。
そんなことはわかっている。
そして、岩崎先生の文章の魅力は?、ときかれたら、読む人を惹きつけるところにある、とまず感じている。

私はこれまでにも書いているとおり、岩崎先生に関しては「遅れてきた読者」である。
しかもジャズよりも、圧倒的にクラシックを聴いている時間が長い。
にも関わらず、深夜ひとりで「オーディオ彷徨」を読んでいると、
無性にジャズが聴きたくなってくる。

ステレオサウンドを辞めて、すぐに就職したわけではない。
しばらくぶらぶらしていた時期がある。
冬の寒い時期であった。「オーディオ彷徨」を読んでいた。
それ以前にも「オーディオ彷徨」を読みたいところから読むことはしていたが、
最初から最後まで読み通すことははじめてやったのは、実はこのころのことだった。

そういう心理的なものも作用してのことだったのかもしれない。
でも「オーディオ彷徨」を読んだ友人も、まったく同じことを言っていたから、私だけのことでは決してない。
近所に深夜までやっているレコード店がもしあったら、
すぐさま駆け込んで、
いま読んだばかりの「オーディオ彷徨」の章に出てくるジャズのレコードを買いに行きたくなる。
読み手を駆り立てるものが、岩崎先生の文章にはある。

いま岩崎先生の文章を集中的に入力している。
レコード(ジャズ)についての文章だけでなく、オーディオ機器についての文章を読み入力していると、
昨日まではほとんど関心をもてなかったカートリッジなりアンプなりスピーカーシステムなりが、気になってくる。
聴いたことのあるオーディオ機器はもう一度聴いてみたい、と思うし、
かなり古く聴いたことのなかったオーディオ機器は、一度聴いてみたい、と思ってしまう。

岩崎先生が書かれたオーディオ機器すべてではないけれど、
岩崎先生の文章によって気になってきたオーディオ機器がいくつも、すくなからず浮上してきている。

岩崎先生の文章には、読む者をつき動かす衝動(impulse)がある。

Date: 5月 4th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その2)

audio sharingの公開当初は、瀬川先生の文章と岩崎先生の文章は、いわば無断公開していた。
本来なら許諾を得ての公開なのだが、ご家族の連絡先がわからず、ことわりをいれた上での公開だった。

だから岩崎綾さんのメールを届いたとき、
本文を読むのは、半分不安だった。もし公開しないでほしい、と書かれてあったら……。
でもクリックしてメールを読むと、嬉しい内容のメールだった。
メールの最後に、「母も喜んでいます」と書いてあった。
公開の許諾をきちんといただけたこと以上、この最後の行が嬉しかった。

このメールが届いた日から、ほぼ12年。
何度かメールのやりとりはあったものの、お会いしたことも電話で話したこともなかった。
だから5月2日が初対面だった。

5月2日の夜は楽しかった。
楽しかったうえに、「おみやげがあります」といって万年筆をいただいた。
岩崎先生が使われていたパーカーの万年筆を、2本も。

そういえば、深夜、検問で止められたとき「職業は?」ときかれ、
ひと言「物書き」と岩崎先生は答えられた、という話が、ジャズ・オーディオに通い、
岩崎先生の運転する車に同乗されたこともある方からのメールにあった。

岩崎先生は、小学校のとき担任から「いい文章を書くから、物書きになったらいい」といわれたとのこと。
担任の名前は角川源義氏。
角川書店の創立者の角川氏からそう言われた岩崎少年は、物書きを夢見ていたのか、目ざしていたのか──、
はっきりとしたことはわからないけれど、「物書き」と答えられたのだから……、と思ってしまう。

そんな岩崎先生の万年筆が、いま手もとにある。