岩崎千明氏のこと(2012年5月2日・その4)
岩崎先生の文章は、ジャズを聴いてきた人の文章だ。
だからといって、ジャズを聴いていれば、岩崎先生のような文章が書けるようになるとはいえないけれど、
ジャズを真剣に聴いてこなければ書けない文章、そう以前から思っている。
ジャズをあまり聴いてこなかった私でさえつき動かされるわけだから、
ジャズを熱心に聴いてきた人は、私なんかよりももっと早い時期から、もっと強くつき動かされてきたはず。
そういう人は少なくないと思う。
オーディオ業界の中では、細谷信二さんと朝沼予史宏さんがそうだ。
きっとメーカーや輸入商社に勤めている人の中にもつき動かされた人はいるはずだが、
オーディオ雑誌に名前が出てくる人では、細谷さんと朝沼さんのふたりが、いる。
ステレオサウンドから出た遺稿集「オーディオ彷徨」は、
当時ステレオサウンド編集部にいた細谷さんがまとめられた、ときいている。
それだけでなく岩崎先生が亡くなられた後も、
たびたび岩崎先生のお宅を訪ねてはオーディオ機器の手入れをされていた、ともきいている。
岩崎先生が愛用されていたエレクトロボイスのエアリーズ。
ウーファーのエッジがダメになってしまったのを元通りにされたのも細谷さん。
ジャズオーディオで使われていたトーレンスのTD224のチェンジャー機構は壊れてしまってそのままだったのを、
レコパルでの撮影のため借り受けたときにきちんと動作するように手配したのも細谷さんである。
朝沼さんは、まだ編集者だったころ(つまり本名の沼田さんとして仕事をされていたころ)、
なかば居候といえるくらい、岩崎先生のお宅で夜を明かされていた、そうだ。
そういえば朝沼さんはダルキストのスピーカーシステムDQ10を使われていたことがある。
DQ10はQUADのESLによく似た外観の、しかしダイナミック型スピーカーユニットによる5ウェイ。
DQ10は、岩崎先生も新しいタイプのスピーカーシステムとして注目され、評価も高かった。
DQ10はESLを意識したスピーカーシステムで、そのESLを岩崎先生も朝沼さんも使われていた。
岩崎先生も、朝沼さんも細谷さんも小学館が発行していたFMレコパル、サウンドレコパルで仕事をされている。
朝沼さんは2002年12月に、細谷さんは2011年2月に亡くなられた。
細谷さんと朝沼さんとはステレオサウンドで何度も会っていた。
岩崎先生のことを訊いておけば……、と思っている。