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Date: 12月 7th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その29)

1970年前半の話である。
ある国内オーディオメーカーのアナログプレーヤーはOEMだった。
自社開発・製造のアナログプレーヤーのために、その会社のスタッフは、
自社アナログプレーヤーのユーザー宅を全国訪ねていった。
そして直接ユーザーの声を集めていった。

けれど、そうやって得られた声は、
その会社のアナログプレーヤーの長所、短所といったところに留まっていたのではないだろうか。
テクニクスの人たちが、どういうプレーヤーが望ましいか、を世界中の人たちに聞いてまわっても、
現在あるものを対象にしたものばかりしか得られなかったのと同じではないだろうか。

中には、こういうプレーヤーが欲しい、とはっきりとしたプレーヤー像を持っている人もいるかもしれない。
だが、そういう人はごくまれである。

そういう人と出会えたとしても、その人にとっての答が、そのままそのメーカーの答になるとはいえない。

テクニクスの人たちが自分たちで答をさがしたように、
そのメーカーの人たちも結局は自分たちで答をさがすしかなかったはずだ。

問題解決とは、そういうものでもあるはずだ。

Date: 12月 6th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その28)

ステレオサウンド 57号からもうすこしテクニクスの小幡修一氏が語るSL10誕生を引用しておく。
     *
一般に高級なレコードプレーヤーをもっているひとは、女子供に使わせない、という思想があるようです。実際、高級機ほどデリケートで心得のないひとには使いこなせないという面もあるし、女子供でなくてもふつうの人には近よりがたいというたたずまいもしているわけです。ところがカセットにはそんなところがない。誰でも手軽に扱えるという強味がある。だから、やがて、音楽再生ソースは高級機はPCM、普及機はカセットということになって、レコードはとりのこされてしまいかねないんです。
(中略)
 PCMとカセットの時代に対抗できるディスクプレーヤーは、本来もっているレコードの性能を最大限に引きだせるもので、女子供でも容易につかえて、しかも、もっていて最高にたのしいというものでなければならない。これについては、世界中の人たちの意見をきいてあるきました。私はすくなくとも年に二回は海外に出かけているので、そのたびにどういうプレーヤーが望ましいかということをきいてまわりもしました。その質問についての答は、現在あるものを対象にしたものばかりで、A社のあの製品のここがいい、B社のはあそこが、といったような答以上を出ない。われわれは、その答にないものをさがしたのです。
     *
いま改めて読むと、問題回避ではなく問題解決であること、
どれだけ多くの人にきいたところで答を得られることはなく、
返ってきた答、つまりは回答を集めてつくり出したのではなく、
解答を自分たちで見つけた結果のSL10の誕生だということがはっきりとわかる。

だから、小幡修一氏はこうも言われている。
     *
アナログディスクというものは実に素晴らしいものだということは改めていうまでもないと思うのですが、PCMとカセットに挟みうちをされてディスクが先細りになるということは、プレーヤーをつくっているものとしては申し訳のないことだ。そういう発想が自然に濃縮されていった結果がSL10になったわけです。
     *
「発想が自然に濃縮されていった結果」、
SL10をいま見ても、そう感じられる。

Date: 12月 5th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その27)

テクニクスはSL10発表の前年(1978年1月)に、SL-FM1というアナログプレーヤーを出している。
32800円の普及型。

このSL-FM1は型番からわかるように、FMトランスミッターを内蔵している。
カートリッジがピックアップした信号をそのままFM信号に変換するわけではなく、
イコライザーアンプも内蔵されていて、SL-FM1の電波(78MHz)をチューナーで受信すれば音が聴ける。
ラインアウトも備えている。
SL-FM1の特徴はそれだけでなく、AC電源の他に単一乾電池6個でも動作する。

テクニクスのアナログプレーヤーはかなりの機種が登場しているが、
FMトランスミッターをもつ機種は、これ一機種だけだったはずだ。

SL-FM1が登場したときは、テクニクスも変なモノを作るな、といった印象で受けとめていた。
けれど、翌年にSL10が、その一年後にSL7、SL15が登場し、
ステレオサウンド 57号の記事を読むとSL-FM1とSl10とには、共通する開発方針があるのがわかる。

57号でテクニクスの小幡修一氏は次のように語られている。
     *
 DD型にこんな進展(大型で重くなり、プレーヤーのSL化)が見えはじめた頃にPCMのことがちらほら話題になりはじめてきたのですね。やがてディスクもデジタル(PCM)化されるという予測は当然あるわけですが、それ以上に、レコードプレーヤーをつくっている者にとって問題にしなければならないのはカセットデッキの目ざましい進出であり、ミュージックテープの伸びです。このふたつの現象は、アナログディスクのよさを見なおすために何かしなければならないということを考えざるを得ない。レコードプレーヤーが昔ながらのままであっていいのかどうかということですね。
     *
プレーヤーのSL化のSLとはいうまでもないことだが、蒸気機関車のことなのだが、
SLはまたテクニクスのアナログプレーヤーの型番でもある。

Date: 12月 4th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その26)

テクニクスのSL10は、世界初のダイレクトドライヴのSP10誕生からちょうど10年目に登場している。
だから型番にも10がつき、SL10となり、価格も10万円。
さらには10月10日に発売されるという、10づくしのプレーヤーである。

SL10の登場の一年後、SL7とSL15が登場している。
ステレオサウンド 57号の新製品紹介のページで紹介されている。
岡先生が書かれている。

岡先生が新製品紹介の記事を書かれるのは珍しいことである。
     *
 テクニクスのSL10が出て一年、その姉妹機のSL15とSL7が発表された。
 予想されていたこととはいえ、SL10ファミリーの展開のテンポが早い。SL10の出現には本当にびっくりした。ぼくは、当時、あちらこちらで〝レコードプレーヤーの革命〟だというようなことを書いた。これは誇張でもなんでもない。半世紀もレコードをいじってきたものとして、このプレーヤーを見て操作してまっさきにうかんだ実感であった。SL10の第一歩はベートーヴェンの第五の開始のffのように颯爽としていた。それはまったくアレグロ・コン・ブリオそのもののような確信に満ちた足どりで歩みはじめた。そして、いまそのアレグロ・コン・ブリオは上声部と下声部を加え、充実感に満ちた和音進行へと展開しはじめた。時がたつにつれ、SL10ファミリーはさらに豊かな和声の響きをもつだろうが、そこまで先走りして考えることもあるまい。
     *
いま読み返してみると、岡先生としてはめずらしい書き出しであることに気づく。
それだけSL10の登場は、レコードとのつきあいの長い人ほど、革命に近いモノであったことが読みとれる。

ステレオサウンド 57号のこのページには、
SL10の開発者である小幡修一氏に岡先生が話を聞きに大阪まで出かけられ、
SL10開発に関する話も別枠で掲載されている。

Date: 12月 4th, 2014
Cate: バランス

音のバランス(その1)

音のバランスは大切なことである。
そう言う人は多い。私も言う。
そう思っているから別項で「40万の法則」について書いている。

少しばかり音のバランスが崩れていても、音は聴ける。
音のバランスよりも、もっと大切なことがある、という人もいる。
私も若いころは、そう考えていたこともあった。

そういう時期の音を経て、いま音のバランスは大切だ、と思っている。

音のバランスとは、帯域バランスだけのことではない。
音に関する、さまざまな意味・要素でのバランスが大切だ、ということである。

そして音のバランスを得るためには、いくつもの要素において、
両極端に振ってみることも必要だといえる。

Date: 12月 4th, 2014
Cate: サイズ

サイズ考(iPhone 6 Plus)

iPhone 5Sを使っている。
その前はiPhone 4Sだった。
サイズは少し大きくなっている。

iPhoneはジーンズの前ポケットに入れている。
なのでiPhone 5Sのサイズがギリギリかな、と思っているし、
iPhone 6のサイズ、それもiPhone 6 Plusの大きさとなると、
もうジーンズの前ポケットに収まるとはいえないから、大きいな、と思っていた。

一ヵ月ほど前、ベビーカーを押しながら女の人が電車に乗ってきた。
そのお母さんがiPhone 6 Plusを取り出して操作している姿を見て、
iPhone 6 Plusを大きくない、と初めて感じた。

その人は革製のケースにiPhone 6 Plusをおさめていた。
だから手帳のように開いて、左手で持ち右手で操作だった。

iPhoneをどう捉えるのか。
電話が携帯できるようになり、そこにさまざまな機能が搭載されたモノとしてみるならば、
私にとってはiPhone 5Sがギリギリの大きさということになる。

けれど電子手帳に電話機能が搭載されたモノとしてみるならば、iPhone 6 Plusのサイズは、
大きいとはもう感じなくなっているし、むしろ魅力的な大きさだと思えてくる。

もし電車に乗ってきたお母さんが革製のケースを使っていなかったら、
iPhone 6 Plusをいまでも大きい、と受けとめていたはず。

革製の、しかも開いて使うタイプのケースに収めることで、少しとはいえサイズは大きくなる。
けれど、そのことによって両手でiPhone 6 Plusを自然に使うようになれば、
もう大きいとは感じなくなっている。

サイズに対する感覚のいいかげんさなのかもしれないし、
サイズは単なる数値で表されるものではない、ともいえる。

ポジティヴな前景とネガティヴな後景の狭間で(続々50年)

ステレオサウンドも2016年には50年を迎える。
ほぼ間違いなく、200号とその前後の号では創刊50年記念号としての記事が載ることだろう。
各社の広告にも、創刊50年を祝うことが書かれていると予想できる。

創刊50年はけっこうなことである。
だがステレオサウンド創刊50年は、読者であればほとんどの人が編集部からの指摘がなくとも気づくことである。
そういうことを大々的に誌面で告知して、
グレン・グールドのコンサート・ドロップアウトからの50年目に関しては、まったくの無視。

オーディオ雑誌だからグールドについて取り上げなければならない、ということはない。
だがステレオサウンドは2012年に、
グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲のガラスCDを企画して販売している。
一枚10万円を軽く超える価格のCDを、いまも売っている。

このCDはグールド没後30年、生誕80年ということで企画されたモノであろう。
ステレオサウンドがオーディオ雑誌でなければ、こんなことは書かない。
だがステレオサウンドはオーディオ雑誌である。

オーディオ雑誌であるならば、グレン・グールドの生誕・没後ということよりも、
コンサート・ドロップアウトにこそ注目すべきではないのか。
そう思うから、書いている。

Date: 12月 3rd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その25)

電子制御トーンアームについて書いてきていて思い出すのは、
なぜテクニクスが電子制御トーンアームを出さなかったのか、である。

1980年ごろ、ソニー、ビクターと続いて電子制御トーンアームが出てきていたのをみて、
テクニクスも出すんだろうな、と思っていた。
けれどテクニクスからは出てこなかった。
その時は、なぜだろう? とは考えなかった。

いまは、なぜだろう?と 思う。
テクニクスの技術があれば、電子制御トーンアームを製品化するのはさほど困難なことではなかったはず。
テクニクスも、アナログプレーヤーの開発には力をいれていた会社である。

なぜ、テクニクスからは電子制御トーンアームが出なかったのか。
はっきりとした理由はわからない。
けれど、ソニーから電子制御トーンアームが登場したころ、
テクニクスはSL10というアナログプレーヤーを出している。

SL10はLPジャケットサイズのアナログプレーヤーだった。
価格は100000円。
MC型カートリッジ(EPS310MC)を搭載し、ヘッドアンプも内蔵していた。
トーンアームはリニアトラッキング型で、サイズをコンパクト化するために上蓋に装着されていた。

SL10の上蓋は、いわゆるダストカバーではなく、トーンアームの他にスタビライザーもついていたし、
操作ボタンもついていた。
ダストカバーは閉じなくてもアナログディスク再生は可能だが、
SL10の上蓋は閉じなければ再生はできなかった。

SL10はフルオートプレーヤーであることからもわかるように、
SL10のリニアトラッキングアームは電子制御されている。

Date: 12月 3rd, 2014
Cate: Reference

リファレンス考(その3)

C280とB2301バランス接続による組合せは、けっこう話題になった、と記憶している。
バランス接続はいい、というふうにこのころから認知されはじめていった。

ただしどんな方法でバランス出力をつくり出すのか、
その信号をどう受けるのか、アースラインの処理をどうするのか、などのことを考えていくと、
安易にバランス接続がアンバランス接続よりもすべてにおいて優れているのは言い難いのだが、
メリットが多いことは確かである。

そうなってくると、バランス入力、バランス出力をもつ機種が増えていく。
CDプレーヤーにもバランス出力がつくようになる。
そうなればコントロールアンプにはバランス出力だけでなく、
バランスのライン入力がつくようになっていく。

パワーアンプもバランス入力をもつモノが増えていった。
もともとDCアンプの電圧増幅の大半に採用される差動回路は、
非反転入力と反転入力、ふたつの入力をもつためバランス受けに対応しやすい。

こういう状況になっていくと、試聴室のリファレンスアンプにもバランス入力、バランス出力が必要となってくる。
バランス入力のないコントロールアンプでは、
バランス出力をもつCDプレーヤーを試聴する場合に、アンバランス出力の音しか聴けないことになる。
バランス出力をもつ機種であれば、アンバランス出力とバランス出力、両方の音を聴いて記事にする必要がある。
読者もそれを知りたがっているであろうし。

つまりバランス接続の流行が、
ステレオサウンド試聴室のアンプをマッキントッシュからアキュフェーズに変えたともいえる。
マッキントッシュのアンプは、このころはまだバランス接続に対応していなかった。

Date: 12月 3rd, 2014
Cate: Reference

リファレンス考(その2)

私がステレオサウンドで働きはじめたころのリファレンス機器は、スピーカーはJBLの4343だった。
アンプはマッキントッシュのC29とMC2205だった。
アナログプレーヤーはパイオニアのExclusive P3。

4343はちょうど後継機の4344と切り替ろうとしている時期だった。
なのでしばらくして4344になった。

アンプはしばらくマッキントッシュだった。
マッキントッシュからアキュフェーズに替った理由のひとつに、バランス接続がある。

プロフェッショナル機器では一般的だったバランス入出力が、コンシューマー用機器にも採用されはじめてきた。
SUMOのパワーアンプはフォーンジャックによるバランス入力を備えていたけれど、
まだそのころはバランス出力をもつコンシューマー用コントロールアンプの存在がなく、
SUMOのバランス入力に関しては注目されることはなかった。

マークレビンソンのML2もバランス入力をもっていたけれど、
ペアとなる同社のコントロールアンプにバランス出力が搭載されるのはもう少し時間が必要だったし、
そのころにはML2は製造中止になっていたため、これも注目されることはなかった。

日本でバランス専属が注目されるようになったのは、
アキュフェーズのコントロールアンプ C280とサンスイのパワーアンプB2301が登場してからだった。

C280はバランス出力を持っていた。B2301はバランス入力を持っていた。
けれどC280にはペアとなるアキュフェーズのパワーアンプにバランス入力をもつ機種はなかった。
サンスイはペアとなるサンスイのコントロールアンプにバランス出力をもつ機種はなかった。

だから自然にC280とB2301はバランス接続を試すことからも組み合わされていった。
この組合せには面白い話があるのだが、書くのは控えておく。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: Reference

リファレンス考(その1)

ステレオサウンド編集部にいると、読者からの質問の電話を受けることがある。
誰が質問に答えるのか、ということは私がいたころは決っていなかった。
特定の記事についての質問ならば、担当編集者が答えることもあるが、
そうでない質問であれば、電話を受けた者が答えていた(いまはどうなのか知らない)。

私がたまたま受けた質問で、試聴室のリファレンス機器について、というのがあった。
その質問があったころ、試聴室のリファレンス機器はスピーカーがJBLの4344、
アンプはアキュフェーズのC280VとP500Lの組合せ、
アナログプレーヤーはマイクロのSX8000IIにSMEの3012-R Proの組合せだった。

質問してきた人は、なぜアンプがアキュフェーズなのか、ということだった。
もっといいアンプがあるし、それらのアンプをステレオサウンドは高く評価している。
なのに、なぜ、それらのアンプをリファレンスとして使っていないのか──、そういうことだった。

オーディオ機器にReferenceの型番がつけられるようになったのは、
私が記憶するかぎりではトーレンスのアナログプレーヤー、Referenceからである。
その後、ゴールドムンドのアナログプレーヤーもReferenceの型番で登場した。

そのイメージが強いのか、
Reference=もっとも優れた機種という認識が、質問してきた人の中にできあがっていたようである。
それもわかる。
トーンレスのReferenceは、ほんとうにすごいパフォーマンスをもつプレーヤーだった。

私もトーンレスのReferenceが登場してきて、その音を聴いた時には、
Reference=最高の音を出すモノというイメージをもっていた。

けれどReferenceの意味はそうではない。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その24)

デンオンのDP100Mはデッキ手前右側に、DENON DP-100Mと印字されたパネルがある。
ここを開けると、プッシュボタンが六つ、回転式のツマミが四つある。
プッシュボタンはターンテーブル用で、回転スピードとピッチコントロール操作を行ない、
トーンアーム用はアンチスケーティング量(インサイドフォースキャンセラー量)、アームリフターのスピード、
トーンアームの低域カットオフ周波数、ダンピング量がこれらで調整できる。

このツマミの下に五枚のプリント基板が収納されている。
内三枚はターンテーブルのサーボ用で、二枚がトーンアーム用である。
これらのプリント基板はプラグイン方式となっている。

つまりDP100Mに搭載されているトーンアームを単売しようとすると、
この二枚の制御用のプリント基板も必要となるし、そのための電源も要る。
そうなってしまうと単売は非常に難しい、ということになる。

海外のメーカーであれば、それでもトーンアーム単体を市販するところもあるだろうが、
国内のオーディオメーカーで、それも大手のところでは、まず単体での市販は営業的に許可されないであろう。

ステレオサウンド 61号に載っているトーンアームのプリント基板の写真をみてると、
それほど実装密度が高いわけではない。
1981年の時点でもその気になれば一枚のプリント基板に収められたのではないか。
電源も必要だが、それほど容量は必要としないはず。

実際に単体で市販した場合、
他社製のターンテーブルに装着するには、プリント基板とトーンアームの接続、
電源の配線の引き回しなどをどう処理するのか、の問題が残る。
だが工夫すれば、どうにか解消できたと思う。

DP100M搭載の電子制御トーンアームはどのレベルだったのか。
ステレオサウンド 61号に井上先生が、
《カートリッジによって低域カットオフ周波数調整はシャープな効果を示し、
その最適値を聴感上で明瞭に検知することは、予想よりもはるかにたやすい。》
と書かれている。

このトーンアームを搭載したDP100Mについては、こう書かれている。
     *
DP100MにS字型パイプをマウントし、重量級MC型カートリッジから軽量級MM型カートリッジにいたるまで、数種類の製品を使って試聴をはじめる。基本的には、スムーズでキメ細かく滑らかな帯域レスポンスがナチュラルに伸びた、デンオンのサウンドポリシーを備えている。しかし、カッターレーサー用のモーターを備えた、全重量48kgという超重量級システムであるだけに、重心は低い。本来の意味での安定感が実感できる低域をベースとした、密度の濃い充実した再生音は、DD型はもちろん、ベルトや糸ドライブ型まで全製品を含めたシステム中でのリファレンスシステムという印象である。この表現は、このDP100Mのために用意されていた言葉である、といいたいほどの音質、信頼性、性能の高さをもつ。
     *
リファレンスシステムといいたいほどの性能の高さに、
電子制御トーンアームの存在はどれだけ関係しているのだろうか。

Date: 12月 2nd, 2014
Cate: JBL, 型番

JBLの型番

JBLのプロフェッショナル用スピーカーユニットの型番は四桁の数字。
2100シリーズがフルレンジユニット、2200シリーズがウーファー、
2300シリーズがホーン、2400シリーズがコンプレッションドライバーが基本となっている。

ミッドバス用のコーン型ユニットは2121、2122という型番だから、
ウーファーのようでもあるが、型番からはフルレンジということになる。
実際はウーファーに分類されるけれど。

数字の順序からすればフルレンジ、ウーファー、ホーン、コンプレッションドライバーとなっている。
ということはJBLの考え方としては、ホーンとコンプレッションドライバーの組合せにおいては、
まずホーンを選べ、ということなのではないか、と型番をみていると思えてくる。

フルレンジもウーファーもスピーカーユニットであり、音を発する。
コンプレッションドライバーもそうだ。
ホーンは違う。
なのに型番的にはウーファーとコンプレッションドライバーのあいだにいる。

ホーンとコンプレッションドライバーの組合せでコンプレッションドライバーを中心に考えるのであれば、
型番のつけ方としては2300シリーズがコンプレッションドライバーのほうがすっきりする。
けれど実際は2300シリーズはホーンの型番である。

誰がどういう意図で型番をつけていたのかはわからない。
けれど2300シリーズをホーンとしたのは、なんらかの意図があったのではないだろうか。

どの程度の空間にどういう指向特性で音を放射するのか。
まずこのことを決めた上でホーンを選び、次にコンプレッションドライバーを選べ、ということではないのか。

Date: 12月 1st, 2014
Cate: 老い

老いとオーディオ(その1)

昔読んで感心したことのひとつを、このごろ考えている。
いつ読んだのかはもうはっきりとは憶えていない。
たぶん1991年以降、週刊文春か他の週刊誌。

大橋巨泉が語ったことだった。
上原謙について語っていた。
上原謙が1975年に再婚したことについてのことだった。

このときの騒ぎはなんとなく記憶している。
二枚目俳優の上原謙が、こんな女性と……、という感じでテレビ、週刊誌を賑せていた。

上原謙は1909年生れだから、再婚時は65か66歳。
大橋巨泉の記事を読んだころの私はまだ30になっていなかったはず。

だからその時は、読みながら感心しながらも、自分にあてはめて考えることは出来なかった。
そこには、こんなことが書いてあった。

男は歳をとると勃たなくなる。
そうなると勃たせてくれる(勃つようになる)女が、つまりはいい女ということになる。
どういう女がそういう存在になるのかは、他人にはわからないことだ。
本人だって、若いころとは違ってくることだってあろうから、そういう相手に出逢うまでわからないことといえよう。
上原謙にとって再婚相手がそういう存在だったのだろう。

そんなことが語られていた。
このことは考えさせられる。

Date: 11月 30th, 2014
Cate: オーディオ入門

オーディオ入門・考(その3)

私が中学生のころ、NHKの教育テレビで「オーディオ入門」という番組があった。
たしかメーカーのエンジニアが登場されていたように記憶している。
テキストも書店で売っていた。

この番組で放送される内容(知識)はすでに知っていた。
だから見る必要はなかったけれど、それでも毎回見ていた。

そんな私にとってのオーディオ入門のきっかけは、やはり五味先生の「五味オーディオ教室」である。
この「五味オーディオ教室」を何度も読み返した。
ボロボロになるまで読み返した。

「五味オーディオ教室」からはさまざまなことを学んだ。
「五味オーディオ教室」を記憶するほど読んでも、
オーディオの技術的な知識はほとんど得られない。
オーディオ機器の型番が多く登場する内容でもない。

それでも、これほどのオーディオ入門書は他にない、と断言できる。
それはオーディオにとって、もっとも大事なことを、この本から学べたからである。