金魚撩乱
岡本かの子の「金魚撩乱」を、今日知った。
いつからなのか美魔女なる言葉を、頻繁に目にするようになった。
調べてみると、光文社の商標登録になっている。
才色兼備の35歳以上の女性を指し、魔法をかけたかのように美しい、という意味とある。
美・魔女なのか、美魔・女なのか。
美魔・女だとしたら、美魔という表現があるのかと思い、検索してみた。
そうやってたどりついたのが「金魚撩乱」だ。
この作品に、美魔(びま)が出てくる。
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マネキン人形さんにはお訣れするのだ。非人間的な、あの美魔にはもうおさらば。さらば!
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美魔女はここからヒントを得たのだろうか。
だとしたら、美魔・女ということになるが、美魔女について、もうどうでもいい。
美魔であり、マネキン人形さんとは、真佐子のことだ。
復一の心情である。
オーディオマニアも、美魔にとり憑かれているのかもしれない──、
そんなことを思いながら読んでいた。
「金魚撩乱」の最後を引用しておく。
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「これこそ自分が十余年間苦心惨憺して造ろうとして造り得なかった理想の至魚だ。自分が出来損いとして捨てて顧みなかった金魚のなかのどれとどれとが、いつどう交媒して孵化して出来たか」
こう復一の意識は繰り返しながら、肉情はいよいよ超大な魅惑に圧倒され、吸い出され、放散され、やがて、ただ、しんと心の底まで浸み徹った一筋の充実感に身動きも出来なくなった。
「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路から、突兀として与えられる人生の不思議さ」が、復一の心の底を閃めいて通った時、一度沈みかけてまた水面に浮き出して来た美魚が、その房々とした尾鰭をまた完全に展いて見せると星を宿したようなつぶらな眼も球のような口許も、はっきり復一に真向った。
「ああ、真佐子にも、神魚華鬘之図にも似てない……それよりも……それよりも……もっと美しい金魚だ、金魚だ」
失望か、否、それ以上の喜びか、感極まった復一の体は池の畔の泥濘のなかにへたへたとへたばった。復一がいつまでもそのまま肩で息を吐き、眼を瞑っている前の水面に、今復一によって見出された新星のような美魚は多くのはした金魚を随えながら、悠揚と胸を張り、その豊麗な豪華な尾鰭を陽の光に輝かせながら撩乱として遊弋している。
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復一がめざしていた金魚造りは、そのままオーディオマニアの行為そのものの描写のようでもある。