日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その9)
ステレオサウンド 64号、ヤマハの広告に登場したNS1000M。
これが家庭で使われていたNS1000Mであったなら、
なんて乱暴な扱いを受けているNS1000Mだろう、と思ったことだろう。
私は何も、すべてのNS1000Mがキズが似合うと思っているわけではない。
どういう使われ方をしているかによって、それは変ってくる。
そこに写っていたのは可搬型モニターとしてのNS1000Mだったからである。
ヤマハ・エピキュラスのスタッフは、ユニットにダメージを与えないように、
フロントバッフルにのみ蓋を用意している。
可搬型であっても、何が何でもキズひとつつけたくない、と考える会社(人)もいる。
そういうところでNS1000Mが使われたとしたら、
NS1000Mがそのまま入る頑丈な可搬型ケースが用意されるであろう。
そしてかすかなキズがついたら、すぐに補修されるであろう。
扱い方は違ってくる。
そのことで思い出すことがある。
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スティーブ・ジョブズは、 iPod の外見を損ねるものには、カバーであれ何であれ、非常に敏感に反応するのだ。
私は彼とのインタビューを録音する際に、外付けマイクと iPod を持っていったことがある。
「iSkin」という透明プラスチックのカバーをつけた iPod を鞄から取り出した途端、彼は私に名画「モナリザ」に牛の糞をなすりつけた犯罪者を見るような目を向けたものだ。
もちろん私は、繊細なiPodに傷や汚れをつけたくないのだと言い訳したが、彼は聞き入れようとしなかった。
「僕は、擦り傷のついたステンレスを美しいと思うけどね。僕たちだって似たようなもんだろう?僕は来年には五十歳だ。傷だらけの iPod と同じだよ」
(スティーブン・レヴィ「iPod は何を変えたのか」より)
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けっこう前から見かける文章である。
「ジョブズ iPhone ケース」で検索すると、すぐに表示される。
読まれた人も少なくないと思う。
iPhone、iPad、iPodにケースをつけるかつけないか。
何もジョブズがいっているから、付けない方がいいとはいわないけれど、
私はiPhone、iPadにはケースを付けていない。
カバンは普段持ち歩かないので、
iPhoneはジーンズのポケットに、ケースなしで入れている。
実を言うと、何度か落としている。いまのところ運がいいのか破損したことはない。
液晶が汚れているのは気になるから、こまめにクリーニングするけれど、
キズは絶対につけたくない、とは思っていない。
持ち歩くモノだからである。
キズだらけのNS1000Mをみて、キズが似合う、と思ったのも、理由は同じところにある。
そう考えるとNS1000Mの「M」はmonitorから来ているのだが、
mobileの意味ももつようにも思えてくる。