Archive for 8月, 2018

Date: 8月 11th, 2018
Cate: きく

音を聴くということ(グルジェフの言葉・その5)

いま一冊の本(マンガ)を借りている。
北北西に曇と往け」というマンガである。

北アイルランドを舞台としている。
第一巻の最後のほうに、主人公・御山慧にリリヤという音楽をやっている女性が話しかける。

 あの子が話すと
 汚れた音がして
 気持悪い

 日本語だから何 話してるかわからないけど
 嘘ついている

 聞かないほうがいい

そういうセリフがある。
嘘を言っている日本語は、意味はわからなくとも気持が悪い。

あからさまな嘘ならば、すぐに見抜けることがある。
けれどわかっているつもりで、結果として嘘をいってしまう人がいる。
わかったつもりなのだから、嘘を言っている本人にしてみれば、嘘ではない。

わかったつもりは思い込みや刷り込みによるものだったりする。

いろんな嘘がある。
すぐには見抜けない嘘もある。

けれど嘘は常に汚れた音なのかもしれない。
怒りもなければ、愛もないのが嘘なのか。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その8)

1983年に会社名も変更になり、ブランド名として使われてきたQUADに統一されたが、
QUADが創立された当初はThe Acoustical Manufacturing Company Ltd.だった。

QUADとは、Quality Unit Amplifier Domesticの頭文字をとってつけられた。
DomesticとついていてもQUADのアンプは、BBCで使われていた、と聞いている。

BBCでは、真空管アンプ時代はリーク製、ラドフォード製が使われていた。
QUADもそうなのだろう。
このあたりを細かく調べていないのではっきりとはいえないが、
それでもBBCでQUAD IIが採用されていたということは、
QUAD初のソリッドステートアンプ50Eの寸法から伺える。

QUAD IIの外形寸法はW32.1×H16.2×D11.9cmで、
50EはW12.0×H15.9×D32.4cmとほぼ同じである。

それまでQUAD IIが設置されていた場所に50Eはそのまま置けるサイズに仕上げられている。
50Eは、BBCからの要請で開発されたものである。

しかも50Eの回路はトランジスターアンプというより、
真空管アンプ的といえ、真空管をそのままトランジスターに置き換えたもので、
当然出力トランスを搭載している。

50Eの登場した1965年、JBLには、SG520、SE400S、SA600があった。
トランジスターアンプの回路設計が新しい時代を迎えた同時期に、QUADは50Eである。

こう書いてしまうと、なんとも古くさいアンプだと50Eを捉えがちになるが、
決してそうではないことは二年後の303との比較、
それからトラジスターアンプでも、
トランス(正確にはオートフォーマー)を搭載したマッキントッシュとの比較からもいえる。
これについて別項でいずれ書いていくかもしれない。

とにかくQUAD IIと置き換えるためのアンプといえる50Eは1965年に登場したわけだが、
QUAD IIは1970年まで製造が続けられている。
QUAD IIはモノーラル時代のアンプで、1953年生れである。

Date: 8月 11th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その7)

QUAD IIの存在に目を向けるようになって気づいたことがある。
ここでは現代真空管アンプとしている。
最新真空管アンプではない。

書き始めのときは、現代と最新について、まったく考えていなかった。
現代真空管アンプというタイトルが浮んだから書き始めたわけで、
QUAD IIのことを思い出すまで、現代と最新の違いについて考えることもしなかった。

最新とは、字が示すとおり、最も新しいものである。
現行製品の中でも、最も新しいアンプは、そこにおける最新アンプとなるし、
最も新しい真空管アンプは、そこにおける最新真空管アンプといえる。

では、この「最も新しい」とは、何を示すのか。
単に発売時期なのか。
それも「最も新しい」とはいえるが、アンプならば最新の技術という意味も含まれる。

半導体アンプならば、最新のトランジスターを採用していれば、
ある意味、最新アンプといえるところもある。
けれど真空管アンプは、もうそういうモノではない。

いくつかの新しい真空管がないわけではないが、
それらの真空管を使ったからといって、最新真空管アンプといえるだろうか。

最新アンプは当然ながら、時期が来れば古くなる。
常に最新アンプなわけではない。
いつしか、当時の最新アンプ、というふうに語られるようになる。

そういった最新アンプは、ここで考える現代アンプとは同じではない。

Date: 8月 10th, 2018
Cate: アナログディスク再生

リマスターSACDを聴いていて(その1)

先日、あるSACDを聴いた。
CDで以前出ていて、そのころよく聴いていた。

今回のリマスターSACDは、丁寧な仕事がなされている、と感じる出来だ。
CDと直接比較はしなかったが、少なくとも悪くない、という消極的な評価ではなく、
かなりいいんじゃないか、と感じていた。

聴いている途中で、
そして聴き終ってから、そのSACDの音は、
良質のMM型カートリッジでの再生音に通ずるような鳴り方だったことに気づいた。

MM型カートリッジといって、
アナログディスク全盛時代は各社からいろんなグレードで数多く発売されていたし、
ひとつとして同じ音のカートリッジはなかったわけだから、
MM型カートリッジの音という括りは乱暴で危険なこととはわかっていても、
それでもMC型カートリッジの良質なモデルの音を聴いた直後では、
どんなに優れたMM型カートリッジでも、忘れてきている何かがある、と感じる。

音はすべて出ているように感じる。
今回のSACDもそうだった。
ケチをつけるところは、特にない。
でも、そう感じていた。

これまでもリマスターSACDは何枚も聴いてきている。
こんなふうに感じたのは初めてだった。

Date: 8月 10th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その6)

QUAD IIの出力は15Wである。
高能率のスピーカーならば、これでも十分ではあっても、
95dB以下ともなると、15Wは、さすがにしんどくなることも、
新しい録音を鳴らすのであれば出てくるはずだ。

実際には25W以上楽に出る感じの音ではあったそうだが、それでも出力に余裕があるとはいえない。
QUAD IIはKT66のプッシュプルアンプである。
出力管がKT88だったら……、と思った人はいると思う。

私もKT66プッシュプルアンプとしての姿は見事だと思いながらも、
もしいまQUAD IIを使うことになったら、KT88もいいように思えてくる。

実際、QUADはQUAD IIを復刻した際、
EF86、KT66とオリジナルのQUAD IIと同じ真空管構成にしたQUAD II Classicと、
EF86を6SH7、KT66をKT88に変更したQUAD II fortyも出している。

QUAD II Classicはオリジナルと同じ15Wに対し、
QUAD II fortyは型番が示すように40Wにアップしている。

QUADが往年の真空管アンプを復刻したとき、QUADもか、と思った一人であり、
内部の写真をみて、関心をもつことはなくなった。
それにシャーシーのサイズも多少大きくなっていて、
オリジナルのQUAD IIのコンストラクションの魅力ははっきりと薄れている。

ならば基本レイアウトはそのままで、
トランスカバーの形状を含めて細部の詰めをしっかりとしてくれれば、
外観の印象はずっと良くなる可能性はあるのに──、と思う。

QUAD II fortyはオリジナルのQUAD IIと同じ回路なのだろう。
位相補正は、やはりやっていないのか。

現代真空管アンプを考えるうえで、いまごろになってQUAD II fortyが気になってきている。
QUAD II fortyはどういう音を聴かせるのか。

QUADのESLだけでなく、
複雑な構成のネットワークゆえ容量性負荷になりがちなスピーカーシステムでも、
音量に配慮すれば不安定になることなくうまく鳴らしてくれるのか。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その5)

容量性負荷で低能率のスピーカーといえば、コンデンサー型がまさにそうである。
QUADのESLがそうである。

QUADはESL用のアンプとして真空管アンプ時代には、
KT66プッシュプルのQUAD IIを用意していた。

私はQUAD IIでESLを鳴らした音は聴いたことがないが、
ESL(容量性負荷)を接続してQUAD IIが不安定になったという話も聞いていない。

QUAD IIを構成する真空管は整流管を除けば四本。
電圧増幅に五極管のEF86を二本使い、これが初段であり位相反転回路でもある。
次段はもう出力管である。

マランツやマッキントッシュの真空管アンプの回路図を見た直後では、
QUAD IIの回路は部品点数が半分以下くらいにおもえるし、
ものたりなさを憶える人もいるくらいの簡潔さである。

NFBは19dBということだが、これもQUAD IIの大きな特徴なのが、位相補正なしということ。
NFBの抵抗にもコンデンサーは並列に接続されていない。

出力トランスにカソード巻線を設けているのはマッキントッシュと同じで、
時代的には両社ともほほ同時期のようである。

同じカソード巻線といっても、マッキントッシュはバイファイラー巻きで、
QUADは分割巻きという違いはある。
それにマッキントッシュのカソード巻線はバイファイラーからトライファイラーに発展し、
最終的にはMC3500ではペンタファイラーとなっている。

マランツの真空管アンプにはカソード巻線はない。
マランツのModel 8BのNFB量はオーバーオールで20dBとなっている。
QUAD IIとほぼ同じである。

Model 8BとQUADのESLの動作的な相性はどうだったのか。
容量性負荷になりがちな多素子のネットワークのシステムで大変になるということは、
ESLでもそうなる可能性は高い。

マランツとQUADではNFB量は同じでも、
それだけかけるのにマランツは徹底した位相補正を回路の各所で行っている。
QUAD IIは前述したように位相補正はやっていない。

マッキントッシュだと、MC240、MC275は聴く機会は、
ステレオサウンドを辞めた後もけっこうある。
マランツもマッキントッシュよりも少ないけれどある。

QUADの真空管アンプは、めったにない。
もう二十年以上聴いていない。
前回聴いた時には、現代真空管アンプという視点は持っていなかった。
いま聴いたら、どうなのだろうか。

MC275同様、フレキシビリティの高さを感じるような予感がある。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その4)

いまヒーターの点火方法について書いているところで、
この項はそんな細部から書いていくことが多くなると思うが、
それだけで現代真空管アンプを考えていくことになるとは考えていない。

現代真空管アンプは、どんなスピーカーを、鳴らす対象とするのか、
そういったことも考えていく必要がある。

現代真空管アンプで、真空管アンプ全盛時代のスピーカーシステムを鳴らすのか。
それとも現代真空管アンプなのだから、現代のスピーカーシステムを鳴らしてこそ、なのか。

時代が50年ほど違うスピーカーシステムは、とにかく能率が大きく違ってきている。
100dB/W/m前後の出力音圧レベルのスピーカーと、
90dBを切り、モノによっては80dBちょっとのスピーカーシステムとでは、
求められる出力も大きく違ってくる。

そしてそれだけでないのが、アンプの安定性である。
ここ数年のスピーカーシステムがどうなっているのか、
ステレオサウンドを見ても、ネットワークの写真も掲載されてなかったりするので、
なんともいえないが、十年以上くらい前のスピーカーシステムは、
ネットワークを構成する部品点数が、非常に多いモノが珍しくなかった。

6dBスロープのネットワークのはずなのに、
写真を見ると、どうしてこんなに部品が多いのか、理解に苦しむ製品もあった。
いったいどういう設計をすれば、6dBのネットワークで、ここまで多素子にできるのか。

しかもそういうスピーカーは決って低能率である。
この種のネットワークは、パワーアンプにとって容量負荷となりやすく、
パワーアンプの動作を不安定にしがちでもあった。

井上先生から聞いた話なのだが、
そのころマランツが再生産したModel 8B、Model 9は、
そういうスピーカーが負荷となると、かなり大変だったらしい。

現代真空管アンプならば、その類のスピーカーシステムであっても、
安定動作が求められることになり、そうなると、往年の真空管アンプでは、
マランツよりもマッキントッシュのMC275のほうがフレキシビリティが高い──、
そのこともつけ加えられていた。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 異相の木

「異相の木」(岩崎千明氏のこと)

三日前の「はっきりと書いておく」を書いていて、
岩崎先生はオーディオ評論における異相の木だったのではないか。
そんなことを考えていた。

私は瀬川先生にとってライバルは岩崎先生だった、と認識している。
それは岩崎先生にとってのライバルもまた瀬川先生ということである。

同相の木として、そして異相の木として、そうだった。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その3)

オーディオに興味をもち、真空管アンプに、
そして真空管アンプの自作に興味をもつようになったばかりのころ、
ヒーターの点火は、ノイズが少なくインピーダンスが十分に低い定電圧回路を採用すれば、
それでほぼ問題解決ではないか,ぐらいに考えていた。

三端子レギュレーターはともかくとして、ディスクリート構成の定電圧回路、
発振せず安定な動作をする回路であれば、それ以上何が要求されるのかはわかっていなかった。

そのころから交流点火のほうが音はいい、と主張があるのは知っていた。
そもそも初期の真空管は直流、つまり電池で点火していた歴史がある。

ならば交流点火よりも直流点火のはず。
それなのに……、という疑問はあった。

ステレオサウンド 56号のスーパーマニアに、小川辰之氏が登場されている。
日本歯科大学教授で、アルテックのA5、9844Aを自作の真空管アンプで鳴らされている。

そこにこんな話が出てきたことを憶えている。
     *
 固定バイアスにしていても、そんなにゲインを上げなければ、最大振幅にならなくて、あまり寿命を心配しなくてもいいと思ってね、やっている。ただ今の人はね、セルフバイアスをやる人はそうなのかもしれないが、やたらバイアス電圧ばかり気にしているけれど、本来は電流値であわせるべきなんですよ。昔からやっている者にとっては、常識的なことですけどね。
     *
電圧ではなく電流なのか。
忘れないでおこう、と思った。
けれど、ヒーターの点火に関して、電圧ではなく電流と考えるようになるには、もう少し時間がかかった。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その2)

現代真空管アンプで、絶対に外せないことがまだある。
真空管のヒーターの点火方法である。

交流点火と直流点火とがある。
物理的なS/N比の高さが求められるコントロールアンプでは、直流点火が多い。
パワーアンプでは交流点火が多いが、
シングルアンプともなると、直流点火も増えてくる。

交流点火といっても、すべてが同じなわけではない。
例えば出力管の場合、一本一本にヒーター用巻線を用意することもあれば、
電流容量が足りていれば出力管のヒーターを並列接続して、という場合もあるし、
直列接続するという手もある。

ヒーター用配線の引き回しも音にもS/N比にも影響してくる。

直流点火だと非安定化か安定化とがある。
定電圧回路を使って安定化をはかるのか、
それとも交流を整流・平滑して直流にする非安定化なのか。

電源のノイズ、インピーダンスの面では安定化にメリットはあるが、
ではどういう回路で安定化するのかが、問題になってくる。

三端子レギュレーターを使えば、そう難しくなく安定化できる。
それで十分という人もいるし、三端子レギュレーターを使うくらいならば、
安定化しない方がいい、という人も、昔からいる。

ここでの直流点火は、電圧に着目してであって、
ヒーターによって重要なパラメータは電圧なのか、電流なのか。
そこに遡って考えれば、定電流点火こそ、現代真空管アンプらしい点火方法といえる。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(理解についての実感・その14)

ステレオサウンド 207号の試聴で、
YGアコースティクスのHailey 1.2がどのレベルで鳴っていたのかは部外者にはわからないが、
ひどい音で鳴っていたわけではないはずだ。

柳沢功力氏といっしょに試聴している小野寺弘滋氏の試聴記からも、それは読みとれる。
少なくともHailey 1.2らしい音で鳴っていたのだろう。

その音を他の人が聴いたとしよう。
柳沢功力氏の試聴記に、まったく同感、と頷く人もいれば、
それほど金属的な音には感じない、という人もいるだろうし、
小野寺弘滋氏とほほ同じ感想、という人もいよう。

YGアコースティクスの、どこが金属質なのだ、という人だっているかもしれない。

金属質な音だけに関しても、聴く人それぞれの閾値がある、ということだ。
自分と違う閾値の意見(試聴記)に腹を立てたところで、どうなるというのか。

いまはSNSがあるから、そこでそう発言することで、同意する人も現れよう。
そこで二人(もしくは数人)で、頷き合っていても、何かの理解に発展していくわけではない。

avcat氏の一連のツイートを、私は特に批判しない。
くり返しになるが、avcat氏はアマチュアなのだから、
そのアマチュアに、あれこれ理解を求める方が愚かである。

これもくり返し書いているが、問題なのは、avcat氏にステレオサウンドの染谷一編集長が、
《ステサンとして本位でなかった旨》を伝え、
さらに《これからこのようなことがないように対策します》と謝罪していることである。

染谷一氏は、ステレオサウンドの編集長である。
編集者はプロフェッショナルであり、編集長はさらなるプロフェッショナルのはずだ。

プロフェッショナルとしての理解が、どうにも見えてこない。

Date: 8月 9th, 2018
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(理解についての実感・その13)

金属的な音ということで私がすぐに思い浮べるのは、
ステレオサウンド 56号特集で瀬川先生が書かれていたことだ。
     *
 JBLの音を嫌い、という人が相当数に上がることは理解できる。ただ、それにしても♯4343の音は相当に誤解されている。たとえば次のように。
(中略)
 誤解の第二。中~高音が冷たい。金属的だ。やかましい。弦合奏はとうてい聴くに耐えない。ましてバロックの小編成の弦楽オーケストラやその裏で鳴るチェンバロの繊細な音色は、♯4343では無理だ……。
 これもまた、たしかに、♯4343はよくそういう音で鳴りたがる。たとえばアルテックやUREIのあの暖い音色と比較すると、♯4343といわずJBLのスピーカー全体に、いくぶん冷たい、やや金属質の音色が共通してあることもまた事実だ。ある意味ではそこがJBLの個性でもあるが、しかしそのいくぶん冷たい肌ざわりと、わずかに金属質の音色とが、ほんらいの楽器のイメージを歪めるほど耳ざわりで鳴っているとしたら、それは♯4343を鳴らしこなしていない証拠だ。JBLの個性としての最少限度の、むしろ楽器の質感をいっそう生かすようなあの質感さえ、本当に嫌う人はある。たぶんイギリス系のスピーカーなら、そうした人々を納得させるだろう。そういう意味でのアンチJBLはもう本格派で、ここは本質的な音の世界感の相異である。しかし繰り返すが、そうでない場合に♯4343の中~高音域に不自然さを感じたとすれば、♯4343は決して十全に鳴っていない。
     *
4343を、瀬川先生のレベルで鳴らしていたとしても、
中高域二つのユニットの振動板はアルミであって、そこには金属的といわれる音色が、
どう鳴らし込んだとしても、完全になくなるわけではない。

《JBLの個性としての最少限度の、むしろ楽器の質感をいっそう生かすようなあの質感》、
JBLのドライバーユニットをうまく鳴らしたときの、こういう音であっても、
そこにひそんでいる金属質の音を拒絶する人はいる。

これはもう、聴く人の閾値の違いとしかいいようがない。
金属的な音、金属質の音に関しても、
他の音色、たとえば振動板が紙の場合によくいわれる紙臭い音もそうなのだが、
それぞれに閾値が違うことを忘れてしまっては、話はずっと噛み合わないままだ。

素材の固有音は、いまのところどうやってもなくすことはできない。
最終的に残ってしまう性質のものである。

もちろんあるところまで抑えること、コントロールすることはできる。
その結果、ある人は気にならない、と感じても、別の人はどうしても気になる。

これは聴き方が古いとか新しいとか、そういうことではなく、
その人の、ある種の音に対する閾値があるからだ。

Date: 8月 8th, 2018
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」が生む「物分りのいい人」(理解についての実感・その12)

ステレオサウンド 207号の特集に登場したYGアコースティクスのHailey 1.2は、
多くの人がハイ・フィデリティ・リプロダクションのスピーカーシステムと認めよう。

誤解なきよう書いておくが、
すべてのスピーカーシステムが、
ハイ・フィデリティ・リプロダクションか、
グッド・リプロダクションのどちらかに分類できるというわけではない。

けれど(その11)で指摘したように、
グッド・リプロダクションのフランコ・セルブリンのKtêmaが、
ハイ・フィデリティ・リプロダクションの定義「原音を直接聴いたと同じ感覚を人に与えること」、
これにより聴く人によっては、ハイ・フィデリティ・リプロダクションのスピーカーへとなりうる。

では逆はあるのか。
Hailey 1.2がグッド・リプロダクションのスピーカーと感じる人がいるのか。
そういう人はなかなかいないだろう(まったくいないわけではないだろうが)。
けれど、柳沢功力氏は207号の試聴記で、Hailey 1.2の金属的な音を指摘されている。

そのことがavcat氏のツイートにつながっていき、
ステレオサウンドの染谷一編集長の不用意な謝罪にまでいったわけだが、
柳沢功力氏は、207号の試聴記に
《「モーツァルト」も「春の祭典」も「ロイヤル・バレエ」も、アコースティックな音をベースとするクラシック曲は、まったく別物の音楽に仕上げてしまうと言っていい》
とまで書かれている。

こうなると、柳沢功力氏にとって、Hailey 1.2は、
原音を直接聴いたと同じ感覚を人に与える」スピーカーではないわけだ。
つまりHailey 1.2は、柳沢功力氏にとっては、
ハイ・フィデリティ・リプロダクションのスピーカーでもないし、
もちろんグッド・リプロダクションのスピーカーでもない。

Date: 8月 8th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その1)

こうやって真空管アンプについて書き始めると、
頭の中では、現代真空管アンプとは、いったいどういうモノだろうか、
そんなことも並行して考えはじめている。

個人的に作りたい真空管アンプは、現代真空管アンプとはいえないモノである。
それこそ趣味の真空管アンプといえるものを、あれこれ夢想しているわけだが、
そこから離れて、現代真空管アンプについて考えてみるのもおもしろい。

現代真空管アンプだから、真空管もいま現在製造されていることを、まず条件としたい。
お金がいくら余裕があっても、製造中止になって久しく、
市場にもあまりモノがなく、非常に高価な真空管は、それがたとえ理想に近い真空管であっても、
それでしか実現しないのは、現代真空管アンプとはいえない。

真空管もそうだが、ソケットもきちんと入手できること。
これは絶対に外せない条件である。

ここまではすんなり決っても、
ここから先となると、なかなか大変である。

大ざっぱに、シングルなのかプッシュプルなのか、がある。
プッシュプルにしても一般的なDEPPにするのかSEPPにするのか。

SEPPならばOTLという選択肢もある。
現代真空管アンプを考えていくうえで、出力トランスをどうするのかが、やっかいで重要である。
となるとOTLアンプなのか。

でも、それではちょっと安直すぎる。
考えるのが面倒だから省いてしまおう、という考えがどこかにあるからだ。

Date: 8月 8th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(ふたつのEL34プッシュプル・その5)

ダイナコのStereo 70のキットの実物を見たことがないため断言できないが、
電圧増幅檀のプリント基板に関しては、部品が最初から取り付けてあり、
ハンダ付けもなされていた(はずだ)。

キットの内容は穴あきシャーシーに、出力トランス、電源トランス、チョークコイル、
出力管、整流管とそのソケット、電圧増幅管に内部配線材に、入出力端子などに、
完成済のプリント基板のはずだ。

もちろんハンダ付けはしなければならないが、細かいハンダ付けが求められるわけではない。
仮にプリント基板が組み立て済でなかったとしても、部品点数はそう多くないし、
部品の取り付けを間違えずに丁寧にハンダ付けをしていけば、失敗は少ない。

製作の難易度は、高いとはいえない。
完成後の各部のチェックもそれほど多くないし、基本は電圧のチェックである。

つまりダイナコのキットは、誰が組み立てても、ある一定以上の性能を保証している。
ところがマランツのキットは、そういう性格のモノだと思って取りかかると、
痛い目に合うことは必至である。

マランツのキットは、Model 7、Model 8B、Model 9にしても、
プリント基板は一切使っていない。
ラグ端子に部品のリード線をからげてハンダ付けしていく。

しかもひとつの端子に部品一つということはまずない。
複数の部品のリード線をからげ、内部配線材もそこにくる。

どの部品からからげていくか、その順番によって音は違ってくるし、
マランツのアンプはその順番も指定されていた、と聞いている。

ハンダ付けの箇所もマランツは多い。

ダイナコは完成品が隣になくとも、きちんと完成することは大変ではないが、
マランツの場合は、特にModel 7は、
実機を隣に置いて、じっくりそれを観察した上での製作が望ましいだろう。