SPならばアクースティック蓄音器によって、電気を通していない音を聴くことができる。
アクースティック蓄音器が成立していたのは、SPがモノーラルレコードであったから、ともいえる。
もしステレオSPが最初から登場していたら、
アクースティック蓄音器はどういう構造になっていただろうか。
ステレオSPは実験的に作られている。
その復刻盤が30年ほど前に発売され、日本でも市販されていたので、
ステレオサウンドで記事にしたことがある。
とはいえステレオSPは特殊なディスクで、SPはモノーラルと決っている。
SPはLPになり、1958年にモノーラルからステレオになった。
パイオニアは1961年に、SH100を発売している。
当時の価格は2,650円。
パイオニアのSH100ときいて、どんな製品なのか、さっぱりという人がいまでは多いはずだ。
私も実物は見たことがない。
でも、これだけはなんとか完動品を探して出して、その音を聴いてみたい。
SH100はカートリッジとトーンアームが一体になっていて、
出力ケーブルのかわりに、聴診器がついている。
つまりステレオLPをアクースティック再生するピックアップシステムである。
ターンテーブルを回転させるのに電気は必要になるが、
信号系には電気を必要としない。しかもステレオ再生である。
こんな製品は、日本だけでなく海外にも存在しない、と思う。
SH100の存在は、ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」パイオニア号で知っていた。
でも当時は、こんなモノをつくっていたんだ……、ぐらいの関心しか持てなかった。
PIM16KTに関することを確認するためにパイオニア号を読んでいて、
SH100の存在に改めて気づいた。
こんな面白いモノに、いままで興味をもたなかったことを少し恥じている。
パイオニア号には、こう書いてある。
*
この年、世のカートリッジ屋さんに衝撃を与えるものがパイオニアから出て来た。それはステレオホンSH−100という、全くアコースティカルなメカだけでステレオLPレコードを再生しようとする、いわばサウンドボックスの現代ステレオ版であった。45/45の音溝から拾い上げられた振動は二枚のダイアフラム──それが巧妙なバランサーで位相を合せられ、聴診器のようなビニールパイプで耳穴に導かれるシクミであった。
左右のバランスや音量は水道のコックのようなネジで調整するという、なんとも原始的というかシンプルというか、あきれたメカニズムなのである。ところがこの電気とか電子のお世話にならない珍兵器が、信じられないくらいよい音であった。いわばダイレクトヒアリングだから当然なのだが、当時技術部におられた西谷某氏のアイディアを松本会長が周年で製品化したと伝えられるが、あるピックアップメーカーの社長は、自分たちは何をしてきたか、自問して2〜3日ぼう然としてしまったと当時述懐していた。
*
SH100の音は、音響インピーダンスのマッチングがとれている音といえるはずだ。