日本のオーディオ、これまで(ラックスと広告・その1)
岩崎先生の「オーディオ彷徨」の後半に、
それまで読んできたものとは、少し趣の異る、しかも少し短い文章が続く。
オーディオ評論というよりも、エッセイともいえるし、
どこか短編小説的でもある。
モンローのなだらかなカーブにオーディオを感じた
ゴムゼンマイの鳥の翼は人間の夢をのせる
暗闇の中で蒼白く輝くガラス球
ぶつけられたルージュの傷
雪幻話
のろのろと伸ばした指先がアンプのスイッチに触れたとき
ロスから東京へ機上でふくれあがった欲望
20年前僕はやたらゆっくり廻るレコードを見つめていた
不意に彼女は唄をやめてじっと僕を見つめていた
トニー・ベッネットが大好きなあいつは重たい真空管アンプを古机の上に置いた
さわやかな朝にはソリッドステート・アンプがよく似合う
薄明かりのなか、鳩のふっくらした白い胸元が輝いていた
音楽に対峙する一瞬その四次元的感覚
タイトルだけを並べてみた。
すべて月刊誌ジャズランドに掲載されたものである。
でも、当時の私はジャズランドという雑誌のことはまったく知らなかった。
すでに休刊になっていた雑誌だった。
けっこう後になって知るのだが、これらはすべてラックスの広告であった。
自由な時代といったらいいのか、おおらかな時代といったほうがいいのか。
少なくとも、ここに窮屈さは微塵も感じない。
このラックスの広告に朝沼予史宏氏が関わっていることは知るのは、
もっと後のこと、1997年になってからだった。